250物語10 東屋
外へと出かけたアルトは、調査の一環で点在する碑を求めて歩きまわり、
ひと段落ついたところで目をひく木立へと足を踏み入れた。
(木の種類からすると、人為的な林、か?)
「だれだ!」
近衛兵に声をかけられ、アルトの心臓が跳ねた。
「ああ、警備ご苦労。もう離宮の近くなのか」
「大変失礼いたしました。はい、こちらは陛下のお庭へと続いています」
「そうか、ありがとう。これからもよろしく頼む」
このまま離宮の庭も見てみようかと、
制止する近衛兵を無視して鬱蒼と木々が茂る庭に足を進めた。
あれから時間も随分と経っている。
もしかしたら、シェリルもいるかもしれない。
木の間から水音が聞こえ、その清涼さを求め歩くと、泉が見えてきた。
泉に近づくと対岸に薄布の掛かる東屋があった。
東屋のカーテンの隙間からカウチに寝そべる白い女性が遠目に見えた。
日が明るいこともあり、日陰の主の顔は明瞭には見えないが、
柔らかな薄紅の花のようにも見える、豊かな髪をたたえる女性は
間違いなくシェリルだろう。
はやる気持ちを抑え、驚かせてやろうと泉をまわりこっそりと近づいた。
微動だにしないシェリルは寝ているのだろうか?
オアシス全体とこの庭全体が警備されているためか、女官すらついていない。
(暗殺されかかったっていうのに、肝が据わってるというか、不用心と言うか…)
私室と同様に、頭や胸元、腕を露出した寛いだ格好をしていて、
そのたおやかな体にアルトの目は釘付けになった。
近づいて見ると、シェリルはぼんやりとしている。
生気が無く、まるで人形のようで、アルトの心に冷たい予感が走った。
驚かせて、笑いあって彼女の笑顔で冷たい予感を解きほぐそうか、
やはり早く気づいてもらえるよう声をかけようかと迷っているうちに、
シェリルがアルトの存在に気づく距離になっていた。
「アルト!どうしてそんなところから」
シェリルの瞳にいつもの光がともり、アルトはホッ息をついた。
「調査でちょうど通りかかったんだ。近衛兵が道を教えてくれた」
アルトは日よけ用の外套を脱ぎ棄て、カウチの前の床に腰をおろした。
シェリルの白い胸の谷間に目が行ってしまいそうなのが恥ずかしくて
シェリルが直視できず、アルトはソファに背を預けて、光に輝く水面へと目を向けた。
この距離でもシェリルの甘い香りがかすかに感じられる気がしてわずかに緊張する。
シェリルもアルトの横に並ぶようにカウチから起き上がって座り、二人で瞳に泉を映した。
シェリルの豊かなスカートの布地がふわりと肩に触れ、
この布に隠される滑らかな下肢を思い出しそうになるのをアルトは必死に打ち消した。
「近衛兵と言えば、昨夜の―」
「実行犯は身元ははっきりとしている、本物の近衛兵よ。
本人は自害して目的は不明。
首謀者は調査中だけど、場所が場所だけに、
調査隊もまだ王宮にはついてないんじゃないかしら。
それでアルト、怪我をしたあなたには申し訳ないんだけれど
このことは他言しないでもらえるかしら。
表向きは事故死にするから」
「近衛兵の不祥事隠しか?」
見上げた蒼い瞳は遠く水面を見つめていた。
「…まあそんなところね…」
「嘘だな」
「あんたが思ってる以上に、政治は汚いのよ」
「怪我を負わされた俺にも聞く権利はないのか?」
シェリルはアルトを見ると、揺れる瞳を隠すように目をそらした。
「調査結果は分かり次第、説明させてもらうわ。
まだ、何も分かってないもの。
今は、特に話すことなんてないわ」
シェリルの本心を探ろうと、アルトはシェリルを見つめている。
気の強いシェリルらしく、そむけていた顔を戻しアルトを見つめてニコリと笑った。
