余命一週間の探偵として
『
自由研究には向かない殺人』から始まる女子高校生探偵ピップのシリーズにハマってからこの作家はずっと読んでいる。いわゆるヤングアダルト世代のミステリー・シリーズなのだろうが、どの世代が読んでも楽しめるのは、ミステリーとしての骨格がしっかりしている上、その軽快で気取りのない一人称による語り口ゆえだろう。
ピップ・シリーズを卒業? した今も、この作者は独立系ミステリーでさらに読者を驚かす。山の中で動かなくなったキャンピングカーで、少年少女たちがあまりにスリリングかつデンジャラスな一夜を過ごすことになる『
夜明けまでに誰かが』もスリリングでとても面白かったが、本作ではまた独立作としての驚きのシチュエーションを展開してくれた。
いきなり後頭部を金槌で殴られるのは27歳のヒロイン、ジェット。思えば今までのこの作者の主人公としては最年長である。後で振り返ると、少年少女たちの登場も少なくはないのだが、作者としては珍しく全体的に大人社会に根を置いた、社会背景の中でのヤングアダルト・ミステリーなのかなと思われる。
ジェットの一人称で語られるストーリーは、誰とも知れぬ人物に後頭部を殴られ、意識は戻るのだが、余命一週間を宣告されつつ犯人探しに乗り出すという、まさにタイトルそのままのアクロバティックなもの。
普通に暮らす自宅やご近所や、町の中のさほど広くない場所で繰り広げられる、たった一週間のタイムリミット型ミステリーなのだ。作者にとっても、主人公ジェットにとっても、読者にとっても何だかとてもハードルの高いプロットである。
後頭部を殴られ、骨のいくつかが破片と化した状態で動き回り、聴き回り、探し回るというある意味とても荒唐無稽な設定は、その分、主人公をがんじがらめに縛っているように見える。これほど困難な状況に囲まれた究極的な犯人捜し小説はあるまい。
曜日を数えつつ自分の死期を見定め、犯人を見つけることが「生き甲斐」となって動き回るジェット。また彼女を助けるソウルメイトが幼なじみのビリー。二人の関係も温かく、優しいが、少しのんびりした印象のビリーが、ギターを持ちステージに立つライブハウスのシーンではキリッとした面を見せ、ジェットを驚かせるシーンは作中でも印象的だ。
町の名士たち他、多くの人物が登場するが、若くした亡くなった人が何人かいて、そうしたこともずっと気になる。それらも含めて、小さな町を取り巻く人間関係の捻れのようなものが次第に露わになってくる。
究極のタイムリミット・ミステリー。一週間という限られた命のなかで解決しなければならない自分殺人という前代未聞のプロット。ミステリーの曲芸師ホリー・ジャクソンの仕掛けたっぷりの力作である。
(2026.7.21)
最終更新:2026年07月22日 13:52