第4節:ヤバいヤバいヤバい



ティーチに続けとは言ったものの、残念ながら彼の敏捷性はE。
そういうわけで立香達は、先に駆けたはずのティーチを完全に追い越す形になってしまっていた。
これにはティーチも少し恥ずかしくなってしまったようで、先程までの大海賊モードはどこへやら。
いつものオタクモードへと逆戻りし、ぜぇぜぇと息を切らしながら「待って……拙者を待って……」と呟いていた。
だが願いを叶えるわけにはいかない。何せもう、アサシンの背中は遙か遠くにまで離れてしまっているのだ。
このままのペースでは完全に振り切られるどころか、最悪どこかに身を隠された挙句に奇襲を受けること必至である。

「ったく! アンタって奴は……オタク生活でなまったんじゃないだろうね!?」
「むしろ逆になんで皆そんなに速いんですかね……あー、もう無理ぃ……」
「じゃあそこでくたばってな! アタシらは先に行く!」
「待ってくれドレイク! キミは仲間を戦場のただ中に置いていくというのかい!?」
「安心しな! アイツのしぶとさはマスターだってよく知ってるさね! なぁ、だろう!?」
「え? あ、うん。そうだな……そだね……」
「じゃあ、拙者休んでるんで……後で合流ってことで……」
「キミもそれでいいのか!? もう滅茶苦茶だな!」

というわけで、酸素不足からかばったりと倒れ込んでしまったティーチを置いて、立香達はアサシンを追い続ける道を取る。
その非情にも思える選択に元親は驚きを隠せないようだったが、立香に「本人がいいって言ってるから!」と言われると、

「……すまない、必ず迎えに戻る! 約束しよう!」

などと律儀に優しい言葉を残し、脇目も振らずに全力疾走していった。
その速度たるや、さすがはランサーのサーヴァント……あのアサシンには及ばずとも、相当なものだ。
ドレイクが道に迷わずに済んでいるのも、アサシンの姿を捕らえ続けている彼が前を走ってくれているおかげだ。

「見えたっ! マスター! 恐らくだがあのアサシンは甲板に出るつもりだ!」
「はい!? 今俺達、船の奥へ奥へと向かってるよな!?」
「道を曲がる間隔を調整することで、そう思わせているんだ! さすがはアサシン……彼女は逃走の何たるかを心得ている!
 もしもあの時、ボクが情に負けてティーチを介抱していたら、今頃ボク達は彼女の思惑通り、船の奥深くを探索する羽目になっていた!」
『なるほど。進行方向も二度同じ向きに曲がれば正反対になる。そこまで単純な話ではないだろうが、彼女はそうして逃走経路を偽装していたんだね』
「ああ……だが露骨すぎては悟られてしまう! だからきっと階段を使う頻度なんかも計算していたんだろう! ほうら……見えてきたよ!」

果たして立香達は、元親の言った通りに再び甲板へと辿り着いた。
そして船の端へと視線を向けると、元親やティーチ達の得物を足元に置いたアサシンが、堂々と仁王立ちしている。

「いやはや……まさか仲間を置いてまで追いすがってくるとは思わなかったッスよ。凄いッスね、お見事ッス」
「苦しい判断だったけれどね。で、ところでキミは何をしようとしているのかな?」
「分かんないッスか? 実はッスね、皆さんの武器をポイ捨てしちゃおうって考えてるんスよ。そしたらこの聖杯戦争、あたしが有利でしょ?」

ドレイクの背から降りた立香が視線を移すと、元親はアサシンに冷めた視線を向けていた。
一方のドレイクも眉間に皺を寄せて「ちょっとアンタ、早まるんじゃないよ!」とアサシンに叫ぶ。
そして肝心のアサシンはというと、ふふーんとどや顔をかましていた。何だか少し腹が立った。
だがその怒りを半ば強引に抑えつけた立香は、彼女に対しこんな質問を投げかける。

「……ところでアサシン。お前は……聖杯戦争がどんなものか、ちゃんと分かってるのか?」

この言葉に対し、アサシンは「は?」と間抜けな声を出したが、すぐに「当然ッスよ」と返してきた。
だが立香にはそうは思えなかった。それどころか、間違いなくこのアサシンは完全に誤解をしている……と、確信していた。
何故ならば、この特異点で〝聖杯戦争にこだわっている〟という時点で、既に彼女はズレてしまっているのだから。
となりで溜息をついた元親も、その様子からして立香と同じ結論に達しているのだろう。

