4節 燃えよ我が身1

『そちらでの生活はどうですか? 先輩』
「全然だねぇ。衣食住は揃ってるし生きていく分には問題ないんだけど」

久しぶりの通信。
朝日差し込む庭先を見ながら伸びをする。
マシュの声を聞くのも随分久しぶりに思われた。
あれから一週間ほど時間が経っている。
こちらでの生活は慣れたものの、問題解決への進展はなかった。

「毎日見回りか訓練の見学かたまに遊撃衆の仕事で街に出たり」
『大変なんですね』
「でも仕事っても猫探しとか夫婦喧嘩の仲裁とかだから……」
『そうですか……なんだか、ウルクの時を思い出しますね』
「あー」

あの時とはまた違う業務内容ではある。
それにあの時の気持ちと今の気持ちはきっと違うものだ。

『マシュ、そろそろ時間だ』
『すいません、ダ・ヴィンチちゃん。先輩、それでは通信を終わります』
「うん。分かった」
『それと藤丸君。アサシンやアーチャーの真名については現在調査中だよ』
「うん。ありがとう」

通信が終わる。
今日も一日頑張るぞいと心の中で呟いた。
それは藤丸にとっての日常である。

「藤丸君、着付けの時間だ」
「アサシン」

これも毎日の事だ。
着付けを教えてくれと毎度言っているがその度に自分がいるからいいだろうと制される。
毎日毎日部屋まで来て服を着せてもらうというのは心苦しいし、それに恥ずかしかった。
今度信長にでも頼んで教えてもらおうかとも思う。
最もしっかりとアサシンがどうやっているか観察して、やってみればいいのかもしれない。

「ん。藤丸君。何をそんなにまじまじと」
「アサシンって元遊撃衆だったんだよね」
「は?」

アサシンの手が止まる。
着付け終わりまであと一歩というところである。
彼の反応は藤丸の予想外のものであった。
先日のアサシンの言葉を復唱しただけだ。

「どこで知った?」
「アサシンがこの間言ってたよ。酒呑のお酒で酔ってる時に」
「……なるほどな。酔った時にか」

元遊撃衆。酔った勢いとはいえ彼の口から聞いた言葉だ。

「気になるか?」
「ちょっとだけね」

そうかとアサシンが返し何か言おうとした時であった。
アーチャーが藤丸の部屋に現れた。

「元気かしら」
「おかげさまで」
「私は調子が悪い」
「あんたはいいわ。藤丸君が大丈夫なのはそれでいいけど」

着付けが終わり、アサシンが離れる。
明らかに嫌そうな顔をしているがアーチャーはそれに反応しない。
何か下手な事を言えば蹴り飛ばすという気概があるような気もする。

「化け物を生け捕りにしなさい」
「仕事って事?」
「もちろん、今日の夜に出発。遊撃衆と私とランサーと織田、それとあなたで行くわ」
「場所は」
「橋よ」

夜、藤丸は部屋に一人座して待った。
アーチャーの言ったことを一つずつ思い出す。
敵は野良の英霊。
橋の上に現れる女性。
彼女を対処しようと何度か遊撃衆が送られたがその度に敗走してきた。
死ぬ気で闘えばなんとなかったかもしれないが、隊員達の命を重視して逃げてきたらしい。
しかし送られた隊員は皆数日間苦しみ続け、時には死人も出たという。

「どう思う?」
『恐らくだが橋姫じゃないかな』

こちらにこまめな通信が出来ない分、カルデアのメンバーは真名の解析に注力できる。
アーチャーから教えられた情報を伝えた所、思ったよりも早く答えが出た。
橋姫。聞いたことはあるが詳しくは知らない。

『なんというか、嫉妬に狂った鬼ともいわれるし橋の守護神ともいわれる女性だよ』
「嫉妬かぁ」
『もとは公家の娘とも言われてるみたいだね』
「人から化け物になるってことか……」

そういう英霊を知らないでもない。
何か彼女がその役割をおっかぶされて橋姫になっているかもしれない。
いつかの女の国。役割を着せられた英霊達を思い出す。

『丑の刻参りのルーツでもある方なので気を付けてくださいね先輩』
(……気のつけようがあるならだけどね)

嫉妬に狂った鬼か。
男女間のなにやらで鬼となったのであれば自分が狙われるかもしれない。
いや、それを知ってアーチャーは自分を連れ出す可能性もある。
囮。ヘタを打てば死ぬが、どうか。

「時間よ」

襖の前から声がする。
アーチャーの声に藤丸は分かったとだけ返した。
襖が開く。すでにアーチャーも市も信長もいた。
どうやら自分が一番最後らしい。

「行こうか」

始まり
3節 鴨川おるよー3 永久統治首都 京都 4節 燃えよ我が身2

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最終更新:2018年02月19日 02:00