HIGHER GROUND

 月下を駆け抜ける黒きモノ。
 人か? 否。
 獣か? 否。

 それはこの時代にあってはならぬモノ。
 それは…………黒塗りの外車!!!!

「うおッらあああッ!! 道をあけやがれッ!!」

 叫び声を上げながら、キャスターは車のボンネット上から札を投げつける。
 投げつけられた札はまるで炸裂弾のように爆ぜた。
 道がどんどん開けていく。

 キャスターらしいと言えばキャスターらしいが、やっている当人は不満気な表情を浮かべる。
 しっくりこないのだ。

 そして、再びボンネットに座る。

「……確かに問題なく護符術は使えるようだが……どうしてわかった?」 
「いや~~、キャスターさんのその服の下に札がちらっと見えてたからな~~
 まあ、そんなことよりもどうして投げた札が爆発するのか本当驚きしかねぇな~~~」
「そうか……つか、アンタ、その車? の操縦上手ぇな。
 騎乗スキルの類なんて持ってねぇんだろ?」
「勿論、俺ちゃんは狂戦士のクラスだからな~~~」
「『戦士』らしくはないがな……」
「便宜上、そう名乗ってるだけだぜ?
 まっ俺ちゃん、実際は科学者兼研究者兼実業家だしな~~。
 科学やってて英霊になる奴なんて大抵どっかしら狂ってるしな~~」

 ノーベルは魔術師ではない。
 ましてや神代に生きた魔術使いでもない。
 限りなく現代に近い時代を生きた人間だ。

「その……ノーベルさん、何故あなたの近くでは火気厳禁なのですか?」
「それはサーヴァント化に伴い、俺ちゃんの手からニトログリセリンが出るようになったからだ~~~~」
「は?」
「ダヴィンチ殿、その……にとろぐりせりん? とはなんなのでしょうか?」
『んーそうだね、一言でいえば……「爆薬」だね? それを用いてそこの彼は『ダイナマイト』を作った。
 そういった認識であってるかい?」
「大体そういう認識であってるよ、天才さん」
『しかし、そんな危険な状態で車の運転なんて……馬鹿じゃないの?』
「まっ、冗談だけどな~~~~手からそんなあぶないもの出るわけないじゃん!」
「!?」
「テメェ……ッ!」
「おっと、俺ちゃんのジョーク通じなかったかい?」

 狂化ランクEXは伊達ではない。
 まともにコミュニケーションをとろうとしていない。
 ダヴィンチちゃんでどことなくだが呆れている。

「こういう状況じゃなきゃ叩き斬ってた……!」
「おお、怖い怖い」
「バーサーカー、ちゃんと運転はしてくださいね」
「それはわかってる……皇帝さんは……まあ、ほっときな~~~」
「…………僕は馬に乗りたい」

 助手席ではナポレオンの顔が青ざめていた。
 今にも色々起こりそうな表情をしている。

「…………僕は馬に乗りたい」
「だったら、徒歩でちんたら行けや」
「…………それは嫌だ…………」
「なら、我慢しろ、男だろうが!!!!」
「……お、横暴だ……」
「横暴でもなんでもねぇよ……いいか、覚えておきな……
 『戦ってのは攻めるだけじゃねぇ、時には耐え忍ぶことも必要だ』ってな。
 つーわけで、テメェの耐え忍ぶ時は今だ、これくらい我慢しろ」

 悪人面でナポレオンに話すキャスター。
 だが、それはそれとしてどことなく楽しそうだ。
 どうにも近所のガキ大将感がある。

「おっと、見えたぜ~~~」
「わかっています」
「やはり、近くで見ると……」
「うむ。まさに巨大な要塞だな」
『この時代の技術では作れない代物だね』
「……ヴィンチさん、んなことは関係ねぇな……
 目の前にあるもんどうにかして、藤丸救ってあのアサシン女をどうにかする、それだけだ……!」

 距離はあるが彼らの眼前に巨大な城門がある。
 その先にはさらに巨大な要塞城。 
 その先では何が起こるか、何が起こっているか、わからない。
 しかし、今は見えなくても前に進むしかない。

