第3節:三首竜王決戦(3)


「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■――――ッ!!!」

 黒騎士が、荒れ狂う。
 手には白熱化し、湯気を放つ鉄の杭。
 エリザベートの槍捌きも、竜巻にも似た規格外の膂力に裏打ちされたものであったが……彼もまた、そのようなものだ。
 狂化スキルによって跳ねあがった筋力が、彼の杭捌きを暴風のそれに変えている。
 そのひと振りひと振りが熱気を巻き上げ、熱風と共に繰り出される。
 熱によって歪んだ空気は遠近の感覚を狂わせ、繊細な見切りを阻まんとする。心眼にて技を見切る小次郎であれば、問題はないとはいえ。

 ……あるいはそれだけなら、どうとでもなったのかもしれない。
 狂戦士は所詮狂戦士。
 一瞬の隙さえあれば、斬って伏せることはそこまで難しいことではない。
 こと、佐々木小次郎という剣士にかかっては。
 飛燕を断つ魔剣士にとって、地を這う騎士など遅すぎる。

 だが、違うのだ。
 黒騎士が大上段に杭を振り下ろし、それを小次郎が物干し竿で斜めに流した。
 杭が地面を抉るように叩きつけられ――――この隙に、返す刃で仕留めれば。
 そう思った瞬間、既に“ある”のだ。
 黒騎士の手の中に――――同じく白熱した、大鋸が!

「手妻使いか……赤い弓兵とはまた違う術理であろうが」

 杭から手を離し、次なる得物を手にした黒騎士が、鮫の牙にも似た鋸を横薙ぎに振るう。
 それを後ろに下がってかわした小次郎が、興味深げに呟いた。

「■■■■■■■■■■■■――――――――ッ!」

 咆哮。
 手にした鋸を即座に投擲し、次なる得物は二振りの手斧だ。
 如何なる武具も自由自在。
 どこからともなく、彼の手の中に様々な武器が現れる。
 共通点と言えば、大半が白熱化しているという程度のもの。

 恐ろしいのは――――彼が明らかに理性を失った狂戦士だというのに、彼の得物捌きがまるで劣化している様子がないという点である。
 さながら手足の如く、まったく完璧に彼は多種多様な武具を操って見せる。
 とても狂戦士とは思えぬ戦いぶり。
 いささか荒っぽくはあるが、これが生前からの彼の戦い方だと言わんばかりのそれ。

 黒騎士と言えば、以前フランスで対峙した黒騎士――――バーサーカーのランスロット卿も、狂戦士でありながら十全の剣技を振るっていた。
 だが、あれは極まった心技体の合一によって成立した、如何なる状況でも技量の劣化を防ぐスキル『無窮の武練』によるものだ。
 感覚的なものだが、それとは似て非なるものであるように立香は感じていた。
 極まった武練が狂気を捻じ伏せるのではなく――――――――魂に染みついた技術が、狂気に身を浸しても尚肉体を動かしているかのような。

「小次郎殿、ここは拙僧が!」

 鋸を払い、弁慶が割って入る。
 その手に持つは大薙刀――――ではなく二振りの太刀。
 得物捌きの自由自在において、武蔵坊が西洋の騎士に負けなどせぬと鍔迫り合う。

 拮抗――――両者の膂力に優劣はなく、刀と斧とがギリギリと音を立てて震え出す。

 ――――否。
 白熱した手斧の熱量が、徐々に弁慶の体力を奪い始めている……!

「なんの、これしき……!」

 歯を食いしばり、大地を踏みしめ、どうにか拮抗を保つ弁慶。
 だがその膨大な加熱が、徐々に刀を赤く熱していく。
 このまま鍔迫り合いを続ければ、明らかに刀の方が持つまい。
 手斧の一撃による衝撃と重量が乗算され、熱された刀がみるみる耐久力を落としていくのが立香たちにもわかった。