「じゃあ答えてみろ。基本的なルールや現代の知識は現界するときに与えられるんだよな? それならほら、どうぞ?」
「なんなんスか……じゃあ、そうッスね……まず、聖杯戦争はマスターに召喚された七騎の英霊によって行われるものッス。
 手段は殺し合い。そして目的は聖杯に願いを叶えてもらうこと。ああ、七騎の英霊の種類も答えた方がいいッスか?
 基本的にはセイバー、アーチャー、ランサー、ライダー、キャスター、アサシン、そしてバーサーカーの七つッスよね。
 ただしこの基本から逸脱することもままあり、その場合はエクストラクラスが召喚されて数を埋めることになるわけッスね」
「なるほど、ちゃんと基本的なルールは分かってるんだな」
「当然ッスよ。そしてあたしが……アサシンが搦め手を必要とするクラスであることも承知済みッス」

ここまで答えたアサシンは「どうッスか? 満足したッスか?」と胸を張って問いかけてくる。
だがその問いに対し、立香は「じゃあ、今のこの状況はどう説明するんだ?」と逆に質問を投げかけた。

「なぁアサシン。まず、お前さ……〝誰に召喚された〟?」
「……は? いや、そんなの、マスターでしょ。大体の場合は魔術師ッスよね? 英霊一騎につき、一人のマスターがついて……」
「じゃあここで衝撃の事実を三つ発表します。まず一つ。俺はここにいるドレイクと、船内に残した大男のティーチ……その二人のマスターです」
「……え?」

続けて立香が放った言葉に、アサシンは再び間抜けな声を出した。どうやら現実を受け止められなかったらしい。
だがそんな彼女の様子を無視し、立香は更に言葉を続ける。

「二つ目。そこのランサー、元親は俺が召喚したわけじゃありません。マスター無しで現界したはぐれサーヴァントです」
「いいっ!?」
「そして三つ目! 俺が契約してるドレイクとティーチは、二人ともライダーのサーヴァントです!」
「…………はぁぁぁぁぁっ!?」

この言葉を受けたアサシンは、取り乱したように「いやいやいやいや! いくら何でも無茶苦茶ッスよ!」と否定する。

「そんなの、完っ全におかしいじゃないッスか! 何もかもが聖杯戦争として成り立ってないじゃないスか!
 聖杯戦争のルールはどこにいったんスか!? こんなの……こんなの、ただのあんたの俺TUEEEE物語じゃないッスか!」
「ああ、そうだ! だからアサシン……そろそろ勘違いはやめようぜ! 今行われてるのは、聖杯戦争なんかじゃないんだ!」
「なんですとぉ!?」
「ここは特異点と呼ばれる、間違った歴史を歩んでいる世界なんだ! それを修正するために、俺達はここにいるんだ!」
「い、いやいや……ちょ、ちょいタンマッス……あの、じゃあランサーさん? その、さっきの話……その、はぐれってのは……マジ?」
「全て事実だよ。ふと気付けばボクはこの戦艦にいた。どうせ、キミもそうなんだろう?」
「う……っ」

だが遂にアサシンは言葉を詰まらせた。きっと元親のストレート極まりない問いが効いたのだろう。

「てっきり……てっきりあたしのマスターは、陸地にでもいるんだとばかり……」
「キミってやつは……どう考えてもそっちの方が特殊すぎるだろうに」
「いや、だから色々と特殊すぎるから逆に〝そういう聖杯戦争なんスね〟って思っちゃったんスよぉー!」

いよいよもって色々と限界なのか、アサシンは両手で頭を抱えながら「一体全体なんなんスかーっ!?」と叫び声を上げた。
そんな彼女に対し、立香は内心で「やっとか……ここまで長すぎたな、色々と」と呟いてから、自分達の所属と目的を包み隠さず話すのであった。


◇     ◇     ◇


「なるほど……つまりはそのカルデアってのの総力を結集して、特異点っていう〝歴史の癌細胞〟を潰して回ってるってわけッスね……?」
「はい、よく出来ました。大正解」

というわけで、立香による講義は無事に終了した。
失礼な表現になるが、意外にもアサシンは物わかりが良く、様々な情報をまるでスポンジの様に吸収してくれた。
思うに、きっと彼女が最初から自分自身の境遇を理解していれば、何事もなく力になってくれていたに違いない。

