「なにこれ」
京の町について藤丸はそう呟いた。
日本式の建物と洋式の建物が並びツギハギな町並み。
塗装されていない砂利道。しかし遠くにはしっかりとした綺麗な道が見える。
そして住民は洋装のもの和装のもの、髪も髷を結ったものもいれば長く伸ばしたものもいる。
刀を腰に差したもの、鍬を肩にかついだもの、老若男女全て統一感のない出で立ち。
和洋折衷。そんな言葉では収まりきらないかもしれない奇妙さだ。
いや、実際にはこういう景色だったのだろうか。
「文明開化ってこんな感じなの?」
「知らんけど、もう開化終わっとるやろ」
「確かに」
大正九年。明治の世も終わっている。
「ちゅうか、あれなんやろな」
「あれ?」
酒呑童子が指さしたのは街を歩く人間だ。
手には長銃を持ち、腰には刀。
皆同じ衣服に身を包み数名一組で何組も歩いている。
彼らの近くにいた人間は彼らに道を譲る。
譲られることが当たり前なのか集団は特にそれに対して礼をする様子はない。
『やぁ藤丸君。そっちはどんな感じかな?』
「ちょっと街の風景が気持ち悪いかな」
『そうか。それと、落ち着いて聞いて欲しいことがある』
「なにかあったの?」
『あぁ、君の周りから英霊の反応が出ている。何人か集団で歩いている者がいるはずだ』
「え、あの人達英霊なんですか?」
『正式に言えばそれに限りなく近い存在という感じかな。霊基パターンはアーチャーだよ』
「正式に言えば?」
ダ・ヴィンチちゃんへの疑問。
それへの返答を聞く前に状況が動いた。
背後で大声がしたのだ。その声に反応して銃を持った集団がそちらを向く。
別にまだ悪い事をしたわけではないのだが、思わず身を固まらせる。
「待て大馬鹿者!」
「待てって言われて待ったら間抜けというものだ!」
「え?」
「うわ、ちょっとのいてくれ! ちょっと!」
アーチャー集団の声で固まっていた藤丸。
背後を振り向けば人がこちらに向かってきている。
和服をきた無骨な印象を与える男がこちらに走ってきているのだ。
その時藤丸がとったのは酒呑童子と信長より一歩前に出て二人をかばうということだった。
男を避けるのを諦め、受け止めるつもりであった。
「おうふッ!」
「おぉッ!」
正面衝突。体格差がありすぎる。
吹き飛ばされるように倒れる藤丸だが地面とのキスの直前で体の動きが止まる。
引っ張られる襟元。酒呑童子がキャッチしたらしい。
なんとか立ち上がる。
「あぁ、おい。大丈夫かい」
そんな男の声が聞こえてくる。
ただしそれに応えることは出来ない。
今この場で、この警察のような男たちに銃を突きつけられているからだ。
「ついに追い詰めたぞ盗人め」
「誰が盗人だ。失礼極まりないな君たちは。それと彼らは無関係だ、返してやってくれ」
「分かっている……おい、お前ら……」
「な、なにか?」
「……鬼か」
「鬼やけど? それがどないしたん? にしても嫌やわぁそないなもん向けて……滾ってまうやないの」
「待て、酒呑。攻撃はするな」
一触即発。
酒呑童子の顔を見て男たちの顔が強張る。
するといきなり彼らの前に無骨な男が土下座をした。
「いや、本当に申し訳ない。私としても借金の苦しみが日に日に増すばかり。背を焼かれているような気持ちだ」
「だ……だったら早く返済せよ!」
「返済する金があればいつだって返すとも。だから今日は、今のところは」
『藤丸君。大変な時だと分かるが聞いてくれ。突然、君の近くで英霊の反応が出現した』
「え?」
音がした。
砂利の地面を男の手が掴む。その大きな手の隙間から砂が漏れる。
「今のところはこれで勘弁してくれ」
男は握った砂を放り上げる様に巻き上げる。
砂埃が上がり、男たちの目に刺激を与える。
しかもそれだけでは終わらない。
「はははは! くらえ!」
音がした。
破裂するような音だ。パンパンとまるで爆竹が破裂するようなそんな音が砂からしている。
砂が弾けているらしい。空中に舞う砂が彼らを襲う。
「そうら、逃げるよ」
男に引っ張られ逃げる藤丸一行。
少し残念そうな顔をしているのは酒呑童子だ。
「ここまで来れば安心だろう」
裏道に到着しひと段落。
なんだかんだで巻き込まれてしまった。
「あの、あなたは」
「ん。私かい。私はそうだね……んー名前というのが……どうにも……」
「英霊だよね?」
「うむ。そんな気はしておったがのう。わし知っとったし。こいつ英霊やっておると気付いておったわ」
「ちゅうか、ダ・ヴィンチはんが通信で言うてはったやろ」
「はははは。そうか、であれば話は早い。私はアサシン。なぜだかアサシンのサーヴァントだ。『京のアサシン』とでも呼んでくれ」
「名前は教えてくれないんだね」
「あぁ。はっきり言って、私は自分の名を知らん。だが自分が英霊だという事は知っている」
「なんじゃそりゃ」
「まぁ、自分が何者か分からないというのも慣れればどうということはない。ところで、君の名前は?」
「藤丸です。藤丸立花」
「そこの二人は? 見た感じ、二人とも英霊か?」
「よくぞ聞いてくれたのう。わしの名は。そう、わしの名は第六天魔王、織田のぶ」
「アサシンのサーヴァント、酒吞童子や。よろしゅうに」
「まだ喋ってる途中なんじゃが!?」
二人のやり取りにくすりと笑ったアサシン。
それから藤丸に対して目線を向ける。
「とりあえず、ようこそ藤丸君一行。ここは京都。日ノ本の首都にして全ての中心だ」
「え?」
「ん?」
「今、首都って」
「あぁ。ここは日本の首都だ。中枢にして中心、永代の都、それがここ永久統治首都、京都という訳だ」
最終更新:2017年06月29日 00:48