「ミスター・ベンケイ!」

 銃声。
 ホームズの拳銃が音と煙と弾丸を黒騎士目がけて吐き出した。

「■■■■■■……!」

 即座に黒騎士が鍔迫り合いを切り上げ、大きく後ろに跳躍して弾丸をかわした。
 狂化故の動物的本能か。まさか、理性を保ち状況判断をしたということもあるまいが。
 ともあれ、これで弁慶の危機はひとまず脱した。
 再び前衛がスイッチし、小次郎が下がった黒騎士に追撃を――――


「ハァイ!」


 ――――あちらも入れ替わり、エリザベートが飛び出した。
 物干し竿と竜骨槍がぶつかりあい、激しい金属音を鳴らして二合、三合と切り結ぶ。

 ――――――――奇しくも先ほどと同じ顔ぶれであり、先ほどと同じ攻防。
 嵐の如き竜種の暴力を、青き剣士が流麗にしのいでいく。
 ……先ほどまでと違う状況は、ふたつ。
 ひとつは、エリザベートを守る雑兵……親衛隊がいなくなったこと。

 五合、六合、打ち合う内に産まれた一瞬の隙を、小次郎は見逃さない。
 エリザベートが大振りに槍を持ち上げた瞬間、その脇を断ち切らんと踏み込み、刀を振るう。


「■■■■■■■■■――――ッ!!!!!!」 


 ――――――――ふたつは、ここに黒騎士が参戦している事!

 いつの間にか黒騎士はその手に荒縄を現出させ、西部のカウボーイの如く縄を飛ばした。
 さながらのたうつ蛇にも例えられようか。黒騎士の手から飛来するそれは、素早く小次郎の腕に絡みつく。

「しまっ――――!」

 ――――そしてそれは、大上段に槍を振り上げたエリザベートの前で無防備を晒すことを意味する。
 竜のひと噛み、食らえば決してただでは済むまい。
 直撃すれば、鎧も着ていない小次郎の肉体など木っ端のように砕け散るだろう。

「させるかァ!」

 故に、再び割って入ったのは弁慶だ。
 得物を槍兵らしく大薙刀に持ち替え、エリザベートの一撃を受け止めるために飛び込んだ。
 ごう、と衝撃音。
 弁慶の足元がクレーター状に陥没し、衝撃波が土煙を巻き上げる。

 一瞬の後、土煙の中から飛び出してきたのは弁慶と小次郎だ。
 剣士と僧兵が、煙を引きながら勢いよく後方へと後ずさる。
 小次郎の腕に絡みついた縄は断ち切られ、手錠にも似て切れ端が小次郎の右腕から垂れ下がっていた。
 ……徐々に煙が晴れ、中から愛竜暴君と黒騎士が姿を見せる。
 嗜虐的な笑みを浮かべる姫と、獰猛に白い息を吐きながら並び立つ騎士が。

「……油か。よくよく、火遊びが好みと見える」

 小次郎が縄の切れ端を解いて放りつつ、吐き捨てた。
 彼の腕に巻き付いた荒縄には、たっぷりと油が含まれていた。
 このまま押し引きに甘んじていれば、慈悲なき火刑が彼を襲ったか。
 黒騎士は既に荒縄を捨て、再び鉄杭を手に構えている。

 ……杭、鋸、斧、縄。
 白熱化したそれら。油を含んだそれ。
 共通項が見えてこない。あの黒騎士は、何者なのか。

「中々耐えるじゃない、ブタども。生意気ね!」
「■■■■■■……」
「ええ、わかってるわ旦那様(プロデューサー)。
 アイドルのスケジュールは分刻み。いつまでも迷惑な追っかけに付き合ってはられないものね」

 姫と騎士が言葉を交わす。
 ……否、黒騎士は狂化の影響によって言語能力を失っているため、エリザベートの独白に近いが。
 あるいは意思疎通ができるのか。
 いずれにせよ、彼らの行動は変わらないのだろうが。

「……ホームズ。あの騎士の真名はわからないの?」

 後方で共に様子を伺う立香が、ホームズに問いかけた。
 彼はこの特異点の情報を色々と調べていたようだが、あるいは。

「ふむ……予想はついている。相当に高い確率でね」

 その縋るような問いかけに、名探偵は肯定を返す。
 ホームズは油断なく拳銃を構え、いつでも援護射撃が行えるように敵を観察していた。
 見ることと観察することとではまったく違う――――彼が原典で口にした言葉である。
 その通りに、彼は観察しているのだろう。あの黒騎士を。

