Not Title
キャスト
男:実際には存在しそうで、絶対あり得ない話を聞かせてやろう。
2021年4月42日31時2分。
俺はね、正直人が、ぶぅわあー、っているところはそんな好きじゃないんよ。
けど、この日は特別にネットで知り合った友達に会いに東京に行くことになった。
新潟に住んでるけど、まあ、たいした距離じゃない。
とりま車で行こうかな、そう思って車にエンジンをかけた。
そのまま国道を進んで高速に乗って……。
……お前聞いてるか?
弟:うん、聞いてる。
男:……(軽いため息)でよ、東京に着くじゃん。
そっからだよ、俺の不思議な体験。
弟:不思議な体験?
男:そ、不思議すぎて、訳分からんくなる。
俺が覚えてる映像そのまま見せてやるよ。
男<ふんふーんふふふんふーん Still a Friend of Mine~♪(渋い感じで)
男:道の交差点に出た時よ、いきなり飛び出してくる奴がいたんよ。
男<うぉぉぉ!!!! あぶねぇぞこの野郎! どこ見てんだこらぁ!!>
男:窓あけて怒鳴ったらよ、飛び出してきた奴がこっち来たんだよ。
んで。
兄<なんだ? なんか言ったか? おい>
男:って言われた瞬間にさ……なんか一瞬だけど、真っ白な空間に入ってさ。
通路があって……よく分かんねーけど、とりあえずそのまま真っ直ぐ進んだら、また元の交差点に戻って……。
……まぁ、これが何だったのかは後で見せるわ。
……そんで飛び出してきた奴に車から引きずりおろされてよ、いきなり殴りかかってきやがった。
兄<なんだよ! おい!! あぁ!?>
男<んだこら、やんのかおらぁ!!>
男:よく考えてみろよ、道のど真ん中だぜ? 本当バカだよなー、俺。(笑いながら)
で、こっからだよ。
俺たちが喧嘩してるときによ、止めにきてくれる人がいたんよ。
『おい! やめろ!』ってな。
兄<この野郎!>
男:でさ、その止めに入った男がよ、俺に喧嘩ふっかけてきた奴と目があった瞬間にだ。
固まったんだよ、その、喧嘩を止めに入ってきた男が。
弟:固まった? どういう風に?
男:なんだろ……髪の毛もフワッてしたまま止まってんのよ。
目が合った瞬間だぜ?
ほんっとにピタッ、と止まってよ。
兄<お前は引っ込んでろ>
男<お、おい、お前……え? なんだ、ど、どうなっちぇんの?(噛んでしまう)>
男:当然さ、めっちゃ長い間、交差点のど真ん中で喧嘩してるから、みんな車から降りてくるわけよ。
中には気の強そうな女も喧嘩の仲裁に入ってきたんだけどよ。
SE ぴきーん
男:まーた止めに入ってくる女も、ピタァァ、っと止まっちゃうのよ、奴に目をあわせると。
で、その俺に殴りかかってきた……名前何つったっけな……映像見てみるか。
男<なんなんだよあんた……!?>
兄<人間にタイトルなんていらないだろ>
男<はぁ?>
男:あー、思い出した。
名前は名乗ってないけど、俺が勝手に名前つけたんだよ、自分の中で。
この人はタイトルさんだ。
弟:タイトル?
男:ああ、なんかその後もずっとタイトルタイトル言ってたからさ、タイトルさんみたいな。
弟:ふーん……。
男:そんでよ、そのタイトルさんが急に周りをキョロキョロしだしたんよ。
兄<……(ため息)>
男<な……どうしたん……ですか(思わず敬語)>
兄<喋るな>
男<え、ええぇぇぇ……(悲しそうに)>
男:……で、気づいたらよ、周りの人全員止まってんの。
ドアを開けた瞬間で止まってる人とかさ、走って俺らの殴り合いを止めようとしてる人とかも、宙に浮いたまま止まってんのよ。
男<……なにこれ どうなってんの?(夢かと疑いながら呆れて笑う感じで)
……え? いや、嘘だろこれ>
兄<過去も未来も存在せず、あるのは現在と言う瞬間だけだ。
お前に現在を生きる資格は無い>
男<……何? どういうことよ、それ>
男:で、俺がまばたきした瞬間にタイトルさんは消えちまったんだよ。
男:<……?