「しかし、まさかこの船がそんな酷いことしてたとは、夢にも思わなかったッスよ……」

だが不幸だったのは、彼女が現界したタイミングであった。
よくよく話を聞いてみると、なんと彼女はこの〝土佐〟があらゆる戦艦等を蹂躙したという事実を知らなかったのだ。
つまりは元親よりも後に現界したことになる。それ故に歯車が噛み合わなくなってしまっていたというわけである。
そうなれば、この状況が〝特殊すぎる聖杯戦争〟であると誤解してしまうのも仕方のないことだった……のかもしれない。
立香的にはあくまでも〝百歩譲って〟ではあるのだが。

「で、そろそろ真名を教えてくれないか? いい加減クラス名で呼ぶのも、素っ気なくて面白くないし」
「あたしのッスか?」
「他に誰がいるよ?」
「うーん。まさかまさかの長宗我部元親さんなんていう超大物がいる時点で、むっちゃハードル上がってるんスけど……」

そんな不幸なアサシンは、ここで遂に己の真名を告白する機会を与えられる。
彼女は仕方ないと諦めた様子で、静かに口を開いた。

「あたしは〝日下茂平(くさかもへい)〟ッス。知ってます?」

だがこれまた立香には聞き覚えのない名であった。
隠しても仕方がないので、立香は正直に「ううん……」と首を横に振る。
元親に知り合いなのかと訊ねてみるのだが、彼も彼女のことは知らないとのことだった。

『先輩。茂平さんについてですが、彼女は江戸時代中期頃に活躍した義賊だそうです』

するとここで空気を察してくれたのか、マシュが助け船を出してくれた。

「江戸時代中期頃……そっか、元親よりももっと後の人なのか」
『はい。ちなみに歴史上では男性だと記されていますが、ドレイクさんのようにどこかで誤った記録が広まったんでしょう』
「ただの義賊って割にはぞっとするくらい手強かったんだけど……どう考えてもただの泥棒じゃないよな? 服装からして完全に忍者だよな?」
『ええ、お察しの通り、茂平さんはただの盗賊ではありません。小太郎さんと同じく、様々な技を駆使する忍びです。
 しかもそれだけではなく、牛若丸さんのように天狗から様々な技を学んだそうなんです。先輩が危機に陥ったのも納得ですね』
「……本当だ。今確かめたら〝天狗の兵法〟と〝忍術〟持ってる」
『修行を終えた茂平さんは、その技で高知城下などの豪商・豪農から金品や米などをかすめとり、貧しい人々に分け与えていたそうです。
 推測するに、ドレイクさん達の武器を全部まとめて奪い取ったあの宝具は、その技術と生き様が昇華されて生まれたものなのでしょうね』

なるほど。それならばあの無茶苦茶な宝具も納得というものだ。
一滴の血を流すことなく、相手の得物のみに狙いを定めるなど……なんとも精密かつ大胆に過ぎる。
やはり様々な技を天狗から教わっただけのことはある、ということか。ここまで来ると天晴れである。

「まーた凄い英霊がいたもんだわ」
「いやー、照れるッスねぇ」

今でこそこうして和解したおかげで、ドレイクと元親の得物は返却されたものの、もしも敵対していたままだったらと思うと冷汗が出る。

『ちなみに、最終的には相棒と共に捕まってしまうのですが、茂平さんは鼠に化けて脱出。
 鳶に変化した相棒の背に乗って逃走すると、それ以降は人々の前に姿を現すことはなかったそうです』
「え? 茂平、捕まったことあるの?」
「あ、あー……………………一度だけッスけど」
『高知城に忍び込んだ際に、相棒と共にパーティ用のお酒を飲んでしまい、酔って熟睡したのが理由だそうですよ』
「おんぎゃーッス! ちょっとマシュさん!? なんでさらっと他人の黒歴史晒すんスか! あんた鬼ッスか!?」
『いえ、鬼種ではなくデミ・サーヴァントですが……』
「いやいや、そういう意味じゃなくてぇー……さてはあなた、天然ッスね!?」
「だっはっは! アタシに言わせりゃ、アンタの方がド天然だよ! なんだい、仕事中に酒かっくらって捕まるとか! あっはっはっは!」
「なるほど……さてはキミ、うっかり者だろう?」
「ド天然でもうっかりでもないッスぅー! 貧者の味方! 正義の忍び兼義賊ッスぅー!」

