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227 名前:好きが発動するミスト~♪[sage] 投稿日:2011/10/15(土) 22:27:05
普段から住人さんにも職人さんにも萌え補充させて貰っています。
と云う訳で枯れ木も山の賑わいで便乗突発SS投下。数レスお借りします~。


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「…シェリル?」
濡れたままの黒髪から伝い落ちる雫を心地良い手触りのタオルで拭いながら
浴室から出て来ると、目の前にはきゅっと眉根を寄せて頬を膨らませる妖精さんがいた。

―――どうやら何か悩み事があるらしい。
ほっそりとした指先を頬に当てたまま「ああ、違うわ」「これも違う…」と
ぶつぶつ呟きながらケー鯛電話のボタンを操作する彼女は、
どうやらまだ此方に気付いていない。

(…相変わらず集中すると周囲が見えなくなるヤツだな)

そんな彼女に軽く苦笑を浮かべながら、俺は棚から二つグラスを取り出して
小さな氷を二つずつその中に放り込んだ。常温で保存しているミネラルウォーターに
軽くレモンを絞ってグラスに注ぐと、今もうんうん唸っているシェリルへと歩み寄る。

「―――で、今度は何で悩んでるんだ?」
「えっ…あ、アルト!?やだ。いつの間に出たのよ」

ごめんなさい、気付かなかったわと小首を傾げる彼女に
片方のグラスを差し出すと、ぱぁっと柔らかな花の様な笑顔が広がった。
その嬉しそうな表情にこちらも満足しながら、こくりとグラスを傾ける。
冷えすぎない程度に冷えたミネラルウォーターが
爽やかな柑橘の風味を伴って喉元を通り過ぎていく。


「…それで?」
「え?」
「何だか随分と悩んでたみたいだけど、何かあったのか?」
「あっ!やだ、もう!何時から見てたのよ!?アルトのどすけべ!」
「誰がどすけべだ!そもそもお前が集中しててこっちに気付かなかったんだろ?
 と云うか誰に教わったんだよ『どすけべ』なんて、そんな言葉」
「……この間矢三郎さんが置いて行った本に書いてあったの」
「―――…。今度から兄さんが置いていった物は先に俺が検閲かけるからな」

返された言葉にずきずきと痛む頭を抱えながら、もう一度不思議そうに
小首を傾げるシェリルに視線を戻す。

「それで…結局何を悩んでたんだよ」
「ああ―――…ちょっとね、中々決まらなくて。ほら、覚えてる?
 少し前にあたしがキャンペーンガールしたミストがあったでしょ?」
「まぁ…流石にな。随分とメディアに取り上げられて、品切れ続出したやつだろ?」
「ふふ、そうよ。なんたってあたしがPV出演までしてるんだから♪売れて当然、でしょ?」
「はいはい」

えへん、と胸を張るシェリルを軽くいなしながら話の先を促す。…当然、その態度が
気に入らなかったのだろう。むぅっと頬を膨らませたシェリルが、
俺の頭に軽く掛けられたままのタオルを掴むと、その上からくしゃくしゃと
洗い立ての黒髪をかき回した。

「ばっ…こら、止めろバカ!」
「ふんだ。せーっかくあたしがふき取って上げてるのよ?じっとしてなさい」

つん、と尖らせた唇と拗ねた子供の様なその表情が余りに可愛くて…
思わずその唇に自分の唇を重ねてしまう。僅かに濡れた唇からは
柔らかさと温かさと…口にしたミネラルウォーターの
微かな柑橘の風味が伝わって来た。一瞬だけ触れ合わせてすぐに離すと
それでも涙目になったシェリルが此方を見上げている。

「あ…わ、悪い」
「もうっ!急にこんな事するなんて…ビックリするじゃない…」
「―――イヤだったか?」
「知らないわよ…アルトのバカ」

拗ねた表情が照れ隠しのポーズだと分る位にはシェリルと二人で、
同じ時間を過ごして来た。お詫びの意味も込めて
ふわふわのストロベリーブロンドを撫でると、仕方ないわね、と
彼女も嬉しそうな笑顔を返して来てくれる。

「もう…。貸し一つなんだから」
「はいはい。後で何でも一つ言う事聞いてやるよ。で?」
「ええ…。第二段のプロモーション。そっちも覚えてる?」
「新色発売でランカと共演したヤツだろ」
「そうそう。イエローポンポンとブリリアントグリーン!
 凄く綺麗な色で、ランカちゃんにぴったりのイメージだったのよね♪」
「…そうそう。それで嬉しくなった誰かさんが『アルト!ミストの二刀流よ!』
 とか云って部屋中を化粧水塗れにした上に、健気に吹き掃除始めた俺に
 向かっても『アルト!ほら潤って♪銀河の果てまで☆』とか云いながら
 嬉しそうにミストを吹き付けて来たんだよな」
「うっ…。イヤな事ばっかり覚えてるんだから………あんまり
 昔の悪い思い出を思い出してネチネチ言ってるとポニテが禿げるわよ?」
「あんな事そうそう忘れられるか!って云うかそもそも一月前の事だろうが!
 それからポニテが禿げるとか云うなよ。髪の毛、切っちまうぞ?」
「それはダメ。その髪型も気に入ってるんだから」

蒼い空色の瞳に本気で不安げな色を浮かべて見上げてくるシェリルに、
今度は彼女を安心させる様に唇を重ねようとして……自然とそんな事を
しようとしている自分への気恥ずかしさが込み上げて来た。