「…怪我をさせて申し訳なかったと思ってるわ。
守ってくれてありがとう。
私が今、退位するわけにはいかないもの。
今回の手柄で、夜伽の件はチャラにしてあげる。
儀式の調査は、このまま報告書にしてくれればいいし
家督の件も調査完了してるから、帰都後に手続きさえ済めば、
もうこのまま、出国を許可してあげる」
シェリルの笑顔をみてアルトは眉をひそめた。
「そんなことが聞きたいんじゃない、シェリル。
…犯人が、叫んだ言葉がお前の母親の母国語だってことと、関係あるのか?」
「あんたには敵わないわね」
シェリルがカウチにパタンと体を倒すと、
柔らかな髪と肩から掛かる薄いショールがふわりと舞った。
「母の国が併合される以前から母に仕えていて、
即位にあたって私が王宮まで連れてきた女官の息子だったのよ。
大逆罪は一族郎党、処刑の対象になるわ。
彼女にその法を適応させたくない私のわがままなの…。
帰ったら母親には暇を出すわ…。
王宮にいれば真相が耳に届くかもしれないもの…」
シェリルの声には古女官への気遣いと悲しみと、
殺伐とした己の立場への諦めが含まれていた。
シェリルの顔をのぞくと、また虚ろに水面を見ていた。
彼女にそんな瞳をさせてはいけない。
「シェリル、俺は裏切らない。
だから。250夜、話し終えてからじゃないと、旅には出ない」
真剣に見つめるアルトを、シェリルは悲しげに見つめ返した。
「申し出は嬉しいけど、首謀者が分からない以上、
守るものが多いのは足手まといなのよ」
「説得力がないな。
洞窟でお前を守ったのはオレだ。
俺は守られる側じゃなくて、お前を守る側だ。
お前を守る人間は多ければ多いほどいいだろ?
しかも、誰よりもお前の近くで守れる」
(何より、お前の心も守れるのは、俺だけだと思うのは、うぬぼれか…?)
「ア、ンタみたいな細腕がなに言っ…」
勢いよく上体を起こしたシェリルの声が涙をこらえて詰まった。
アルトはシェリルの横に座り、気持ちが伝わって欲しいと、
シェリルの背に両の手を回し、包むように抱きしめた。
アルトの力に抗ってシェリルが身を引きはがしながら、
荒がりそうになる声を抑えて言った。
「暗殺騒ぎなんて今に始まったことじゃないのよ!
私が王をやる限り、常にの危険が付きまとうの。
一ヶ月や二ヶ月、アンタがいようといまいと、私には大したことじゃないの、よ…!」
おまえは必要ないと言われて、傷つかないわけじゃない。
不安に思わないわけじゃない。
しかし、彼女の大きな孤独を思えば、かすり傷のようなものだ。
アルトは、シェリルを抱きしめる腕に力を込めた。
体と体が密着する久しぶりの感覚に、アルトの中の男が疼いた。
アルトは腕の中の小さな存在を覗き込んで、微笑みながら語りかけた。
「そうだな。だから、お前が女王をしている限りは、もう話は聞けないだろうな。
続きを楽しみにしている陛下には申し訳ないが」
「アンタ、何言っ…」
シェリルの瞳から大きく一粒流れ落ちた。
アルトはそれをぬぐってやるともう一度ギュッと抱き締めた。
背中を優しく撫でてやると、肩にシェリルの涙が沁みてきた。
耳元で聞こえるしゃっくりがアルトの胸をどうしようもなく締め付ける。
布越しの感触だけではじれったく、腕の一部がほんの少しだけ触れる肌と肌の
馴染んだ感じに、もっと肌が欲しいと、心も体も声を上げているが、
アルトはそれに気づかないふりをした。
シェリルの悲しみが溶ければいいと、アルトは強く抱きしめ続けた。
シェリルが強く抱きしめ返してくれて、ホッと安堵しつつも、
アルトは切なさでいっぱいになった。
シェリルのしゃっくりが止み、落ち着いたようだ。
