アットウィキロゴ
418 名前:胸を突く遠い約束[sage] 投稿日:2011/04/10(日) 13:19:59.14
もう何度も私とアルトは肌を重ねていた。
今日も、シャワーを勧めると、アルトは何の疑問もなく、私に無防備な姿をさらしていた。
もう幾許の時を経ないうちに、きっと、彼と私は、吐息を交す。

この艦に来て、もう一度あなたと出会ったときは、
きっといつか、あなたは彼女と結ばれて、彼女の歌のように優しい時間を過ごすのだと、そう思っていた。

けれど、時間の限られた私は、彼に焦がれ、手を伸ばしてしまった。
手を取った彼も同罪だけれど。

今だけ、彼は私と戯れているけれど、いずれ彼女の下へ帰るだろう。
ねえ、あなたは、帰るべき場所が分かっているの?


「・・・ねえアルト、ランカちゃん、元気でやってるの?」
健気な彼女のことだ。
きっと忙しい今も彼を想っている。

「やってるんじゃないか?」
「はぁ?」
彼から軽やかに意外な答えが返って来て思わず、毒々しく聞き返してしまった。
彼が彼女の事を知らないはずがない。
だって、とても大切にしてたじゃない。

「はぁって、なんだよ」
冗談めいていたが、心外だと言わんばかりだ。
アルトたちは、私たちが彼女を探していたことに感づいていたはず。
「もしかして、まだ、ランカちゃんのこと狙ってるって疑ってるの?」
彼と私は、それなりの信頼関係があるのだと思っていた。
だから、彼は初めて肌を晒す相手として、私を選んでくれたのだと思っていた。
でも、もしかして、私とこうしているのも、彼女の為にこちらを探るため?

「違う」
すぐさま返って来た彼の答えからは嘘は感じられない。

「じゃあ、どうして」
もはや、本当のことは言ってくれないかもしれないけれど、つい聞き返してしまう。

「知らないものは知らないんだよ」
「何で知らないのよ」

(知らないわけがない。どうして、言えないの。)
彼は私を探っているのかしら。

(帰るべき場所を忘れて、あなたはどうして私と戯れるの。)
もし、本当に知らないなら、どうして彼女を放って私と抱き合うの。

猜疑と困惑が私を襲った。


「そんなのは後で良い。何怒ってんだ」

彼の瞳は真剣だ。
私と向き合おうとしている。

けれど私は、はぐらかして逃げてしまう。
「怒ってなんかないわよ、呆れてるだけ」

「ランカも忙しいだろうし、俺だって忙しいんだよ。お前のお守でな」
私のせいで、あなたは帰るべき場所を失ってしまうっていうの?

「すべきことをしてないのは、あんたの自身のせいでしょう」

あなたは帰るべき場所を失ってはいけない。
しかし、それは言える立場ではなかった。
彼と肌を重ね、惑わせているのは、紛れもなく私だからだ

「ああ、そうだな」
ぽつりとつぶやいた彼をおいて、私は逃げだした。
その彼の自嘲をはらんだ声から、本当はいるべきが所がわかっていると感じたからだ。
それは、間もなく消える私の傍ではない。

***

「シェリル・・・」
扉の向こうから、頼りなげな彼の声が聞こえてきた。
彼はまだ、私を信じ、歩み寄ってくれようとしている。
嬉しくて哀しい気持ちを隠して、精一杯の虚勢を張った。
「なに?」

「俺は・・・」
優しい彼は道に迷っている。
「なに、焦ってんのよ」
真摯に真正面からぶつかって、本当に可愛くて愛しい人。
彼を放っておくことは出来ないと、私は扉を開けた。
彼と目を合わせるのが怖かったけれど、彼も同じ気持ちなのかもしれない。
一瞬だけ私の姿を確認した彼は、扉の前で俯いたまままるで独白の様に言葉を続けた。

