◆ライダー相手にキャスターで挑むバカがどこにいる!
などという叱責をあるいはカルデアスタッフから頂戴するかもしれない。
ただ安心してほしい。
戦闘はつつがなく終了した。思いの他にあっさりと。
「――っ」
「だから言ったろう? 今のきみは“戦おう”とさえ思えないはずだよ?」
「だか、ら――なんだっていう」
「今は引いた方がお互いのためになるんじゃあないかい?」
◆翼は活動を止める。必然、彼は墜落した。
◆翼のサーヴァント――察するにクラスはライダーだろう彼の動きはどこか緩慢だった。
誉れ高い武勲をたてた英霊でないことは、先ほど自分を仕留められなかった時点で想像はついていた。
ただ、今回の鈍さの理由は明らかに、彼の生涯に起因するものではない。
◆途切れなく響き渡る琴の音。
自分にはあまり効果が表れていないようだが、原因があるとするならば、これだろう。
清らかな音色が、彼の戦意を根こそぎ奪い去った。
◆竪琴を爪弾くサーヴァントの姿は他にも見てきたが、そのいずれよりも真っ当だ。
真っ当な演奏者。純粋に音、ないしは音楽魔術で、相手を心を揺さぶる。
音楽家のサーヴァントなのだろうか。
◆ライダーは盛大に舌打ちをすると、こちらに背を向け、街の方へと翔けていく。
ふらふらだ。
ライダーの姿が消えるのを見届けると、途端に力が抜けていった。
こちらも負けず劣らずふらふらだった。
ひとまずは難を逃れたということでいいのだろうか。
「いいんじゃないかい? お互いのためにも一回休憩しようか?」
◆目の前の彼だって無条件で信用していいわけではないのだけれど、どの道全力疾走できる気力もない。
警戒だけは怠らずとも、休むぐらいはいいかもしれない。
「気休め程度にBGMでも流そうか?」
◆贅沢な話だ。どういったサーヴァントかわからないけれど、これほどまでの演奏を独占できるのだから。
プラセボ効果だか実際に魔術的効能があるのか、なんだかみるみるうちに身体が癒えていっている。
すごいなあ。すごいや。感じるままにしか凄さを評価できない自分が悔しいけれど、すごいはすごい。それでいいじゃない。
「さて、それじゃあ少し話をするけれど、いいかい?」
◆彼は控えめに提案してきた。
首を縦に振る。正直なところ、何が何だかさっぱりわからない。
先のライダーにしたって、どうして狙われたのか。
そもそもここは、どこなのか。
「そうだね、まずはここがどこなのかから話そうか?」
◆冷えた空気、枯れた森、死した大地、晴れない空。
心地よさなどない、この暗く淀んだ戦場の名前は。
「ここはポポヨラ。そして暇つぶしの遊び場さ」
◆当然のように、知らない土地だった。
最終更新:2018年03月27日 22:38