何時の間に、自然とこんな事をしようとする癖が着いてしまったのか。
以前は手を握る事さえ―――…握った後に、繋いだ手に気付いて
恥ずかしさや気まずさを感じる位だったのに。そんな自分に苦笑が漏れる。

「…アルト?」
「あ。いや―――何でもない。それで、ミストの話だろ?」
「ええ。それがね、第二段が好評だった上に、第一段も第二段もね。
 なんだか購入してくれた男性が多かったそうなのよ」
「ふぅん。まぁ…最近は本物の大気の影響もあって乾燥する事も多いからな」

ちらり、と視線をシェリルから自然と窓の外へ向ける。
まだ此処はアイランド1の中にあるアパルトメントの一室だが…
それでも時折開放されるバジュラ母星の方から、本物の空気の
流れを感じることがあった。こうして少しずつ少しずつ……
この船の人たちは、本物の空や大気を感じる生活に馴染んで行くのだろう。
俺も、彼女も―――…俺たちを支えてくれた皆も。


「それで…第三段はね。男性用のカラーも出して見ないかって事になったの」
「男性用?」
「ええ。黒か青か…その辺りになるかしらね。ただ、その相手が…」

そこでまたシェリルが眉根を寄せて頬を膨らませる。

「相手?PV相手はまたランカじゃないのか?」
「ん、もう。男性向けのカラーなのよ?共演者は男性に決まってるじゃない」
「あ…。そ、そうか……」

自然と口から出てしまった疑問に、シェリルがまた頬を膨らませる。
男性の共演者……か。彼女の職業柄そうした事に対しては一応納得を
しているし、その事で彼女を縛り付けたいとは思わない。

だがそれでも話を聞く度に、胸の中にもやもやとした…
整理しきれない何かが沸き起こるのも、自分ではどうする事も出来ない。
そんな複雑な男心に気付いているのか、いないのか。

シェリルは指先で器用に鯛焼き型の携帯電話を操作して
俺の中に次々と候補男優のデータを表示して行った。

「相手役のイメージが…ね。あたしがまた男装をしても良いんだけど
 それだとインパクトに欠けるし真実味が沸かないから、出来ればナマの
 生きた相手役を使いたい…って意向なのよ、それで候補を見てるんだけど…」
「どの俳優も、お前の中のイメージにしっくり来ないのか?」

シェリルの言葉に、俺も一つ一つのデータを見遣る。男優だけじゃなく
最近売り出しの歌手や男性アイドル等、データと共に映し出された
相手候補の写真は…確かに俺が見ても、シェリルの隣にはしっくりと来ない。

「ええ…。ミストのイメージ通りに透明感があって、神秘性も秘めてて…
 それでいて女性用コスメのイメージも損なわない位に…綺麗な…顔立ちで……」
「―――シェリル?」

ぽつりぽつりと要望を漏らしていたシェリルの言葉が不意に途切れがちになる。
綺麗な蒼色の瞳を覆う長い睫毛がぱちぱちと蠢きながら、やがて俺の顔を捕らえた。

…何故だか分らないが、非常に嫌な予感がする。その予感の原因が何かは分らない。
だが戦場で鍛えられたパイロットとしての第六感なのか、それともそれなりに長く
シェリルと共に過ごして来たからこその感覚なのか。

じりじりとソファーの上を後ずさろうとする俺の腕を
すかさず掴んでシェリルがにっこりと…禍々しい程に綺麗な微笑を見せた。

「ね、アルト。あなたさっき『何でも一つ言う事聞いてやる』って云ったわよね?」

―――そしてこの『現状』に繋がる訳だ。
…以前。彼女とこうして過ごせる事なんて想像もしていなかった以前…
あの戦いの前に、一度だけ目にした事のある「エリクシア」の衣装。

ライブ当日には目にする事の出来なかった白いドレスに身を包んだシェリルの
細い腰を抱き寄せる様にして支えながら…俺の方もまた、
そのドレスと番だと云う花婿衣装を身に纏っていた。

本番も、その本番を迎える為の準備も、彼女に伝える為の
言葉でさえまだ用意をしていないと言うのに―――…
どうしてこんな事になってしまったのか。何度考えても、その元凶は
今も俺の腕の中で、完璧な『銀河の妖精』を演じて見せている
花嫁衣裳の彼女に行き当たってしまう。

「―――シェリル…」
「んっ…な、何よ……?」

ふぅっと耳元に囁きかけると、自然掛かった息遣いにすぐ傍のシェリルの
身体がぴくりと小さく震えるのが分った。くすぐったさに彼女の赤い唇からも
ほぅ…っと溜息交じりの吐息が漏れる。それでも周囲の撮影者には
そんな事を微塵も感じさせなかったのは流石と云う所だろう。

だが少しだけ目線を動かせば、白いヴェールに覆われた形の良い耳朶が赤く
染まっているのが見える。そして僅かに上気した…俺が唇を寄せたままの首筋からは
ほんのりと艶めいた彼女の匂いが立ち上っていた。

「さっき監督が話してた…このミストの販促コピー、知ってるか?」
「え?」
「……『潤わせてやる、奥の奥まで』」
「なっ…!?」
「後でじっくり…体感させてやるからな?」


此処まで巻き込んでくれた彼女への意趣返しとばかりにそう囁くと、
触れ合わせただけだった唇にそっと力を込め、白い肌を軽く吸い上げながら…
俺はもう一度カメラの方へと『撮影用』の表情を作って視線を投げかけたのだった。



以上です。早く「恋離飛翼」をみんなで楽しめます様に♪
最終更新:2011年12月10日 23:54