佐渡島の夜明けは近い。
多くの兵は倒れ、いなくなった。
「これで……最後!!」
「ノッブ!?」
刃が鋭く走り、貫く。
最後の一体のちびノブを倒した。
「これで終わりか……」
「ええ……ところで先程の……」
「ああ、あの男か。そういやいねぇな。さっきまでいたんだがな……」
「ちびノブにやられたんでしょうか?」
「いいや、それはねぇな」
「?」
煙管に火をつけて一服。
煙を吐き、土方は沖田に答える。
「あの男は自分のやるべきことをやりに行ったんだろうな。
……沖田、お前にも今すべきことがあるだろ?」
「………はい!」
そして、沖田は勢いよく地面を蹴り、要塞城に乗り込……
もうとした時であった!!!
「……ん? なんだ、ありゃ?」
「土方さん、どうしたんですか?」
「沖田ァ! 上からなんか来るぞ!! 気を付けろ!!」
「はい?」
ふと、上を見上げた土方が叫んだ。
そこには……
「 ……あれはマスター? 空からマスターが!」
人影が4人ほど見えた。
「藤丸、着地の衝撃に備えやがれッ!!!」
「いやいやいや!!!!!」
「……あまり騒ぐな、舌を噛むぞ」
「綱殿も季武殿も落ち着きすぎです!!」
下から順にキャスター、謎のサーヴァント、巴御前、そして、藤丸。
そう、沖田には見えた。
「沖田ァ!! そこどけ!!! ぶっ飛ばすぞオラァッ!!!!」
「……邪魔だ」
下の男二人が同時に地面に向かって抜刀。
そして、地面に向けて斬撃を同時にぶっ放す。
着地の衝撃を斬撃で最小限に抑えたのだ。
…………物理法則もあったもんじゃねぇな。
◆ ◆ ◆
「つか、久々だな、季武!!」
「ふっ、そうだな」
少しばかり時は遡る。
上の階層を目指していた立花、巴、綱、季武の4人。
「えっと、綱さん?」
「どした、藤丸?」
⇒「その……アーチャーさんについて少し聞きたいんですが?」
「あのアサシンについて少し聞きたいんですが?」
「季武のことか?」
「はい」
「一緒に居たのにあまり会話とか出来なかったのか。
まあ、ご覧の通り無口で無愛想で相当な変わり者だからな、こいつは」
「それはよくわかりました」
「……そう見えてたのか?」
少しばかり落ち込んでるようにも見えた。
この城で立花と一緒に居た時間長かった。
しかし、季武は立花のことを気にかけてはいたが、自分のことをほとんど喋らなかった。
「とりあえず、眼がとんでもなくいい。
どんな遠くの物でも見通せて、雨の一粒すら見切る程度には」
「そうでもない……俺は『モノの弱い所』が『視える』だけだ。
……視力の良さはその副産物みたいものだ」
「『モノの弱い所』……それってまさか『モノの死』が視えるってことですか……?」
「そんなことはない。
もし『死』なんてモノが視える眼を持つ奴なんかがいたら……まあ、きっとそいつは化け物だろうよ」
(その化け物、今カルデアにいるんだよなぁ……)
立花の脳裏を『彼女』が少し過った。
それとアーチャー・卜部季武の同時に分かることもあった。
どこまでも『普通の人間』の価値観を持っている、と
「……そして、何よりも季武の奥さんの姫松ちゃんは美人でいい女だぞ」
「そ、それは…………言うな///」
(あっ、すっごい照れてる……
そういえば、あのライダーに奥さんのこと言われた時もそうだった気がする……)
あのライダー。
初見じゃよく分からない存在だったが。
間違いなく大物であることは分かった。
しかし、一体何者なのか、立花には見当も付かない。
装飾品等でたまにわかることもあったが、バスタオル一枚だったので、本当分からない。
「あと、あのアサシンは……」
「ああ、あいつか」
『……あのアサシンは……かつて季武さんの妻と綱さんの刀を盗んだという伝承がありますね』
「おっ、マシュの嬢ちゃんよく知ってるな」
『そういう話を聞いたことがあります』
「……何故そのような経緯になったのかも分かっているのか?」
『ええっと……それは……はい……』
「そうか……知ってしまったのか……」
また季武から殺気が出てきた。
これは完全に地雷の話だということがカルデアにいるマシュでも察した。
すぐに話題を変えたいところであった。だが……
「落ち着け、季武。マシュの嬢ちゃんがビビってるだろうが。
マシュの嬢ちゃんだって別に悪気があって言ってるわけじゃねえんだからよ。
……殺気はしまっときな」
綱が空気を読んだのか。
間を取り持つように言葉を紡ぐ。
「……すまんな……だが、どうも、奴の事になると……俺は自分を保てなくなるらしい。
……大切なものを守りたいって気持ちは誰にでもあるはずだ、アンタらにも」
「…………そうですね、わかります、季武殿」
「…………そうだ、忘れるな」
「つうわけで、この話は終わりだ」
強引に話を切り上げた綱。
藤丸は頼光四天王のうち三人とその総大将にしかあったことがないが。
それでも十分に個性的なメンツ。
頼光さんは戦闘以外普段緩い感じだから。
きっとこの人がまとめてたんだろうな、と思う立花であった。
そういえば……
「綱さん、キャスター適正ってあったの?」
「さあな? あのアサシン女が都合よく弄っただけだしな。
専ら俺はセイバーとしてされるのが一番だし、ここにもセイバーとして召喚された。
まっ、俺に適正あるとしたら『ハルアキラ』に少しばかり札術のコツを聞いた、それっきりだ」
「『ハルアキラ』……?(……って誰だ!?)」
「ちょっとした知り合いだ。
陰陽道だけに関してだけぐうの音も出ないほど天賦の才持ってる奴だ。
それ以外は、な…………まあ、そいつに仕方なく少しばかり教えを乞うてもらったことがある。
自分の家を一種の魔術要塞に改良する程度には教えてもらった……それでも倒せなかった鬼がいる……がな」
(その鬼、今カルデアにいるんだよなぁ……)
(……茨木のことですね、わかります)
「もし願いが叶うならば……俺はその鬼に会う」
「【倒す】ではなくですか?」
「たりめーだ。俺を誰だと思ってやがる?
