卓を囲む3組。
一つ、カルデアから来た藤丸たち。
一つ、ランサーとバーサーカーの二人組。
そして……
「俺がキャスター……?」
『はい、この霊基のパターンはキャスターですね』
記憶喪失のサーヴァントのクラスが判明した。
だが、非常に腑に落ちない表情を浮かべる。
「なあ、嬢ちゃん、俺、セイバーじゃねぇのか……」
『はい……ですが平安時代の魔術師となると、もしかすると陰陽師ではないのでしょうか?』
「陰陽師? いやいや、そんな大層なもんじゃねぇよ……俺はきっと『武士』だとは思うがな。
人を使う立場よりも人に使われる方が気が楽なんだよ。
大体、俺は人に上に立つような立派な人間じゃねぇしな」
「ならば、ぼ……我の配下になるというのは?」
「お断りだ、俺の大将は『あの人』だけ……だ、多分。
つうか、テメェ『勝てる戦しかしてなかった』輩だろ?」
「うっ……それは……」
完全に図星だったようだ。
当のランサー本人も判っているようだ。
自分が先代の七光りあって祀られて皇帝になったことを。
それをあっさり見抜いていたセイバー(仮)もといキャスター。
「まあまあ、とりあえずクラスが分かったんだし……」
「まあ、そうだな……ったく、記憶がねぇってのはすっげぇ面倒だな、おい。
んなことよりも、思ったんだが、そっちの奴の方が魔術師っぽいだろ」
「俺ちゃん?」
不意に話題を振られても、さわやかな笑顔を浮かべるバーサーカーのノーベル。
あの超有名人である。
「俺ちゃんのステータスは
筋力:E
耐久:E
敏捷:E
魔力:E
幸運:EX
宝具:EX
って感じだな」
「狂化込みで……?」
「狂化ランクEX込みでだな~~
黄金律EXと無辜の怪物EX含めて考えても~~~
どう足掻いてもハズレサーヴァントです、本当にありがとうございました!」
「極端すぎやしませんかね?」
「俺ちゃん結構現代よりのサーヴァントだからね!
まあ一応、星の開拓者EX持ってるけどね」
「それって物理的にじゃん」
『物理ですよね』
『物理的な爆破で星を開拓しただけだよね?』
「まあそういうことさ、で。話し戻すけど俺ちゃん自身、超平和主義者なわけよ。
で、この戦いを止めりゃいいと思ったわけよ。
んで、となるとこの皇帝さんが一番適任だなと直感したわけだ」
彼がバーサーカーな理由が分かった気がした。
自称にまで超を付けるほどの平和主義者。
思考が完全に狂化している。
なら、バーサーカーだ。
「要は俺ちゃんがあの城を爆破して終わりだ!」
『うん、実にシンプルな目的だね!』
「だろ~~? 出来るだけ犠牲でないようにするにはそこそこに秩序・善よりなサーヴァントが……」
バーサーカーの言葉が止まった。
ふと、何かを見つけたようだ。
そのバーサーカーの先には……
「ノブブブブブ!!!」
「まさか皇帝さん、あとを付けられたな!」
「ご、ごめんなさーーーい!!」
バーサーカーのテンションはいつもと変わらない。
凄い形相でキャスターが睨んだら、ランサーを睨んだら涙目になってた。
先ほどよりも数は少ないちびノブ軍団。
だが、先程よりも心なしか強そうに見える。
「ノーベルさん、戦える?」
「まさか、俺ちゃんの武器というか宝具、こんな場所で使えば皆お陀仏だぜ?」
「それは実にごめん被りたい!」
「僕も自己防衛しか出来ないんで、アルフ博士は守れないぞ!」
実質戦えるのは3人しかいない。
しかも、先程よりも士気が高いちびノブ軍団。
守る対象も増えている。
明らかに戦況が悪くなってる。
「まさかテメェら、俺らを罠に嵌めたんじゃねぇだろうなッ!!」
「そ、そんなことはしない!」
「まあ、その皇帝さんがそこまで頭回るとは思えないけどね~~~」
地味にひどい。
「……全軍突撃」
「ノブー!」
「誰だ!」
そんなちびノブ軍団に指示を出す女がいた。
藤丸たちも見知らぬ女。
黒い髪をポニテで纏め、揚羽蝶の家紋入りの赤い和風の衣。
明らかに一人だけ纏った雰囲気が違う。
きっとサーヴァントだと、直感した。
だが、それもつかの間、ちびノブ軍団が突っ込んでくる。
圧倒的な物量で迫ってくる。
「チッ……仕方ねぇ、ちょっとここを荒らすぜ」
「別にいいけど、あっ、そこのアーチャー、俺ちゃんの近くは火気厳禁な~~」
「はい?」
「もし、俺ちゃんに引火したらこの島吹っ飛ぶよ」
ノーベルはシャツをまくり上げた、
その下には見事なまでなダイナマイト腹巻だ。
ああ、何考えてるんだこの天才物理学者は。
「ちびノブちゃん達、火縄銃は使わないで!」
「ノブ!」
効果はあった。
火縄銃は撃ってこない。
結果として遠距離攻撃は防いだことになった。
「オラァッ!」
「ノブ!?」
キャスターがちびノブの一体を蹴り飛ばした。
そして、ボーリングのピンのようにちびノブの数体が倒れていく。
「へっ、やっぱ数が多いだけじゃねえか!」
本当にキャスターらしくない戦い方で突っ込んでいく。
一直線にその女サーヴァントのもとに突き進んでいく。
一気に跳躍。
真上から斬りにかかる。
だが……
「なっ、身代わり!?」
女は一瞬で紙に変わった。
魔術か、妖術か。