おい、どこいった、おい!?
……なんだ……どうなってんだ、こりゃ……>
男:本当に面白いもんでよ、みぃ~んな止まっちまってんだよ。
最初はそのタイトルさんと目をあわせた人だけ止まるって思ってたけど、関係ねぇ、世界中みーんな止まってんのよ。
そっから車置いたままいろいろ街歩いたんだよ。
男<……いや……え?(変すぎて笑ってしまう)
車も全部……止まってやがる……煙も……TVも……>
男:そのままいろいろ歩いて夜になっちまってさ、映画館を見かけたんよ。
どうせみんな止まっちまってるし、疲れたから勝手に中に入って寝ようと思ってさ。
そしたら……。
男<え? ……映画だけ動いてる……なんだこれ>
男:んで席に座って、流れてる映像だけ……でも、なんか映画自体はやってなかったんよ。
ほら、本編が始まる前の広告とかCMだけが流れてて、それ見てたら……。
男:<およ、前列に座ってる人がおる。
……?>
男:静かに歩いて誰なのか見ようとしたんだよ。
ほんなら……。
兄<なんだ、お前も映画を観にきたのか>
男<……! ……なんで……ここにいるんだ……>
兄<なんでって、俺は映画を観にきてるんだ。
お前もそうだろう?>
男<……いや……まぁそうだけど……>
兄<まぁ冗談だ。
……お前がここに来るまで待ってた>
男:<いや、来るまでって……俺が来なかったらあんたどうすんのよ(半笑いで)>
兄<それでも、ここにいただろうな。
別にそんなのはどうでもいい、お前に話さなきゃならないことがある>
男<……なんよそれ……>
兄<あの交差点でお前が俺の迷路に入ったとき、他の人間はどうか分からなかったが、お前だけ早く脱出した。
……これは覚えてるか?>
男<はあ?……全然。
なにそれ 迷路って……。
あー、いや、分からんけど、あの白い空間のことか?
それなら多分覚えてるぞ>
兄<そうか、頼みがある。
俺、もうすぐ死ぬんだ。
中に弟がいる。
助けてやってくんねぇか?>
男<は? 何……え?(必死に理解しようとする)>
兄<俺の中の迷路にさ。
弟が迷い込んでんのよ。
よろしく頼むわ>
男:そう言われて、なんか頭がボーっとしてさ。
気づいたら真っ白の空間で、目の前にダイニングテーブルがあって。
一人の男が座ってたんだ。
弟:で……俺か。
男:……ああ。
弟:……兄貴なぁ……俺、いたかどうかも忘れてる。
男:え?
弟:なんかここに来た時から、言葉とかは覚えてるけど、同じ人間との思い出が一切無いんだよ。
男:ここに来た時から……かあ……俺もなんか忘れてんのかな。
弟:例えば、家族とか。
男:……あぁ……覚えてねぇ……ちょっと待てよ……。
(深呼吸して)……えーと……。
弟:無駄なんだよ。
よくさ、言うじゃん、人の顔を思い出せなかったら、その人と会話した場面を思い出すといいって。
でも、その場面さえ覚えてないんだよね。
男:あー……ダメだ……なんでだろうな。
弟:そのー……俺の……兄貴? かわからないけど、なんかしつこく言ってる言葉あるじゃん?
男:……あー……タイトルがどーたらこーたらゆうてたな。
弟:そう、それだ……えーと……人間にタイトルはいらないだろ、でしょ。
男:(すぐに返事)ああああ、そうそれよ。
弟:(すぐに)あれの意味分かる?
男:……分かんねぇ。
弟:自分がああやって周りの人を止めちゃうから……。
人間って、一人一人にストーリーがあるじゃない?
