カニバリズム カーニバル


地面を踏みしめるたびに、しゃんしゃり、しゃんしゃりという音がして――自分の足跡が地面に刻み込まれていく。
世界が果てなき大地であるかのように、どこまでも続いていくかのような砂浜をアナタは歩いている。
ざん、ざざ、ざん。という波の音だけがやけに大きく聞こえる。
ざん、ざざ、ざん。ざん、ざざ、ざん。ざん、ざざ、ざん。
砂浜を歩いているのは、アナタとアサシンのジャンヌを名乗った少女の二人だけだ。
波打ち際を歩く、アサシンのジャンヌ。
靴を脱いで、ユラユラと足元に絡みつく海水の感覚を楽しんでいる。
海水が足をくすぐるたびに、ジャンヌはきゃんきゃらと笑う。

「海はいいねぇ、広いねぇ、今までボクは海なんてものを知らなかったんだよ」
両手をいっぱいに広げて、ジャンヌは潮風を全身に受け止める。
ああ、気持ちいい。と彼女は笑う。きゃんきゃら、きゃんきゃら、子犬のように笑う。
「夏だったら良かったのにね、こんな状況じゃなかったら良かったのにね。泳ぐには冷たすぎるし、遊ぶにはちょっと早すぎるから」
ジャンヌはアナタに微笑みかける、憂いを帯びて笑う。

アナタはジャンヌに尋ねる、ココに自分の敵がいるのだろうか。

「敵……そうね、ココにボク達の敵の一人がいる。
この土地に展開された杉沢村の一つ――その核となる殺人鬼が」

ジャンヌという少女は随分事情に詳しいのだと、アナタは思った。
そして、アナタは尋ねる。
杉沢村とは何なのか、その核となる殺人鬼とは何なのか、そして敵とは一体何なのか。

「アナタの記憶がどこまで残っているのかわからないから、端的に説明するわ。
敵って言うのは……えーっと……悪い奴よ。
その悪い奴が殺人鬼を呼んで来て、杉沢村っていう悪い村を作ってるの。
アナタは杉沢村っていう悪い村を全部潰して、悪い奴を倒す……大丈夫?」

アナタは親指を立てて応える。
わかっていたことである、ジャンヌの説明が下手であることは。
だから、然程期待していたわけではないし、どちらにしろやることは変わらない。
戦うという決意は変わっていない。

「ありがとう、じゃあ早速だけど……」

『ここから先へ立ち入る者 命の保証はない』

果たしてこれは如何なる現象か、砂の底より、突如――看板が浮かび上がる。
そして――臭う。
人間の腹を掻っ捌いて臓物を辺り一面にぶち撒けた、糞と腸、血と腐りきった肉の臭い。
息を吸えば、腹の中にあるものを全て吐き出してしまいたくなるような――異臭。

「ボクの戦いをしっかり見ていて」

轟――と、音がする。
地響きがして、アナタとジャンヌの後方から鳥居が降り注ぎ、地面から髑髏のような岩が浮かび上がる。

「「「「「「マーーーーーーックス!!!!!!!!!ハーーーーーーーーーーイテンション!!!」」」」」」
何時から現れたのだろう、アナタとジャンヌの正面から、背後から、側面から、それも――海の側からも、
アナタ達を囲むように、複数の敵が現れる。

腰巻きだけを纏った男、襤褸切れを全身に纏った女。
目には爛々と狂気を宿し、目の数や耳の数、口の数。
人体のあらゆるパーツが、過剰に存在したり――あるいは、通常よりも少なかったり。
人間というにはあまりにも異形であり、人間でない怪物というにはあまりにも人間に近い。

目が三つ、口が二つある男が嘲笑う。
腰巻きは見慣れた肌色をしていて、時折――産毛や、皺がある。
人皮を一つの布にするために、無理やり継ぎ合わせた跡も。

「人間ってよォ!野菜を食べたり動物さんを食べたりしてるよなァ!でも……それって健康に良いワケ!?
人間は母親から生まれるわけじゃん!人間肉100%でさ!!
んで赤ちゃんの間に飲む母乳の成分も人間率100%!!最高だよな!!
でもさ~~~ァ、野菜とか動物さんを食べる度に、人間さんの比率は下がっていくわけ。
野菜を食べて栄養として取り込めば……10パー!?20パー!?そんぐらい俺たちはお野菜人間に近づくわけ!!
動物さんを食べればその分だけ、俺達は動物さん人間になるわけ!!
俺らは人間だろォ……!?人間率100%で生きたいよなァ……!!
というわけで、俺達は人間喰うぜ!!骨の髄までしゃぶり尽くす!!
以上、自己紹介終了!!捕食開始!!」