「“初歩的なことさ、友よ”」

 彼はお決まりの台詞を告げながら、薄く微笑んだ。

「まず彼の操るあの白熱した杭だが、あれはそもそも――――」
「フェレンツ伯爵であろう?」
「そう、フェレンツ伯爵の――――えっ」

 ……そんな立香とホームズの視線が、一点に集まった。
 視線の先にいるのは……ロバに跨った老騎士、ドン・キホーテ。
 彼はいっそ不思議そうな顔で、二人の視線に応じた。

「ナーダシュディ・フェレンツ伯爵であろう、彼は」
「……あの、サー・キホーテ」
「えっ、待って、その……だ、誰!?」

 ナーダシュディ・フェレンツ。
 聞き覚えの無い名前。
 西欧系の名前には違いなかろうが、教科書に載るようなビッグネームではあるまい。
 少なくとも、立香の記憶にはそんな名前は存在しない。
 あるいは、騎士道に狂った騎士の妄言か。
 半ば混乱しながら立香がホームズに視線を移せば、彼もまた驚いて目を丸くしている。
 そして驚く二人を他所に、ドン・キホーテは言葉を続けた。

「あの黒き鎧。
 振るう“拷問具”の数々。
 その技の冴え。
 あの熾烈な戦いぶり。
 ――――そしてなにより、“血の伯爵夫人”エリザベート・バートリーが“旦那様”と呼ぶ相手など、世に一人しかおるまい。
 我が麗しのドゥルシネーア姫が愛を注ぐ騎士が吾輩ただ一人であるように、エリザベート姫が愛を注ぐ騎士はこの世に一人!
 すなわち、“血の伯爵”“ハンガリーの黒騎士”――――エリザベート・バートリーの夫、ナーダシュディ・フェレンツ二世である!」

 …………ぽかん、と。
 開いた口が塞がらない。
 彼は狂気に飲まれた老人とは思えぬほど流暢かつ明晰に、黒騎士の真名を推理してみせた。
 あるいはそれも、騎士道狂いの狂気なのか。
 そう思ってもう一度視線をホームズに向ければ、彼はやれやれとかぶりを振っていた。

「……ああ、その通り。
 私の推理が正しければ――――彼の名は“ナーダシュディ・フェレンツ二世”のはずだ」

 ……ナーダシュディ・フェレンツ二世。
 十六世紀のハンガリーで活躍した軍人。
 黒き甲冑に身を包み、極めて熾烈な戦いぶり、そして容赦のない拷問の冴えから、“ハンガリーの黒騎士”の二つ名を取った武人。
 ハンガリー宮中伯ナーダシュディ・タマーシュ男爵の息子。
 オスマン帝国と戦い、後に伯爵にまで爵位を上げた名将である。
 優秀な武将だが……逆に言えば、それだけであれば人類史に名を残すことも無かったかもしれない凡百の名将である。
 だが彼は著名というわけではないにせよ、人類史に名を残した。


 ――――――――――――血の伯爵夫人エリザベート・バートリーの“夫”として、だ。


 彼はオスマン帝国との戦いで功を上げ、出世街道を邁進していた。
 その一環として、名門貴族バートリー家の息女との政略結婚があった。
 バートリー家と言えば、東欧にて絶大な影響力を持った名門中の名門である。
 そのバートリー家の娘を嫁に取るともなれば、凄まじいステータスであった。

 家格の関係で妻はバートリー姓を名乗り続けたが、その夫婦仲は良好であったという。
 政略結婚であり、また夫は戦争で家をあけがちだったにも関わらず、だ。
 この夫婦には、共通の趣味があったのだ。

 ――――――――その趣味を、人は“拷問”と呼ぶ。

 フェレンツ二世は捕虜に対しての拷問を得手とすることで有名な、残忍な武人であった。
 彼の死後、エリザベートは悪名高き殺戮を繰り返すことになるわけだが……そもそも彼女に拷問の手ほどきをしたのは、夫フェレンツ二世であったという。
 ヒステリックな少女を、血の伯爵夫人へとプロデュースした男として、彼は人類史にその名を残している。

