山の声(2)

「ねぇ、ゴールデン?」
「どうした、大将?」
「碓井さんって本当に強いの?」
「大将。まだ疑ってやがるな……あの人の強さはそりゃゴールデンだぜ。
 なんってたった一人で大蛇を狩っちまうハンターなんだからよォ!」

⇒「たった一人で?」
「碓井さんは友達が少ないの?」

「おう! ……もし、貞光サンが手貸してくれるんだった、そりゃもう千人力だぜ!」
(あっ、頼光さん(万人力)には敵わないから千人力なのね)

 少し離れた地点で行司をやらされる二人。
 いつでも止められるようには準備はしている。
 主に手加減できるかどうかわからないヒロインXを。

「……もっとも、本来だったら槍兵の方が向いてるとは思うんだけどな」
「あの薙刀と大鎌で?」
「ああ、あの大鎌はさっき言った通りの大蛇を狩ったヤツだろ。
 で、あの薙刀は……」
「頼光さんも使ってた奴だよね?」
「そうだ、なのに……そんな人がアサシンなんだぜ?」
「確かに影が薄いだけでアサシンってのはね」
「だろ?」

 適当に雑談をしながら二人は戦況を見守り続ける。


 ◇ ◇ ◇


 ここは少し薄暗い洞窟内。
 辺りはほぼ岩に囲まれている。
 洞窟内に三人分の声が響き渡る。

「ハッ!」
「……おっと!」

 突撃してくるカメハメハの槍を躱して、岩の上に着地。
 日本刀は斬ることに特化した刃物である。
 あの大型の槍の一撃を日本刀で耐えきることは不可能。
 だからこそ避ける。
 敏捷性は高いからできる。
 だが、しかし…… 

「セイバーッ!!」

 それを先読みしていたかのように回転しながら突っ込んでくるヒロインXが来た。
 振るわれた聖剣によって、貞光がいた場所の岩が砕ける。
 そして、外したのが相当悔しいのかものすごい形相でヒロインXはガンを飛ばしてきた。

「ええい、さっきからちょこまかと! 本気で正々堂々と戦いなさい!」
「力試しと言ったからね? 僕はこれでもそれなりに本気だよ。
 それはそれとして……君の最強のセイバーの二つ名に偽りなし! 見事なお手前で!」
「それは……ありがとうございます///」

 ちょろい。

 お互いの敏捷性のランクは同等。
 だが、両者の手にしている武具の差が如実に出る。
 片や無銘の日本刀。
 片や星の聖剣。
 その差は歴然『月と鼈』それくらい違った。

(やはり、最優のクラスのセイバー……少しでも気を抜けばバッサリだな……
 それにあのランサーちゃんは無茶な突撃ばかり繰り返して……ほんと危なっかしいったらありゃしない。
 ……三騎士クラスの二人を相手にこちらの手札は日本刀一本とこの場の特性を知っていることだけ……
 うむ、自分で縛りを入れといて苦しくなるなんてまいったなぁ、こりゃ……)

 貞光は身体と思考を絶対に止めない。
 動かし続けて、二人の動きを見定め続ける。

(流石ゴールデンさんの同僚だった方……一筋縄でいきません。
 それにあの太刀筋は武者のセイバーに少し似ている……もしや何か関連性が……?
 いや、あの日本国という出身のサーヴァントは大体こんな雰囲気なのか……?)

 この狭い空間内では銃弾による射撃はあまりにも危険すぎる。
 だからこその接近戦。
 獲物のリーチはこちらの方が分がある。
 だが、それでも接近戦には持ち込めない。

 理由として二人が単純に二人が速すぎる。
 この狭い洞窟内をそれこそ縦横無尽に駆け回っている。

 常に直感を働かせているが、アサシンの持つ気配遮断がそれを上回っている。
 相手がセイバーでないから少し直感が弱くなっているのだろうか?
 それはわからない。

(彼はアサシンと言っていましたが、本当にアサシンでしたね……どうしましょう……)

 今更後には引けなくなったヒロインX。
 ノリで色々とやってみたが、そろそろ真面目モードにシフトすべきだと思い始めてきた。
 よくよく考えたら自身がここにいるこの状況を最初に作ったのは藤丸であったことも思い出した。
 まあ、そんなことは置いといて、この状況、自分の友達であるカメハメハはかなり必死である。
 相手のアサシンも相当真面目にやっている。
 そんな中、自分はこのままでいいのか? 
 ……まあ、別にいいか。

「やぁーッ!」
「……そんな闇雲に突っ込んで来ていいのかな?」
「アタシにはこれしかできないんでね!」
「そうか……そこ、少し危ないよ?」
「なっ……!?」

 岩場から噴出する高温の水蒸気。
 先程から少し蒸し暑いとは思っていたが、これが狙いだったのかもしれない。
 まるで天然のサウナのような状態がこの場に出来上がってしまった。

「……湯煙を煙幕代わりに使うとは、中々やりますね……カメちゃん、今は私のそばに!」
「はい!」

 背中合わせで立つ。
 二人の死角を出来る限り消す。
 アサシンは気配遮断スキルも相まってか、その場から消えたような状態だ。

 何もせずとも汗が出る。
 息苦しさも若干ある。
 そんな状態が約10分ほど続いた。
 緊張状態も続き、精神的にも疲れが出始めた。
 汗をかきまくったので二人とも上着を脱ごうとしたがやめた。

「暑いですね……」
「アタシも太陽の熱さならまだ大丈夫なんですけどね……こうも蒸し暑いと流石に……」
「くっ、姑息な手を……! やはり、アサシンのサーヴァントですね、彼は……!」
「親父殿が言っていた……『最大の障害』になるということはこういうだったのかもしれませんね」

 自然に恵まれたこの土地のことを理解している。
 この土地生まれの自分よりも、だ。
 自然を愛し、この自然が好きだった男。
 その男が一目を置くのも頷ける。
 その刹那だった、 

「王手だ……!」
「「!?」」

 白刃の峰が二人の首元を同時に突き付けられた。
 完全に油断していた。
 一瞬、ほんの一瞬僅かな心の油断。
 その隙を完全に突かれた。

「僕の勝ちだ、実践だったら、そのまま君たちの首を落としていたよ」
「アタシの負けだ……」
「随分と素直な子だこと、嫌いじゃないよ、そういうのは」
「貴方、本当にアサシンですね」
「僕は最初からそう言ってたよね?」
「いえ、その真正面からの不意打ちが実にアサシンらしくてですね」
「……それは褒めてるのかな?」
「? はい、そうですが?」
「……じゃあ、一応、誉め言葉として受け取らせてもらうよ」

 一先ず、このサウナ状態から脱したいのがヒロインXとカメハメハ。
 ので、ここから脱しようとしたのだが……

「おや、金太r……金時君、どうしたんだい?」
「あー……大将がこの暑さでぶっ倒れちまった……」
「ゴールデンボーイ、何やってたんですか!!!」
「そうです!!」
「うおっ、そんな恰好であんま近寄んなって……」

 二人は汗で上着がビッチりしていた。
 それはもう体のラインがはっきりわかるほど……
 その状態で二人は金時にずいずいと詰め寄ってくる。

「金時君……女の子にモテるのに女性の扱いはまだまだのようだね」
「アンタ、やっぱ色々と変わんねぇなァ!」
「……とりあえず、彼女の介抱だね、僕も久々の運動で汗をかいたし、温泉に浸かりたい気分だよ……」



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最終更新:2017年06月24日 04:42