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第2節:旅は地獄に道連れ(4)





『――――いいよ。力になれると思う』

 僅かな逡巡もなく、少年はアーチャーの申し出(きょうはく)に頷いた。


 契約を結んでいなくとも、マスターとサーヴァントというだけで、一方的な隷属関係と思い上がる輩は多い。
 脅かすために弦を手繰った、その指に苛立ちが絡む。
 寝呆けているのか、この状況で。

 冥府からの帰還というのは、神代の偉業だ。

 果実を口にしてはならない。
 帰り路に振り返ってはならない。
 思い至るだけでも、両の指で足りぬほどの制約がある。
 冥府に落ちたものは、その経緯を問わずして、冥府の縛りに囚われてしまう。


『意味分かってねェようだから、もっぺん丁寧に教えてやる』

 ましてや、どんな偶然が重なったのかは知らないが、一介の素人魔術師が。

『俺ァ今、お前に、俺と一緒に死ねっつったんだよ。なに即答してンだ、馬鹿』


『違うよ』

 その声を、よく値踏む。

 謀事を企むにしても、虚勢を張るにしても、表情を繕おうとする人間は多い。
 だが、声というのは旋律だ。
 心情を奏でるものである以上は、奏者の本音は隠し通せない。

『冥府にを下るのに、案内人が欲しい。そう言ったんだ』

 心拍数より、やや早い。
 その喉元に向けて、こちらが矢を番えていることを、理解はしているらしい。

『経験豊富、だなんて、口が裂けても言えないけど……エネミーとか、共通のものは、あると思う』

 裏拍はなし。馬鹿正直め。
 底企みはないようだが、だとしたらますます、たちが悪い。

『俺も、通信が回復するまで、遊んでいるわけにいかないし』

 危険を認知していないのか。
 或いは、肝が据わっているのか。
 いずれにしても早死にの相だ。蛮勇は、案内人には向かない。


『はぁ……テメェの庭で遠足(ピクニック)気分か?』
『そっちが誘ったんじゃ……』
『いや、そうだ、そりゃその通りだけど、違うだろ!』

 数多の英霊と契約を交わした、と聞いたが、この分ではどれほど誇張があるか。
 僅かでも戦力と期待したのが、今はただ空しい。

『他人様の用向きで、ちょっくら顔出してくるわ、って場所じゃねェっつってんだよ!』

『……えーっと、アーチャーだけの用事じゃないっていうかさ』
『あ?』
『正直な話、俺の方が、アーチャーを頼りにさせてほしかったんだよね……』

 今度は、思わず指が滑りかけた。

 聞き間違いか。
 それは、サーヴァントがなくとも一人で冥界を下るつもりであった、とでも。

『……特異点、つったか。この街道が、冥界に繋がってるのが』
『……たぶん。どちらにしろ、一度は調査しないといけない』
『ごくろーさん。で、そりゃ、お前の都合だな?』
『うん……だから、無理強いは出来ない』
『……阿呆め』

 交渉下手にも程がある。
 いや、交渉のつもりすらないのだろう。
 こちらが有利になるように、下手に出てどうする。

 気恥ずかしそうに笑う顔。
 ぷちん、と、弾ける音がした。

 慌てて、手元を見下ろす。
 弦が切れた、 ……ワケではない。
 安堵している自分にまで、ふつふつと怒りが湧きあがってくる。


『――――いいか! 冥界ってのは底無しの臓腑だ!
 テメェがどんな豪運で何度も戻ってきたかは知らねェが、
 フツーは一度潜ったら最期、同じ姿で戻って来れる保証なんざねェんだ!』




『そんなの、今だってそうだよ』



 誰が言ったか、音楽家のサーヴァントは耳がいいのだ、などと。



(ああ、クソッタレ、)


 恐怖など、感じないワケがあるか。


(こっちが本音か)


 サーヴァントは、その能力の行使に必要とされる最適の年齢を基点に形作られる。
 気付かなかったのは、耄碌したからではない。

 どれほど擦り切れたら、こんなにも、押し殺すのが上手くなるというのだろうか。







『~~~~~~~~~~~ッ、共同戦線だからな、テメェッ!!!』

『本当!? ありがとう、アーチャー!』

『ふざけんな!!!!!!!』





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最終更新:2018年12月07日 02:11