◆今の自分は森を背にしている。
だからか、ばさばさと羽ばたき続ける彼の視線がずれるまで気づけなかった。
耳を澄ます。音がほんのかすかにする。麗しい音色だ。
背後から。森からやってきたのだろうか。
敵か、味方か。堕天使みたいな彼の表情は険しい。
しかし安心できない。
誰だ。
この状況を打破してくれる希望となるか。
なにやら清廉な音は着実に近づいてくる。ざっざっ、と確かな足音を伴って。
「安心していいよ? カルデアのマスターくん。自分はきみの味方のはずだから?」
◆まじか。祈りが届いたのか。すごい。歯切れが悪いけど、この際構うものか。
ただ、振り向けない。隙を見せたら、羽根に射抜かれよう。
背後の存在を看破すべく耳を傾ける。歩調は決して早くなかった。それでも着実に近づいている。
おそらくは楽器の類だろうこの清廉な音はなんだ。
赤毛の円卓の騎士、それに、古代イスラエルの王の奏でるそれと似ている。
◆動けない。
自分も、翼の彼も。
背後の彼に狙いを定めれば、その隙に自分が動く。
自分を狙えば、先ほどまでと変わらない。
状況を変えるのは、間違いなく背後の彼だ。
ほんの少し、翼の彼の表情が和らぐ。和らぐ?
「どんなに不安でも振り向かないのはいいことさ。前向きに生きていかなきゃね?」
◆背後の、声色からして男であろう彼は言う。
とぼけたようなその言葉にどれほどの意味が込められているかわからない。
けれど、言葉が意味することには同感だ。
振り返る余裕はない。下を向いてる暇はない。
前を向くのは、今を生きる自分の責務だ。
◆ほどなく音の正体は、自分の隣までやってきた。
ちらりと一瞥だけする。線の細い青年だった。
清廉な音の正体は手にもつ竪琴か。今もなお、ぴろろんと鳴らしている。
「…………」
「ほらほら、きみも無用な争いは避けたいだろう?」
◆翼のサーヴァントは顔をしかめる。
しかめているが、どうにも先ほどまでの覇気がない。
理由があるのだとすれば、おそらく青年の竪琴だろう。
「自分の音色はあらゆるものを虜にするらしくてね?
まあほら、きみも戦いなんて馬鹿らしく思えてきたんじゃないかい?」
「――。そうだろうとなんだろうと、僕はそいつの首をとる!」
「やれやれ、この琴の旋律を聞いてなお血気盛んとは、嫌になるねまったく」
◆盛大なため息。
ため息をつきたいのはこっちの方だというのに。
そもそもなんでこんなことになったんだ。
自分は、レイシフトした覚えもないのに。
◆竪琴の彼も十中八九サーヴァントなのだろう。
清廉な音をどこまでも響かせながら、こちらに問う。
「さあマスター? 指示をくれないかい? とっととこんな窮地は乗り越えないとね?」
◆何もかもがよくわからないけれど、それでも何かを為さなければならないのであれば。
「そうだね。生きていくには、それしかないよね?」
「ああ! めんどくさい! 僕だってなぁ、負けられないんだよ!」
◆こちらだって、負けてやる義理はない。
◇material・竪琴のキャスターを入手
宝具《???》
スキル1《治癒の竪琴》
スキル2《音楽魔術》
◇material・双黒翼のライダーを入手
宝具《???》
スキル1《晒し者の末路》
スキル2《羽ばたきの翼》
最終更新:2018年03月27日 22:35