最後の審判




題名:最後の審判
原題:The Final Reckoning (2019)
著者:ロバート・ベイリー Robert Bailey
訳者:吉野弘人
発行:小学館文庫 2021.12.12 初版
価格:¥1,100


 胸アツ四部作の掉尾を飾る力作の登場である。前作が三作目なのにタイトルが『ラスト・トライアル』。そこまでを読んでいない方には、このレビューは前作含めてのネタばれなのでご注意。しかし……。

 そもそも第一作『ザ・プロフェッサー』から癌を患ってしまった老主人公なので、第三作目で再発し、第四作目での確実な死が予告されている物語である。読み側としての覚悟はネタばれでなくてもある程度求められるのが本シリーズを通しての「時は過ぎゆく」という大テーマであるかに見えてくる。

 こうした哲学的テーマの重低音の上に展開するのが今回は、血の匂いが絶えないような最大の敵手ジムボーン・ウィーラーである。まるで全身武器のような女殺し屋マニー・レイエスは前作ほどの主役感は見せず、本当に単なる人間凶器としてのみジムボーンに合流する。

 本書はいきなりトム・マクマートリーへの復讐劇を展開しようというジムボーンの脱獄劇という思いがけぬ導入部から、アクション、スリラーとしての黒さと残虐性が前面に出される。胸アツの物語は、エンタメ度の向こうに少し影を潜めそうになってどこか勝手が違う第四作であるのだが、ラスト近辺まで気が抜けない張りつめた悪玉側のストーリーテリングとは対極的に、トムのチームのそれぞれの繋がりをまたまた胸アツでドラマティックに仕上げてゆくのでご安心を。

 リック・ドレイクとトムの弁護士パートナーたち、さらにトムの魂の息子とも言えるボー・ヘインズ、いつも存在感のあるパウエル・コンラッドといつもコンビを組むウェイド・リッチーなどなど、物語の非情な展開に否応なく巻き込まれる。実は第一作で既に導火線に点火されていたこの物語は、トムが率いるアメフトチーム最後の闘いなのだ。

 そのアクションの裏側で、去り行く者が若手に引き継ぐもの、最愛の孫に引き継ぐもの。避けられない死、生きて残してゆくものの重さ等々を、後継者たちが体感し、記憶する。そしてさらに後継に引き継いでゆくという、人間の生きる時間への賛歌とも言える四部作シリーズであった。

 遺された者たちの次なるシリーズが楽しみである。特にセカンドステージの主人公としてボーが抜擢され、本作で意外な存在感を示したヘレンも、一層の活躍を見せるようである。人も物語も引き継がれ語り継がれてゆく。第一作から、過去の実在するフットボール・プレイヤーへの尊敬を示していたトム・マクマートリーの物語はここで終わったのかもしれないが、彼の魂はボーたちの次の物語の中で受け継がれてゆくに違いない。

 ともあれ、素晴らしいこの胸アツ四部作には燃えさせて頂いた。先日のリモート読書会では翻訳者の吉野さんを迎えて盛り上がりました。作者、翻訳者、そして読書会の仲間たちに改めて深く感謝を申し上げます。

(2021.12.31)
最終更新:2021年12月31日 11:39