「……キャスター、何か作戦はあるのか?」
「まずは俺が一人で突っ込んであの門をぶっ壊す……! そっから先は流れ次第だ……!」
「は?」
「そいつはずいぶんと大味な作戦だな~~!」
「私もその作戦には同意ですね」
「マスターの安全が第一なので……まずは沖田さん、私たちはマスターの救出第一になりますね」
「そうですね、あのちびノブ軍団の出どころも気になりますがまずはマスターの救出ですね」
「まあ、そういうわけだ、ランサー……テメェも覚悟決めて、腹くくれ」
「………………」

 周りは完全にやる気満々。
 ただ一人、ナポレオンを除いて。

「…………もうわかったわ!!!
 やればいいんだろ!!! やってやるさ!!!」

 ――――だが、奴は弾けた。

「へぇ、いい顔できんじゃねぇか! 上等だ!!!」
「しかし! あの門をどうやって壊す!!」
「閉じた門ならこじ開けるだけだろ!!」

 キャスターは地面を蹴って駆け出していく。
 その速さはキャスターとは思えない程の敏捷さだ。
 少なく見積もってもB以上はあると思える。


「うらあああああああああああああぁぁぁぁァァァァァッッ!!!」


 キャスターは軽く数十メートルは跳躍した。
 その勢いのまま、両足を門に向ける。
 所謂、ドロップキックだ。


「開け、オラァァッ!!!!!」


 先程の札を付けといたのか、キャスターが蹴った直後に門は炎上した。

 そして、爆炎とともに門は開いた。
 と、同時に巨大門は炎上した。
 そりゃ、木製だし勢いよく燃えるよ。

「ノブッ!!??」
「ざっと見て……さっきのと同じ奴が一万くらいか?
 それで足りるか? 俺を止めたきゃ、五倍は用意……してんな、こりゃ」

 キャスターの前にはちびノブ軍団。
 月下に照らされたその数、約八万体。
 今までの数以上に少しばかり驚く。

「まあこっちも声が出るうちに言っておくか」

 息を大きく吸い込んで、声を張り上げる。

「おい!! 聞こえるか、アサシン女!!!
 奪われたものを奪い返しに来て……」

 不意にキャスターの頭が痛んだ。
 それはどこかであったような…………。
 ないはずの記憶なのにそれだけはぼんやりとだが脳裏を過った。

 『奪ったモノを奪い返されて……そのまま、奴は……』

「……ああ、なんかモヤモヤしてきた……」
「キャスター!」
「なんですか、この数は!?」
「見りゃ、わかんだろ、斬るべき敵がちょっとばかし多いだけだ……
 んじゃあ……こっからは手筈通りに……散れ!!!」

 駆けつけてきた巴と沖田にそれだけ告げる。
 そして、日本刀を構えて、勢いよくちびノブ軍団に突っ込んでいった。

 暴風のように荒々しく。
 烈火のように激しく。

 すでに吹っ切れている。

「全くあのキャスターはバーサーカーか何かですか?」
「ですね、道は開けてきましたね……」

 襲いかかってくるちびノブたちを二人は斬りながら進む。
 藤丸がいるとしたら間違いなくあの城の中であろう。
 なら、自分たちが攻め込むとしたら、あの城だ。

「沖田さん、お身体の方は?」
「お気遣いなく……やれますとも!! ……ゴフッ!?」
「沖田さん!? さっさと立ってください」
「はい」

 血を吐いたが、沖田は問題なく立ち上がった。
 巴も扱いにもう慣れたのか、そこそこ気を使った。
 が、ここは戦場。
 立ち止まってなどいられない。

「あちゃ~~~こりゃ俺ちゃんの宝具(簡易版)を使うしかないか~~~」
「バーサーカー! 僕は! あの天守閣に向かう援護を頼む!!」
「あいよ~~~ま、俺ちゃんもあの城に用があるしな~~~!」

 ノーベルの高級車でちびノブ軍団の何体かを轢き飛ばす。
 さすが、ノーベル製の車だ、なんともないぜ。

「パーリィタイム……!」

 開戦は突然に。
 決戦はいきなり始まった。


 ◇  ◇  ◇


「外が騒がしいわね……」

 少しばかり時は遡る。
 未だにアサシンは場内でいなくなった藤丸を探していた。
 そんな時であった。

『うらあああああああああああああぁぁぁぁァァァァァッッ!!!』
「!?」
『開け、オラァァッ!!!!!』
「!??」

 男の咆哮と共に爆発音が外から聞こえてきた。

『おい!! 聞こえるか、アサシン女!!!』
「……来たのね。あまりにも早すぎる……!
 あのアーチャーと可愛い魔術師ちゃんも見つかっていないのに……!
 あのライダーはまだ風呂かしらね……馬鹿じゃないのかな?」

