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111 名前:fusianasan[sage] 投稿日:2011/03/06(日) 14:38:39.65

「ただいま、シェリル」
「遅いじゃない」

ようやく抱きしめた愛しいヒトと初めて重ねた唇は柔らかった。

恋の衝動。
舞台の上では知っていた。
シェリルと出会ってから、何度も突き上げてきては、どんどんと強くなる、抗えない力。

軽く重ねた唇を離すと、笑いあってるのに、間近にある青い瞳から滴がこぼれた。
胸が締め付けられ、ついそのしずくを吸いに顔を近づけてしまった。

他人にこんなに近づいたり触ったりしたことなんてなかったのに、
何もかも感じたくて、大胆に動いてしまう。

わずかな塩味を吸い取り、顔を離すと、白い頬に手を這わせた。
その感触も滑らかで心地よい。


「あんた、ぼろぼろね」
「お前こそ、やつれたんじゃないか」
まだ涙をうっすらとたたえるシェリルの微笑む顔を見ると、喜びが体の底から溢れて来る。

「無事でよかった」
シェリルをもう一度抱きしめて、ふと目の前のカレンダーに目が止まった。

「って、今日、9月3日かよ!」
「えええ」
カレンダーの日付をみて二人で驚愕した。

「俺、あれからすぐ帰って来たんだぞ!」
「私だって、あんたが消えてから覚えてないわ!」


フロンティアにデフォールドしたアルトは、SMSに連絡し、
シェリルの意識がなく入院していることを聞くと、病院に直行してきた。
脱いだ壊れかけのExギアは屋上に置いて、シェリルの病室へと駆け込んだのだった。


「アルト!」「アルト先輩!」
「シェリルさん!」
仲間たちが駆けつけてきた。
(俺たちは、一人ぼっちなんかじゃないんだ、シェリル。)
見まわすとシェリルの病室は、見舞いの花で埋まっていた。

**

あれから7日。
「ねえアルト、いい天気ね。お散歩に行きたいわ」
窓からの風を受けてシェリルが眩しそうに笑った。
アイランド1がバジュラ星に降りてから、アイランド1の外気はバジュラ星に通じている。

気温も悪くない。
眠りがちなシェリルの座っていられる時間も長くなってきた。
「辛くなったらすぐ言えよ」
許可を取ると、シェリルを車いすに乗せ、病院敷地内の公園へと向かった。
頭上には本物の空が広がっていた。

アイランド1は丘の多い地形をしていて、見舞客には迷惑な話だが、この病院は見晴らしのいい丘の上にあった。
それゆえ、公園からはアイランド1が見下ろせ、その向こう側にはうっすらとバジュラ星の緑が見えた。
「わあああ」
顔を輝かせるシェリルの横顔を見て、アルトはシェリルに負けないくらいの喜びを感じてた。

木陰に陣取ったところでシェリルが両手を伸ばして何やらアルトに訴えた。
「ん!」
「あ?」
「ん!!」
両手をバタバタとふって、頬を膨らませている。
かわいらしさについ、笑いが漏れてしまう。
「なんだよ」
「下ろして!」
「お前まだほとんど立てないだろ」
「地面に座るの」
「汚れるぞ」
といいつつも、シェリルを抱えると、アルトは細く手折れそうだが柔らかな肢体を感じながら
木陰におろしてやった。
金髪を輝かせて満面の笑みを浮かべるシェリルをこのまま見ていたい気もするが、やはり体が心配だった。
後ろに座り、いつでも寄りかかれるよう、アルトはシェリルの後ろに抱え込んむように座った。

胸と腕にシェリルの温かさを感じる。
いつもキスの時に感じる心地よい香りがアルトの鼻腔を刺激した。

今までにない密着度にシェリルが顔を赤らめている。
「あの、えっと」
「どうした?」
アルトはシェリルの髪を弄んで何事もないかのように問うた。
基本的に、シェリルをいじるのは好きだ。
「座りたいって言っただけよ!」
「座ってるだろ」
シェリルは気が強いようだが、覗きこんだら目を逸らしたりもする、カワイイところがある。
「そうじゃなくて・・・何であんたまで座ってんのよ」
「俺には立ってろっていうのか?」
「そうじゃなくて!」
「だって、こうした方が、お前、体が楽だろ?ほら、もっと寄りかかれよ」
言葉がうまく選べないシェリルをクスリを笑うとアルトはシェリルを引き寄せ自分に寄りかからせた。
「・・・うん」
恥ずかしいような嬉しいような、かわいらしい頬笑みを浮かべるとシェリルが素直にアルトに体を預けた。
愛しさに駆られたアルトは腕の中のシェリルをぎゅっと抱きしめた。

