私は重大な任務をこなしていた。
それは、重要なターゲットである、と上層部に言われている、一人の少女の観察と、護衛だ。
彼女の名は、水奈月 灯。 
何故、重要なターゲットかといえば、

知らない。

……教えて貰っていないのだ。 仕方無い。 まだまだ私等、若輩者の子供だと言う事だろう。私にできるのは、彼女に張り付いて、護衛をすることだけ。

通学路だって今までは、私と彼女で帰っていたほどだ。
だが――最近は、そうでもない。 
狛井武彦。 あの剣道バカが、一緒に帰ってしまっている。
あの一般人め……人の気も知らずに!
だから、最近はこんな、ストーカーのような真似が”常に”だ。
ちなみに、今の私は、その名の通りのものである。……これは任務だから、仕方ない。私はストーカーなんてものではない。


「ふんふふん、ふーん♪ おでんでんでーん、おでんでーん。 ででんででーん。おでんは、おいしいよーないとこまるよ!むしろ、おでんが主食だよ!」

頭の悪い歌を歌いながら、コンビニに入って来た頭の軽そうな少女。
あれが、私の護衛対象だ。


勿論、私はもう彼女の行動パターンは先読みが出来るほどである。
任務だからな。ストーカーではない。
からして、先回りして雑誌コーナーへと立ち、完璧な変装をこなし、暫く漫画雑誌でも読んでいれば――


「あっ、いちよちゃんだ!」

「ひゃうっ!?」

「いちよちゃーんいちよちゃーん!」

ば、馬鹿な……!

私の変装は完璧だった筈。何故なら――


「今日は寒いところにいる人達みたいな格好だねー」

「これは赤星に金鎌、ハンマーの帽章。1946年革命後のソビエト連邦労農赤軍製の軍服だ。いつものはドイツ製の――」

「? そうなんだ。 違いは分からないけど…えへへ、軍人さんみたいな格好してるから、すぐわかったよ」

「――~~~っ」

しまった……! 致命的なミス…!

素人にこの違いは分からないのであった……!

私が愛する独逸が軍服を脱いで、赤軍服を着る等と、他の者等にはまるで考えも出来ない画期的発想だと褒められたのに……。
失態、失態だ、プライドも捨てて、せっかく…。


「あ、おでんこれから買うんだー。」

「……な、何故こんな夜に……」

「あ、偶然そこで友達とあったから、おでんパーティ、公園ででしようかと思って。」
「友達……?」

ふとそちらを見る。

「ねえ大兄様、お姉様、私達を見てるわ」

「お兄様、怖がること無いよ。お兄様のお友達の、あのお姉さまのお友達だよ」

「………」


…神座、か?。何故こんな夜に…小腹でも空いたか。空くタイミングを考えろ、馬鹿めがっ…。それに、そっくりなのが、両腕にぶら下がっている。
まるでクローンのようだな……。外人なんてあんなものか。
ぶら下がって好き勝手言っているあのガキ連中は置いておくとして、肝心の本人は無言でおでん汁を掬っている。
……し、白滝が鍋に無い。 白滝と汁しか取ってないのか、あいつ…。…卵に牛すじを取らんとは日本人の風上にも…いや、無辜の民からあの二つを独占しないようにとしているのか?いやいや、

「あっ、僕は白滝がいいな。一杯いれて」

「私も白滝がいいわあ。 お兄様、卵と牛すじお好きだったかしら。でも、」

「もう入れるスペースがないね、お兄様」

「「くすくすくす…。」」


…おお、神座…お前は今泣いて、いや違う怒って良いだろう!何で言いなりなのだ!
慣れない橋で鍋の隅までさらって……おでんって言うのは、もっと自由でなきゃいけない筈だ。一人で、孤独にコンビニおでんを…。


「あっ、相楽ちゃんは何にする?」

はっ。 護衛対象がいない――と想ったらおでん鍋の前に居た。
水奈月は水奈月で大根ばかり…! 大根は貴重品だろうが!嗚呼、恐ろしい女だ。のほほんとしているようで、他人の幸せを奪う気か。あれは一人一個ぐらいがベストだと――


「牛すじと、卵を二個ずつだ!」

ぱ、パーティをするならば、仕方無い。
こんな冬、寒いときに、公園でおでんを食べるなんて、
危険な事だ。護衛せざるを得ない。

……神座が、こっちをずっと見ている。
白滝だらけのおでんパックを片手に。
相変わらず、顔色だけじゃ判断出来ん奴だが――。



「……あぁいや、四個ずつ、頼む。」


その後辛子を貰い忘れた事に気付いた私は、護衛任務をうっかり忘れて一人取りに戻った。
失態だ……!

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最終更新:2011年02月12日 15:48