※注意※
非エロ。ぎりぎりまで暗いだけ。
アルトがシェリルの事情を知ったならとのリクエストで、帰還後話になり、
エロの入る構成にはできなかったのですが、護衛中にエッチしてたらシリーズ文脈の話ですので、こちらに投下させていただきました。
『アルト先輩の面会許可が下りました』
ルカのメールを頼りに、療養カプセルからベッドに移されたシェリルが眠り続けるであろう病室へと
逸る足取りをなんとか抑えて歩みを進めた。
そしてたどり着いた病室の前で、アルトは息を吐く。
このドアを開けたら、シェリルがほほ笑んで迎えてくれたらいいのに。
『何そんな陰気くさい顔してるのよ?』なんて笑い飛ばしてくれたら、と、扉を開けた。
逆光が一瞬眩しい部屋の窓際にベッドがあり、そこには彼女がいた。
思わず駆け寄って、見下ろすと、昨日までカプセルの中でまるで人形のように横たえられていたシェリルが、
大気の中で「眠って」いた。
光を受けてきらきらと輝く横顔は記憶の中の美しさと変わりなく、
安堵した体は力を失って、危うく、アルトはベッドの隣に置かれている椅子に腰かけた。
ああ、彼女は眠っているんだ。
「シェリル…起きろよ」
寝顔見ていると、アルトは眠る母親の姿をじっと見守っていた心細さを思い出した。
あの時は、母を起こしてはいけないと息をひそめていたが、この金髪の少女は目を覚ましてもいいはずだった。
眠る人間相手にとしては不自然なほどに、アルトはごく自然に、恋い焦がれて語りかけていた。
「お前寝すぎだろ。何で起きないんだよ…」
彼女からはやはりなんの返答もない。
すやすやと眠り続けるだけだった。
『関係者』でない俺には詳しい病状は知らされていない。
カプセルを出た彼女は、すなわち延命されず緩やかに衰弱していくのだろう。
カプセルの中で大量のコードに繋がれていた彼女だが、すっきりと点滴一本に繋がるのみになっていた。
これが彼女をこの世界につなげるたった一筋なのか。
***
シェリルと俺を繋ぐものは何もなかった。
彼女の意思がはっきりしない限り、ゴシップ報道や護衛歴は彼女と関係を保障するものではなく、
ルカやランカが骨を折ってくれて、アルトはようやくカプセル越しの見舞いを許された。
そして、シェリルがカプセルから出て、直接触れるようになるということで、
再びアルトの面会の可否が問われたのだった。
「…つまり、シェリルの意思が分からない限り、面会は難しいと?」
「あなたの献身的なお見舞いはスタッフ一同、よく知っているのですが、シェリルさんは、特別な人なんです。
もしものことがありますので、面会は…」
「そんな…!」
アルトが口を開く前に、病室に居合わせた緑髪の小さな友人が声を上げた。
「ランカさんは、血液も提供していただいているドナーですので、今後もご面会は今まで通り可能です」
「そんなのおかしいよ!」
今にも泣かんばかりのランカが医者に縋りついた。
「だって!シェリルさんだってアルトくんに会いたがってるよ、絶対!」
「ですが、シェリルさんの意思が確かめようが・・・」
ランカは大きな目から大粒の涙を零しながら訴えた。
「シェリルさんが好きなのはアルト君だって、シェリルさんがそう言ってた!」
それは本当なんだろうか。
一瞬の疑念と、かすかに広がる甘さ。
ああ、俺の思い込みじゃなかったんだよな、と、こんな時なのにじわりと涙の膜が目を覆った。
「でも、もうすぐ死ぬから、二人だけの秘密って…!でも、でも、シェリルさんは死なないから!
先生、シェリルさんからアルトくんを奪わないで!アルトくん、やっと帰ってきたの!」
秘密だけでなく沢山の重荷を抱えながらも、前を向いて歌い続けたシェリルの姿が脳裏に浮かび離れないアルトは
シェリルとの甘く切なく温かな思い出に浸ってしまい、泣き崩れんばかりのランカをなだめる医者を眺めるしか出来なかった。
「アルトくんが帰ってきたら、シェリルさんは目を覚ますって、ずっとそう…おもっ…!」
ぼんやりと湧いてきたにがく苦しい無力感が、アルトを縛り付けた。
バジュラクイーンとのフォールドから帰還したアルトを待っていたのは、病魔に侵され何も語らないシェリルだった。
彼女が俺を好いていてくれたというのに、全て一人で抱え駆け抜けた彼女には、
全て分かち合いたいという俺の想いは通じなかったんだろう。
触れ合える距離に甘んじず、はっきりと告げていれば何か変わったのだろうか、と追憶に後悔が募る。
幾度となく体を重ねては、俺は言葉にできない彼女への想いの丈をぶつけていた。
ようやく言葉にできた気持ちを彼女はどんな思いで聞いたのだろう。
今にも泣きだしそうだった彼女の悲壮な表情が胸に刺さる。
その俺の想いすら、そして、彼女自身の想いすら彼女の重荷となっていたんじゃないだろうか。
その重荷もすべて一人で背負っていくのが、シェリルの愛の形だったのだ。
答えを問うように、硝子の壁に隔てられた愛する女性を見つめるが、
人の世から開放された天女が心迷う人の情を失って、平安の月へと戻ってしまったかのように
今は、安らかな表情で眠り続けるだけだった。
「アルトくんが消えて、追うようにシェリルさんが倒れて、目を覚まさなくて…!
