「……ねぇ、ゴールデン……?」
「どした、大将?」
「あの……セイバーは……」
「まあ、綱は昔っから手加減なんざしねぇ真っ向から何事も叩き斬るような奴だったよ。
腕があったころの茨木と正面から互角以上に立ち回れるのは頼光さんか綱くらいしかいねぇくれぇだよ、オレでも手を焼く。
だから、オレっちだって手抜けるはずねぇよ。手ェ抜けばそれ以上の力でぶった斬られるだろうしな」
⇒「四天王でもやっぱり実力差ってあったの?」
「碓井さんが茨木と戦ったらどうなるの?」
「ああ……ただ、アレはなんつか行き過ぎつーか、やりすぎつーか……ただ、その分心に余裕がなかったがな]
「心に余裕ですか……?」
「オルタ道とはそういうものです……と、えっちゃんなら言うでしょうね。
何故、えっちゃんがそんなことを言うのかちょっとよくわかりませんがね」
「Xさん、そのえっちゃんさんというのは?」
「話せば長くなりますので、またいつかの機会にでも……まあ、確かにセイバーでなくなった時の彼は余裕はなかったですね。
それに相手がセイバーであれば、ゴールデンボーイがいなくとも私とカメちゃんだけでどうにかなりましたね」
「……つか、アンタ、ナイト・オブ・ゴールドじゃなかったのか!?」
「さっきからそう言ってたでしょ!?」
しかし、今!
彼らはこんなに悠長に話してる場合ではない。
走っている。
一目散に、全力で。
騎馬戦のような状態で。
木が燃える。
森が焼ける。
地面が溶け出す。
全てが炎に包まれる。
「全力で走れ!」
「オーケー! 振り落とされんなよ?」
走る。
それこそ無我夢中で。
――――その道中であった。
「氷の壁……?」
この灼熱の地に似つかわしくない光景。
巨大な氷で出来た壁。
「これは一体……?」
「……貞光サンの仕業だろうな……」
「碓井さんが……?」
⇒「ゴールデン、どういうこと……?」
「あの貞光サンのずっと背負っていた大鎌を抜いたってことだ。
それだけあのキャスター……いや、アサシンが相当なレベルでデンジャラスってことだよ」
「あの大鎌は碓井さんの宝具ですか? しかし、何故、氷……?」
『そうか、碓井(うすい)とは、つまり『碓【氷】(うすい)』ということだったのか!』
「な、なんだってー!」
『フォフォウ……!』
『なるほど、ダ・ヴィンチちゃん! 言葉の意味はよくわかりませんが、とにかく凄いことなんですね!』
「あー……まあ、そういうとこだ」
魔力放出(氷)もしくはあの大鎌の効果といったところだろうか。
だが、この氷はあまりにも厚くデカイ。
それを聞いてカメハメハは……
「この目の前にあるらしい氷壁、ぶっ壊します」
「……はい?」
槍を構えて。
「マシュさん、この先に碓井さんがいるんですよね」
『はい、この先にサーヴァントの反応が2体あります……って、ええーっ!?』
一直線に。
「冗談ではないですね。まだアタシはあの人に何も返していないんですよ!
それなのに……この国で……アタシの国で何も言わずに人と別れるなんて、それだけは絶対に許さないです!!」
一心不乱に精一杯。
氷壁をぶち抜こうとする。
ひびが入れども、その氷の厚みは底を見せない。
目は見えなくても、槍を穿ち続ける。
その時であった。
「カメちゃん、どいてください」
ヒロインXが聖剣を構えていた。
「藤丸君、見えますか、あの星を!」
⇒「アレはセイバーの星!」
「アレは死兆星!」
ヒロインXは無敵を張った。
束ねるは星の息吹!
輝ける命の奔流!
「『無銘』…… 」
その聖剣の輝きは変わらない。
例えなんかよくわからない状態になっていても!
