第9節:究極の正義



ダ・ヴィンチが言うことには、この戦艦〝土佐〟自体が一騎のサーヴァントであり、強大な霊基の正体だったらしい。
物体が英霊となるなどと、そんなことがあり得てしまうのだろうか?
立香はついついそう考えてしまったが、冷静に考えると決して無理のある話ではないと気付く。
何しろ前例が存在するのだ。そう、魔力を持った絵本が英霊と化した果てに、人の形をとったという前例が!

『人間によって製造された物に意志が宿ることで〝概念英霊〟となった……それこそが〝土佐〟の正体だ!
 損傷箇所が修復されていくのも、所持スキルの力か、または宝具によるものだろう! そうなれば全ての辻褄が合う!』
「早い話がナーサリーに似た理屈で生まれたサーヴァントってことか! ってか今まで無言で航行してたなんてな!
 俺はお喋りだから絶対耐えられないだろうな! 絶対途中でゲロっちまうわ! うん、確かな自信を持ってそう言える!」

まさか必死こいて探していた〝黒幕〟の上で必死に右往左往していたとは。
ダ・ヴィンチからの説明をようやく噛み砕き終えた立香は、己の発想力の貧困さに呆れるあまりに笑いながら返事をした。

『故に君達は、その海上にて地獄を作らねばならない!』
「さっき言ってたように、宝具の大盤振る舞いでか!」
『そうだ!』

そして軽く音割れしているダ・ヴィンチの声に応えながら、立香は周囲を見渡す。

「でも……ダ・ヴィンチちゃん。本当はそっちだって分かってるんだろ?」

既に彼の表情からは、自嘲の笑みは消えている。

「もう、やってるんだよ」

立香の視界に入るのは、サーヴァント達の全力だ。

「皆、頑張ってるんだ」
『……ああ』
「そっちからも、見えてるんだろ?」
『そう、だね』

船体の一部が大破したせいで攻撃に支障が出ながらも、それでも今出せる全力をぶつけるドレイクとティーチ。
〝土佐〟の損傷部分へと追撃をかけるよう一領具足に命じ、たった一人で出来うる限り砲弾を打ち落とす元親。
そんな彼を援護するように、何度も何度も宝具を発動し、放たれた直後の砲弾を必死に〝盗み取る〟茂平。
時に不意を突くように立香へと放たれる砲撃から彼を護るため、愛刀を振るってその身を盾にする龍馬。
一方で砲弾が直撃し、当たり所が悪かったのか……まさに逆鱗に触れられたかのように我を忘れて――まるでバーサーカーの如く――暴れるお竜。
部下のファントムと共に黙々と急降下爆撃でダメージを与えながらも、先刻よりも圧倒的に分厚くなった弾幕に苦しめられる江草。
召喚したシュールなロボットが遂に撃沈されたのを見て、再びペンを走らせるキャスター。
立香の言う通り、そしてダ・ヴィンチが言うまでもなく……ここにいる全員が己に出来る精一杯のことを成していた。

『先輩っ! 右手が……!』
「はは……っ! ま、これだけ一気に宝具を展開させてりゃな。こうもなるか」
『呑気に呟かないでください! このままでは、いつかのウルクのときのように……!』
「いや、ぶっちゃけもっと酷くなりそうな気がする。でもな、マシュ……これが俺に出来る精一杯だから」

マシュから指摘された通り、令呪が刻まれた自身の右手も悲鳴を上げている。
このままサーヴァント達の思うようにさせていれば、このまま壊死することもあり得るだろう。
かつてウルクを護るために身を粉にしていたときよりも、恐ろしいことになるかもしれない。
そうなれば間違いなく、ナイチンゲールも大激怒だ。

『……すまない、立香君。我々が真実に気付くのが遅すぎたばかりに……!』
「何言ってんだよ。こんな誰もが焦りまくる中で真実を見つけ出すなんて、マジで天才じゃんか。やっぱ凄いよ、ダ・ヴィンチちゃんは。
 それよりもさ……教えてくんないかな? 後、何分だ? 俺達に残されてる時間はどれくらいなんだ? 正直に教えてく……ぐぅっ!?」
『先輩っ!?』

などと考えていれば、さっそくこれだ。
立香は嘔吐するかのように吐血し、膝から崩れ落ちる。だがどうにか力が残っていた左腕で踏ん張り、倒れ伏すことだけは避けた。
身体が熱い。右手が熱い。頭が痛い。なんなら身体の節々が全部痛い。身体の中で大火災が発生しているかのようだ。

「まだだ、まだ……お前らぁっ! 攻撃を、宝具の展開を絶やすなぁっ!」

しかし、それでも。血を吐きながら立香は命ずる。
見かねたらしい龍馬が「もうえいやろう! このままやと脳がやられる!」と止めようとするが、立香は止まらない。

「龍馬さん! 龍馬さんも、宝具を開帳するんだ……! 俺が、こうしていられる内に……!」
「出来るわけないやろうが! おまんの自滅に喜んで巻き込まれるほど、わしらぁもマゾやない!」
「やるんだ! 特異点を潰しに来たマスターなんだよ、俺は! だから命じる義務がある……あるんだよっ!」

