「助けてくれ。カル、カルデアの奴が来る。もう駄目だ」
マスターは血走った目をフル回転させてプレハブの中に叫ぶ。急に大きな音を聞かせるものだから驚いた。
「こんなことやるべきじゃなかった。殺される、殺される。助けろ。おい、サーヴァントだろ、俺のサーヴァントだろ」
彼は全身傷だらけで右腕と左足は炭化していた。クソ野郎は最後の足掻きにこのサーヴァントのシステムの一番クソな部分を僕に叩きつける。
「令呪をもって命じる。アサシン、来い」
僕の脚が勝手に立ち上がり歩きだす。おいおい。ふざけんなよ、なんでお前の言うことを聞かなきゃならないんだ。
「重ねて、令呪をもって命じる。アサシン、敵のサーヴァントと戦え」
戦いなんてしたことがないのに。僕の両手の爪が伸び、主人の意志を無視して臨戦態勢に入る。
そして僕は遂に小屋から出た。
外の空気は冷たくて肺に刺さった。今は何時かわからないが夜だった。そういえば極夜だと言っていたのを思い出した。なら昼なのかもしれない。
死に損ないの爺さんは僕とすれ違い、小屋の中へ転がり込んでいった。
「最後の令呪だ。アサシン、なんとかしろ」
ドアが閉まり、鍵の音がする。締め出された形になる。
外を見渡す。森の中だ。暗闇に覆われていて視界は狭く、何も見えない。
闇の中から声が聞こえる。
「お前が四十八番目だ」
カルデアのマスターのサーヴァントだ。セイバーも殺されたうちにカウントされている。
「四十九騎という話を聞いたときには驚いたが、なに、いざ戦ってみれば造作もない。百里を行く者は九十を半ばとするという言葉もある。手は抜かんよ」
明かりが灯された。二つの人影が見える。サーヴァントとカルデアのマスターだ。カルデアのマスターが持っている明かりの前にサーヴァントがいるせいでサーヴァントの顔は見えない。
カルデアのマスターとやらは話を聞く限り恐ろしい奴のように思えていたが、果たしてまだ年端もいかない女だった。
「お前の相手は俺だ。最後のアサシンめ」
話しかけるのも名乗るのも面倒なので僕は無言でそのサーヴァントに飛びかかった。剣か何かの長物で防がれる。もう片方の手の爪がそいつの腕を破り裂いた。
戦う気もないのに戦わせられているんだ。さっさと殺してくれ。
激しい戦闘だった。僕は暗闇からサーヴァントに飛びかかり、サーヴァントはそれを防ぐ。僕はまた距離をとり、暗いうちに潜む。この繰り返しだった。カルデアのマスターは全く動じておらず、人形のように佇んでいた。サーヴァントはそれを守る。
「この疾さ、この力強さ、さぞ名のある戦士だったのだろう。敬意を表する! お前のマスターはガス欠だろう。何を望む! 最後まで戦うという意思はその忠誠が故にか!」
全く違う。的外れにも程がある。サーヴァントは長物を振り回しながら喋る。名乗ったりしていたが興味がないので返答しない。
サーヴァントの得物が遂に僕を捉えた。右の肩口に突き刺さる。剣だったのか。
「名乗れと言っている」
「名はない」
「そうか」
剣が下へ引かれ、右腕が切り離される。痛い。しかし悪魔の名を借りている僕はその上をいっていた。カウンターにサーヴァントの頭を握り潰した。
「ベルフェゴールだ」
取り残されたカルデアのマスターに言う。
最終更新:2018年01月22日 02:29