その割に平時にまとっている雰囲気がどこかコミカルなのは、義賊として人々から愛されていたが故か。
そして聖杯戦争に対して〝畜生な構造をしている〟とまで言い切ったところを見るに、彼女もまた、いい人なのであろう。
自国の民を想いながら生きたランサー、長宗我部元親のように。

「それじゃ、茂平」
「ん? 立香さんでしたっけ? なんスか?」

ならば誤解が解けた今、彼女の力を借りぬ手はない。

「仮でもいい。俺のサーヴァントとして、一緒にこの世界を修正してくれないか?」
「……あたしが、お手伝いを……ッスか?」
「あ、ダメ?」

早速の交渉に対し、一瞬だが茂平は目を丸くする。
だがすぐに口角を上げるやいなや、

「いいッスよ。この世界をおかしくしたカラクリ、解いて盗んで終わりにさせましょう!」
「よっし、決まりだ! よろしくな、茂平!」
「はいよ! こちらこそッス、マスターさん!」

立香が差し出した手を取り、きらきらと輝く瞳を向けてくれた。
交渉成立。これにて遂に特異点現地で得られた仲間は二人となった。
そうなると、次にやるべきことは一つ……エドワード・ティーチの回収である。
手元に戻った得物をしっかりと握り締めたドレイクと元親、そして手元で忍者刀を器用に回す茂平へと、立香は再び船内へと向かうことを告げる。
サーヴァント達から異論が出ることはなかった。それどころかティーチと約束をした元親は、立香が歩き出すよりも先に歩を進めているくらいだ。
立香も再びドレイクに背負ってもらい、既に準備万端といったところである。
だが急ぐ元親を先頭に再び狭い船内へと侵入したところで、茂平が「すんません。今の内に話しておきたいことがあるんスけど」と口を開くと、

「この船の操縦をするためっぽい部屋に、男のサーヴァントと……バケモン染みた女がいます」

こんな爆弾発言とも表現出来る情報を、立香達に与えてきた。
あまりにも重要かつ有用、そして衝撃的すぎる情報であった為、立香達の足が止まる。

「茂平。そういやアンタ言ってたね……〝さっき会った奴らにも二人がかりで反撃された〟って」
「操舵室に、サーヴァントだって!? よりにもよって操舵室……やはりこの戦艦は宝具なのか!?」
「ちょいタンマだ茂平。サーヴァントがいるまでは分かる。でも、女ってのは……?」

口々に問いかける三人に対し、茂平は「皆さん方落ち着いてください。ちゃんと正直に説明するッスから」と言って先頭に立ち、振り返る。
そして「あの男海賊さんが倒れたのはあっちッスよね? 案内しながら話しますんで、よろしくッス」と前置きをするとすぐに語りだした。

「あたしがこの船に現界してすぐのことなんスけど、あたしはその二人組を発見したんスよ。皆さん方に出会うちょっと前にッス。
 で、ご存じの通りあたしはこの状況を特殊な聖杯戦争だと勘違いしてたんで、慎重に慎重を重ねて、奇襲を放ったんスね。
 でも傷を負わせるまではいかなかったんス……! というのも、一体全体どういう理屈か……あのバケモン女がサーヴァントを護ったんスよ」

そのときのことを思い出したのだろうか。
立香に視線を向ける茂平の顔が、少し青ざめているように見えた。

「そいつは破天荒だねぇ……で、聞いたかいマスター。こいつがわざわざバケモン女なんて言い方をしてるってことは、だ。つまり……」
「ああ。多分、俺もドレイクと同じ考えだ。なぁ茂平……つまりその女っていうのは、サーヴァントじゃないんだな!?」
「お察しの通りッス。最初はあの女が敵のマスターなのかと思ったんスけど……ですがそれにしてはあまりにも妙でした。
 何せ手裏剣は全部素手で弾き返してくるわ、サーヴァント相手に堂々とスデゴロ挑んでくるわ、とにかく異常なんスよ!」