先生、シェリルさんにはアルトくんが必要なんだよ!歌を聴いたらわかるでしょ!?」
腹で感じると言わんばかりに、ランカが自分の腹に手を当てて何かを感じ取ろうとしていた。
俺もシェリルを感じられないかと、胸に下げたイヤリングに手を当てるが、それも虚しく、硬い感触だけが手を伝わる。
俺がぼんやりと場を動けないままに、
シェリルと同じく重要人物であるランカの訴えに負けたのか、病院長と相談しますといい医者はその場を離れた。
病室に残されたアルトたちは眠り姫のガラスのドームを見下ろしていた。
「…アルトくん、ごめんね」
まだ抑えきれていない涙をぬぐうランカが小さくつぶやいた。
「何がだよ」
アルトがおどけて返すと、申し訳なさそうに小さな友人が続ける。
「シェリルさんとの約束やぶって。シェリルさんから聞きたかったよね…。でも、…」
「いいんだよ。知ってたから」
「そうなの!?」
ぴょこりと髪が驚いて跳ねた。
「歌が…想いを伝えてくれた」
そして、こいつの瞳が、全身が、俺に教えてくれた。
愛すること。愛される事。
歌になって天に返ろうとしていたこいつにとっては、足枷だったかもしれない。
でも、俺にとっては翼を天まで届ける風だった。
風を受ればこそ、俺は空を飛べるんだ。
**
世俗の時の流れも知らぬかのようにシェリルの寝顔は安らかだった。
「ったく、どんないい夢見てるんだ?俺は苦労して帰ってきたっていうのに…」
最後の戦いで俺たちを繋いでくれたイヤリングを胸元から取り出し、耳に付けた。
あの時、確かにイヤリングを通して、シェリルの想いを感じたのだ。
そして、そのシェリルの想いは俺に溢れんばかりの喜びを与えてくれた。
だから俺は、バジュラと共に旅立つ勇気が持てたし、必ず帰って来れると思った。
カプセルの中でも例外的にシェリルの身に付けられていたイヤリングは、今もシェリルの右耳から下げられていた。
カプセル内で眠る彼女に、イヤリングを通して語りかけても何の変化もなく落胆した日々を思い出すと、
イヤリングを以てしてもまた、なんの反応もないのが怖かった。
しかし、そんな些細な恐怖で躊躇しても、彼女は起きないのだ。
残された猶予がどれほどかわからない。
俺は覚悟を決めていた。
もしもお前が目を覚まさなくても、俺はお前を一人にしない。
意地を張って一人で行こうとするお前を、最期まで俺は追いかけよう。
舞台裏にだって、アルカトラズにだって忍び込んで追いかけて行ったんだ。出来るさ。
「起きろよ」
イヤリングを付けた俺は、声をかける。
「起きろって。お前、ほんと寝起き悪いよな」
朝一の護衛でシェリルがまだ眠っていた時の事を思い出した。
今思えば、彼女は病魔に侵される体を必死に起こしていたのだった。
「バカやろ…」
なんで、そうならそうと言ってくれなかったのだ。
知ってたら、もっと優しく起こしたってのに。
シェリルが政府に連れ去られて途方に暮れていた折に、ブレラが証言したというシェリルの病状を聞いた時は、
とても信じられずギャラクシーの罠かもしれないと思ったものだが、
無理をする彼女の体調を気遣い続けた心の奥では、やはりそうだったのかという気持ちもあった。
シェリルのどこか達観した姿勢や刹那的な行動、追い詰められた表情、俺を求める時の苦しそうな瞳が
すとんと腑に落ちるのだ。
それでも、やはり、認めたくない俺は、監獄の中で折れるように細くなったシェリルを抱きしめるまで信じようとはしなかった。
カプセルの中を初めて覗いた時はシェリルはまるで人形のように白く、やはりシェリルが死病というのはブレラの嘘で、
本当のシェリルはカーテンの影にでも隠れてるんじゃないかとちらりと思ったものだが、
いざベッドで眠る姿を目の前にすると、やはり、シェリルでしかなかった。
小康状態から抜け出せないものの、アルカトラズで触れた時よりもややふっくらとした頬をつねるが、
ピクリと反応して、それきりだ。
温かな彼女の頬をごめんなと撫でると、ふわりと柔らかい手触りで、余計に胸が痛んだ。
彼女は生きてる。
懸命に生きてきたのに。
「シェリル!起きろよ!!」
声が荒がる。
俺はお前と生きたかった。
「こんなところで寝てる女じゃないだろ!?」
アルトは揺すり起こすようにシェリルの華奢な肩に手を掛けた。
監視カメラが設置されているのは知っていたが、溢れる感情を抑えることが出来なかった。
「お前は一人で逝くつもりでも、俺がお前を一人にしない。
飛べない俺は重いからな?