力を緩めてやると、シェリルが身じろぎをして、腕をつっぱねた。
「夜伽をしないんだったら、私のところにはもう来なくていいわ」
泣きはらした瞳で、シェリルが言い放った。
「!!」
もしかしたら、自分の思い上がりだったのだろうか。
シェリルに求めて欲しいという願望で目がくらんで、
涙をぬぐってやれるのは自分だけだと思いたかっただけなんだろうか。
自分ばかり一生懸命で、自分ばかりが彼女を求めていて、
独りよがりな自分が急に恥ずかしくなった。
「そ、そうかよ!俺も心おきなく旅ができるな!」
アルトは立ち上がって、つい、ぶっきらぼうに言ってしまった。
引っ込みのつかないアルトはシェリルのもとを早足で立ち去った。
勢いのまま歩いてきたので外套を置い去りにしてしまい、
アルトの素肌には木々の枝によるかすり傷が出来ている。
しかし、そんな体の痛みにも気を留めることなく、立ち止まることも出来ず、
アルトは木々の間をどこへ向かうともなく歩いた。
ただ、涙をこぼすシェリルの顔が頭から離れなかった。
アルトの結った長い髪が木の枝に絡み、頭が引かれた。
「くそっ!」
髪をほどくために立ち止まったアルトの脳裏には
立ち去ろうと背を向けようとした瞬間に見た、
シェリルの幼子のような傷ついた表情が浮かんだ。
このまま、去って、自分はいったいどうしようというのだろう。
彼女の幻影に囚われ苦しめられるくらいなら、
シェリルその人にとらわれた方が良いに決まってる。
自分が必要ないというのなら、必要だと思わせればいい。
彼女のあの笑顔も、安らかな寝顔も、求めてくる熱も、すべて本物だったのだから。
こぼす涙をぬぐってやれるのは自分しかいない。
(俺が拭わなければ、お前は自分が泣いてることにも気付かないんだろう…)
「ちっ、しょうがねーな」
俺も、お前も。
もとはと言えば、あいつが悪いんだが、
ああいう女なんだから、折れてやるしかねーよな、
と、苛立った気持ちが消えていく自分がおかしかった。
「手間のかかるヤツ!」
ほどいてさらりと下した髪を、再び頭の高いところで結わえて走り出した。
########
アルトが東屋に戻ると、シェリルがカウチソファーに伏していた。
シェリルは、こうやって独りで泣く女なのだ。
「シェリル」
細い肩がびくりと跳ねた。
しばらくの間をおいて、シェリルが伏したままでやっと声を発した。
「何しにきたの。よくもまあ、のこのことー」
アルトがシェリルの両肩をつかみ、ソファーに座らせると
そこにはぐしゃぐしゃに泣きぬれた少女がいた。
「今日はいつにもまして美人だな」
「馬鹿にしないでよ」
威嚇しようとしても、さらに涙があふれてくるシェリルの顔を
抵抗をかいくぐりながらぬぐってやると、
アルトは掌で涙でしっとりやわらかな両頬をはさんだ。
シェリルの様子にアルトは思わず笑みがこぼれた。
やっぱり、自分がいないと、ダメだ。
鼻先にちゅっと唇を落とすと、
アルトはシェリルが振り下した腕を受け止めてしぶしぶ間をおいた。
「なあ、シェリル。
この傷が俺じゃなくてお前に付けられてたらと思うと
やっぱり俺はお前と出会ってよかったんだと思う」
アルトが左腕の包帯をほどいた。
薬草が塗られているまだ生々しい傷をみて、シェリルは悲痛な表情をした。
シェリルがアルトの腕にそっと触れて顔を伏せた。
「…ごめんなさい…、もうあなたには…」
「なんで、そうなるんだよ!」
アルトは力任せに、解いた包帯でシェリルの両手首を束ねた。
「アルト、ヤメ…」
「イヤなら、大声出せばいい。
近衛兵なりが駆けつけてきて、俺をお縄にするんだろ。
望まないお前に指一本でも触れれば死罪なんだろ?
