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ポポヨラ03

◆先ほどは天使と称した。しかしそれでいいのだろうかという疑問もある。
天使の翼といったら白いものだと思う。イメージの話だ。
事実は小説よりも奇なりとはよく聞く。それでもフィクションのイメージをバカにはできない。
でも、やはり事実として彼の翼は黒かった。
肩甲骨のあたりから膝裏あたりまで大きく伸びた黒い翼は、天使のそれとは思えなかった。
ならば眼前の敵は悪魔や堕天使の類か。いや、あまりに詮なきことだ。
情報が少ない。
今はただ、生き延びるための逃げ筋を考えよう。

◆羽ばたきながらも翼はまるで意思をもったかのように波を打つ。
何かの予兆か。判断する前に反射的に体が動いた。
バックステップでその場から大きく退く。途端、弾幕の雨が眼前に広がる。
雨は黒かった。
雨にしては大粒だった。
雨はすなわち、翼から飛来した羽根なのだろう。
ずどどど、と地面を穿つ様子から鑑みるに、一度でも被弾したら致命傷となりかねない。
再度見上げると、彼の翼は依然脈動している。
攻撃の手を休めるつもりはないらしい。
やめてくれないかな。こっちは反撃しようがないんだぞ。
そんな期待は当然のように水泡に帰す。
風を切る音とともに、羽根の弾幕が我が身を貫かんと迫り来る。

◆攻撃は直線的。予測は比較的容易。ならばこちらが取るべき行動は単純だ。
走るしかない。ラン、ラン、ラン。
ひたすら街に向かって走るしかない。
迷っている暇はない。よーいどん、と平静に努めて走り出す。
心を乱したら負ける。死ぬ。それはいけない。
追撃も、なんとか凌ぎきる。紙一重。挫けちゃだめだ。

◆街にいけば他の人たちを巻き込んでしまうのではないか。
そもそも街からこの男は来たのだから、あの街に味方はいないのではないか。
憂慮すべき事態は山ほどある。
それでも、血路を開くためには必要だ。
無関係の人々を巻き込みかねないことは非常に心苦しい。
だが、それ以上に、この命は無駄にはできない。この命をここまで繋いで来てくれた仲間たちに申し訳が立たない。
もしかしたら、に賭ける。祈りは逃避ではなく挑戦なのだ。

◆雷を描くかのようにジグザグと、デタラメに、されど着実に街に向かい疾駆する。
道中、周囲に着弾こそすれど、辛うじて被弾することはなかった。
自分が生き抜くために頑張っているということを加味しても、彼の精度は低いように思われる。
その翼の本質は攻撃性ではないのだろうか。アーチャーと呼ぶにはあまりに甘い。
ともあれ、そうした疑問も後回しだ。
ひとまずサーヴァントを追い抜いた。あとはがむしゃらに街へと駆けぬけよう。
無慈悲なまでに冷たい風が頬を撫でる。冷気を感じる心に、生きているという実感が湧く。

「――ちっ、面倒だな!」

◆男は感情を隠さずに叫ぶ。苛立っている。手を抜いているわけではないらしい。
しかし嫌なら攻撃の手を休めればいいのに。こちらだって意味のない面倒は嫌だ。
心の片隅に愚痴をしたためる。口には出さない。怖いから。

◆愚痴が届いてしまったのか、幾ばくか攻撃が途絶えた。怖い。
大抵、こういうのは良くない前兆だ。走りながらも、思わず振り返る。
予感はまたしても、的中した。杞憂であってほしかった。

◆これまで固定砲台だったサーヴァントが、直接こちらを喰らわんと肉薄してきている。
羽根が弾丸であるならば、その全身を使った突貫は砲丸だ。
目で捉えきれないほどじゃない。それでもさすがにサーヴァント、そのスピードは凄まじい。
舌先まで出かかった驚きを飲み込みつつ、舌打ちと同時に、右方へ大きくダイブする。
直後、ばさっばさっと翼のはためく音と、びゅうっと一際大きな風切り音が耳を打つ。
勢いのまま再度上空へと昇るサーヴァントの表情は明らかに渋い。
梅干しを食べてもあんな顔はなかなかすまい。

「面倒なやつだな!」

◆お互い様です。しかしこちらは、ダイブしてしまったために勢いを止めてしまった。
さっさと起き上がったのはいいものの、状況は膠着してしまう。
立ち止まった途端に息が上がってくる。
足は満足に動いてくれるだろうか。乳酸菌足りてるか。
向こうは、こちらの様子を改めて俯瞰していた。
おそらくは、こちらが動いたが最後、この身は羽根に貫かれる。
ビジョンは易々と想像ができた。
いやいや西部劇じゃあないんだから。いや、冗談を言ってる場合じゃない。

◆手はないだろうか――何か手は。
考える。考える。しかし妙案は浮かばない。
それでも諦めるわけにはいかない。
彼に睨みを利かせる。彼もまた、こちらをつまらなそうに見つめていた。
互いに睨みあってから一分も経たない頃、彼は不意に視線をずらした。



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最終更新:2018年03月27日 22:34