「アーチャー……どうしてわたしを助けるの?」
「……それはただ単純に俺があのアサシンのことが嫌いだからだ」
「仲間じゃないの!?」
「騒ぐな、奴らに気付かれるぞ……」
「……はい」
その言葉で息を殺す。
一先ずは助けられたのか。
部屋の外には出られた。
が、城の外には出られていない。
今、彼女たちがいるのは要塞城の天井裏。
むっちゃ暗い。
が、ようやく目が慣れた。
そして、足元は何やら騒がしい。
「俺とアイツが仲間? 冗談ではないな……!」
鋭い目と口調に藤丸は刺されたような感覚に陥る。
すぐ近くに【ソレ】と文字通りに隣り合わせになっている。
―――あの時、藤丸は全てを話した。
―――カルデアのことを、これまでのことを。
白き大弓に藤色の着物。
一部白く変色した黒い髪に腰には日本刀を携えた男。
東洋人と言うよりも普通の日本人といった見た目。
しかし、その眼の奥の鋭さは紛れもなく歴戦の猛者そのもの。
その際、あの自身を繋いでいた鎖もアーチャーの持っていた日本刀で断たれた。
その時、少しでも動いていたら確実に自身の身体を断たれていた。
「三つほど質問いい?」
「何だ?」
「貴方は一体……?」
「俺か? 俺はただの平安時代の武士だ。
それ以上でもそれ以下でもない……。
それに例え俺の真名を聞いてもわからんだろうよ……」
皮肉交じりなのか、それとも言葉通りなのか判断が付かない。
ただその紡がれる言葉に端々からは底知れぬ意思を感じる。
「……二つ目。ここの城の城主の目的は?」
「……馬鹿げた話だろうと思うが【世界征服】だ」
「!?」
「……まあ、俺も最初はそう思った。
この島で起こった【悪いノッブの軍】と【ライダーの軍】の戦争に乗じて頭の二人を射貫いて終わりだと思っていた。
が、両軍の戦闘直前に【悪いノッブの軍】にいた【あのアサシン】が裏切って多数のちびノブ軍団を引き連れて【ライダーの軍】に寝返った。
これで戦況は一気に覆った……【ライダーの軍】大勝利だ」
「なっ……なんだって!」
「……奴らは次を取るために本土に渡るらしい。
それだけは確実に阻止せねばならない……近々この日本の未来を変えかねぬ大戦があるだろうよ」
「……【関ヶ原の戦い】か」
「恐らくな、知ってか知らずか意図せずにライダーとアサシンはそれに乗じてこの国を取るつもりだろうよ」
非常に馬鹿げている話だ。
そう、藤丸も思えた。
最初の【悪いノッブの軍】発言も単なるギャグにしか思えなかった。
だが、アーチャーの言葉に嘘があるとは到底思えなかった。
ぐだぐだ時空なのかもしれないのにも関わらず、アーチャーに残念な様子が全くない。
「貴方は最初から……その【ライダーの軍】に?」
「そうだ……無論、この島でライダーと魔人アーチャーを確実に仕留めるつもりだったが、状況が変わった。
奴の手の上で踊らされると考えたなら猶更だ……」
「……最後にだけど……」
⇒「貴方は……わたしの【味方】?」
「貴方は……わたしの【敵】?」
「……それは今は敵ではないとしか言えんな……
……安心しろ、俺は貴様に危害を加えるつもりはない。
……まさかとは思うが、助けた恩を踏みにじるのか?」
「そ、それは……」
「『恩を仇で返す』など人がしていい行為だと思っているのか?」
「……………」
『安心しろ』と言われても全くできない。
決して、恩がないわけではない。
だが、このアーチャーから来る重圧があまりにも重い。
「……あまり気にするな……」
「はい?」
「……俺自身他人に勘違いされやすいとは自負しているからな……。
言葉を発すれば、人知れず誰かを傷つけているのかもしれんしな……。
だが、貴様を助けた理由は……最初に言ったことが全て、だ。
アイツの持ってる刀は……あの人の……………」
声のトーンが若干悲しめに聞こえた気がした。
アサシンの持っていた刀。
藤丸は見ていないので分からないが、このアーチャーにとって大切なものだったんだろうとは察しが付く。
「そんなことよりも城の外には出ないの?」
「出たところで、10万の兵団に囲まれるのがオチだろうよ……」
「た、確かに……」
「……あまり自慢にはならないが、俺は逃走術においては自信がある。
貴様の仲間が来るまで、この要塞城内を逃げきるだけだ……!」
「なるほど…………いや、そんなことよりも……10万の兵団!?」
「……ちびノブ軍団の総数だ……大戦にこれだけの軍勢が介入したら……わかるだろ?」
⇒「歴史が変わる……」
「大惨事だね、わかるとも!」
◇ ◇ ◇
「まずいことになったわね……」
一方、その頃アサシンは一部のちびノブ軍団を引き連れて城内を散策していた。
あの後、ライダーからアーチャーがいそうな場所を聞いたが……。
『フハハハハッ!!! そんなこと吾輩が知るかッ!!
それよりもアサシンッ!! 貴様が言っていた、この島での最後の戦いの準備だッ!!!』
駄目だ、この戦馬鹿は……と、内心思った。
だがしかし、やはりあのアーチャーを侮ってはいけなかった。
生前、あの集団で一番厄介だと思ったのが間違いなくあの女大将。
次に大鎌の使い手の男。
あとの連中は五十歩百歩であまり変わらなかった。
ので、あの中でも有名なあの男の鬼を斬った太刀を盗んでやった。
丁度、その集団の一人が宝物庫の番をしている夜だった。
ついでにその男の『大切な者』も連れ去ってやった。
その後は………………。
「…………ああ、嫌なことを思い出すととこだったわ」
盗んだあの刀が自分の手元にある。
その本来の持ち主が同じ刀を持って、この島にいる。
そして、あの男もここにいる。
幸いなのか、大鎌の使い手と鉞の大男は見当たらない。
「あたしの運命はやっぱり父上と同じか?」
「……否、それを覆す……奇跡の杯はそこにある」
「アタシは盗賊。
欲しいものは……必ず手に入れる。
人だろうと、宝だろうと、国だろうと、全てを……!」
アサシンの野心は凄まじいまでに燃えている。
そして、その願いを叶えんがために彼女は突き進む。
最終更新:2018年01月04日 01:14