彼はもはや、意地だけで動いていた。

「おい、ダ・ヴィンチちゃんとか言うたにゃあ!? おまんは、どういてこんな無茶な注文をしたがじゃ!」
「龍馬さん……こうなると分かってたから、ダ・ヴィンチちゃんは〝一気にやれ〟って言ったんですよ……。
 宝具展開を延々と続けていたら俺は絶対枯れて死ぬ。だからその前に一気に決めろって、そう言ってくれたんです……」
「くっ! いや……すまん。ちっと熱くなりすぎた。すまんかったにゃあ、ダ・ヴィンチちゃん」
『いいや……誤解させるようなオーダーを発令したことは事実だ。そしてそれが遅すぎたことも、また事実。もはや反論出来る立場ではない』

しかし意地を通そうとすればするほど、負担の二文字が容赦なく襲いかかることは当然の道理。
再び立香が吐血したのが引き金となってか、徐々にサーヴァント達の宝具が形を保てなくなっていった。

「跳びなティーチ! こっちももうダメだ!」
「ああ畜生! 後少しだったんだけどなぁ!」

遂に沈没を始めた自慢の船から、ドレイクとティーチが甲板へと飛び移る。

「元親殿! 申し訳ございませぬ!」
「我々はここまでのようです! どうか、ご武運を……!」
「皆! そんな……っ!」

損害箇所の修復などさせるものかと奮戦していた一領具足の武士達が、光の粒子となって消えていく。

「あーもう! ついてないったらありゃしない……ッスねぇ!」

魔力不足による技術の劣化によって砲弾を盗み損ねたのか、茂平は〝よろしくない方向〟へと曲がっている左腕を押さえて苦悶の表情を浮かべる。

「……いかん」

両翼がへし折れ墜落する爆撃機を光の粒子へと変換した江草は、無傷で甲板へと着地するという奇跡を起こしながらも、悔しさからか歯噛みする。

「いかん! 一旦撤退じゃ、お竜さん! 態勢を立て直す!」
「■■■■■■■■■■!!」
「お竜さん! くそっ! 聞けお竜さん! このままやとマスターが危ないがじゃ! お竜さんっ!」

未だに自身をコントロール出来ずに傷を負ったまま暴れるお竜を正気に戻すためか、龍馬は彼女のもとへと急ぐ。

「…………」

もはや絶望的な状況であると悟ったのか、キャスターは無言を貫く。

「どうした、皆……もうへばっちまったのか……?」

だがそんな英霊達の姿を見ながらも、立香はなおも意地を通す。
痙攣にも似た激しい震えを起こす両脚で立ち上がり、未だマスターはここに健在だと皆に示す。
もしも様々な特異点での経験が無ければ、このまま倒れ伏しているところだったろう……と、そう思いながら。

「マスターっ!」

そんな立香の耳に、元親の叫びが届く。
一体どうしたのかと思って彼へと振り向こうと顔を動かしたが、その途中で立香は全てを察した。
無慈悲にも、甲板に鎮座する巨大な砲門が立香へと向けられていたのだ。
意地を通すことばかりに夢中になっていたために、全く気付けなかった。
それに今は盾となってくれていた龍馬もいない。大失敗だ。

「ああ、くそ……」

どうする? このまま倒れ込めば射線からは外れられるか? だが倒れた後はどうする? 再び立ち上がれるとは思えない。
ならばこのまま避けなければなるまい。しかし両脚が動かない。立っているだけでやっとなのだから、当然至極の話である。
馬鹿な。こんなところで終わるのか? こんなところで死を迎えるのか? 否! それだけは避けなければならない!
だがそんなことはとっくに分かっているというのに、身体は言うことを聞いてくれない。我ながらなんとも哀れな……立香は心中で、そう呟いた。
すると、その瞬間、

「うおっ!?」

突如、立香の身体が乱暴に突き飛ばされた。
一体何が? と、彼は一瞬だけ混乱してしまう。

「ああ、よかった……間に合った」

犯人は他でもない、長宗我部元親であった。
背に羽を生やしたままであることから考えるに、砲弾を打ち落とす必要が無くなったと見てすぐにこちらへと突っ込んできたのだろう。
他でもない藤丸立香の命を守る、ただその為だけに。

「これで借りは返せたかな、マスター……」

元親の縁起でも無い言葉を聞いた立香は、無意識に「馬鹿野郎!」と叫んでいた。
だがその声は、躊躇のない砲撃によって轟いた爆音によってかき消されてしまう。

「馬鹿野郎……元親……っ!」

煙が晴れて視界がクリアになると、再び立香は倒れ込んだまま叫んだ。
視線の先には、右半身の一部を失った元親の姿がある。
一体全体何がどうなったのか。そんなこと、考えるまでもない。
ランサーのサーヴァント長宗我部元親は、マスター藤丸立香の身代わりとなったのだ。