 アサシンは苛立ちを隠せない。
 ライダーに苛立ちをぶつけたくなった。

 ライダーは結構呑気に風呂に入っていたのだ。
 この状況で、馬(ロバ)と一緒に、だ。
 うーん、■したい。

「……まあ、ちびノブちゃんたちで足止めは出来るかしらね。
 出来なかったら出来なかったで……やるしかないけどね」


 ◇  ◇  ◇


 一方その頃、要塞城の天井裏では藤丸とアーチャーにもその声が届いていた。

「今の声は……日本刀のキャスターさん!」
「何? あの声の主がキャスターだと……どういうことだ!」
「ちょ……く、苦しい……」

 藤丸の胸倉を掴んで離さない。
 反応を見た限り声の主に覚えがあるようだ。

「すまぬ……だが、あの人がキャスター……?
 いや、一応、適正はあるのか……あの時のあの人だったならば……。
 ……となると、奴がアヴェンジャーではなくアサシンなのも……」

 一先ず、藤丸を離して、考え込むアーチャー。

⇒「アーチャー、何か知っているの?」
「アサシンがアヴェンジャーって?」

「……もしや俺が召喚されたのも……」
(き、聞いてない……!)

 凄まじいまでに集中している。
 周りの音すら聞こえていないようだ。

「どうした? 何か言ってたか?」
「アーチャー!! あの日本刀を持って、今さっき叫んでたサーヴァントと知り合い!?」
「知り合い? ……そんな一言で語ってはならない…………あの人は……!」


「ぬッ! そこにおるのは!! 誰だッ!!!」 


 槍が飛んできた。
 それと同時に天井が崩れ……落下した。


「無事か?」
「!? お姫様だっこ……されてる」


 アーチャーの両腕に抱えられた藤丸は無事だった。
 それよりも藤丸が驚いたのは目の前にいる女だ。

 バスタオル一枚で軍馬(どうみてもロバ)に立ち乗りして槍を構えている。

 藤丸は一目見てわかった。
 「ライダー軍のやべー奴」だ、と。

「アーチャー!! そこでなにをしていた!!
 まさかその娘と籍を入れて新居にでも行く気か!!」
「ライダー……すまないが、俺が愛した女性は生涯でただ一人だ」
「そうか!! 貴様に愛されるとは貴様の妻は幸せ者だな!!!!」  
「そうだな……それと貴様とは決別する、ここからは貴様は俺の敵だ」
「アーチャー!?」
「いいだろう!!」
「ライダー!?」

 たった五文字で裏切りを快諾した。
 アホなのか?

「革命には裏切りが必要だ!!
 アーチャー、主が気に病む必要などないわ!!!」
「…………そうだな」
「では、さらばだ、アーチャーよ!!
 次、吾輩と相まみえた時がお主らの最期だ!!! フハハハハハッ!!!」

 そういうと、ライダーは背を向けて去っていった。
 バスタオル一枚の状態で。

「……行くか」
「敵になったのに弓を撃たなくていいの!?」
「生憎、背を見せた奴を撃つのは……もう沢山なんだよ。
 そんなことよりもさっさと下にいる連中にお前を引き渡す、その後は好きにしろ、いいな?」
「はぁ……」
「行くぞ」

 アーチャーは藤丸を抱えたまま、城内を駆ける。
 その表情は最初に出会ったときと全く変わらない。
 だが、確実にさっきよりも殺気だっているのはわかる。

「殺気を隠し切れないのは……どうやら俺の未熟な点か……
 いや、奴がこの場にいる時点で俺の殺気を隠すことなどできないのかもしれん……すまんな」

「わたしは姿を見てないけど……」
⇒「あのアサシンのせい?」

「そうだ」

 たった三文字から伝わる明確な殺意。
 アーチャーは復讐者ではないと今までのやり取りで十分に分かっている。

 しかし、この感覚はなんだろうか?
 言いようがない不安だけが藤丸の中にあった。


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最終更新:2018年01月21日 03:23