「……それが、あの黒いバーサーカーってこと?」

 ホームズの解説を一通り聞いた立香が、視線を黒騎士に向けつつ尋ねる。
 傍らに立つエリザベートとの間に感じられる絆は、夫婦故のものか。
 狂化の呪いに晒されてもなお、夫婦の絆は断ち切ることができなかったのだろう。

「ああ……間違いなく、そうだろう。確か、サー・キホーテとは同じころの英雄だ。だから、彼にはわかったんだろうね」

 ナーダシュディ・フェレンツ二世の没年は1604年。
 対する『ドン・キホーテ』の出版は1605年。
 言わば黒騎士の死から一年後に彼は世に生まれ出たわけで、これはほぼ同じ時代と言ってもよい。
 騎士を愛するドン・キホーテからしてみれば、同じ時代に活躍した騎士だ。
 それが騎士道物語とは程遠い残酷な現実に根付いたものであるにせよ――――見間違えるわけもないのだろう。

「じゃあ……弱点は?」

 となれば、希望も見えてくる。
 なにか、弱点があるはずだ。打開策が見えてくるはずだ。
 あのサーヴァントを下すための手札が、見えてくるはずだ。
 そういった視線をホームズに向ければ……ホームズは申し訳なさそうに、かぶりを振る。

「……残念だが、彼には弱点らしい弱点は無いだろう。
 彼はあくまで拷問に長けた優秀な武人だ。弱点となるほどの逸話を持たない。
 そして英霊としての霊格の低さは、狂化によって補われている。オーソドックスに強いために、隙がないタイプの手合いだ」

 名探偵の言葉は、重く立香の胸にのしかかった。
 エリザベートも、フェレンツ二世も、こちらに絶望感を与えるほど強力な英雄……というわけではない。
 竜の娘の血は薄く、黒騎士の武勇も魔剣士には及ぶまい。
 彼らの実力は神話に名を連ねる大英雄にほど遠く、決して勝てない相手ではない。

 だが――――純粋に、強い。
 少なくとも必ず勝てるとは言い切れないほどには彼らは強い。

 そしてここは、戦場である。
 もたもたしていれば、彼らの救援に亡者の軍勢が駆け付けるかもしれない。
 あるいは、他の陣営の横やりがあるかもしれない。
 手早く決着をつけたいが、早急に首を取れるほど彼らは弱くない。

 厄介な手合いだ、と心底思う。
 この性質故に――――彼らは、三つ首竜の一角を担えているのだろう。
 全てを焼き払う聖剣も、巨大な機動要塞も持たないが……簡単に押し潰されるほど、弱くも無い。

「それでも、わかることはある。
 彼が生み出す武器は拷問具だ。想定する限り、あらゆる拷問器具を彼は生み出せると考えるべきだろう。
 今はまだ、熱した杭や鋸程度だが……アイアンメイデンやファラリスの雄牛が出てきてもおかしくはない」

 そう、弱点は見当たらない。
 だが手の内は見えてくる。
 彼は自身が持つ何らかの宝具によって“拷問に扱う道具”を生み出して戦っている。
 荒縄が何よりの証明だろう。あれは捕虜を縛り、時に火責めにするための荒縄だ。
 となれば、他にも鉄板や鞭など、出てくる武装に検討もついてくる。

「それから……恐らく、彼をミセス・バートリーより先に倒すべきではない」
「えっと、それは……どうして?」
「“血の伯爵夫人”の逸話であろう」

 名探偵の言葉を、老騎士が引き継いだ。

「エリザベート・バートリーが悍ましき魔女としての凶行に及ぶのは、夫たるナーダシュディ伯爵が斃れた後のことである」
「英霊とは、生前の運命を自らの能力とするものだ。
 であれば生前と同じように夫を亡くした伯爵夫人は、その残忍性をさらに高める可能性が高い」