「アルトはもう、バジュラ星には出たの?」
「ああ」
「本当の空は飛んだ?」
シェリルが腕をあげ、飛行機をまねてた手が空を舞う。
「ちょっと物運んだだけだけどな」
アルトも寄り添って飛んだ。
「そっか」
自分のことのように喜んでくれるシェリルが愛おしい。
「どうだった?」
「広かった。青かった。大気があったよ。それと、重力」
アルトを見つめる瞳のように美しい青だった。
「ソレじゃよく分からないわ」
「じき飛べるようになったら、一緒に飛ぼう」
「うん」
シェリルが背中から抱えるアルトにすり寄った。

胸が締め付けられるような幸せに心が酔っているようだった。
公園には自分たちのように語りあう人たちや遊ぶ子供たちがいた。
子供のころから注目を浴びなれていて、今はそばにはあのシェリルがいる。
時折、こちらを見ては、話題にされていることを感じてはいたが
そんなものはどうでも良くなっていた。

シェリルの顎に手をかけ、上を向かせるとアルトは唇を吸った。
いつも、病室で数回目にするように、シェリルの舌を探り、自分の口の中に導いた。
くちゅくちゅと水音が立つ。
一瞬抵抗したシェリルだったが、観念したのか、両腕をアルトの首にまわし、
アルトに舌を絡め、唇を吸い、甘い口付けに身をゆだねた。

周りにいる人間全員が、一瞬は目をとめ、そして呆れるくらいに唇を重ねていた二人が
ようやく、顔を離した。
「なにも、こんなところでしなくても良いじゃない」
「こんなところじゃなかったら良いんだな?」
「・・・良いわよ!」
赤らめた顔で拗ねたシェリルがアルトを睨みつけた。
あんなパフォーマンスをするくせに、こう見えてシェリルが初心なのは知っている。
そのギャップがたまらない。
嬉しくてにやける口元を思わず隠す。
「ごめん。やっと腕の中に抱きしめられたから、つい」

ベッドの上のシェリルとはどうしても、物理的に距離が開いてしまう。
病み上がりシェリルを労わってしまって、長く一緒にいることもできないでいた。

手を握って、頬を撫でて、キスして。
キスだって、初めは触れるだけだったのがどんどん大胆になって来たけど、
抱きしめる時だって、ベッドに上がり込むこともできなくて、正面から抱きしめるだけ。
シェリルが生きてて、笑ってくれるだけで良いなんて思った時もあったけど
ホントはもっともっとシェリルに触れて感じたい。

そんな悶々とするアルトを知ってか知らずか、
ふと、シェリルが何か思いだしたように真面目な表情をした。
そして、顔を赤らめる。
そんなシェリルの変化も見逃すことなく、表情豊かだなぁと
可愛さをかみしめながらアルトが眺めていると、
シェリルはアルトから身を離し、改まって正面に向かい合って座りなおして、
思案する表情で口を開いた。

「私、大事なこと、忘れてたわ」
「ん?」
「この前の、返事」
「どの?」

嬉しいような、でもちょっと真剣な?表情でシェリルがアルトを見据える。
「なによ!忘れたの!?良いわ、耳かっぽじってよく聞きなさい!」
耳を澄ますと、風に運ばれて、遠くの喧騒が聞こえてくる。

「私も、アルトのこと、愛してる」

「あ、うん・・・」
シェリルは美人だなぁ、眉は髪より少し色が濃いよな、とか思いながら目の前の少女を見つめていたアルトは
なんだか、徐々に照れが出てきて、目が泳いでしまう。

「ちょっと、アルト!ちゃんとしなさい!」
逃げたいくらい恥ずかしいのを我慢して、シェリルがアルトを見つめる。
シェリルに応えてアルトが、じっと見つめ返す。
真剣にしようとしても、演技ではないのだから、顔のにやけは消しようがなかった。
あの時は必死だったんだなあと、今の状況に感謝して、でも甘えないように、気持ちを落ち着けた。

「こほん。お前のこと、愛してるから、帰ってこれた。
だから・・・ずっと、一緒にいよう」

「遅いわよ、バカ!」

どちらからともなく、二人は固く抱きしめあった。
やっと抱きしめた温もりを離さないように。



翌週の週刊誌は各社写真付きで「銀河の妖精、婚約!」と紙面が賑わっていた。


おわり
最終更新:2012年07月04日 04:26