フランケンシュタインと話をしていた。扉を軽く明けて、一センチの隙間から風と光が入ってきていた。
薄暗いというファクターでルーヴル美術館を思い出す。思い出すってなんだ。僕はそこで死んだはずだ。死人が思い出すことなんてできるわけがない。でも実際僕はできている。
留まってしまった。この世に。死にそこねたんだ。やり方が悪かった。でも死に損ねたやつは座に行くなんて、これっぽっちも知りはしなかった。
フランケンシュタインは話好きで、知っていることを全部話した。生前のことは聞いたがよくわからなかった、というより生前自体あまりなかったようだが。
僕が危険視されていること。腐ってる方のバーサーカーが危険なこと。セイバーが生きていること。四十九騎のうち既に二十一騎が戦死したこと。
「あなたと、話して、いると、なんだか、不思議、な気分」
「そう」
話をしていたというより、単純な相槌をうっていただけだ。
「なんだか、今まで、なんだったんだろうって、思える、ような、自分が、自分でなくなっていく、ような」
「……」
「私には、名前が、ないし、父さん、の、おまけみたいな、もの。なんで、喚ばれたのかも、よくわからない存在。E・フラン、イヴと、父さんに、呼ばれたことも、あった」
「……」
「自分のこと、わからないけど、あなたに話していて、よかったわ。悪かったのかも、しれない」
「……」
「私、死ぬわ」
「そう」
「宝具で、自爆、するの。明日。戦いだから」
「それは、頑張ってほしいな」
適当に返す。
「宝具の、名前。『磔刑の雷樹』っていうの。私は、姉さんじゃないから、どういう、意味なのか、わからない。なぜ、フランケンシュタインの、宝具が、爆破された木なのか」
「枯木だ」
「え?」
僕は知識をひけらかす。
「
おお、荒々しい〈西風〉よ、〈秋〉の存在の息吹よ
その目に見えぬ存在から、死んだ木の葉が
吹き散らされる、魔術師から逃れる幽霊たちのように
黄色、黒、蒼白、熱病のような赫
疫病に憑かれた群衆さながら。おお、お前が
その暗い冬の寝床へ運んでゆく
羽のある種、彼らはそこで冷たく低く眠り
どれも墓の中の死体のようだが、ついには
お前の空色の妹〈春〉が嚠喨と
クラリオンの音を夢見る大地に響かせ満たす
(空の草を食む羊雲を追うように甘い蕾を吹き散らし)
生き生きした色合いと芳香で野と山を。
荒ぶる〈精霊〉よ、あらゆる所を吹きすさぶ
〈破壊者〉にして〈保存者〉よ、聞け、おお、聞け!
」
続けて五節、そらで読んだ。
「シェリーの『西風のオード』という詩だ。知らなかったか? これくらい勉強しておいた方がいい。お前の祖父だろう」
長い沈黙が流れる。
「……ありがとう。なんだかわかった気がする」
「気がするだけだ」
「それでもいい」
見張りが交代される。
最終更新:2018年03月02日 21:01