「――――『勝利剣』ッッ!!! 」
聖剣から放たれる光が氷壁をぶち破った。
◇ ◇ ◇
「氷で完全に退路を断たれましたか……ですが、それは貴方も同じですね、ええ」
「不退転……ここで確実に仕留める」
「貴方、ここで死ぬ気ですか?」
「そうだね、出来れば君の持っているソレをどうにかしてからだけどね」
「お断りしますね。『今度』こそちゃんとドイツに聖杯を持ち帰りますよ」
幾度目かの問答。
周囲が凍っていた。
スコルツェニーのサーベルで貞光の背中を斬った。
その際に、ごとりと重い音を立てて、大鎌が地に刺さった。
すると冷気が漂い始め、周囲の一部が凍り始めていた。
そして、その氷はみるみる広がっていき、次第に今のような状況に陥った。
スコルツェニーからしたら、完全に常識外な状況。
魔術師以上に魔術的な行為。
いや、東洋の神秘的なソレ。
「しかし、まあ……その大鎌、奇妙な代物ですね、ええ」
「常人には扱えない得物を使うのは頼光様や四天王の繋がりなのかもしれないね」
「確かにあのセイバーも貴方達との『繋がり』を大切に思っていましたね……ええ」
「だろうね、綱君はどこまでも『人』として鬼を……怪異を斬り続けたからね」
「では、貴方はその『人』でしたか?」
「少なくとも『ヒト』でありたいと思っていたよ」
「そういうこと言うのは……私が思うに『人』ではありませんね」
「そうだね」
冷静に感情を限りなく表情を表に出さない。
出せば確実に付け込まれる。
何度も。
何度も。
そう、考える。
すぐに斬り捨てればいいはずなのに。
『それ』をしてはいけないと直感が告げ続ける。
―――『何か』を仕掛けられた思われるが、その正体も効果も判らない。
迂闊に手を出せば、飲み込まれる。
この感じも随分と久しい。
目の前のアサシンはまるであの時の大蛇だ。
――『ああ、全くやりにくい』――
――『出来れば二度と関わりたくない相手だ』――
互いに思うところは同じ。
「……案外、似たモノ同士なのかもしれませんね」
「こんな出会い方でなければ、また違った……かな?」
「ええ、ほんの少しのズレですよ」
「人の出会いにはそういうこともあるからね、けど」
「はい、わかっていますよ」
「多分、今。同じこと考えてる」
「ええ」
「「テメェだけは気に喰わねぇ!!!!」」
互いに声を荒げてぶちまける。
それが最後の交わりの狼煙。
放たれる銃弾を避ける。
風を斬り裂くように走り、大鎌を振るう。
それを前に踏み込み躱す、それと同時にサーベルが鋭く走り切り裂く。
避けない。
右頬を斬られたが、ただそれだけ。
左手に持っていた薙刀を投擲。
それを後方に飛び、避ける。
だが、そこを狙って突撃。
投げた薙刀を蹴り、拾い上げる。
「全くセイバーといい、貴方といい……あの時代の武士という生き物は本当に無茶苦茶ですね」
「無茶苦茶じゃないと渡り合えないし、守れないものがあったからね……
それに僕よりも強い武士は知っている……少なくとも4人はね」
「おや、それでは貴方に殺されたアーチャーは浮かばれませんね」
「いやいや、彼は強い……尤も」
「――――僕が相手じゃなかったらね」
大鎌を振るう。
その刹那で冷気で空気中の水分が凍る。
だが、すぐさまに氷は溶ける。
それと同時にスコルツェニーの胸元から血飛沫が飛ぶ。
「終わりだよ、アサシン」
「ええ、そうですね……次は是非、貴方がいない。
……インチキもないイレギュラーもない聖杯戦争に呼ばれたいものですね……」
「まあ、そうだよね、そう思うのが至極当……」
胸を貫いた銃弾。
至近距離で撃ち抜かれた。
「……最後の最後で隙を見せましたね……
勝利を確信した瞬間に……敗北はすぐそばでその手を拱いているんですよ」
「参ったな……これは……けどね……」
スコルツェニーの首には大鎌が突き付けられていた。
「なるほど、大鎌は魂……命を刈り取るのに最適な形をしている。
西洋の死神が鎌を持っているのは貴方が大鎌を使うのと同じ理由ですか、ね……」