「ま、すたー……助かった、かい?」
「ああ……おかげさまで、な」

激しい呼吸の合間を縫って必死に言葉を紡ぐ元親のもとへと、立香は必死に這いずっていく。

「ます、たー……どこに、いるんだい?」
「ここだ……今……やっと、すぐそこまで、来た……!」
「そうか……ごめん。もう、何も、見えなくて……」
「おい、馬鹿言うなよ……おい」
「でも……声は、聞こえる、よ……近くに、いるんだね……」

元親の左手を握り締めた立香は、己の弱さを呪った。
もしももっと自分が優秀ならばと……かつてオルガマリー所長が厳選したAチームの魔術師達の様なエリートであったならよかったのにと。
握る手から力が抜けていく。かつてマシュの手を握っていたときには、もっともっと力を込められていたというのに。

『……到着時刻まで残り十分を切った。立香君……今まで本当にすまなかった』

ダ・ヴィンチが力無い声で謝罪する奥から、すすり泣く声が聞こえてくる。
声の主はきっとマシュだろう。彼女はとても心優しいから、この惨状に耐えられなくなったと見た。

「元親! アンタ……早死にするなってあんだけ忠告しただろうに!」
「マスター! 元親殿! 拙者に出来る……こと、は……」
「ちょっと二人とも、何諦めてんスか! 駄目ッス! まだ時間は残ってるんスからぁ! う、うう……っ」
「藤丸くん……元親さん……くそっ! ほんまにすまん! わしのミスじゃ! どういてあんな判断を……!」
「リョーマのせいじゃない……我を忘れてた私が悪い。二人とも、ごめん」
「……無念だな」

やがてサーヴァント達も、立香と元親のもとへと集う。
だがきっと全てが遅いと理解しているのだろう。皆一様に、その表情に影を落としていた。

「……よし。決めた。覚悟を決めたぞ、オレは」

サングラスを捨て、こう宣言したキャスターを除いては。

「お兄ちゃん。いや、藤丸立香君。頼みがある」
「アンタ、今更何を……!」
「悪いな。お姉ちゃんは黙っててくれ」
「ドレイク、怒ってくれてありがとな……で、どうしたんです……?」

眉間に皺を寄せ、力強い口調で話しかけてきたキャスター。
そんな彼に対し立香は「こんな状態で、出来ることなら……何でも……」と、荒い呼吸混じりに答える。
するとキャスターは「ありがとうよ。こんな弱々しい爺さんの言うことを聞いてくれて」と礼を言うと、


「今すぐに契約をして……その令呪三画、全部オレにつぎ込んでくれ」


立香達を囲むサーヴァント全員に「はぁ!?」と叫ばせる程の、思い切りのいい願いを頼み込んできた。
誰もが〝正気の沙汰ではない〟と感じたのだろう。まずはドレイクが「この期に及んで何言ってんだい!」と、キャスターの襟首を掴む。
ティーチはそんな彼女を「どうどう」と抑えながらも、やはり「だが皆が〝今更?〟と思うのは確かだ」と本気モードで不満を零した。
だが一方で、虚ろな瞳で空を見上げる元親にすがって泣いていた茂平は「何か、何かあるんスか!?」と藁にもすがるように呟く。
龍馬は「策には柔軟さと、結末を予測出来る目が大事じゃ。おまんにはそれがあるがか?」と問い、お竜も「リョーマに同じく」と続ける。
江草は己が散華したときを思い出したのだろう。静かに「……この状態で起きる奇跡など、そうそうない」と忠告するように言った。
しかし、それでもキャスターは「大丈夫だ。オレの話に乗ってくれれば、決着はつく。オレがつける。オレが成し遂げる」と譲らない。

「キャスター……分かり、ました」

恐らくこれは大きな賭けだ。だがこの賭けに勝たなければ、滅びは必至。
故に立香は、キャスターの言葉を信じることにした。

「マスター! アンタ、いいのかい!? こんな胡散臭い奴に……!」
「いいんだ。今出せる俺の全部を……くれてやる。ベットしてやる。だから、契約しよう……!」
「そうか。ありがとうなァ」
「ただし……絶対に、ハッピーエンドを、迎えさせてくださいよ……! それが、マスターとしての……命令だ……っ!」
「ハッピーエンドか。安心してくれ、マスター……そいつはオレの十八番だ」

激しく咳き込みながら、立香はすぐさま契約を交わす。
すると自分を信じてくれたことが余程嬉しかったのか、キャスターは不敵な笑みを浮かべると、

「おい! 答えろ〝土佐〟! お前さんは、この特異点で何のために生まれた!? 何を成すために生きている!?
 オレは答えられるぞ! 何故かって!? 答えは簡単だ! それが分からず答えられないなんて、そんなのは嫌だからだ!」