死罪にでも流刑にでもすればいい」
何よりも大切なものを人質に取るなんて、アルトは卑怯だ。
シェリルはソファの背に押しつけられ、
覆いかぶさったアルトの重みや熱さを、体に沁み込むように感じた。
腕は頭上に固定され、胸の谷間に這う唇のぞわりとした感覚が駆け上った。
胸のふくらみを鷲掴みにされた鈍い痛みだけがシェリルを現実へと引き戻した。
ぬるりとした感触が、胸の谷間から首を辿って耳へと上り、耳をはむ音でふと力が緩む。
うって変わって優しくふくらみをこねる愛撫が、シェリルの感覚が研ぎ澄ましていった。
火照る肌を覆っていくアルトの荒い吐息が、
シェリルは求められる喜びを呼び覚ましていった。
「ひっ、あっ、ア…ルト、ヤメて」
近衛兵を呼んでアルトを止めさせても、アルトの罪は握りつぶせはイイだけのこと。
なのに、声をあげることを躊躇して、
アルトの愛撫でに身をよじらせてしまうシェリルは
自分の甘さを苦々しく思った。
甘い刺激にそんな葛藤も霞んでいきそうになっている。
アルトが唇を重ねて、シェリルにたっぷりと舌を送り込んだ。
久しぶりのアルトの感触に腰からしびれが広がった。
ぬめるアルトで口腔内を占領され、蹂躙され、悦びが体中を支配し始める。
ここで折れたら、もう、流されてしまうだろう。
アルトと一つになるという甘やかな誘惑。
「ん…、ふっ」
溢れた唾液がシェリルの顎を伝った。
アルトの唇から解放されたシェリルは、大きく息を吸い、意を決して声を上げた。
「離しなさい、無礼者!」
はっとシェリルの顔を見つめたアルトが、
ひどく傷ついた表情をし、シェリルの瞳も揺れた。
「…シェリル…」
「……」
アルトが見つめた青い瞳はもう揺れてはいなかった。
アルトはシェリルの人の心をも捨てる覚悟を理解した。
(お前はそれで…いいのか…?)
シェリルの頬を撫で、泣きそうになりながらも
アルトは優しく別れの唇付けを贈った。
唇が触れた瞬間、女王を守ろうと駆けてきた近衛兵の声が聞こえた。
「陛下!」
これで、何もかも、終わりだ。
「陛下、ご無事ですか!」
近衛兵が近づく音が聞こえる。
アルトはやるせない表情で、抱きしめたシェリルの肩に、頭を持たれた。
ここで伝えなければもう、伝えられない。
虚しく哀しい気持ちを押して、アルトははなむけの言葉を贈ろうと口を開いた。
「シェリル、俺はお前に出会えて…」
声を絞りだすアルトの耳元でシェリルが声を上げた。
「下がりなさい!」
女王然としてシェリルが続けた。
「この人と逢うの久しぶりなのよ、少しくらい声も大きくなるわ。
しばらく他の者たちも、近づけないで頂戴…。
その声は、…アブドゥル…だったかしら?」
その言葉にアルトは混乱した。
シェリルは隙のない女王であるために、自分を切ったのではなかったのか。
「は、陛下。大変失礼いたしました。
そのように致します」
兵が去って行っても、アルトはシェリルを目の前にして呆然としていた。
「どうして…?」
「……」
「…無礼者…って言ったよな…?」
「ええ、手を縛るなんて、信じられない行為ね」
「俺を逮捕するつもりだった?」
「……」
「どうして、やめた…?」
「……あんたの優しさは…、嬉しかった。
でもこれ以上は、私は受け取れない、ううん、受け取らないわ。
もう、十分働いてくれたわ。もう十分よ。
だから、もう…」
「シェリル、お前、ほんっとに意地っ張りだな」
「な、何言ってるの!別に私は」
「そのくせ、嘘が下手だよな」
アルトが切なげに笑って、シェリルの額を軽く弾いた。
「何するのよ!」
「強がりはもういい」
シェリルはやはり冷徹な女王などではない。
傷つきやすい臆病な少女なのだ。
アルトは腕の中のシェリルを再び抱きしめた。
「お前はどうしたいんだ」
「あんたもう、旅に出なさいよ…」
シェリルが感情を押し殺した声で言ったが、
アルトの腕にはその震えが伝わっていた。
「断る。俺がどうするかは俺が決める」
シェリルの頬に手を添え、アルトはまっすぐにシェリルを見つめて言った。
「俺はここにいたい。お前の傍にいる。
…なのに、お前は逃げるんだな」
シェリルが涙をこらえて表情をこわばらせた。
「逃げてなんか…!あんたはもうお役御免…」
言葉の途中でこぼれる涙をアルトに見られまいと、シェリルが俯いた。
「あなたがいると、私は弱くなる!
