すべての罪は血を流す




題名:すべての罪は血を流す
原題:All The Sinners Bleed (2021)
著者:S・A・コスビー S.A.Cosby
訳者:加賀山卓朗
発行:ハーパーBOOKS 2024.05.20 初版
価格:¥1,450


 一作目『黒き荒野の果てに』もパンチ力があったが、『頬に哀しみを刻め』は文句なしの凄玉だった。白人と黒人の双方とも息子を殺された父親というダブル主人公。しかも息子たちの関係はホモセクシュアルであったという、社会的受難を二重三重に受けた中年二人が、人種の壁を乗り越え協力して犯罪者であり差別主義者である連中と闘ってゆくあまりに胸アツの作品であった。毎年一作ペースで、今年も例によって一作、そして毎度のことながらテーマは人種間の軋轢、差別、そしてそれが起こす犯罪である。しかし、本書は一つの犯罪だけではなかった。読者は、ある街の過去にまで遡る犯罪の犠牲者たちの堆積、そして現在も起こる山のような人種差別の暴力に対峙しなければならないのである。

 本書は黒人警官タイタス・クラウンのまずまずの日常が、事件の勃発によって破られるところからスタートする。現場に駆けつけると、高校で白人教師を射殺した黒人青年が警官たちに包囲され、うち一人の発砲によって射殺される。いつもの通り劇的な幕開けだ。

 しかし射殺された白人教師の携帯電話に遺されたビデオには陰惨な殺人動画が遺されており、多くの黒人たちが惨殺されその死体が隠され埋められているという大事件に発展する。動画に映っていたのは複数の名のある人間たちで、それを捜査する保安官が黒人主人公であるタイタス。彼はFBI出身の優秀な人材だが、この町で黒人保安官であるゆえに敵も多く、陰湿な攻撃に晒されつつの捜査という苦境の中で孤立しつつ闘う運命となってゆく。

 捜査を進めるうちに数人の隠れ差別主義者による暴力が明らかになってゆく。土の下から掘り起こされる複数の黒人児童たちの亡骸。動画に映っていた黒人の子供たちの虐待と殺人のシーンなどから、三人の白人が浮かび上がる。うち一人が射殺された教師だったことに町は揺れ動く。尊敬される教師であった人物が実は黒人児童を殺害して動画に撮るような男であったのだ。

 黒人警官であるゆえに差別や暴力と闘わねばならない構図。コスピーが前作でも前々作でも書いてきたテーマである人種差別と、そこから生まれる暴力。人間というよりも野獣のような残酷さ。そして社会がそれを更生し切れずにいるアメリカ南部という隠された地獄。それらを今なお描き出し、闘おうとする作者並びに主人公の保安官。どうにも落ち着きどころのないテーマを描いて三作目。

 本書は初の警官主人公というど真ん中のヒーローを軸にして、街を揺り動かす連続人種差別事件、そして埋もれていた山ほどの殺人事件の発掘というところまで繋がる人種差別組織の存在。KKKを思わせる差別と犯罪という永遠の命題に取り組み続けるコスビー作品三発目であるが、これまでで最も正面切った構図であること(FBI帰りの黒人保安官が主人公となって真向犯罪と対決というのはいつものコスビーらしくなく、全体に平坦なイメージ過ぎたか)、また犠牲者があまりに多すぎること、残酷過ぎることなどから、やり過ぎの評価を免れることはできないような気がするが、そこを気にしない方にはコスビー節が心地よいのかもしれない。ぼくは、ここまで過酷な作品だと、罪の深さもあまりに不快過ぎてちと読みづらかったというのが本音のところです。

(2024.10.04)
最終更新:2024年10月04日 13:46