手のひらを太陽にすかせ、その細身の身体のどこから出ているのかと疑問が沸き上がるほどの大声で叫んだ。


「我が真名は〝やなせたかし〟! 決して朽ちぬ正義を描き、人々に笑顔をもたらすために生きた者である!」


その名乗りを耳にした瞬間、立香は全身の鳥肌が立つ感触に襲われた。
それが不思議に映ったのだろう。ティーチを――そしてそれどころではない元親も――除く英霊達が口々に〝有名人なのか?〟と立香に問う。
だがあまりの衝撃に立香は「ああ……」としか答えられなかった。詳しい説明が出来るほど、落ち着いてはいられなかったのだ。

『マシュに代わって話そう。彼、やなせたかし氏は日本を代表する漫画家、絵本作家、詩人、作詞家だ。正確には更に肩書きも存在するがね。
 彼は残酷な第二次大戦を生き抜いた後、当時は弱小企業であった〝サンリオ〟と交流を深めながら、絵本作家・詩人として大成していった。
 そして自身が執筆した〝アンパンマン〟が運命を動かす。渾身の想いで描いたその絵本が、全国の子供達の心を鷲掴みにしたんだ。
 やがてそのアンパンマンが1988年に〝それいけ!アンパンマン〟としてアニメ作品として世に出るやいなや、彼は一躍売れっ子となった!
 その勢いは飛ぶ鳥を落とすが如し! 恐らく日本人なら誰もが……それこそ、現代の若者である立香君にすら名が知れ渡っている程にね!
 たとえ日本が何度も災害に見舞われようとも、いつだって子供達に笑顔を取り戻させる……それがキャスター、やなせたかし氏の持つ力だ!』
「あの爺さんが……? それが本当なら、とんでもない大英雄じゃないか。アタランテのやつが聞いたら卒倒するんじゃないかい……?」
「ダ・ヴィンチちゃんの、解説は、本当だよ……あー、なるほどな……あのでっかいロボットに見覚えがあったわけだ……! なぁ、ティーチ?」
「おう……この黒髭が正体に気付けなかったとはなぁ……大ピンチを前にして、この審美眼もすっかり曇っちまってたってことか!」

現代の文化にすっかり染まりきっているティーチも、まさか自分が助けた相手がやなせであったとは夢にも思わなかったのだろう。
彼は乾いた笑みを浮かべながら、ゆっくりと膝から崩れ落ちた。その様子たるや、さながら神に畏敬の念を抱く者のそれである。
などと考えていると、やなせが「さァ、マスター! 令呪三画、全部まとめてこの老いぼれにくれてやってくれェ!」と叫ぶ声が届く。
立香が精一杯の力で右手を挙げて約束を守ると、やなせは「ありがとうよ……これなら、オレだけの力で全てをまかなえる!」と喜び、


「さぁ、遠慮はいらねェ! その思い、欲、全部オレにぶつけてこい!
 宝具発動……『我はすべての飢えを満たす者也(トゥルー・ジャスティス)』!」


太陽に向けていた掌を、甲板へと思い切り叩きつけた!

「……何だ、この輝きは」

その瞬間、戦艦〝土佐〟が虹色の輝きを放ち始めた。
否、それだけではない。思わず驚きを口にした江草をはじめとする乗員全ての身体までもが輝きだしたのだ。

「なぁ〝土佐〟よ。こんなもんじゃねェだろう? 恥ずかしがるなよ。相手は死人なんだ。もっとさらけ出しちまえよ。
 いいや……〝土佐〟だけじゃねェな。マスターやお前さん達もだ。心配するな。何ぶつけられても受け止めるのが、この宝具だ」
「ダ・ヴィンチちゃん、マシュ……この宝具、何なんだ? 一体何が、起きてるんだ?」
『先輩……ごめんなさい。全く分かりません。一体何の光なのか、数値だけではとても説明出来ません……』
『それだけじゃない。神秘も何もないはずの現代の英霊がこれほどの規模の宝具を放てる理由もとてもじゃないが説明がつかない……!
 いや、もしや……未来を担う子供達を笑顔にし続ける……それこそが〝人理を護る〟行為として成立している、ということなのか!?』

そして輝きに包まれた立香達に異変が起きる。
なんと彼らが負った怪我や溜まりに溜まっていた疲労が、凄まじい速度で回復していくのである。
まるでナイチンゲールの宝具『我はすべて毒あるもの、害あるものを絶つ(ナイチンゲール・プレッジ)』の如しだ。
だが同じ回復であっても、やなせの放つ宝具は彼女の宝具とはまた違った印象があることに、立香は気付く。
問題があるとすれば、その印象の違いを上手く説明出来ないことなのだが。

「茂平……? どうしたんだい? 何故、キミは、泣いている?」
「……元親さん? え? 元親さん!? あたしが分かるんスか!? マスター! 元親さんが! 元親さんが!」
「元親!? 気がついたのか!?」

