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828:fusianasan[sage] 2014/07/27 22:07:57

2060年7月27日、午後9時

「さ、いただきま~す」
ビュッフェから自分好みのワンプレーとを作ってようやく座ったシェリルは
目の前の美味しそうな品々に目を輝かせる。
元々、シェリル自身が選んだ店で、味は信頼している。
1次会、2次会は主催者として、あまり食事に手が付けられなかったため、
最大の調味料である空腹を手に入れていたシェリルにはこの上ないごちそうだった。

この3次会で役目も終わり。
ようやく落ちついて食事もとれる。
いざフォークを下ろそうとすると、さっと皿が何者かに奪われた。
どれから食べようかと料理に向かっていた視線を上げると、そこには本日の主役、
早乙女アルトが皿を持って立っていた。


「な、何よ!今から食べる所だったのよ?」
「ふ~ん」
憮然とした態度でアルトは皿の中身を確認している。

「同じもの食べたいなら、あっちに、沢山、あるわよ。最初にみんなに説明したでしょ」
せっかくのごちそうを奪われまいとシェリルがビュッフェ台を指差すと、
アルトは皿を返してはくれず、シェリルの腕を引いた。
どうやら、ビュッフェ台に連れて行くつもりらしい。
「しょうがないわね、誕生日だから、特別よ?
こんなサービス滅多にしないんだからね?」

ビュッフェ台について行くと、アルトはあっさりと盛りつけてあった皿を返してくれた。
代わりに、新しい皿に盛りつけ始める。
「お前、これ食うよな?」
アルトはシェリルの好みを見事に把握しているようで、シェリルの食べたいと思う料理を色とりどりに盛りつけていく。

「なによ、一緒に食べたいなら、そう言ってくれれば良かったのに…」
シェリルは、終日、主催者として、主役のアルトとは付かず離れずの距離を保っていた。
アルトが楽しんでくれればと裏方に徹しており、パーティーを進行しながらその成功に満足してはいたが、
勿論、大好きなアルトの傍にいたい気持ちがあったのだ。
アルトも、同じように思ってくれているのなら嬉しい。

シェリルの言葉を効いているのか聞いていないのか、アルトはさっさと手を動かし続ける。
「ほら、飲み物選んどけ」
アルトはシェリルに持たせていた皿を取り上げると、さっさとその場を離れていった。

酒に強くないため、ノンアルコールカクテルメニューを見ながら悩んでいると、
アルトが帰って来た。
「違う。そんなの持って帰れないだろ?」
持って帰る・・・?
言葉の意味を考えているシェリルをよそに、アルトは何本かの瓶を選ぶ。

「余ったら、後で飲めばいいだろ。他にないか?」
カクテルが飲みたかったのに、と思いながらも、
美味しそうなスパークリングジュースがいくつか選ばれていて、特に問題はない。
ふるふると首を振ると、アルトはその瓶達とアルト自身が飲むのであろうワインをウエイターに渡した。
「じゃあ、これで」

きょとんとするシェリルをよそに、アルトは主役席まで戻っていき、マイクを手にとった。
「みなさん、俺の誕生日を祝うために集まって下さってありがとうございます」
すっかりで出来上がっている参加者たちから歓声が上がる。
「おかげさまで、今日は本当に楽しい一日でした。これからも宜しくお願いします。
俺は、これで失礼しますが、この会は俺の誕生日の24時まで開催されています。
ゆっくり楽しんでいって下さい」

わっと拍手と歓声が起きる。
おめでとーという誰かの声を聞きながら、シェリルは近づいてくるアルトの姿をぼんやりと見ていた。

「ほら、帰るぞ」
シェリルの手首を握ると、再び声が上がる。
いよっ、色男!
後は銀河一の恋人としっぽりだな!
銀河一の幸せ者~!
そんな冷やかしには耳も貸さずに、シェリルの手を引いた。
「後は任せてある。心配ないよ」
引きずられるようにして、シェリルは会場を後にした。


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「やっぱり3次会までは疲れちゃったかしら?」
リビングのローテーブルでようやく食事にありついたシェリルは、フォークを置いてアルトに問いかけた。
まだドレス姿で食事にがっついているシェリルをよそに、アルトはシャワー上がりのラフな恰好でワインを傾けている。

「そんな事はないさ」
「なんだか口数も少ないし、怒ってる…?
サプライズ・パーティー、気にいらなかった?」
予定は空けておいてくれとは言っていたが、パーティー事は秘密にしていた。
昨年は、大気のある星へ辿り着くためとはいえ、
ガリア4へのフォールド中に日付上の誕生日が丸1日が過ぎてしまっていたので
今年は皆に祝ってもらおうとシェリルが画策したのだった。

「いや、楽しかったよ。それに、ちょっと懐かしかったかな」
「去年は、移動中に誕生日迎えちゃったけど…、その前はどうだったの?」
家を出た年の誕生日はどうしたのだろう。
「それまで人に囲まれて育ったから、なんかやっぱり寂しくてさ、
ぎりぎりまで学校に残ってEXギアいじくってたんだけど、
家帰ったらさ、ミシェルとルカが押し掛けて来てさ。
ルカなんか今よりももっと小さかったのに…」
当時のアルトを思い描いて、シェリルは微笑んだ。
アルトが思い出話をしてくれるのが嬉しくて、アルト以上に素敵なプレゼントを貰ったような気さえする。
アルトとの二人きりの時間を味わいながら、料理に舌鼓を打った。


$$$ $$$

なにしろ、アルトの誕生日は後少ししかないのだ。
いつもよりも入浴時間を短くして、シェリルが風呂を出て来た。
アルトが好みそうだと思ってこの日のために買った淡い色のベビードールを身につける。
(着る前に洗濯してもらってるのでアルトはその存在を知っている)
シェリルがそっと寝室に足を運ぶと、アルトがベッドの上でくつろいだ様子で雑誌を読んでいた。
すっかりこの部屋の主のように馴染んでいた。
雑誌だって、いくらか前にアルトがベッドサイドに置いていったシェリルが読みもしない雑誌だ。
キッチンの主は間違いなくアルトで、配置からキッチンツールまで全てアルト仕様である。