「どこに行きやがった!」
「…………火縄銃使ったら、アタシに当たるかもしれないからね」
「!?」
「マスター!? 貴様!!」
藤丸の背後にその女は立っていた。
恐らくは気配遮断。
そこから手刀で一撃。
藤丸の意識を落とした。
「この可愛い娘は人質として貰っていく」
藤丸の身体を担ぎ上げた。
そして、逃げた。
「沖田さん! 追って!」
「言われなくても!」
沖田の縮地。
地面を蹴って、加速。
というよりも、ほぼ瞬間移動に近い。
襲撃者との間合いを一気に詰める。
「ちびノブちゃんガード!」
「ノブー!?」
「なっ!? ゴフッ!?」
近くにいたちびノブをぶん投げてきた。
まるで近くにいたお前が悪いと言わんがばかりに。
血を吐いて倒れる沖田。
巴の方もちびノブたちが邪魔で追うに追えない。
ランサーは自分を守るので手一杯。
ノーベルは柱時計をぶん回して応戦してるから無理そう。
「キャスター、飛んで追え!」
「言わんでも、つか『それ』しっかり支えてろ!」
「は?」
キャスターはノーベルが持っていた柱時計に乗った。
「今だ! 投げろ!」
「重……いが、関、係、ない!!」
近くにあったモップを支点にしててこの原理で襲撃者の方に飛んだ。
ちびノブ軍団の頭上を大きく超えた。
「テメェ、何者だ……!」
「アサシン……【要塞城のアサシン】ってとこだね」
「【要塞城】ってのはあの城か?」
「まあ、あのライダーがそう言ってたし、そうさせてもらっているよ」
アサシンはポイと気絶した藤丸を投げた。
それをちびノブたちがダイレクトに拾い、一気に運ばれる。
あの要塞城に向かって。
「テメェ……!」
「言ったよね、あの娘は人質って」
「人質なら……手放すアホがどこにいんだよ!!」
斬りに掛かったキャスターをアサシンは受け止める。
一瞬で抜いた日本刀で。
「驚いた?」
「……どういうことだ?」
キャスターが驚いたのはアサシンが持っていた刀だ。
そのアサシンが持っていた刀。
それはキャスターの使っている日本刀と全く同じもの。
兄弟剣という言葉があるが、それとは違う。
正真正銘の『全く同じ刀』。
何度も斬りにかかるが、尽くを返される。
「同じ技量で同じ得物なら千日手になるよ」
「テメェが俺と同じだとでも言いてぇのか?」
「……アタシが貴方の記憶を持って、『ソレ』を使ってるとしたら?」
ブチン、と何かが切れる音がした。
「そうかそうか……つまりだ、俺の記憶がないのは……
…………テメェのッ!! 仕業かァァァァァッ!!!!!」
キャスターの刀が空を切る。
その風圧で突風が巻き起こる。
しかし、それと同時にアサシンも刀を振るっていた。
全く同じ衝撃が同時にぶつかり対消滅を起こした。
速さも全く同じ。
強さも全く同じ。
ありえるはずがないことが起こり続ける。
「貴方の動きは手に取るようにわかる。
手の内は丸わかりだよ」
「……こんのクソがッ!!」
キャスターの斬撃の全てを防がれる。
型に変化を付けようが、即座に対応され、往なされる。
全く同じ技量を持つならば出来るかもしれないが、それでもありえない。
「オラァッ!!」
「あら、力任せは貴方の領分じゃないよ?」
「うっせぇ!! 俺の記憶とあいつをとっとと返しやがれッ!!」
「生憎、アタシは盗賊なんでね。
欲しいものを、あるいは欲しくなったものを奪う主義さ。
返してほしかったら奪い返してみたら?」
アサシンはもう一本、腰から刀を抜いた。
所謂、二刀流。
「こっからが面白くなるところだけども……時間切れか」
「何?」
火矢を躱して、飛んできた人影を往なした。
「キャスター! マスターは!?」
「二刀流のセイバーですか!?」
「前者の質問はあの城に連れてかれた。
後者の質問はあいつは【要塞城のアサシン】だ、そうだ」
沖田と巴が追いついた。
戦えるサーヴァント三体というこの状況は分が悪いと分かっている。
「で、テメェは何が欲しいんだ?」
「『この世界、全て』だよ……ああ、それと三日後だ」
「何を、だ?」
「三日後に答えを聞こう。
降伏か、死か、好きな方を選びなよ。
あの娘はさっきも言った通り人質だよ、時間は大事だよ。
それまでアタシは要塞城で待つよ」
そういうと、その姿が一瞬で消えた。
だが、状況が最悪の方向に向かっているのは分かった。
◇ ◇ ◇
―――暗い。
地下のような場所にいた。
腕には壁から繋がれた鎖。
脚には鉄球が付いた鎖。
―――身体を動かせない。
意識を取り戻したが、身体を拘束されている。
拘束されているが身体に特に痛みはない。
視線を部屋中に向ける。
人骨のようなものが転がっていた。
いや、あれは人骨ではない【凶骨】だ。
さらに視線を動かす。
「気が付いたか?」
聞き覚えがない男の声がした。
「貴方は?」
「俺か?」
―――あなた以外に誰がいる?
そう、発する気力はない。
「アーチャーだ……今から貴様を尋問する。
返答によっては貴様を処することになるだろうよ」
その放たれる言葉には殺気しかない。
返答を誤れば確実に……藤丸は起こることが察せてしまった。
最終更新:2017年11月26日 02:38