先程まですっかり疲弊していたのが嘘だったかのように、立香は軽々と自身の身体を起こす。
一方で元親の意識も、瀕死であったのが信じられないほどにしっかりとしている。
それどころか、砲弾によって失われた箇所に光の粒子が集まり、やがて再生するという喜ばしいおまけ付きだ。
加えて〝そういえば〟と思ってボロボロであった自身の右手を見てみれば、元の血色を取り戻している。
令呪こそ刻まれていないが、レイシフトを開始する前の状態そのものである。

「元親……よかった。俺が不甲斐ないせいで、あんな……」
「謝らないでくれ、マスター。それよりも大事なことがあるだろう? この戦艦はどうなったんだい?」
「ああ、そう言えば……!」

とはいえ、何もかもが元通りになっただけでは話にならない。それはやなせとて分かっているはずだ。
残り時間も心許ないどころの騒ぎではない。やなせは自分が決着をつけると言っていたが、どうするつもりなのだろうか。
元親の右手を取って彼を起き上がらせた立香は、依然〝土佐〟に掌を当てるやなせを見守る。

『……馬鹿な』

すると、

『〝土佐〟の速度が……急激に落ちている。何故だ? あの宝具は、全てを癒やすものではないのか?』

ダ・ヴィンチが言うように、何故か〝土佐〟の速度が突如として低下していった。
いや、それだけは終わらない。遅くなるどころか……完全に停止してしまったのである。
通常、タンカーや軍艦のような巨大な船舶は停止するまでかなりの時間を要するのだが、それは〝土佐〟自身がサーヴァントであるからいいとして。
とにかく突如として停止したとはどういうことなのか。立香はやなせにカラクリを説明してもらおうと駆け寄った。
すると、

「や、やなせさん!?」
「あァ、まァ代償としちゃこれくらいは当然ってもんか」

立ち上がったやなせの身体が、徐々に光の粒子となって消滅しだしていることに気付いた。
宝具発動からの消滅。嫌でもアーラシュの〝流星一条(ステラ)〟を思い起こさせる。

「あァ、勘違いしないでくれよマスター。別にあれだ、一度発動したらはいお終いよ……ってわけじゃねェんだ。
 ただ今回の場合は、あまりにも〝土佐〟の飢えが強すぎた。お腹いっぱいにさせるには、令呪に加えてオレの身も捧げる必要があったってことだ。
 それと、お前さん達の飢えも解消してやろうって欲張っちまったからなァ……あっはっはっは! そりゃこうもなるよなァ! 悔いは無いけども!」
「飢え……?」

やなせが語る言葉の意味が分からず、反射的にオウム返しをしてしまう立香。
だがやなせは嫌な顔一つせずに「そうだ。飢えだ」と答えると「消えちまう前に言っとこうか」と笑い、話を続けた。

「マスター。マスターの考える正義の味方の条件って、どんな奴だい? 何でもいいぞ。オレは否定しない」
「正義の味方の条件、ですか……やっぱり、悪を倒して正しい人を助けるって感じですかね?」
「あァ、まァそうだな。悪くない。というか、一般的にはそうだろう。でも、オレとしてはもう一つ条件が欲しくてね。
 それは……〝食べさせること〟だ。オレにとっての究極の正義の味方は、飢えた人に食べ物を差し出す……そういう奴なんだよ」
「それって……アンパンマンじゃないですか」
「そうだ。アンパンマンだ。オレにとっちゃ、あの子が究極の正義の味方なんだなァ」

粒子として徐々に消滅していくどころか、遂には身体が透けてきたやなせは、それでも動じずに口を開く。

「この飽食の時代に生まれた人達にはいまいちピンと来ないかもだが、人生で一番つらいのは、モノが食えないことなんだ。
 だからオレはアンパンマンを生んだ。そりゃ悪者とも戦うが、あの子は……飢えに苦しむ人に〝ぼくの顔をお食べ〟と食べ物を差し出す。
 たとえそのせいで自身の力が弱まってしまうと分かっていてもだ。あの子はそれを承知で……飢えを、心を満たすことを続けてる。
 正義を貫くために、貫く度に、必ず自分は深く傷つき、独り孤独に胸の傷の痛みに耐える。本当の正義ってのは、そんな格好悪いものなんだ。
 けれどアンパンマンはそれを続けてる。だからオレも、自分が〝こうなる〟と分かっていながら、自分の思う正義を貫いた。貫き通したわけだ」

この言葉を聞いた瞬間、立香はやなせの宝具の本質に気付いた。
ナイチンゲールが〝癒やす者〟であるならば、やなせたかしは〝満たす者〟というべきか。
即ち彼の宝具は読んで字の如く〝飢えを満たす〟ものであり、更に言えば生きとし生けるものが持つ〝欲望という名の飢え〟にすら働きかけるのだ。
立香達の身体が急速に回復していった理由も、つまりは〝この特異点を止めたい〟という思いという名の〝飢え〟が満たされたから。
同じ回復でも、ナイチンゲールのものが医療技術による徹底的な治療ならば、やなせのそれは飢えを満たす際に起こる副次効果に過ぎないのだ。

