第10話:見え隠れする2つの組織
「ロア様。」
燭台に灯る火だけの世界。
その中で、自らの主を呼ぶ声が響く。
呼び求める者の視線の先には、少年が1人立っていた。
名前を呼ばれたことに気付き、少年がゆっくりと振り返る。
「どうした?」
「アガレス様より、連絡が入りました。神官の1人を見つけた、とのことです。」
「へぇ、意外と早かったね。で、そいつはどうしたの?」
「現在は監視中とのこと。命令次第でいくらでも動きます、と言っております。」
「ふーん。じゃあ、力を試せと伝えてくれ。でも、大事な人柱なんだから殺すなってね。」
「承知致しました。」
そう言い残すと、従者は物音も立てずに燭台の明かりさえも届かない闇の中へと消えていった。
後に残された少年は石を削って作られたかのような王座に腰掛け、不吉な笑いを浮かべる。
「我々に残された時間は、あと少ししかない。だが、これでようやく計画は始動する。
三千年の時を越え、俺が必ずあのシナリオを成功させてみせる。フフフフフ・・・・。
フハハハハハハハハッ!!!」
――――― 同時刻。
街灯が点々としかない道を、1人の少年が走っていた。
手にはデュエルディスクをセットしていて、背中には鞄を背負っている。
「やべぇ、やべぇ。茜の家で遊んでたらつい遅くなっちまったぜ。」
時刻は既に9時を少し過ぎたところ。
いつもならこんな裏路地を通ることはなく正規の道で帰るのだが、今日は勝手が違ったために
少しでも早く帰れるように小さい頃によく使っていたこの裏路地を近道として使っていた。
だが、ここを通ることで彼の運命が翻弄されることなど、この時は誰も知るはずもなかった。
「ん?」
街灯が少なくて最初は見にくかった道で目が慣れてきて、暗闇でも少し見えるようになった時だった。
路地の奥の方に、人影らしき姿が3つ見えた。
ソレからやばい雰囲気を掴み取った少年はすぐさま立ち止まり、影を睨み付ける。
不良か? それともそっち系のやつか?
少年が凝視していると、3つの影は段々と少年の方に迫ってきて、少し離れた所で立ち止まった。
「柳木原 啓輔だな?」
「だったら何だ?」
「フフッ、ついに見つけたぞ。忌まわしき神官め。ロア様より殺すなと言われているから
手加減してやるが、再起不能にでもして連れて帰るとするか。」
男の声、かろうじてそう判断することはできた。
だが、相手の顔が見えない以上、下手に関わると話がややこしくなる可能性もある。
啓輔は少し後ずさりし、来た道を戻ることを考えていた。
タイミングを見計らって振り向いた瞬間、啓輔は目を疑った。
尾行されてる様子はなかったのに、振り向いた先には後退を妨害するかのように人影が2つあった。
逃げ道を封じられ、啓輔は下唇を噛み締める。
ソレと同時に、今まで真っ暗だった辺り一面が急に点いた街灯によって明るくなる。
「逃げようとしても無駄だ。それに、そう怯えることはない。貴様の力を試すだけだからな。」
「それはデュエリストとしての力を試すってことか?」
「どう解釈しても構わん。逃げようなどとは考えるなよ。我の名はアガレス。
人類終焉のシナリオに加担する者。さぁ、大人しく我の前に倒れるがいい!」
「訳分かんねぇこと言いやがって!! いいだろう、やってやるぜ!!」
「待ちなさいッ!」
「えっ?」
2人がデュエルディスクを構え、勝負を始めようとした時だった。
女性の声と思われる一声が響くと同時に、背後を取っていた2人がドサッと音を立てて倒れ込んだ。
何事かと思って振り向くと、そこにはローブを深く被った人物が1人立っていた。
体型から察すると、もしかして女か?