聞いてみれば、確かにぞっとする話だ。
サーヴァントの攻撃をいなすどころかそのまま反撃に移る人間がいるとは、考えただけでも寒気がする。
あまりにも無茶の過ぎる話だ。立香に言わせれば、豪快にも程があるというものである。
だが無茶ではあっても……決して無理がある話ではない。

「茂平。これは俺の仮説なんだけど、そのサーヴァントは……実はキャスターだったんじゃないか?」
「……どういうことッスか?」
「なるほど。さすがはマスター。確かにそれならば筋が通る」
「えっ、ちょっ! マスターさん!? 元親さん!? どういうことッスか!?」

この質問に対する答えは、元親が代弁してくれた。

「つまり相手がキャスターのサーヴァントであるならば、マスターの身体能力を劇的に上昇させ、用心棒とさせることも可能ということさ」
「ははぁー、なるほど。確かにそれなら……あー、でもやっぱりそれはなさそうかもッス」
「何故だい?」
「サーヴァントの方からも反撃を受けたんスけど、そっちは刀と短筒っぽいものを使いこなしてたんスよね……」
「……マスター。キャスター説の線は薄そうだね」
「やだ、俺超恥ずかしい。なんかごめんな、元親……」

その結果、元親に恥をかかせてしまったが。

「まぁ待ちな。カルデアには杖持って殴りかかるアーチャーだっているんだ。武器だけじゃ何とも言えないんじゃないかい?
 それこそ、例えば刀や銃弾を魔術で補強して戦うだの……そういうやり方でずっと生きてきた英霊って可能性もあるさね。だろう?」
「ああー、確かにそれもそうだなぁ。でもそんな偉人、ちょっと想像出来ないけどな……」
「ならば茂平。キミのいうその謎のサーヴァント達がまとっていた〝衣服の特徴〟は覚えているかな?
 ボクみたいに全く参考にならない例もあるだろうが、逆も然り……キミのように職業を推理しやすい可能性もある。
 それにたとえボク達が理解出来なかったとしても、ボク達より未来に生きているマスターになら、心当たりがあるかもしれない」
「服……服ッスか」

元親から質問を受けた茂平は、顎に手を当てて「うーん」と唸る。
説明が難しいのだろうか? 立香は少し心配になる。だが一寸ほどの間を置いた後、茂平は言った。

「なんか白い帽子を被ってて、上下も真っ白だったッスね。そんで上の服の真ん中に……なんか、留め具っぽいのが縦に並んでて……」
「マスター、どうかな?」
「上下真っ白で留め具って……白ラン? 学生か?」
「何だいそりゃ」

呆れたような困ったような、そんな具合の笑いを上げるドレイク。
確かにお馬鹿なことを言った自覚はあるので、ぐうの音も出ない。
結局はノーヒントだったということなのだろうか……と、立香は溜息をついた。
が、その瞬間に〝ある職業〟が脳裏をかすめた。

「軍服だ!」

突然の叫びに対し、三騎の英霊も揃って「ぐんぷく!?」と叫ぶ。
するとカルデアからダ・ヴィンチが『なるほど! 旧海軍か!』と通信越しにフォローをしてくれた。

「海軍だってぇ!? おいおいおいおい、そりゃあまずいんじゃないのかい!?」
「ああ、ドレイクの言う通りだ! 俺の推理が当たってるならちゃんと説明がつくし、何より凄くヤバいことになる!」
「ちょっ! え!? あたし、もしかしてマズいこと言っちゃったんスか!?」
「いや全然! 茂平は悪くないぞ! むしろ超ありがとうって感じだ……けども!」
「じゃあ何がマズいんスか!?」

茂平の悲鳴にも似た叫びが耳朶を叩く。
その間に立香は深く深呼吸をし、半ば強引に心を落ち着かせると、今度は自分の口で推理を唱えた。

「茂平が見たサーヴァントは、きっとライダーだ! それも、こんな戦艦が宝具であってもおかしくない……海軍出身の!」

そして立香は「悪い! 急いでくれ! そんな奴がいるならティーチが危ない!」と声を荒げる。
元親は不安を覚えたのか、それとも自身の選択を後悔したのか、眉間に皺を寄せて「頼む、無事でいてくれ……!」と口にする。
奇しくもティーチを置いていった現場に到着したのは、その直後であった。

「ティーチ!」

だが、

「……嘘だろ?」

そこにティーチの姿は、なかった。


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最終更新:2017年06月24日 01:14