 夫を亡くした寂しさか、単に制御を失ったか――――エリザベートは夫の死後、数多の少女たちの生き血を求めた。
 最初は使用人。次に領民。果ては貴族の娘まで。
 際限なく少女を幽閉し、拷問し、殺戮して消費した狂気の伯爵夫人。
 その凶行のきっかけは、間違いなく夫の死が関係している。

 であればかりそめの生であれ、同じ運命を辿ればどうなるか?
 ……眠れる竜を、わざわざ叩き起こすことはない。これはそれだけの話だ。

「――――拷問、か。道理で、中々愉快な曲芸を披露するものと思っていたが」

 再び、視点は睨み合う四騎。
 だらりと刀を握りながら、小次郎は片目を瞑り微笑んだ。
 ホームズたちの会話は全て聞いていた。
 狂化によって言語能力を失っているとわかっていても、挑発めいたことを口にしてしまうのは彼の悪癖か。

「いや、重畳、重畳。杭にせよ鋸にせよ、そのような戦道具と死合う機会などそうはあるまい」

 ――――――――優美に振舞い、なお剣鬼の顔を隠せぬも、また彼の悪癖か。

「■■■■……」
「あら――――アナタ、旦那様(プロデューサー)に勝つつもりでいるの?
 ナマイキね。カワイイわ。ゾクゾクしちゃう――――跪かせたら、どんな声で啼くのかしら」
「ははは、おなごの小姓として足蹴にされるのは、もう随分と懲りていてな。弁慶殿はどうでござろう?」
「む。拙僧も、生死を賭して顔色を伺う主は義経様で手一杯ですなぁ!」

 野獣のように殺気を滲ませるフェレンツ二世。
 嗜虐的な笑みを浮かべるエリザベート。
 穏やかに殺気を研ぎ澄ませる小次郎。
 ひょうきんに笑いながらも不動の如く立つ弁慶。

 四騎のサーヴァントが軽口を叩き合い――――――――殺気が、収束する。
 ピリピリと肌を刺すような感覚が、徐々に徐々に張りつめていく。
 ――――――――隙を見せれば、即座に首を取る。
 武人たちの間で、言葉にならぬ宣告が投げ交わされる。
 動くか。
 こちらか。
 あちらか。
 手の内は割れた――――ならば。
 風船に針を突き刺すが如く、高まる緊張に風穴を開け、小次郎が踏み出さんと足を滑らせ――――――――地鳴りが、響く。

「っ!?」

 前に出かけた足が、ぴたりと止まる。
 殺気――――――――どころではない、この圧倒的な威圧感。
 この場の誰もが、立香や雑兵、ドン・キホーテでさえも、鋭敏にそれを感じ取る。
 大地に影が差した。
 ――――否、太陽が覆い隠された。
 誰もが戦闘の手を止め、“それ”を見た。



「――――――――――――丁度よく、群れているな」



 空が、黒く染まっていた。
 否、それは飛竜の群れだ。
 飛竜の大軍が空を覆い――――――――太陽を隠したのだ。



「ああ、丁度よい。丁度よいぞ。ああ――――まとめて、始末ができるのだから」



 騎士たちの歓声が聞こえた。
 武士たちの悲鳴が聞こえた。
 それからまた、地鳴りが響いた。



「愛竜暴君――――今までは見逃してやったが、今日ばかりはそうはいかん」



 そして、飛竜の群れを従える者がいた。
 それは巨大だ。巨大な竜だ。
 どこに隠れていたのか、山のような巨体を揺らして大地を踏みしめる巨大な竜。
 ――――――――その頭上に乗る、一人の騎士。

「――――金竜、覇王……」

 誰かが、呟いた。

 ああ、そうだ。
 それは覇王だ。
 数多の竜を従え、戦場に君臨する覇王だ。
 鉄の鎧に身を包み、黄金の鞘に、黄金の聖剣を佩いた騎士王だ。



「――――――――――――――――――――貴様らには、我が聖剣にて果てる栄誉をくれてやる」



 王は――――“金竜覇王”アーサー・ペンドラゴンは、巨大な竜の背で静かに聖剣を抜いた。


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最終更新:2018年03月28日 04:13