シェリルに気がつくと、雑誌をサイドテーブルにおいた。
「やっぱりそれ着て来たんだな。よく似合ってるよ。でも灯りはもう暗くするぞ」
「ふふん、この衣装はね、薄明かりにこそ生えるのよ。シェリル・ノームを甘く見るんじゃないわよ」
衣装じゃないだろ、と心の中で突っ込むアルトをよそに、
シェリルは見せつけるようにゆっくりと歩みを進めた。
白くセクシーな体がうっすらと透ける淡くふわふわしたベビードールを着るシェリルは、
確かに魅力的で、アルトは目を離せない。

シェリル本人は焦らしている自覚がないのだが、焦がれきったアルトの隣に座ると、
本日一番聞いた言葉をアルトの心臓を打ち抜く可憐な満面の笑みで贈った。

「アルト、誕生日おめでとう」

アルトは照れたように微笑み、ちゅっとシェリルの唇を啄んだ。
「ありがとう・・・もうお前にも何回も言われたけどな」
ぎゅっと抱きついて来たシェリルの耳元でささやくと、
何回言っても足りないわなんて笑う声が耳元に返ってくる。
鼻腔をくすぐる甘い香りと柔らかな体の感覚がしみ込んでくるように心地よい。

アルトが理性を総動員して身を離すと、そっと柔らかな頬を撫でて空色の瞳を見つめる。
「今日はありがとう。泊まっていっていいか?」
なし崩し的に泊まっていく事も多々あるのだが、今日は一応、家主に承諾を得る。

「ダメなんて言う訳ないでしょ。
明日は朝から学校に行って、その後も打ち合わせだけにしてるの」
照れ隠しに口づけて来たシェリルを抱き込んでそのまま深く口づけた。
甘い官能を貪るように、二人は深く激しくお互いを絡め合う。

「やっぱり少し怒ってたのかもしれない」
青い瞳を覗き込み、わき上がる喜びと切なさを感じて、自覚した。

「お前近くにいなかったし、当然こういう事も出来ないし」
深く口づけ、舌を触れ合わせると、甘い感触がアルトを痺れさせる。

「欲しいものはないって言ってたじゃない」
唇を話すと、シェリルが不満そうに呟く。


シェリルが自分のために休みを取ってくれているのを知っていたので、
それだけで充分だった、なんて恥ずかしくてとても言えない。
しかも、その後、プレゼントはわ・た・し作戦などを吹き込まれてるのを知ると、
尚更別のものを所望する気にはならなかった、なんて口が裂けても言えない。

「ちょっとくらい気を効かせればわかるだろ?」
「なによ、アルトが寂しがりやのどすけべなんて、知ってたけど!」
軽く抱きしめ合っていた体を離したシェリルが顔を背けた。

「いつも一緒にいるのに、私が独占していいのかしらって…」
いいんだよという気持ちを込めて、
顔を背けたままのシェリルの体をアルトは再びぎゅっと抱きしめた。

お互い少ない余暇をお互いのために費やしている事が確かに多いのだが、
それでも、絶対的に足りてない、とアルトは思っていた。
シェリルが自覚しているのか分からないが、アルトを見つければ目を輝かせて喜ぶし
離れる時にはとても残念そうにしているので、自分と同じ気持ちなんだとアルトは思っていた。

「『私と一緒にいられるんだからありがたがりなさい』ってなんで言えないんだろうなあ」
色々と自信家のシェリルが、こういう所では控えめで、可愛くて困る。
だから、もっともっと一緒にいたいんだ。
自分が知る限りのシェリルの今までの経験を考えると、仕方ないのかもしれないなと、
いっそう愛おしさがこみ上げる。
シェリルが大切で、一緒にいたくて、欲しくてたまらないんだって
態度で示して来たつもりだったが、伝わるまでにまだまだ時間がかかりそうだ。

「『ありがたがりなさい』よ!」
ぎゅっと抱きしめ返して来たのが、負けず嫌いのシェリルらしいと、苦笑い。

「ホント、ありがたいよ。
昨日は、今日の予定があるだろうって、手加減してたから、今晩がなかったら辛かったよ」
「え!?
だって、昨日はあんたのせいで日付替わる時におめでとうって言えなくて!」

ちょうど0時ころのシェリルはアルトの腕の中で啼かされていた真っ最中だった。
折角の誕生日だし、日付が変わる時には繋がっていようと思っていたアルトは、
それまでシェリルを寝かせまいと頑張っていたのだった。
朴念仁に見えて、濃い恋愛物に馴れ親しんで育った男であるので、エロ・ロマンチストである。

当のシェリルは、誕生日を迎えるとともに、おめでとうと言いたかったのだが、
前日の晩には散々弄ばれ、日付が変わる頃にはアルトの愛を受け入れており、疲れてそのまま眠ってしまったので、
結局朝になってようやく、おめでとうを言えたのだった。

「俺のせいって、別に口塞いでた訳じゃないだろ」
「あんな状態で、時間なんて分かる訳ないでしょ!」

誕生日だろうが、夜が更けようが、痴話げんかは続く。
無事、誕生日が終わる瞬間も愛し合っていられたよう。



アルト、誕生日おめでとう。
生まれて来てくれて、ありがとう。
最終更新:2015年10月18日 19:45