「俺は、多分、守りたいものがあるんだ」
曖昧な言葉とは裏腹に、彼の声には静かな決意があった。
あなたには、大切な人がいるんだものね。

それが私でなくても良い。
優しい彼がとても、好きだ。
「うん」
自然と優しい気持ちになった。

「だけど、どうやったら守れるか、分からない」
確かに、特別な力を持つ彼女は為政者たちに狙われている。
私を始め、沢山の命が掛けられるほどに、彼女の存在は重い。
「フロンティアを守って、戦うのではダメなの?」
真相へ踏みこんでしまえば、バジュラと戦うよりも確実に、あなたは消されてしまうだろう。
せめて、今 のまま、彼女と深いかかわりを持つの重要人物として、観察下にいてほしかった。
心を読まれたくない私も、彼から自然と視線が外れ、床へ落ちた。

「だけど、それだけじゃ、守りきれない」
「全てから守るなんて、誰にも出来ないわ」
焦燥を隠し切れない彼に、私からは何を教えることもできず、はぐらかすしかなかった。

「でも、多分俺にしか出来ないことなんだ」
彼の声の強さで、彼の心の中での彼女の大きさを知り、胸が割かれるようだった。
私は彼の姿を見ることが出来ずにいる。

傷ついた私に塩を塗るように、優しい彼は私を抱き寄せた。

「・・・私に出来ることは」
私は彼に協力することはできない。
私の為だ。
グレイスたちとの契約がある。
例え彼女を犠牲にしてでも、彼を守るためでもある。
彼を踏み込ませてはいけない。

「護衛任務から外してあげることくらい。それで時間を・・・」
彼との、わずかな、けれど、彼にとって貴重な時間を沢山分けて貰った。
もっと一緒にいたい。
でも、もう、終わりにしていい。
「それは意味がない」
彼は、大切な人を守るために、私に迫ってくる。
腕の中でも尚、はぐらかす私に、残酷にも食い下がる。

でも、私はあなたの望みに協力することはできない。
なぜなら、私は、誰よりもあなたに生きてほしいから。
私を抱きしめて、無言で彼女への想いを訴える彼の腕が苦しかった。

こぼれそうになる涙を見られまいと、アルトから離れようとするが
残酷にも、彼は囲い込んだ腕を解こうとはしなかった。
「逃げるな」
顎を捕らえられ、瞳を覗きこまれた。
いつまでも見ていたいはずだった、彼の精悍な顔を見るのが辛い。
反論もできず、涙をこらえて目を閉じだ。
アルトの優しい残像が目蓋に残った。
どうしてそんなに愛おしそうな顔をしてるの。
現実を確かめるためにもう一度、彼の姿を見ることは、怖くてとても出来なかった。

闇に閉ざされた怯える私の唇に柔らかなものが触れた。
彼の唇が私に触れたのだ。
驚いて瞳を開けると、彼の瞳が温かに私を見つめていた。
「どうして…」
そんなに、私を優しく見つめるの?
涙が零れた。
あなたは、もしかして、私を想ってくれているの?

心の奥底で深く望んで、でも、諦めて押しとどめていた願いが湧きあがって来た。
「ひとりぼっちじゃないんだ」
彼は、強く抱きしめてくれた。
彼が、強く強く、願っていたことは。

「どんな事があっても、お前を一人ぼっちになんかしない」
あなたの強く優しい声が私の心を震わせて、縋りついた私は涙を止めることが出来なかった。

私は彼の為に全てを捧げようと思った。

****

私が差し出した体を、彼は懸命に愛してくれた。
これほどの幸せはない。
優しく、けれど獰猛に貪られ、私は彼の内の激情を知った。

美しい彼が私の足や脇はては陰部を舐めて、興奮していきり立つ。
赤子のように乳房を貪って放さない。

日常とは隔絶した、銀河の彼方の遠い世界にいるようだった。
ただの二人きりになった、あなたの荒い息が、私の歌になってこだました。

彼の動き一つ一つに煽られた私は腰をうねらせ、彼と一つに溶け合う時を待ちわびる。
熱い楔が打ちつけられると、それを留めようと私は無意識に肉を絞る。
彼が与えてくれるものは、私の体を満たし、心を震わせた。

歌は初めから全てあなたへの恋の歌で、歌はいつの間にか私の全てになっていた。
きっとそれは最期まで変わらない。
快楽の楽にのせて、私は一心にあなたへ恋の歌を捧げた。
最終更新:2011年05月21日 20:22