天下の頼光四天王筆頭・源綱だぜ?
……俺と髭切の太刀に斬れないものなど……あんまりない!!」
自信満々のようで、言っていることは意外に弱気。
実際に先ほどのアサシンの宝具を斬れてないことを考えると妥当である。
その直後、先を歩いていた季武が何かに気づいた。
「……何か匂うな」
「ああ、火薬くせえな……」
「火薬……?」
「まさか……?」
立花はよく周りを見渡す。
周りには円筒がちらほら見受けられる。
「マスター、これは一体……」
ここで立花はあることを思い出す。
巴たちがここにいるということは彼らもここにいるんだろう。
そして……
―――要は俺ちゃんがあの城を爆破して終わりだ!
「バーサーカーだ……あの人、ここを爆破する気だ。
まだ私たちが残っているのに……」
「あの野郎、正気の沙汰じゃねぇ……」
「正気ではないからバーサーカーなんだろうよ」
「仕方ねぇ……こっから脱出する」
「はい?」
「聞こえなかったか? 脱出すんだよ」
「どうして……」
「テメェの身の安全が第一だ、馬鹿野郎ォッ!!!!」
「!?」
今まで一番デカい声。
キレているのは立花の目に見えて分かる。
「……マシュの嬢ちゃんと約束しちまったからな。
『絶対に取り返す』ってな。家に帰るまでがなんとやらだ。
ちゃんと元の場所に戻すまでが『取り返す』ってことじゃねぇのかな?
……それに生きてなきゃ、テメェの手で何も救えねぇだろうが……!」
『生』に対する執着。
それは恐ろしいまでに。
「あのう……それじゃあ、ライダーの相手は!?」
「知らん! あの二人がなんとかするだろ」
「綱殿、あの二人を結構信頼しているのですね」
「馬鹿言うな……先に行ったのはああいつらだ、それになんか策くらいあるだろ」
「……で、脱出ってどうやって階段?」
「生憎、俺らは荒事に慣れている。なあ、季武」
「……後始末はあまり得意ではないのだがな…………そこだ、綱!」
「んじゃあ、せーので行くぞ!」
「……御意」
男二人が徐に壁に走って近づいていく。
そして、おもいっきり勢い付けてから……
「せーの! オラァァァッ!! ……って言えよ!!」
「……結果が全てだ、重畳な結果を得られればいい」
綱と季武は二人で壁を文字通りに蹴破った。
あまりにもあっさりと壁が崩れて外が露になった。
「さてと……しっかり捕まってろよなぁッ!!!」
「えーっと、その、つまり……?」
「……飛ぶぞ」
「無茶苦茶だーーーーーーーー!!!!」
「……無茶だが、歩いていくよりは幾分か安全だ」
「どういう……」
「マスター、後方から火の手が!!」
「はい……?」
ヤバい。なんか熱い。
「つまり、そういうことだ。
恐らく貴様が今考えてるよりも10倍はひどい状況だ」
「あのアサシン女のあの金色の奴のせいだろ……ビームとかぶっ放してきたからな」
あー……と立花は思ったが。
『そういう綱さん、貴方も刀から炎出してましたよね』とツッコミたくなった。
が、今この状況、そうも言っていられない。
「俺もセイバーだったら、『髭切』からビームくらいは出せたんだろうな」
⇒(何それ、ちょっと見たい)
(この人も聖剣脳の持ち主……ッ)
「いや、そんなこと言ってる場合じゃねぇな。
……あのアサシン女、人の霊基を弄って戻さず勝手に消えやがって……。
まあ……今は生きて帰るぞ。確率が高いのはこっちだ。
いざとなりゃあ、俺を踏み台にしてでも生き残りやがれ」
そして、立花たちは飛んだ。
◆ ◆ ◆
「なんとかなったの?」
⇒「皆、無事!?」
「私は無事です」
「たりめーだ、俺をなめんな」
「……無事だ」
地面に叩きつけられることなく着地した。
勿論、全員無事であった。
「マスター……いきなり上から降ってくるなんて危ないじゃないですかー」
「沖田さん! それに土方さん、なんでここに……?」
「そいつに呼ばれたからな」
「その格好は?」
「服装は気にするな」
だんだら羽織にその下に洋装といつもとは違う服装だが、紛れもなくカルデアの土方歳三であった。
そういえば、なんかそういう宝具を沖田が持っているとかいないとか聞いたことがあった。
「これで任務完了と言ったとこだな」
「綱さん?」
軽い屈伸運動。
綱はまるで準備運動の動きをし始めた。
「藤丸、テメェは安全なところまで退いとけ。
あとは……任せな」
「綱……もしやとは思うが、またここを昇るのか?」
「そうだ、溜まってるものを吐き出さんと爆発するだろ?」
「そうか……だが、あのライダーは相当だぞ」
「季武、アイツとどっちが強い?」
「同等かそれ以上……それ以下は決してない」
「上等だ」
口角を吊り上げるように笑う。
そして、綱はは勢いよく地面を蹴り、再び要塞城に乗り込……
もうとした時であった!!!
要塞城、最上階が物理的に大爆発を起こし、炎上し始めた。
最終更新:2018年05月06日 23:58