だって、私のせいで怪我を…、またそんなことがあったらもう耐えられない。
それじゃダメなの!私は、女王なのよ!」
シェリルの涙がソファーに落ちた。
シェリルを上向かせ、アルトは青い瞳に自らを映した。
「俺のために耐えてくれ。そのかわり、俺が全身全霊かけて守ってやる。
どんな悪夢も、俺が全部消してやる!だから!
俺の傍にいろよ、シェリル!」
アルトは顔をそむけようとするシェリルの唇を再びふさいだ。
シェリルの本心を暴く方法を他には知らなかった。
熱を伝えるしか、己の決意の程を知らしめる術がもはや残っていなかった。
ただ、逃げるシェリルを追わずにはいられなかっただけかもしれない。
シェリルは首を振って離れようとするするが、
アルトが顎を持って口を開かせシェリルの中に侵入した。
「んん~、んー」
アルトが舌を吸ってやると、拒むシェリルの声が途切れた。
シェリルが弱いキスで意識をそらしながら
アルトはするりとシェリルの服をずりおろし、上半身をむき出しにした。
シェリルに自分たちの絆を実感させようとする一方で
久しぶりの豊かなふわりとした乳房の感触にアルトは更に興奮した。
押し倒したシェリルの鎖骨に舌を這わせて、
ピンク色の突起を転がすと、すでに固くなっていた。
「ダメェ、アルト、ダメ…よ、…ダメ…」
口を開放されたシェリルが、口角から唾液を垂らしながら、
手首を縛られた腕を振り上げようとするが密着されて動かす事もできない。
身を捩ると双丘がたわむばかりだった。
それどころか、肌に擦れる感触が官能を刺激した。
久しぶりに肌でアルトを感じ、しっとりとしてきたのは肌だけではなく
瞳や下腹も熱を孕んでうるんでいる。
アルトが胸のふくらみを口で弄んでいる刺激に耐えつつ、
シェリルはアルトにかける言葉を迷っていた。
希望や願望、欲望が入り混じって、
どうしたいのか、どうしたらいいかシェリルは分からなかった。
「私、もうあなたとはいられな、い」
それを聞いてアルトが上体を起こし
シェリルの眼尻に残る涙を吸った。
「あなたがいると辛いの!だから、もう、どこかへ行って!」
「怖がらなくていい、シェリル。
辛い事は、全部俺が、一緒に受け止めてやる」
アルトがシェリルを掻き抱いて、耳元で誓った。
「俺が…お前ごと全部抱きしめてやる」
「…るい、ずるいわ、アルト。
あんたにそんな甲斐性あるわけないじゃない」
涙にぬれた瞳でシェリルが笑った。
ああ、この笑顔は。
アルトは涙をぬぐってやり、額をコツンと当てた。
「なんとでもいえばイイさ。
お前が少しでも俺のものになるなら、俺は何だってする」
全てを独占できないことは分かってる。
アルトは、ただ自分の恋人を感じようと唇を近づけた。
「…バカ」
シェリルが顔を傾けて受け入れる様子なのを確かめて
満たされた歓喜とともに、唇を重ねた。
「お前今日泣きすぎだろ」
スカートをめくり太ももに舌を這わせながらアルトが言った。
「ぁ、誰のせいだと思ってんのよ!