「さて、ちゃちゃっと……やらせてもらおうかな」


「ァー……腹減ったな」
とある海岸の洞窟の中、犬歯の鋭い男が白い壁にもたれ掛かっている。
剥き出しの岩肌の上に、男女問わず様々人間の洋服を置いて男はそれを絨毯の代わりにしている。
では壁とはなんだ――人骨だ。
何重にも積み重ねた人の骨、老若男女を問わず――時折、肉片を付けて。
そして、肉片の付いた骨を男は時々思い出したかのように舌でしゃぶりつくし、そして歯で肉を掬い、そして飲み込む。
「おっと、カルシウム。カルシウム」
時折、そう言って男は骨ごと噛み砕き、飲みこむ。
「腹減ったなァ……メシまだかなァ……」
男は無造作に伸び放題になった髪を掻き分けて頭をかく。
くん、と男は鼻を鳴らす。
どうやら新しい食材が到着した様子である。

「親父ィ!新しいメシだぜェ!!むっちむちでピッチピチの雌肉だ!!」
何人もの異形の男たちが、2人の少女を抱きかかえて、犬歯の鋭い男の元へ馳せ参ずる。
あどけない顔をした少女達だ、目には恐怖の光を宿し、今にも泣き出しそうだが、きりと口元を閉じて表情だけでも恐怖に抗おうとしている。

「……ご苦労、俺の可愛い糞ガキ共。胸肉と尻肉は俺が喰う、後は好きにしな」
「俺はメん玉が喰いてぇなァ」
「俺ァ、アレだ……アレ、脳味噌。頭蓋に穴ぶち開けてチュルチュル啜りてぇ」
「アタシは……ベロよ、ベロ。女も男も100%のキスの味は最高よ」

少女二人を地面に下ろし、グルグルと異形の集団は舌なめずりをしながら少女の周りを回る。
「な、なんなのよアンタ達!!」
少女の一人が気丈にも叫ぶ。
恐怖に負けないために、生き残るために、叫ぶことしか出来ない。

「何がしたいのよ!!帰しなさいよ!!馬鹿!馬鹿!馬鹿!!」
すぐに警察が来るわ!!そしたらアンタ達全員死刑よ死刑!!

「人間ってよォ、死ぬのは怖いよなァ……やっぱさァ、自分って一人しかいないもんなァ」
「は……?」
「雌肉ちゃんよ、俺ァ思うんだ。子どもっていうのは、俺の50%なんだ。
赤の他人の嫁さんと俺が、お互いに半分ずつ身体を出し合うんだからな。
けど、赤の他人じゃない俺のガキと俺が子作りしたらどうなるよ……ェエ?
俺が100%でガキが俺の50%……足して割ったら俺のガキは俺の75%の存在だ。
それを繰り返す100に近づくまでだ……そしたら、最高だァ!
俺がもう一人誕生しちゃうじゃん!?俺が死んでも恐れるものは無いよなァ!!」

常軌を逸した男の言動に、少女は何も応えることは出来なかった。
ただ恐怖で、少女はもうひとりの少女の手を握った。
少女は少女の手を握り返した。

「ガキども!!子どもを作れ!!産んで増やせ!!俺を増やせ!!」
粘液質の音が聞こえる。
すうと衣を脱ぐ音が聞こえる。
喘ぐ声が聴こえる。
少女の周りで、異形たちがまぐわい合う。

「……けどさァ、提案あんだけど。
どっちか片方だけ、もう一人を見捨てて生き残りたいって言ってみろよ。
そしたら、助けてやる……かもよ?」

少女は恐怖に狂い。
そして、それでも、お互いの手を強く握った。

「そっかァ……二人なら死ぬのも怖くないってかァ……!?」






「羨ましいよ」
少女が、二つの肉に変わった。

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最終更新:2017年05月26日 19:59