「新手か!?」
「いいえ、私はあなたの味方よ、
柳木原 啓輔君。」
「な、なんで俺の名前を!?」
「貴様、
Atumの犬か!?」
啓輔の横を通り過ぎ、前に出た女を睨み付けてアガレスが叫ぶ。
ローブの人物は腕を広げると、ローブの中からデュエルディスクを取り出して腕にセットした。
「ア、アンタもデュエリストなのか!?」
「啓輔君、ここは私が引き受けるわ。あなたじゃ、アイツには勝てないから。」
「な、何だと!? そんなもの、やってみなきゃ分かんねぇだろ!!」
「いいえ、私はアイツが所属する組織と敵対している秘密結社から来た。だから、アイツのことは
私がよく知っているの。」
「チッ、貴様らもソイツに目をつけていたわけか・・・。いいだろう、ならば貴様を今ここで倒し、
シナリオを少しでも進めるまでだッ!!」
「馬鹿な奴ね。そんなこと、させてたまるもんですか。」
「我の力の前に、ひれ伏すがいいッ!!」
決闘(デュエル)!!!
● ローブの女:ライフ8000 手札5枚
● アガレス :ライフ8000 手札5枚
「いくぞ、俺の先攻ドロー! 俺はカードを1枚セットし、
ソロモンの霊 アムドゥキアスを攻撃表示で召喚!」
《
モンスターカード》
ソロモンの霊 アムドゥキアス(スピリット・オブ・ソロモン アムドゥキアス)
効果モンスター
☆4 / 闇属性 / 悪魔族 / 攻 1900 / 守 1000
このカードは特殊召喚できない。
1ターンに1度だけ、自分の手札を1枚捨てることで相手フィールド上の
魔法・罠カードを1枚破壊することができる。
「ターンエンドだ!」
「私のターン、ドロー。」
● ローブの女:ライフ8000 手札6枚
● アガレス :ライフ8000 手札4枚 モンスター1体 リバース1枚
「モンスター1体と伏せカード1枚だけじゃ、私の猛攻は避けれないわよ?」
「何だと!?」
「私は手札より、人形騎士 リカを召喚する!」
《モンスターカード》
人形騎士 リカ(ドールナイト リカ)
効果モンスター
☆4 / 光属性 /
戦士族 / 攻 1800 / 守 1500
このカードの召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、デッキまたは手札から
「人形騎士 イサミ」を1体特殊召喚することができる。
このカードは闇属性モンスターと戦闘を行う場合、攻撃力が500ポイントアップする。
「リカの召喚に成功したことで、私はデッキから2体目の人形騎士を特殊召喚する!
効果によって特殊召喚されるのは、人形騎士 イサミ!!」
《モンスターカード》
人形騎士 イサミ(ドールナイト イサミ)
効果モンスター
☆4 / 光属性 / 戦士族 / 攻 1900 / 守 1400
このカードの召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、デッキまたは手札から
「人形騎士 イヅナ」を1体特殊召喚することができる。
このカードは闇属性モンスターと戦闘を行う場合、攻撃力が500ポイントアップする。
「さらに、イサミを特殊召喚したことで、デッキからさらなる人形騎士を特殊召喚する!」
《モンスターカード》
人形騎士 イヅナ(ドールナイト イヅナ)
効果モンスター
☆4 / 光属性 / 戦士族 / 攻 2000 / 守 1300
このカードの召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、デッキまたは手札から
「人形騎士 リカ」を1体特殊召喚することができる。
このカードは闇属性モンスターと戦闘を行う場合、攻撃力が500ポイントアップする。
「な、何ぃ!?」
「リカ、イサミ、イヅナはそれぞれが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功することで、
デッキから対となる人形騎士を特殊召喚することができる! 私はこの効果を
ループさせることで、自分のフィールド上に5体までのモンスターを特殊召喚するわ。」
「す、すげぇ・・・。なんて高速召喚のデッキなんだ・・・。」
ローブの女のフィールドには、アッという間に5体のモンスターが並んだ。
攻撃を仕掛ければ相手に大ダメージを与えることができるだろうけど、問題はあの伏せカード。
あのカードが攻撃宣言で発動するモンスター破壊の罠だったら、一気にフィールドが空になってしまう。
「攻撃・・・するけど、その前に私は手札から魔法カードを発動するわ。
魔法カード、スーパー・コーリング・リング!!」
《魔法カード》
スーパー・コーリング・リング
速攻魔法
自分フィールド上に「人形騎士 リカ」と「人形騎士」と名の付くモンスターが
1体以上存在している場合にのみ発動可能。
「人形騎士 リカ」及び「人形騎士」と名の付くモンスターを任意の枚数墓地へ送り、
自分のデッキまたは手札から「超人形騎士 リカ」を1体特殊召喚する。
「私はこのカードで人形騎士 リカに加えて、残り4体の人形騎士を墓地へ送る!