それより、包帯解きなさい」
「後でな。もっと啼かせるかも…ごめん」
シェリルの両膝を背もたれに押し付けるように開脚させると
中心の割れ目を下着越しに舐めあげた。
下着の中は少しぬかるんでいたが、
まだアルトの膨らんだ欲望を受け入れるには不十分だ。
シェリルが、腕を振りおろしてアルトをはたいた。
「今すぐ、ほどきなさい!」
「しょうがねぇなぁ」
シェリルはアルトの手でベルトを解かれ、スカートをはがされ、
中心の濡れた下着一枚を身につけて
包帯で両手首を巻かれただけのあられない姿にされた。
緩やかに波打つ長い髪で、胸の桜色の突起は隠されているものの、
官能で桃色に染まりつつある肌のところどころには
既にアルトがつけた赤い花びらが散っていた。
「ちょ…包帯っだってば!」
アルトは着衣をすべて脱ぎ去り、立ち上がりつつある己を
シェリルに押し当てて、挑発するようにシェリルの顎をついばんだ。
シェリルの蕾はアルトの固さを感じて、少しずつ涎を垂らす。
シェリルの腕を自分の首にかけると、下着の横からシェリルに人差し指を
差し入れ、指を軽く曲げるとざらりとしたトコロを擦って刺激した。
「ふぇ、は、は、あ」
シェリルがアルトの頭を抱え込んで、快感を耐えている。
指に泉が溢れて垂れ出だすと、アルトは耐えられず
シェリルの中に己を埋め込んだ。
久しぶりの締め付けに、一気に欲望が膨れ上がった。
「あぁ」
シェリルがその圧迫感にフルフルと震えているのが扇情的で、
アルトへの刺激が強すぎる。
すぐに解放したくなるのを何とか耐え、
ゆっくりと出し入れを始めた。
ソファー上の不安定な体勢でシェリルが絡めてくる足に力が入っている。
「あ、あ、あ、ぁ」
「中も外も締めす、ぎ」
シェリルの足を抱えて、大きく引き抜き、一気に挿入すると
シェリルから、悲鳴にも近い高い声が漏れた。
足は外したが、中から締め付けは強いままで、持ちそうにない。
アルトはシェリルの腕を持ち上げ
ソファの背もたれを持たせて、膝をソファにつかせて尻を突き出した状態にした。
シェリルの腰に手を添えると、後ろから突き上げた。
シェリルの尻たぶは滑らかで、その割れ目に潜む蕾を
撫でてやるとシェリルが力なく拒絶の声をあげるが
挿入の快感にそれどころではないようだ。
シェリルの足に、蜜が伝い落ちる。
このまま衝動に任せて、大きく腰を振りたいのだが
今日はそんな余裕はない。
シェリルは顔を見ずに果てられるのを嫌がるのだ。
シェリルをソファに座らせると、シェリルが眉をひそめて
じっとアルトを見つめてきた。
「早く解いて」
シェリルが見せつけてきた細い腕は、快楽で悶えるままに捻ったせいか
包帯のふちの部分が赤くなっていた。
「ごめん、痛かったな」
「…アルトをこの腕で抱きしめたいの」
そんな事で泣きそうになっている自分が恥ずかしいのか
シェリルがさらに拗ねた顔をした。
その言葉選びも表情も、愛しくて仕方がない。
重力に反して立ち上がる自分をそのままにして、
シェリルの包帯を解いてやった。
「アルト!」
シェリルはアルトに縋りついて、体を擦り寄せた。
アルトはシェリルを抱えたままソファに腰を下ろすと
脈打つ己をシェリルに当てがい、シェリルの腰を引き落としてやった。
「ああ」
シェリルが大きくうねり、内壁が暴れている。
抱きつくシェリルの力がギュッと強くなり
アルトは吐息のような唸り声が抑えきれない。
アルトがそのまま腰をつきあげると、
