山の声(1)


 昔々。
 京の街を守護する平安最強の神秘殺しがいた。
 その神秘殺しには四人の配下の男たちがいた。
 一人一人もまた『化け物退治のエキスパート』だった。

 人々は彼ら四人を『頼光四天王』と呼んだ。


 ◇ ◇ ◇


「なるほど、カルデアに亜種特異点ね」

 服を乾かしつつも話をする。
 替え用の下着とか何故かすでに用意されていた。
 まるでこうなることが分かっていたかのように。

「アンタのそういうところは変わらないな」
「僕は英霊になろうと変わらないさ、金太郎君。
 『山の声を聞き、其れを為す。弱き人の声を聞き、其れを為す。』だけさ。
 まあ、人には上手く伝えられないけどね」
『それって『啓示』のスキルじゃ……? まさか貞光さんにはルーラーの適正が……』
「ないよ、声だけのお嬢ちゃん、僕は聖人なんて大層な者じゃないよ。僕はただの武士に過ぎないさ。
 ……そういえば、僕は後の時代にどう語られてるのかな……もしかして影が薄すぎて女の子にされてたりしないかな?」

⇒「大丈夫です、ちゃんと男です、きっと」
「そんな『O・TO・GI』話じゃないんですから」

「よかった……うん」

 安堵した表情を浮かべる貞光。
 だが、近くに女体化したブリテンの王様や南の国の王様がいる。
 その上、あまりにも知名度が……

「皆まで言わなくても分かっている、僕が頼光四天王の中でも影が薄いのは……」

 金太郎として有名なゴールデンこと、坂田金時。
 一条橋で茨木童子の腕を斬ったとされる四天王筆頭、渡辺綱。
 四天王の残り二人の弓の名手の方、卜部季武。
 そして、薄いさん。

『先輩、碓井貞光さんです』
「マシュ、そんなこと言ってもね……」
「確かにこの影の薄さは常時気配遮断Bくらいありますね」
「ハハハ、中々面白いこと言うね……で、キミ達は?」

「藤丸立花です」
⇒「人類最後のマスターの藤丸立花です」

「世界最強のセイバーのヒロインXです」
「マスターの藤丸立花ちゃんとセイバーのヒロインXちゃんね、覚えとくよ」
『…………(この人どこまでが本気なんですかね……?)』

 かなりの生真面目なのか、天然なのか定かではない。
 だが、金時が貞光に対して何も言わないことを考えると生前からそういう性格だったと考えられる。

「それでそこのランサーちゃんは何をしに来たんだい?
 今になって僕と同盟を組みに来たとでも言いに来たのかな?」
「…………そうです」

 カメハメハはこれまでの事情を話した。 
 時間にして数時間、その間に服は乾いた。

「なるほどね……つまり、君の身内殺しの敵討ちを僕に手伝えということかい?」
「………ッ!」

 髪をかき上げて一回空気を大きく吸い込む。
 そして、今までと同じような口調で話す。

「君達は僕がそこにいる金太郎君の母上を討ち取ったことを知っているかい?」
「貞光サン……ゴールデンと……いや、せめて金時と呼んでくれ、オレっちだっていつまでもガキじゃねぇんだぜ?」
「ゴールデンの母親って頼光さん……?」
「いやいや、オレっちを産んだ奴だよ」
「!?」

 金太郎の物語。
 今では熊と相撲をして、木で橋を作り、その様子を見ていた木こり(碓井貞光)にストーキングされ、
 木こり(碓井貞光)と相撲して、その木こりは実は源頼光の家来(碓井貞光)であり、スカウトされ、
 金太郎が木こり(碓井貞光)と共に京向かい、源頼光の元で坂田金時と名乗り、頼光四天王となって名を轟かせる話である。

「重要な役割ですね……その木こり」
『先輩、その木こりが碓井さんです』
「なるほど、木こりということは貴方の本来の得物は『斧』なのですね……これはセイバーではないです」
「金時君の母上は……人喰いの山姥だよ」
「!? ゴールデン、それ本当……?」
「……本当だ、オレっちの『母親は人食いの山姥』で貞光サンは『その鬼女を討ち取った武士』だ」

 生みの親殺し。
 金時はさらりと言ったが、その場の空気は重くなる。

「……なあ、貞光サン。オレがアンタのことを恨んでねぇと言ったら嘘になるか?」
「さあね……僕は嘘発見器じゃないからね、わからないさ」
「そうかい」

 頼光四天王内でも色々とあったのであろう。
 藤丸は深くは詮索しない。

「僕はね。彼女の死に際に頼まれたよ、『金太郎を立派な武士にしてくれ』とね。
 例え相手が誰だろうと約束は破るのは……生憎、僕の性に合わないからね。
 さて、話は逸れてしまったけども……ランサーちゃん、それでも君はそんな僕を求めるかい?」
「……それでも今のアタシには貴方の手に縋るしかない。今、大事なのは敵を討つことだから」

 カメハメハの眼差しが鋭い。
 だが、貞光はそれと同時に危うさをも感じ取った。 
 まるで『戦場で鬼を見つけた時のようなあの人』のような。

「……なら、力試しと行こうか」

「僕はこの『聖杯戦争』を『すでに諦めている身』だ。
 約束された敗北に向かい、ひた走り、静かに終わる。
 それが僕の運命なら、それを受け入れよう
 だけどね……その運命を覆せるならば、僕はそれに賭けてみようか」

 距離を取り腰の刀を静かに抜刀する。

「君が男の子だったら相撲を取ったんだけどね……ならやるなら」

 しなやかに鋭く光る刃。
 明らかに雰囲気が変わった。
 若干の殺気が交じり込み、その場の空気感まで変わる。

「宝具は使わないよ……僕が使うのはこの日本刀一本だけさ。
 頼光様や綱ほどではないが、僕にもそこそこの剣の腕には自信が……」
「ほう、それはマスターがいなくて手負いでカメちゃん相手ならアサシン程度の剣技で十分ということですか?」
「ヒロインXちゃん……いや、そういうことじゃ……」
「黙りなさい!
 セイバークラスでもないのにセイバークラスの真似事ですか!
 貴方、あまりセイバークラスを舐めないでください!!!」 
「立花ちゃん、あの子すごく怖いんだけど?」
「あー……これは地雷を踏み抜いた貞光さんが半分くらい悪い」
「もう半分は?」
「ヒロインXさんの言う『全てのセイバーと戦うノルマ……』かな?」
「僕はアサシンだけども?」
「いや、Xさんのクラスも本当は……「もはや問答無用!!!!」」

 輝くエーデルの光が出る。
 秩序なんて投げ捨てた。

「……真のセイバーも眼で殺す……!
 カメちゃん、私も助太刀します!!」
「Xさん……」
「このセイバー気取りのアサシンには一太刀は浴びせないと私の気がすみません!!」
「二対一か……フェアではないが仕方ないね……」

 槍を構えるカメハメハの隣に聖剣を構えるヒロインX。
 その先には頼光四天王が一人・碓井貞光。

「―――行きます!!」


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最終更新:2017年06月18日 03:15