「そうか、そういうことだったのか……でも、それにしたって……!」

で、あるならば……〝土佐〟が停止した理由も理解出来る。
やなせは〝土佐〟が抱いているであろう〝破壊衝動という名の飢え〟を完全に満たしたのだ。

「〝それにしたって〟? ああ……なるほど、そういう意味か。お前さん〝一体何故そこまでしたんだ〟って思ったんだな?
 といっても別に特別な答えなんかない。オレがこうしたのはな……この〝土佐〟自身がサーヴァントだ、と言われた瞬間に気付いたからさ。
 この〝土佐〟を襲っていた激しい飢えの正体にな。マスターにはそれが分かるか? サーヴァント達の皆はどうだい? 分かったら挙手をどうぞ」

既に全てを察していた立香は、迷わず挙手をした。
するとやなせは司会者のように「はいどうぞ」と解答を促す。
そして促されるままに、立香は答えを言おうとした。
だが、そのときである。


「お待ちください、カルデアのマスター藤丸様とサーヴァントの皆様。話の続きは、このわたくしが……」


どこから聞こえてきたのか一切不明の謎の声――声色は穏やかな女性のそれである――が、立香の耳に入ってきた。
どうやら声を認識しているのは、英霊達も同じであるらしい。各々が、声の出所を探すために視線を巡らせている。
するとやなせが何でもないように「よォ〝土佐〟ちゃん。そんな声だったんだな」と言って豪快に笑った。

「そうか、サーヴァントだもんな。ナーサリーみたいに話せるのも当然か」
「そのナーサリーという方は存じ上げませんが……やなせ様が仰るとおり、わたくしは加賀型高速戦艦二番艦〝土佐〟と申します。
 此度は皆様に多大なご迷惑をおかけし、お恥ずかしいばかりです。まずはそのことに関して深く陳謝を。申し訳ございませんでした」
「あ、ああ……」
「では早速、わたくしなどの為に消えゆかんとするやなせ様が放った問いの答えを述べさせていただきます」
「あんまりだぜ〝土佐〟ちゃん。せっかくいい歳こいて推理モノの探偵ごっこを楽しんでたってのによォ」
「申し訳ございません。ですが、わたくし自身がお話しすることが、このような禍殃を生み出したことへのけじめであると思いましたので」
「あっはっは! 冗談だよ。ぶっちゃけこっちもあまり時間がねェ。だからそうしてくれるなら助かるよ」

そして答え合わせを〝土佐〟に引き継がせると、やなせは「ああ、疲れた。歳は取りたくないもんだ」と呟いて座り込んだ。
既に左半身は光と消え、近くで注視しなくては姿を確認出来ない程にまで透けてしまっている。時間がないのは事実なのだろう。

「わたくしは……自身の運命を呪っていました。条約などという理不尽なもののせいで、標的艦として沈むことになった運命を。
 生まれたときから国に身命を捧げたいと思っていたというのに、何故こんな仕打ちを受けねばならないのかと、怒りすら覚えておりました。
 何故かこんなわたくしの精神が英霊の座へと至ってからも、ずっとずっと呪っていました。ずっとずっと、飽きることもなく、ずっと……。
 すると何の因果か……深海で眠っていたわたくしの身体へと、黄金色の杯……聖杯が舞い降りてきました。これは、と思いました。
 この千載一遇の好機を逃してはならない。わたくしは今度こそ国に身命を捧げる戦いに赴くのだと、その一身で米国へと向かっていったのです」
「だがその〝土佐〟ちゃんの願いってのは、気付いたときには歪んでたってわけなんだなァ」
「やなせ様の仰る通りです。今になって分かりましたが、わたくしは〝身命を捧げる〟という願いを忘れてしまっていた。
 いつしか飢えは〝敵を倒したい〟というものにすり替わっており、故に性根を腐らせてしまっていた。端的に言えば暴走していたのです」

〝土佐〟は今にもすすり泣くのではないかと思う程に儚い声で、自身の生い立ちを語る。
それを聞きながらも、立香は徐々に消えゆく究極の正義の味方……やなせの姿を目に焼き付けようと注視し続けていた。

「ですがその歪んだ飢えがやなせ様の宝具によって満たされたことで、わたくしの狂気は消失致しました。
 ドレイク様、ティーチ様、長宗我部様、日下様、坂本様、お竜様、江草様、やなせ様……そして藤丸様とカルデアの皆様。
 どうかお許しを、などと虫の良いことは申しません。今はただ、ここに集いし善き人々に深く深く感謝を述べたい一心です」
「だとよォ、マスター。頑張ったかいがあったなァ。あっはっは!」

