アラスカの小屋の中にて断片4

フランケンシュタインと話をしていた。扉を軽く明けて、一センチの隙間から風と光が入ってきていた。
薄暗いというファクターでルーヴル美術館を思い出す。思い出すってなんだ。僕はそこで死んだはずだ。死人が思い出すことなんてできるわけがない。でも実際僕はできている。
留まってしまった。この世に。死にそこねたんだ。やり方が悪かった。でも死に損ねたやつは座に行くなんて、これっぽっちも知りはしなかった。
フランケンシュタインは話好きで、知っていることを全部話した。生前のことは聞いたがよくわからなかった、というより生前自体あまりなかったようだが。
僕が危険視されていること。腐ってる方のバーサーカーが危険なこと。セイバーが生きていること。四十九騎のうち既に二十一騎が戦死したこと。
「あなたと、話して、いると、なんだか、不思議、な気分」
「そう」
話をしていたというより、単純な相槌をうっていただけだ。
「なんだか、今まで、なんだったんだろうって、思える、ような、自分が、自分でなくなっていく、ような」
「……」
「私には、名前が、ないし、父さん、の、おまけみたいな、もの。なんで、喚ばれたのかも、よくわからない存在。E(エネミー)・フラン、イヴと、父さんに、呼ばれたことも、あった」
「……」
「自分のこと、わからないけど、あなたに話していて、よかったわ。悪かったのかも、しれない」
「……」
「私、死ぬわ」
「そう」
「宝具で、自爆、するの。明日。戦いだから」
「それは、頑張ってほしいな」
適当に返す。
「宝具の、名前。『磔刑の雷樹(ブラステッド・ツリー)』っていうの。私は、姉さんじゃないから、どういう、意味なのか、わからない。なぜ、フランケンシュタインの、宝具が、爆破された木(ブラステッド・ツリー)なのか」
枯木(ブラステッド・ツリー)だ」
「え?」
僕は知識をひけらかす。

おお、荒々しい〈西風〉よ、〈秋〉の存在の息吹よ(O wild West Wind, thou breath of Autumn's being,)
その目に見えぬ存在から、死んだ木の葉が(Thou, from whose unseen presence the leaves dead)
吹き散らされる、魔術師から逃れる幽霊たちのように(Are driven, like ghosts from an enchanter fleeing,)

黄色、黒、蒼白、熱病のような赫(Yellow, and black, and pale, and hectic red,)
疫病に憑かれた群衆さながら。おお、お前が(Pestilence-stricken multitudes: O thou,)
その暗い冬の寝床へ運んでゆく(Who chariotest to their dark wintry bed)

羽のある種、彼らはそこで冷たく低く眠り(The winged seeds, where they lie cold and low,)
どれも墓の中の死体のようだが、ついには(Each like a corpse within its grave, until)
お前の空色の妹〈春〉が嚠喨と(Thine azure sister of the Spring shall blow)

クラリオンの音を夢見る大地に響かせ満たす(Her clarion o'er the dreaming earth, and fill)
(空の草を食む羊雲を追うように甘い蕾を吹き散らし)((Driving sweet buds like flocks to feed in air))
生き生きした色合いと芳香で野と山を。(With living hues and odors plain and hill:)

荒ぶる〈精霊〉よ、あらゆる所を吹きすさぶ(Wild Spirit, which art moving everywhere;)
〈破壊者〉にして〈保存者〉よ、聞け、おお、聞け!(Destroyer and preserver; hear, oh, hear!)


続けて五節、そらで読んだ。
「シェリーの『西風のオード(Ode to the West Wind)』という詩だ。知らなかったか? これくらい勉強しておいた方がいい。お前の祖父だろう」
長い沈黙が流れる。
「……ありがとう。なんだかわかった気がする」
「気がするだけだ」
「それでもいい」
見張りが交代される。




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最終更新:2018年03月02日 21:01