浜辺を歩くこと数時間。
浜辺自体には特に変わった様子はない。
本当に特に変わった様子もない。
あの異様な存在感を放つ要塞みたいな城を除けば。
「佐渡についてもう少し調べておけばよかった……」
「佐渡島と言えば、流刑に使われてた島でしたね」
「巴さん、知っているのですか!」
「……流刑。つまり、島流しか……」
「はい、そうですね」
「なるほど、私の時代は流人は僻地の北海道へ島流しでしたからね」
流人。
所謂、流刑を受ける罪人である。
一種の監獄島と機能していた佐渡島。
となれば、あの要塞はある種の監獄塔のようなもの。
監獄塔。
どっかの巌窟王を頭を一瞬過った。
あの高笑いが聞こえたような気もしたが、確実に気のせいであろう。
その時であった。
沖田が何かを見つけた。
「マスター、目の前に!」
「第一流人か!」
「ぶっ倒れた男性が!」
「一大事です……ゴフッ!」
「沖田さんがまた血を吐きましたよ!?」
「巴さん、それは大体いつも通りなんで!」
血を吐いた沖田はいつも通りとして……
それよりも先に倒れている男だ。
「……め、飯……食える飯……」
和装を身に纏ったかなりに体格がいい男。
見た目は20代半ばから三十路手前くらい。
それなりに整った顔立ち。それなりな美男子であった。
◇ ◇ ◇
「ああ、美味ぇ美味ぇ……」
焼き魚にがっつく男。
浜辺にあった流木を焚き木に釣った魚を食った。
「巴さんがいたから楽に火を起こせたね」
「いや、それほどでもないです」
「で、嬢ちゃんたちは何だ?
見たところ……『この時代の人間』じゃねぇよな?」
食い終わった男は満足した。
そして、三人を見渡し、その一言をずばりと言った。
「貴方は?」
「……俺も多分サーヴァントだ」
「なんとなくわかります」
「で、ここからが重要だ……どうやら俺の記憶がぶっ飛んでるようだ」
「は?」
「ああ、分かりやすく言えば記憶喪失って奴だな」
「記憶喪失……?」
⇒「記憶喪失のサーヴァントには慣れてます」
「マジか?」
「特異点で出会ったサーヴァントにも何人かいたんでね」
「マスター、それでも落ち着き過ぎですね」
「慣れてるからね」
「いつからの記憶がないんですか?」
「……俺がここに召喚されて、この半月の記憶はある」
「あの要塞みたいな城に見覚えは?」
「ねぇな」
あの要塞みたいな城に見覚えがない。
となると、彼はあの城と連鎖召喚というわけでないらしい。
藤丸は一先ず、カルデアについて話したが、男は特にリアクションはなかった。
「俺がどこの時代の誰かさんなんざ、俺自身が知りてぇくれぇだ。
ああ、クソ……何か思い出すような事柄であればな……」
「クラスは?」
「そいつもわからんが、理性が全然あるから多分、狂戦士(バーサーカー)じゃねぇな。
それに弓も槍も持ってねぇし、弓兵(アーチャー)でも槍兵(ランサー)でもねぇな」
「あの……その脇に差してるのは?」
「日本刀だろ……そんくらいは見りゃわかんだろ?」
かなりの業物に見える。
見事なまでな上等な日本刀。
名刀と呼ばれても文句の付け所はない。
「その刀に見覚えは?」
「ある。間違いなく俺の太刀だ」
「何か思い出すことはない?」
「…………ねぇな、太刀見て思い出すくらいならとっくに思い出してるぜ?」
「なら、剣士(セイバー)か暗殺者(アサシン)なのでは?」
「……確証が持てねぇわ。まあ、セイバーってことにしといてくれ」
日本刀のセイバー(仮)。
と、一先ず、そのように称することにした。
いつもならここらへんでマシュかダ・ヴィンチちゃんがなんか言ってくるはずだった。
だが、カルデアと連絡が付かない。そんなことはない。
「宝具の真名解放すら出来ねぇんじゃ、『アイツら』に大切なもん……奪われるだろうが」
「『アイツら』って?」
「知らん、それが分かってたら苦労はしねぇよ……まあいいわ」
セイバー(仮)は立ち上がり、少し三人から距離を取った。
「とりあえず、テメェら……俺と戦え!」
「は?」
「貴方は何を言ってるんですか?」
「聞こえなかったか? 『俺と戦え』……何か思い出すことがあるかもしれねぇ」
この男、相当なほど単純なのかもしれない。
で、刃をこちらに向ける。
主に巴御前の方に。
そういえば焼き魚を食ってる時も巴御前をチラチラと見ていた気がした。
「なんとなくなんだが……俺は少しアンタが気になった!」
「奇遇ですね、巴も何か貴方に思うところがあります」
「アンタ、女である前に生粋の『日ノ本の武者』だろ……俺は強ぇ奴は好きだぜ?」
巴御前の方も見覚えがないらしい。
しかし、巴御前の方も何か思うところもあるらしい。
「ん、じゃ、一対一で手っ取り早くやろうぜ……!」
「いいでしょう、この巴、手加減はしません!」
セイバー(仮)は日本刀を構える。
その姿は様になっている。
というよりも、どこかで見たことある。
「あの構え……平安時代の武士のようですね」
「確かに頼光さんの構えに少し似ている。
だから、巴さんに反応したのかな……?」
さらに距離を取った藤丸と沖田さん。
そこでセイバー(仮)の動きを観察する。
真名に繋がる何かがあるかもしれない。
「行くぜ……!」
「来なさい!」
その時であった。
「待て! そこの者たち!!」
「「!?」」
二人の丁度中間当たり目掛けて一本の槍が飛んできた。
四人がその槍が飛んできた方向を見るとそこには……
「なんだァ、テメェ……!」
「我はランサー! 真名は『ルイ=ナポレオン3世』!!
フランス最後の皇帝だ!! だが! 今は一フランス騎士としてその私闘は見捨てておけぬ!!」
そこには騎士のような格好の少年が立っていた。
だが、これについて少しセイバー(仮)はキレそうになっていた。
最終更新:2017年11月05日 02:19