薄氷を履み続けるが如し

【ある小島】

「残りはあの手負いのランサーの嬢ちゃんとハワイ本島のアサシンってとこか?」
「ええ、私の見立てではあのランサーのマスターが一番聖杯を取りやすい位置にいましたからね。
 なんせカメハメハ大王といえば私の時代でも名が轟いている名の知れた王様ですからね」
「……生憎、テメェの時代なんて興味ねぇ」

 この島の戦いも終わった。
 終わってみれば圧倒的な勝利。
 戦いにおいて大将を討ち取れば、残るは雑兵のみ。
 逃げる兵は追う必要もない。

「で、ここにいたバーサーカーは?」
「ええ、私がやりましたが、それが何か?」

 またセイバーの鉄拳がキャスターに向かった。

「アレは俺の獲物だった、勝手に手ェ出すんじゃねぇ!」
「いやー、てっきり私のために取っておいてくれたのかと思いましたよ」

 その拳を避けて、キャスターは銃口をセイバーに向ける。
 バーサーカーを倒したと思われるその銃の銃口を。
 この距離から引き金を引けば、当たるかもしれない。
 だが、引かない。『今は』引く気はない。

「どうした? 撃たねぇのか?」
「まだ私たちは同盟関係ですからね」
「もし同盟関係じゃなかったら、撃ってたか?」
「ええ、勿論です」
「………………チッ」

 また軽く舌打ちをして、セイバーは不機嫌な表情を浮かべる。
 此間のランサーと戦闘はいいところで打ち切られ。
 今度は取っておいてバーサーカーを勝手に取られた。
 フラストレーションが溜まる一方だ。
 いつかは発散させないと爆発する。

「戦うことがお好きなんですねぇ」
「ここが戦場で相手が俺の目の前に倒す敵がいる……戦う理由はなんざそれで十分だ」
「それは実に東洋の……蛮族的な考えですね」
「それは違いねぇな!」

 カッカッカッと笑うセイバー。
 それをやれやれといった表情で笑うキャスター。

「で、次はどこだ?」
「次はいよいよ本島ですね」
「……やっとか」

 口角を引き上げてにやける。
 メインディッシュを前にして笑う少年のように。

「で、あのランサーの嬢ちゃんはどうすんだ?」
「あのランサーの追撃にはアーチャーを向かわせました」
「あの傭兵気質のアイツか……あれは相当な甘ちゃんだぜ?」
「ですが、弓の腕は確かです……確か貴方の知り合いのどなたかだったと同じくらいですね」

 今度は右拳ではなく右脚が飛んできた。
 これには完全に予想外だったのか、腹を少しだけ掠った。

「……テメェ、アイツらのことをなんも知らねぇのに勝手に比べんじゃねぇッ!」

「やはり……貴方でも家族同然の者のことになると……怒りますね。
 間違いなく【人】のサーヴァント。ええ、私も同じですから。
 一応は謝罪しておきますね、ゴメンナサイ」

「次、そんなことほざいたら、殺す」

「ええ。肝に銘じておきます」

 これじゃあ本当にセイバーなのかどうかわからない。
 やはり、あの国にはバーサーカーとアサシンしかいないんじゃないかと。
 小さな溜息を吐きながら、そうキャスターは思い始めたのであった。


【ハワイ本島】


「ありゃ、なんかよくわからないがサーヴァントの反応が増えたべ」


 手にした林檎を齧りながら、緑の帽子の男が呟いた。
 ハワイ本島に着いた早々だったので、現地のサーヴァントと合流したのかと思った。
 が、反応の数からして数が合わない。

「弓矢の数は……まっ、足りるべな」

 林檎を綺麗に齧りきると、林檎の芯を空高く投げた。
 そして、弓だかボウガンだか分からない武器を構える。

 ―――アーチャーの弓矢が一閃する。

 ものの見事な早打ちで空中でリンゴの芯を貫いた。

「うん、今日も絶好調だべ」

 気合を入れなおして、その緑帽子のアーチャーは歩みだした。

「さーて、ノルマはしっかりこなすべ……これも仕事仕事」

 戦いを仕事と割り切って進む。
 英霊になっても傭兵の気質が消えない。

 息を大きく吸い込み、大きく吐き出す。
 意識を完全に戦いに向ける。

「ターゲットは褐色のランサー……成功報酬は『聖杯』」


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最終更新:2017年05月27日 21:57