優等生は探偵に向かない




題名:優等生は探偵に向かない
原題:Good Girl, Bad Blood (2020)
著者:ホリー・ジャクソン Holly Jackson
訳者:服部京子
発行:創元推理文庫 2022.7.22 初版
価格:¥1,300


 前作で新鮮な面白さを披露した作者。過去の二つの死をめぐって元気溌溂な少女探偵ピップが大活躍を見せたが、第二作ではっきりしたのは、それぞれが独立した作品と言うより、三作で完結する連続シリーズと考えた方がよさそう、ということだ。前作『自由研究には向かない殺人』から直結したプロローグとなるので、のっけから前作のネタバレが念入りというほどにされている。いきなり本作から読もうとする方はストップ! 本シリーズを100%楽しみたい方は、まずは前作と言うスタート地点へどうぞ。

 本作は前作の容疑者の法廷裁判中、新たに起こった行方不明事件をピップが依頼されるものである。ピップはもう探偵仕事はやめようと決意しており、持ち込まれた依頼に対してあまり気が乗らなかったものの、行方がわからなくなったのが友達の兄であるため、ポッドキャストを使っての情報のやりとりをする。ポッドキャストとはネットでの音声ファイル公開であり、ここでは公開捜査として使うことをピップは思い立つ。音声での情報公開とそれを日々更新しつつ、広く情報を募り、集まった情報と進捗をまとめて発信する。いわば私的公開捜査システムと言うべきか。

 スマホのアプリにより、持ち主の足跡を時間軸に従って追跡する手法など、相変わらずディジタル&ネットを駆使した現代っ子ならではの捜査新鮮で、小説としての前衛的表現としても斬新であり、かつ変化に富んで読みやすい。

 かと言ってストーリーがスムースに進んでくれる物語ではない。女子学生ピップ。心理状況や人間関係、初の探偵役を経験することになった前作とは異なり有名となったピップの今の状況、彼女の捜査方法の是非を内外から問われつつ情報を集めることの難しさ、等々、リアル要素も多々与えられるため、捜査進捗も忸怩たるところ。読者はピップを応援しつつも、難しい彼女の立場や素人捜査の難しさを我らがヒロインとともに体験させられることになる。

 しかしその構図こそがこの作品の醍醐味でもある。素人探偵であるゆえの困難と限界を覚えながらも、敵対する者たちを強引に視界の外へ追放しつつ、捜査の価値や必然性、彼女としての使命感などを一途に唱えて突き進む少女の勇気に読者は心を持って行かれると思う。そして彼女を支える友情もよいです。ほんわか!

 後半、唐突に事件の見え方が一気に変化する。いささか唐突ながら、過去の犯罪がピップに反撃してくる状況となり、この辺りからはジェットコースター感が高まり、ほとんどの読者は巻置く能わずの状況に追いやられることだろう。前作同様のページターナーぶりを、表現の多様さの中で思い切り味わいながら、最後の最後まで読者は突き進むことになるだろう。

 それにしても一作目と比べて、スッキリ感がこない。連続シリーズの経過作との印象だけはぬぐえないのである。きちんとすべてが解決するカタルシスのためには、三作目が待たれるだろう。この座りどころの悪さも、いわば面白さのうちである。それらは基本的には次作を待つエネルギーとなるだろう。最終的な拍手を送るには最終作品がどうしても必要な状況となってしまったからである。ううむ。

(2022.8.16)
最終更新:2022年08月16日 15:24