で、そういう実際の話をドラマなんかにしてさ。
そのドラマにも、映画にも、タイトルっていうものがあるじゃない?
でも、その俺の兄貴?……は、結局、ストーリーを作りたくても相手がいないから、ストーリーができないんだよ。
当然、ストーリーが無いからタイトルができない。
だから他人に、俺の辛さを理解しろって、ああやって人間を止めて、動き出した人間から
「人間にタイトルなんていらねぇんだよ」って言い続けてる。
男:……なんでそれ知ってるの?
弟:よくアニメとかでもこういう台詞あるでしょ。
『なんとなくわかる』(強調して)
男:……なるほど……な……。(意味深に)
弟:で、本題は?
男:あー……お前を助ける……だってよ。
どうやってだよ、まったくよー……。
弟:助ける、てよりも、簡単に外に出られるんだけどね。
男:ああ、このドア?
弟:(すばやく反応)うん それ開いてるよ。
男:……なんで知ってて自分から出ないんだ?
このドアを出れば、その……迷路から出られるんじゃないのか?
弟:多分出たら、また記憶が無くなる。
で、今あなたから聞いた話も全部消えるだろうから、兄貴がいるっていう認識ができなくなる。
だから……俺はここにいたい。
男:はぁ……それじゃ、俺どうすっかなぁー……。
弟:ここにいる?
男:いてもいいけどなぁ……俺も家族の顔は思い出せんけど、家族がいるってことはわかるから、そっちに戻らんとなー。
弟:残念だけど……多分出たらあなたの記憶も消えてしまうよ。
男:あー……まいったねそりゃ。
弟:だからこうしてのんびりして座ってる。
男:なるほどなぁ……お前の気持ちがよく分かる。
弟:ここで兄貴を待つ。
男:……待つったって……こないだろ?
弟:待つっ!(強い意志で)
男:っ……。(少し驚いたように)
……あ~、分かった、じゃあ俺も待つよ!(めんどくさそうに)
弟:……時間だ。
ちょっと行ってくる。
男:は? お前、そのドアを出ると……。
弟:診察と定期検診なんだ。
全く、医者の方から来て欲しいよね。
男:あ…………そう……だな……。
SE:ドア
男:(ため息)……ついさっきまで自分が喋っていたことも忘れちまったのか……。
今までの記憶から、新しく覚えたことまで、次々に忘れちまう。
俗に言う健忘症とは違うらしいけど……。
未だに原因も治療法も分かっていない病気……か……。
SE:ドア
兄:原因も治療法も分かっていないから、病名……タイトルもつけられない。
男:……兄貴……? いや、タイトルさんというべきか。
兄:サンキューな。
さっき弟とすれ違ってきた。
以前より生き生きしていた。
……ま、俺のことは分かっていないみたいだったけどな。
男:そっか……。
しかし、でけぇ芝居したもんだ。
兄:いいんだ、あいつはもう全部忘れてるだろう。
中身がなければタイトルの意味はない。
だからこの芝居の台本はNot Titleだ。
男:台本、ね。
そういや、弟さんがだいぶアドリブをきかせてたみたいだったけどな。
お前が「人間にタイトルなんていらねぇんだよ」って言っているのは本当なのか?
兄:……どうだろうな……医者が言うには、心因性の要因から、解離性障害もあると言っている。
簡単に言えば、弟の中のもう一人の人格が勝手に俺の人物像を作り上げてしまっているということだ。
……弟の言っていることが事実かどうかは……お前の想像にまかせる。
男:へいへい……んじゃ、俺は帰るぞ。
兄:ああ……ひと時だけでも、本来の弟の姿が見れた。
礼を言うよ。
……本人の記憶には残らない……ただの俺のエゴかもしれないけどな。
男:いいんじゃねぇか、こんな兄貴を持ったあいつは幸せだと思うぞ。
弟さんの方も、兄貴の存在は記憶に留めておきたいみたいだったしな。
じゃ、またな。
兄:ああ。
END
最終更新:2011年07月16日 07:59