ぱらいそ


なんで人間の肉を喰うのかって言われてもよぉ、じゃあ何か。
お前は半額の牛肉が売ってたら買わないのか、って話よ。
俺ァよぉ、別に人肉喰いたくて喰ってるわけじゃねぇ、喰えるから喰ってんだ。
人間ってのは、着てる服に装飾品、財布の中身まで売り捌いたら、
血肉は喰って、皮はなめして、髪は繕い、骨を組み立て、ほんとよぉ……捨てる所がねぇんだ。
喰わないのは勿体無いから喰ってんだよ、日本人は鯨喰うだろ。そんなもんだよ。
イカれてるだって?おいおい、冗談やめてくれよ。

人間喰わないと生きていけないような社会が狂ってるんだよ。


青森県のとあるファミリーレストラン。
独特の格好をした四人の男女が一つのテーブルに坐っていた。

「さて、これより聖杯戦争を執り行う……私の名前は…………」
ちうと、ストローからリンゴジュースを啜りながら、ナチス式の軍服を着たちょび髭の男が言う。
閑散としたファミレスの中、ちょび髭の男を見てヒトラーのそっくりさんであると、写メを撮るような人間はいない。
強いていうならば店員がそうであるのだろうが、青森にしては扇情的な衣装を着たウェイトレスは職務に忠実で、
ヒトラーそっくりの男を見ても、制服の中からスマホを取り出して、写真を撮るような真似はしなかった。

「ヒ……いや、ルーラーとでも呼んでくれたまえ、文字通りこの聖杯戦争の調停者であるのだからね」
コトン、と飲み干したリンゴジュースのコップを置く音が響く。
ルーラーを中心としたテーブル以外に、このファミリーレストランに客は居ない。
別に、ルーラーが何かを行ったというわけではない。
ただ単純に、ルーラーが人気のなさそうなファミリーレストランを選んだのだ。
見よ、ドリンクバーの利用料は500円である。スープバーは別である。
かと言って、大して美味しいわけでもなければ、種類豊富というわけでもない。
だから、ルーラーはこの店を選んだのである。

「質問があるんだけど」
ハイ、とルーラーの向かいにいた少年――いや、少女であろうか。
華奢な体躯をしており、中性的な容貌である。
褐色の肌をしているが、かと言って健康的なわけでもない。
金に青いラインが何本も入った悪趣味なパーカーを着ているが、着こなしているわけではない。
よく見れば、値札が付いたままである。青森に来てから買ったのであろう。
彼――と一応は表記をしておこうか、彼は車椅子に座り、サラダの中にあるえんどう豆を一つずつ粒を取り出すように食べていた。

「別に僕は聖杯なんていらないから、降りていいかな」
「待ち給え、待ち給え」
踵を返して去ろうとする彼をルーラーが引き留めようとした時、ルーラーの隣に坐っていた少女が立ち上がった。
生まれ持った金髪をショートカットに切りそろえ、蒼色の両目には強い意志が宿っている。
清廉として精悍、しかし口元には嘲笑を浮かべ、彼女が醸し出す雰囲気はどこか淫猥である。
背の部分を開けた扇状的な黒いドレスからは、陶器のような白い肌を覗かせている。

「わたくしにも、聖杯戦争とやらを行う理由はないわ……アヴェンジャーのジャンヌさんが、戦いたいのならば、別ですけどね」
「……お望みなら今すぐ殺してやってもいいわ、フランスの雌豚、いえ……ライダーのジャンヌ」
業々――と、暴風のように、アヴェンジャーのジャンヌと呼ばれた女性からライダーのジャンヌと呼ばれた少女に殺気が向けられる。
大の男ですら、小便を垂らして命乞いをするであろう殺気を少女はただ――凛として受け止めていた。

「やめてくれ、ジャンヌちゃん達。まだ、戦争は始まっていないんだ……仲良くしようじゃないか。それに戦争を始めたくなる理由も用意しているよ、ちゃあんとね」
「へぇ、それは気になるねぇ」
微笑を口元に浮かべた褐色の少年を見て、半月のように、口の先を釣り上げてルーラーが笑う。嘲笑う。
全てが掌の上、其のような嘲笑を浮かべ、人差し指と中指を立てた。

「まず、君に対しては太陽神を人質に取らせてもらいました。
君が聖杯戦争に参加しないのであれば、ジャンヌと我が最後の大隊が……君の信仰を全て、ぶち壊しにすることだろう」
「……どういうことかな」
静かな怒気が少年から湧き上がる。
太陽すら凍てつき――腐り落ちるような冷たい怒りに、ルーラーはただ「おおコワいコワい」と言って笑った。

「次にジャンヌ……おっと、ライダーのジャンヌ。君に関してはシンプルにいこう。
三度目だ……聖人認定なんてもんじゃない、キリストの墓を利用して君を神にしてやろう……どうかな?」
「……別にキリストになりたくて、やったわけではありませんが……」
ライダーのジャンヌは、静かに笑った。

「ええ、わかりました……そういうことならば、もう一度やらせていただこうかしら」
「……さて、ライダーのジャンヌは聖杯戦争に乗った。
さて……キャスター君、君は聖杯戦争に参加しなければならない、自分の信仰を守りたければね」
「……何故、戦わなければならないのかな、ちゃんと説明してよ、さもなければ、呪い殺してやるよ」
「簡単なことさ、この日本だから出来ることをやる。
バアル・ゼブルがベル・ゼブブになってしまったようなことを、君達にとって最悪な形でやらせてもらおう」
「……今、ここで君達を殺すと言ったら?」
「無駄だよ、生まれが特別な者に私を殺すことは出来ない。私を殺すことが出来るのはなんでもないような普通の人間だけさ」

ルーラーは立ち上がり、ドリンクバーへと歩き出した。
無防備の背をキャスターに向けて。

「試してみるかい」
「……殺したい殺したい殺したい、殺したくてしょうがないが……ボクにはどうやら出来ないようだ。
そして、わかった……やってやるさ。このくだらない聖杯戦争とやらに、乗ってやろう」

「よろしい!では皆が納得してくれたところで聖杯戦争を始めよう!!」
4つのコップを持って戻ってきたルーラーが、1つずつ参加者の前にコップを置いていく。
聖者は己の血と称してぶどう酒を注いだ。
だが、この調停者が注ぐものはリンゴの――知恵の実の果汁である。

「聖杯を狙う四人の者に!今ここで生まれゆく四つの杉沢村に!現実と異世界を繋ぐ四人の殺人者に!
そして――何時か訪れるであろう……誰かに!!乾杯!!」

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でうす 幻創神話領域 青森 いんへるの

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最終更新:2017年05月25日 20:57