「まあ、そういうことだ……!」
それを思いっきり引き抜く。
今度は確実に首を刎ね飛ばした。
「ああ……今度もまた誰にも看取られず、静かに終わるか……」
氷壁で断ち、退路どころか進路もない。
ここに侵入することは何人たりとも……
「碓井さん!!」
声が聞こえた。
聞き覚えがある。
「ああ、君たちか……最後の最後で最大の悪手を打ってしまったよ」
「そんなことより、貞光サン、アンタのその身体は!」
「悪いね、金太郎君……僕はもう限界だよ」
「だから、ゴールデンだ、貞光サン……」
いつも通りに振る舞う。
―――彼の前ではいつだって自分のいつも通りに。
―――でないと『彼女』に合わせる顔がなくなる。
「碓井さん……」
「……立花ちゃん、僕もいつかカルデアに呼んでくれるかい?」
「はい、その縁があったら来てください、マシュもダ・ヴィンチちゃんもフォウさんも……
……カルデアのスタッフも、頼光さんだってきっと喜びますよ」
「……それはよかった」
―――もし僕の願いが一つ叶うのなら。
―――それはもう決まった。
「碓井さん……そこにいるんですよね」
「ああ、いるよ」
―――これはこっぴどくやられたな。
―――あの綱君は本当に容赦がない。
―――本当にひどいやつだ。
「……ありがとう、ございました……それと……」
「ああ……さよならだ、可愛いカメハメハ大王さん……」
「!? 今、初めてアタシの名前を……」
―――彼女は『王』になる。
―――それは厳しい道のりになるであろう。
―――それでも彼女は往くのだろう。
―――僕を見捨てなかったように多くの人に手を伸ばすだろう。
「ありがとう、日ノ本の武士・碓井貞光さん」
「どういたしまして……」
もうすぐ消える。
自分でも分かっている。
そろそろ限界に……
「最強のセイバーの私には何かないんですか!?」
色々と台無しである。
「……アサシンだろ、君……」
それを最後の言葉にしてアサシン・碓井貞光は消えた。
それはそれは本当に台無しであった。
◇ ◇ ◇
「聖杯は完成したのでしょうね……」
「Xさん、完成した聖杯を見たことがあるんですか?」
「いえ、ないです」
貞光のそばに転がってた聖杯。
最初に見た時とは何か違う色に変化していた。
その時、カルデアから緊急通信が入った。
『結論から言うと『そのハワイは特異点ではなくなった』!』
「どういうこと!?」
『というより、その特異点が剪定事象的な特異点に変化した!』
「なるほど、つまり強制帰還命令(オーダー)つーことか」
「あー、となるとさっさとカルデアに帰らないとやばいんだね」
「戻れなくなるかもしれないってことですね」
「マシュ、帰還準備頼む」
『了解しました……』
「……というわけだ、聞いたかな、カメハメハ」
「そうですか……」
少女の悲しい声を出ていた。
だが、出会いがあれば必ず別れもある。
藤丸はそれをよく知っている。
「カメ公、もう会えねぇかもしれねぇな……ちゃんと三食は食うんだぞ」
「ゴールデンさん……わかってます!」
涙は流れない。
流せない。
目元の青いマフラーが全て吸い込んでしまう。
「……カメちゃんはどんな王になりたいんですか?」
「Xさん、その答えは今度必ず伝えます!」
「その時は楽しみにしています!」
いつか必ずその答えは伝える。
「さよならだ、カメハメハ」
「はい、さよならです、フジマル……!」
こうして三人はカルデアに帰還した。
……
…………
……………………
「また一人か……」
陽が落ちて、彼女を照らすのは星の光だけ。
いつでもそこに星はあり、彼女を照らす。
「いや、アタシはカメハメハ―――――孤独な人。
ここはハワイ……ならすることは一つしかないよね」
このハワイはまだ誰も平定していない。
「この国を征服して平和にするか!」
現界に必要な膨大な魔力はここにある。
聖なる杯と大槍を掲げて、少女は行く。
「――――さあ、征服の時間だ」
行先は必ず、この風や星が教えてくれる。
最終更新:2017年10月08日 02:53