お前一人じゃ絶対抱えきれないぞ」
いくら覚悟を決めていても、いくらシェリルの覚悟が決まっていても、
シェリルのいない空っぽの未来がいつか来るのは嫌だった。
「だから…また俺に空を与えてくれ、シェリル」
シェリルが人生を賭してバジュラとの一先ずの和解へと導いてくれたお陰で、もはや空は戦場ではなかった。
しかし、孤独に濡れた翼を必死に羽ばたかせたとしても、
路を照らす光を失った状態でこの自由の空を飛べば、きっと地上に帰ってくることはないだろうとアルトは予感していた。
涙腺から溢れた生ぬるい液体で頬が濡れた感触が気持ち悪い。
視界が遮られて彼女が見れないのが耐えられず、アルトはもっとよく見ようと、シェリルに近づくが、
覚えていた彼女の香りが異質な匂いに覆われてしまっていていて、強烈な違和感が襲った。
俺の知らない間にシェリルが変えられてしまう。
恐怖に駆られて縋りつくように彼女の上半身を抱き起し、腕に収めると、胸から伝わるかすかな鼓動を感じた。
くたりと体重を預けてくる柔らかな体を抱きしめ、彼女の体温と香りに包まれながら涙を流すと
孤独に凍える心が自然と落ち着いてきた。
シェリルを何度も失って知った己の痛烈な孤独に、アルトは諦めて身を浸した。
ただ、お前が笑いかけてくれないのがとてもとてもさみしい。
「お前のせいなんだからな…」
こんなに苦しくても離れられないようにしたのは。
愛おしい悪女の顔でも見てやりたいと、自分の涙をぬぐって顔を覗き込んだ。
妖精の二つ名にふさわしい透明な空気を纏う彼女の頬に触れると、下り続ける瞳にかかる長いまつげが揺れていた。
そして、唇がかすかに動く。
軽い寝言のような動きは、カプセルにいる時から見られていて、必死に声を聞こうと耳を寄せたものだった。
「言い訳しても無駄だぞ。悔しかったらなんか言ってみろよ」
確かめるように唇に指で触れると、重ねた記憶のそれよりも、乾いていた。
もう出入り禁止になるかもな、と頭の片隅で思いながらも、次の瞬間には、俺の唇が重なっていた。
愛しくて懐かしい幸せなその感触に身を浸しながら、シェリルと唇を重ねた時々の事を思い出していた。
あの短い時間で、二人とも気持ちを隠しながら、隠し切れずに、何度も重ねたのだ。
今、あの日々とは違う切なさが胸を締め付ける。
ずっと想いあってたのに、俺たちは。
「シェリル、愛してる」
自然と、口にしていた、飾りのない気持ち。
「ずっと、一緒にいよう」
ずっと言えなかった本当の望み。
重ねてかすかに開いた唇がわずかに動く。
「…メよ…」
目を耳を疑った。
「…れぃじょ…、…よ」
シェリルが、声を出している。驚いて俺はシェリルを揺すった。
「おい!シェリル!」
僅かに瞳が震え、眉根が寄る。
銀河を震わせた喉から、かすかな声が漏れていた。
「あ…しご……きょ…は、もぅ…」
俺は歓びと期待でまた泣きそうになりながらそのままシェリル抱えて、声をかけ続けた。
「ちょ……なら、ぃ…」
青い宝石を隠した瞼がうっすらと開いて、ぼんやりと俺をとらえる。
「アル、…どうし、…の?」
嬉しさのあまり、言葉にならなかった。
俺のぐしゃぐしゃになった顔を不思議そうに見つめていた瞳が、
俺に釣られるようにほんのりと弧を描いて、掠れた言葉を紡ぐ。
「アルト?どうしたの?」
シェリルを強く抱きしめると、柔らかな腕がそっと抱き返してくれた。
「いろいろあったんだよ」
抱き返すシェリルの腕の力は弱く、むしろその弱った体の健気さが愛おしかった。
「お前こそ、ずっと何の夢見てたんだよ」
「夢…?あ…、夢、だったのね」
シェリルの応えを待ってアルトが空色の瞳を覗き込むと、
ずっと望んでいた本物の空がそこにあった。
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アルトがまだ知らない事も多いので、ご期待にはあまり沿えなかったのではないかと思いますが、
多少なり皆様の萌えになれば幸いです。 2012/10
最終更新:2012年10月05日 21:44