そして、超人形騎士 リカを特殊召喚するわ!」
スーパー・コーリング・リングの効果で、すべての人形騎士が光り輝き始め、その光が
「人形騎士 リカ」に収束し始める。
「いでよ! 超人形騎士 リカ!!」
《モンスターカード》
超人形騎士 リカ(ハイパードールナイト リカ)
効果モンスター
☆6 / 光属性 / 戦士族 / 攻 2500 / 守 2000
このカードは「スーパー・コーリング・リング」の効果でのみ特殊召喚できる。
このカードの攻撃力は「スーパー・コーリング・リング」の効果で墓地へ送った
「人形騎士」と名の付くモンスター1体につき、500ポイントアップする。
このカードは罠カードの効果を受けない。
このカードがフィールドを離れた時、自分の墓地にある、もしくはゲームから
除外されている「人形騎士 リカ」、「人形騎士 イサミ」、「人形騎士 イヅナ」を
可能な限り、自分フィールド上に特殊召喚する。
「この超人形騎士は人形騎士 リカが戦闘モードにチェンジしたもの。その能力はすごい強力よ。
超人形騎士 リカの効果発動! スーパー・コーリング・リングの効果によって墓地へ送った
人形騎士の数×500ポイント攻撃力をアップする!」
超人形騎士 リカ
攻撃力2500 → 攻撃力5000にアップ(超人形騎士 リカの効果)
「しかもこのカードはアンタの罠カードの効果を受けないから、私は何も恐れずに攻撃ができる。
いくわよ、超人形騎士 リカでソロモンの霊 アムドゥキアスに攻撃!」
超人形騎士 リカはヨーヨーのような武器を取り出して、ソレを振り回しながら攻撃を仕掛ける。
相手の伏せカードが何かは分からないけれど、仮に罠カードだとしても無意味となる。
でもあのカードって、普通のパックで出るカードだったかな?
俺の記憶では、あんまり見た覚えがないんだけど・・・・。
「グフゥッ!! チッ、まさかそんなモンスターを召喚するとは・・・!」
「これで、アンタには3100ポイントのダメージが与えられる。アンタの組織のリーダーから
送り込まれてこの子の所に来たんだろうけど、今は大人しく引きなさい。アンタを連れて
帰ってもいいんだけど、下手すれば自殺とかされかねないからね。そうなると、こっちも
いい気分しないから。」
「フッ、敵に慈悲をかけるというのか?」
「とりあえず今は、ね。ただ、アンタが長年続いてきたこの闘いから身を引かないのなら、
私たちも全力で迎え撃つし、きっとこの闘いの果てには何人もの犠牲者が出ると思う。
アンタたちのリーダーは、それだけ大変なことをしでかそうとしているのよ。」
ローブの女とアガレスと名乗った男はお互いに一歩も引かないような状況で、
お互いを睨み合いながら言葉を交わしている。その緊張感は、ただならぬモノだ。
だが、男は女からの言葉を聞いて、大きな笑い声を上げながら天を見上げる。
「フフフ、フハハハハハハッ!! 貴様からそんな哀れみをかけられたとこで、
我々の目的は変わらぬわ! 計画を完遂するためには、どうしてもそこのガキが必要なのだ!
それに、ロア様の計画を止められる奴など、この世にはいない!! デュエルを続行するぞ!
貴様が我に敗北した時、貴様の命は尽きるのだ!」
「そう・・・。そこまでするつもりなら、いいことを教えてあげるわ。」
「いいことだと?」
「神のカード、アンタも持ってるんでしょ?」
「な、何っ!? なぜその情報を!?」
か、神のカード・・・・・だって?