輪郭がおぼろげになりながらも笑うやなせに、立香は「笑ってる場合ですか……」とぼやく。
だがそのぼやきを聞いたやなせは、それを無視するように再び豪快に笑うと、満足げに口を開いた。

「死ぬ一年前だったなァ。人生これからまだまだ面白くなるところだったってのに、オレはふいに死期を悟っちまったんだよ。
 だからずっと一部のスタッフ相手にだが……死にたくねェなァ、って言ってた。だが死んだ。呆気ないもんだよな、人間ってのは。
 でも、死んだ途端にまさかまさかの〝これ〟だ。笑わずにいられるかよ。いやァ、二度目の生を頂けるなんて、本当にラッキーだ。
 それと、オレはこれから消えるが、もし縁があったら是非ともそのカルデアってとこに召喚されてみてェなァと思ってる。本気でだ。
 きっとそれは〝土佐〟ちゃんも同じだ。なァ〝土佐〟ちゃん。お前さんも、このお兄ちゃんのとこに行ってみたいって思ってるんだろ?」
「え、ええ……ですがそんな願いを抱くのもおこがましい程に、わたくしは罪深いことを……」
『いやいや〝土佐〟ちゃん。それが実はだね、カルデアは存外懐が広いのだよ』
『はい! そのままのお姿ではお部屋をご用意するのは厳しいでしょうが……先輩さえよければ、カルデアは全てを受け入れるんです。
 そしてそれは勿論、やなせさんにも当てはまります。カルデアにいらしてくれれば、きっとずっと面白いものが見られますよ。ね、先輩?』
「……だな。ダ・ヴィンチちゃんとマシュの言う通り。ここで出会った英霊達全員を、カルデアは絶賛募集中だ!
 今なら、一時は魔力が枯れ果てて死にかけた不甲斐ないマスターが無料でついてくるおまけ付き! ま、これは余計かもだけど」
「まぁ……ならばわたくしも、皆様と同じ人の形へと変化出来るよう修行をせねばなりませんね、やなせ様……やなせ様?」

そしてこの洋上で出会った全員を勧誘している間に、やなせの姿は完全に消失してしまった。
あまりにも不意打ちじみたタイミングだったためか〝土佐〟をはじめとするサーヴァント達は全く気付かなかったようだ。
だが立香はその光景をしっかりと両の瞳で捉え続けていた。彼の提唱する〝究極の正義の味方の条件〟を何度も思い出しながら。

「……いよいよか」

そうしていると、お約束となる別れの時間がやってきたらしい。
気付けば江草は、先程のやなせの様に金色の粒子へと分解されだしていた。
だがいつも冷静沈着な江草は、この現象に対しても一切驚愕してなかった。
さすがの胆力。急降下爆撃の神という異名は伊達ではないということか。

「……〝土佐〟よ。しつこいまでに爆弾を投下して悪かった」
「いいえ、わたくしの自業自得です。気に病むことなどありません」
「……ならいい。ではマスター、そして英霊達よ。縁があればまた」

そんな彼は、やはりマイペースなまま、しかし後腐れなく消える。
とても短い挨拶だったが、その短い言葉の内に秘める熱さは強く伝わってきた。

「なるほど、ほんで次はわしらぁなわけやな?」
「リョーマと一緒に話しながら消えられるのは、正直嬉しい」
「ああ、帝都ではこうはいかんかったきにゃあ……くっそ、あのアーチャー……」

続いては龍馬とその宝具お竜が光の粒と化していく。
お竜の言葉によって何やら苦々しい思い出が蘇ってきたのか、龍馬は眉間に皺を寄せる。
だがそんな別れ方はさすがにどうなのか、と思ったのだろう。彼はすぐに明るい表情を浮かべると、

「ほんじゃあ、わしでよかったらいつでも呼んでや。お竜と一緒にカルデアの隅から隅まで探検しちゃるき」
「好奇心旺盛すぎてウケる。じゃあそういうことで……あ、操舵室で大喧嘩したの、ちゃんと謝る。ごめん」
「ボクはもう気にしてないよ。終わりよければ全てよしさ」
「アタシも元親と同意見だね。昨日の敵は今日の友……アンタ達、頼りがいがあったよ!」
「そうそう! そういうことッス!」
「ほんなら藤丸くん! 特異点潰し、頑張りよ! 応援しゆうきね!」
「ファイト」
「はい。ありがとうございました、龍馬さん、お竜さん」