シェリルの中の搾り取るような動きが続き
愉悦へと駆け上がらせる。
抱きつくシェリルの柔らかな乳房が変形してはこすれている。
汗が混ざりあって、体が溶け合うようだ。
射精するアルトを搾り取るかのように
シェリルの肉壁も腕もアルトに絡みついている。
アルトがドクドク脈打つのを終えると
シェリルからも力が抜け、ぐったりとアルトにもたれかかった。
その拍子に柔らかくなったアルトがずるりと抜け、
それに沿って奥に溜まった白濁液がシェリルの悦びに混ざって漏れた。
二人は狭いソファで身を寄せ合って
通じあった至福に身を浸した。
####
夢心地のシェリルが瞼を開くと、
目には象牙色のアルトの肌が映った。
シェリルがアルトの脇に抱えられぴったりとくっつく形で
ようやくソファーに二人納まっていて
シェリルの目をひいている胸板とともに、
枕になっているアルトの引き締まった肩も上下していた。
夜の灯りのもとでは分からなかったアルトの肌の色は
自分とは違った温かな色だった。
その色同様に、柔らかいのだろうかと指でたどってみると、
自分とは違う滑らかな肌だった。
肌をもっと感じてみようと、唇をあて、軽く味わってみた。
かすかな塩味とともに、滑らかな舌触りだ。
アルトがどうかしたのかと頭だけこちらを向いた。
といっても、近すぎて、目と目は合わない。
「何してんだよ」
アルトがシェリルと向かい合って横臥する形となり
シェリルの枕がアルトの肩から腕になってようやく
アルトと視線を合わせることができた。
日の光の下、この至近距離でじっくりと見つめたのは初めてで
シェリルは長いまつげに縁取られた琥珀に見入ってしまう。
その整った鼻筋も、涼しげな唇も、寄せた眉も、滑らかな黒髪も
見れば見るほど綺麗で
ついふにゃりと顔がゆるむ。
「おい、大丈夫かよ!」
シェリルの緩んだ様子にアルトがぺちぺちと頬を叩く。
せっかく楽しんでいたのに邪魔をされて
少しムッとしたが、
アルトらしい行動だと思い、やはり笑みがこぼれてしまう。
いちいち突っかかれても気だるいので
アルトの首に縋りついて眠ってしまおう。
心地よいアルトの温かさをまとってこのまま。
「光に…溶けてしまいそう…」
「そうだな……」
アルトはようやく手に入れた大切なモノを宝物のように腕に抱きしめて
満たされたまどろみに身を任せようとしたのだが。
(って、光…!)
金の波に目前を覆われながら
突然、さっきまでの行為をアルトは思い出した。
いつもの灯りの下での夜の行為では
青く澄んだ瞳を見ることはかなわず
透き通る肌も赤い炎で照らされていた。
いわゆる「夜の」行為を、こんな真昼間から
しかも、こんな寝具とは言い難い場所でやってしまうとは。
大理石の肌をピンクに染めて、ひくつかせたの花弁もキレイな肉色で。
吸った胸も背も赤くなって、唇はもっと鮮やかで
中から溢れる蜜も涙も透き通っていて。
思い出して思わず赤面してしまうとともに。
(見たい…)
しかし、こうもしっかり抱きつかれてしまうと、視覚にとらえることができるのは
光に輝く金の髪ばかり。
しっとりと吸いつく肌を再び意識してしまい、下半身が反応しつつあるのだが
シェリルが正面からがっちりと抱きついてきているせいで逃げることもできず、
その熱を集めて膨張していく過程をシェリルの肌に直に伝えていることが、
恥ずかしくてたまらなかった。
が、火照るアルトを余所に当の彼女はすでに夢の中にいた。