「神のカード。ソレは他のモンスターと違い、デュエルモンスターズの頂点に
君臨するとされる絶対的な支配力。表向きには3体の
幻神獣カードだけが公表されているけど、
実際には幻神獣の抑止力として想像された邪神と呼ばれる神のカードも存在する。あと、
アンタたちの組織が持つ魔神のカードもね。」
「そ、そんなカードが存在するのか!?」
デュエルモンスターズのトップに位置する、「神」と名の付くモンスターカード。
幻神獣と呼ばれる3体の神、「ラーの翼神竜」、「オシリスの天空竜」、「オベリスクの巨神兵」が
存在するのは風の噂で聞いたことがあったけど、邪神や魔神と呼ばれる同じ「神のカード」が
存在するなんてのは初耳だった。
しかも、そのうちの「魔神カード」をこのアガレスって奴が持っているだなんて・・・・。
「やはり、徹底的に我々と対立するつもりらしいな。魔神カードの情報は、どこで手に入れた?」
「ソレをアンタに言う義理はないわ。でも、1つだけ教えておいてあげる。アンタたちが持つ
魔神のカードだけど、私たちの組織も対となる神のカードを持ってるってね。」
「対になるカードだと!? 馬鹿な、そんなカードは存在しないはずだ!」
「私たちもまだ回収してないけれど、邪神のカードが幻神獣の対の存在としての抑止力であるのと
同じように、魔神の対の存在としての抑止力もまた存在する。ソレが、私たちの持つオリジナルの
神のカード。その力の前では、アンタたちの魔神のカードは意味を成さなくなるほど強力よ。」
「クッ、そんなカードを持っているとは・・・!!」
「アンタがこのデュエルで魔神のカードを使うというのなら、私も神を召喚して迎え撃つ。だけど、
アンタが私に負けた場合はアンタが敗者としての苦痛を味わうことになるわ。さぁ、どうする?」
アガレスはギリッと歯ぎしりすると、展開していたデュエルディスクを元に戻した。
ソレにより、ソリッド・ビジョン化されていたアガレスの伏せカードも消滅する。
この女の神のカードはそれほどまでに強力なのか、アガレスは今回は退却することを女に告げた。
女もそれを聞いてデュエルディスクを元に戻し、警戒態勢を少し解いた。
「覚えておけよ。貴様たちがどうあがこうと、計画は完遂される!
終焉を、その目でとくと見届けるがいいッ!」
アガレスはそう言うと一瞬のうちに消えてしまい、周りを取り囲んでいた仲間も消えていた。
後には俺とローブの女だけが残っていて、周りに誰もいないかを確認すると、女も立ち去ろうとした。
「ちょ、ちょっと待てよッ!!」
俺が呼び止めたことで女は歩くのをやめたが、俺の方へ振り返りはしない。
前を向いたまま立ち尽くしており、俺が言葉を続けないのを感じ取ると再び歩き始めた。
「だ、だから待てって!!」
「何?」
女はこちらへ振り返ると、そう聞いてきた。
そう聞かれることくらい分かっていたけど、この状況でそう聞くのはあまりにもおかしいだろう。
俺としては、一体何がどうなって、さっきの奴はなんで俺を狙ってきたのかさ分からない始末。
状況の説明くらい、してくれてもいいんじゃないか?
「アンタ、一体何者なんだ?」
「それを答える必要は今はないわ。」
「答えられないんだったら、答えなくていい。けど、俺の敵か味方かくらいは教えてくれ。」
「さっきも言ったでしょ。私は、あなたの味方。あなたたちを守るのが、私たちの役目。」
「あなた・・・・たちだって?」
「今は深く知る必要はないわ。時が満ちれば、嫌でも知らなければならない時が来るから。」
「え? って、お、おいッ!!」
今度は俺が呼び止めても女は足を止めることはなく、そのまま奥の路地へと消えていった。
俺の味方なんだったら、俺が安全に家へたどり着くかどうかくらい見届けてからどっか行けってんだ。
これでまた家へ帰る途中で誰かに襲われたりしたら、次に会った時に絶対文句言ってやる。
俺はさっきまで目の前で起こっていたことをじっくり考えようとしたが、起きたことがあまりにも
唐突で訳の分からないことだらけだったため、それほどよく覚えていないのが正直なとこだった。
腕時計を見ると、時刻は既に10時を過ぎている。
こんな所に突っ立っていて警察官とかに何か聞かれたりするのも面倒だし、何よりも
さっきみたいな奴にまた襲われてしまったりしたら、それこそ元も子もない。
クヨクヨと考えるのはやめにして、俺はそのまま急いで家へと帰ることにした。
to be continued・・・・・・
最終更新:2009年01月16日 06:32