最後には満面の笑みで手を振りながら消えていった。
出会いこそ最悪だったが、こうして和解出来て本当によかったな……と、立香は心からそう思った。

「って、あー。次はあたしッスかぁー。名残惜しすぎるッス……」

そんな立香の隣で、茂平が不満げな声色でぼやく。
見てみれば、今度は彼女がおさらばする番であるらしい。

「茂平もありがとうな」
「キミの盗みの腕に舌を巻いたのが、ついさっきのことの様に思えるよ」
「うっ! わ、悪かったッスよぉー! 元親さんの意地悪ぅー!」
「いやー、ティーチ。カルデアに帰ったらすぐに部屋の戸締まりを徹底しないとねぇ!」
「BBAの言う通りでござるなー。もし拙者のコレクションが盗られちゃったりしたら、ブチ切れポイント高高ピーピーピー事案ですからなー」
「海賊さんお二人も勘弁してくださいよぉー! こんなマイナー義賊を虐めて何が楽しいんスかーっ!」
「あっはっは! 冗談さね!」
「カルデアに来たら、小太郎氏との出会いを見てみたいものですなぁ!」
「こたろー……? 誰ッスか?」
「来てくれたら分かるよ、茂平」

だが別れの寸前であるというのに、茂平は何かといじられていた。
それが不満なのか、茂平はぷうっと頬を膨らます。
そういうことをするからいじられるのだ……と思ったものの、口にはしなかった。

「うぐぐ……ふ、ふーんだ! 見てるがいいッスよ! 義賊の勘をフル活用して、絶対にカルデアに召喚されてもらうッスから!」
「いや、そこは普通に俺達との縁を辿ってくれていいんじゃ……」
「あーあー聞こえないッスー! っと……ではでは、皆さん……どうかご武運を! でもピンチになったら、遠慮無く頼ってくださいね!」
「おう。期待してるから、そこまで言うからには絶対に来いよ?」
「承知ッス! また会いましょう! 絶対に……ええ、絶対にッス!」

そして彼女もまた、龍馬達の様に満面の笑みを浮かべて消える。
これほどイジリ倒したのだ。きっと彼女は、その執念でカルデアへとやってきてくれるに違いない。
ならば早速、彼女が大騒ぎしたときの止め方を考えておかねば……立香はそんなことを考えて笑みを零した。

「そして、いよいよボクの番というわけか。茂平も言っていたけれど、本当に名残惜しいな」

そんな立香の姿が面白く映ったのかくすくすと微笑んでいた元親にも、遂に順番が回ってきた。
彼は甲板に転がっていた自身の得物を拾い上げると、立香達に「今なら、息子達や民に堂々と胸を張れるよ」と微笑んだ。

「そう思えるようになったのも、マスターやドレイク達のおかげだ。不謹慎だけれど……この特異点に呼ばれて、本当によかった」
「俺は何もしてないよ。元親は元々、とっても強かったんだ。それを再確認出来た、それだけの話なんだよ」
「そうさね! それに、あんなに沢山の部下に慕われてたと知っちゃ、アタシも太鼓判を押すしかなくなっちまったよ! あっはっは!」
「むむっ! 貴重なBBAのデレが元親殿にっ!? えーい元親殿! 絶対カルデアに来てくだちい! どちらが真の男か、勝負ですぞぉ!」
「いいだろう。男子三日会わざれば刮目して見よ、だ。本気を出したキミの勇猛さも、また見てみたいしね。
 ドレイクも……卑屈だったボクの目を覚まさせてくれてありがとう。ボクを本気で叱ってくれて、本当にありがとう」

元親は穏やかな表情のまま、元親は自身の胸に手を当てる。
そして大きな瞳で真っ直ぐに立香を見つめると、

「マスター、藤丸立香。キミに出会えたこの素晴らしい奇跡を、ボクは絶対に忘れない」
「……ああ。俺もだ!」
「だから次に会うときは……この奇跡を大きな糧とし、聡明なキミに相応しい英霊となることをここに誓おう!」
「おう、分かった! それじゃ……またな、元親!」
「ああ! またね、皆!」

澄んだ声で宣言し、英霊の座へと還っていった。
覇気を失い亡くなったという生前の話とは全く違う、素敵な笑みを浮かべた爽やかな別れ。
それをしっかりと見届けた立香は、しばし甲板にて静かに佇むと「俺達もそろそろ帰らないとだな」と呟いた。

「さてと、だ。さっきも言ったように、カルデアの懐の広さは尋常じゃないレベルだ。
 だからさ……〝土佐〟。お前も気に病まずにさ、いつでも名誉挽回しにきてくれよ。待ってるから」
「はい……きっと。いえ、必ずや……!」

〝土佐〟の船体が黄金の光に包まれていく様子を見た立香は、彼女にも声をかける。
そして前向きな答えを聞いた彼は、満足げに「よっしゃ! じゃあダ・ヴィンチちゃん、マシュ、頼む!」と叫んだ。
まるで、名残惜しさを強引に吹き飛ばすかのように。

『ああ、ではこれより撤退作業を開始する!』
『お疲れ様でした、先輩! ドレイクさん、黒髭氏も!』

通信越しに二人の声を聞いた立香は、静かに目を閉じる。

「さようなら……善き皆様方」

そうして最後に〝土佐〟の言葉を耳にした直後、立香達は特異点から姿を消すのであった。


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第8節:疾走する魂 新生禍殃戦艦 土佐 第10節:めでたしめでたしのその先で

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最終更新:2019年05月04日 22:44