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124 名前:fusianasan[sage] 投稿日:2009/12/30(水) 15:12:02
アルトが女王の部屋を訪ねると、女王は不在であった。
(ったく、どこ遊び歩いてやがるんだか・・・)
確かに寝るにはやや早い時間ではあるが、
部屋に陳列してある異国からの品々を見学しようと思って来たのに残念だ。
今日は出直そうとしたが、
どうやら自分が来たら部屋を自由に見てもよいよう女官に命じて
取り計らってくれていたらしい。
自分が、異国の物品に非常に引かれていることを覚えていてくれたようだ。
(案外、気が利くじゃないか・・・)

女王の私室には国内外の美しい品々が様々並べられていたが、
特に国外の貴重な品々はアルトの興味を引きつけてやまない。
文面でしか読んだことのなかった民芸品や見たことのない動物の置物、
珍しいパターンの織物など、アルトは興奮して手に取っては想いを馳せた。

ざわざわとした女官たちの声が急に止んだ。
「おかえりなさいませ」
「早乙女さまがお見えになっております」
「そう、湯浴みの準備をしておいてちょうだい。
彼に声をかけたら行くわ」

女王が帰ってきたらしい。
どうやら、自分に会いに来るようだ。
手に取っていた焼き物を棚に戻すと、丁度、部屋に女王が入ってきた。
アルトはとっさに跪く。
「許す。面を上げて楽になさい。ここでは無礼講と言ったでしょう」
最近聞きなれた声よりやや低い声は威厳を醸し出していた。
アルトが顔を上げると、
繊細な刺繍の施された豪奢なベールと長い衣を身にまとった女王がいた。
青い瞳だけが覗き、指先すら見ることがかなわない。

「どうかしら?なかなか楽しいでしょう?」
いつもの明るく澄んだ声がふふと笑う。
「今日の賓客からの贈り物は、そのうち運ばれてくると思うから、楽しみにしてるといいわ。
なんと、エデンからの使者よ。
ん~、でも、残念ながら、私の私室に来るものはそうないかもしれないわね」
「お気づかい……悪いな。見せてもらってた。
こんな時間まで仕事とは、女王ってのも大変だな」
女王の嫌がるかしこまった言葉をとっさに取り繕って、アルトは冷やかした。
もちろん、感謝の気持ちは本当だ。
「どら息子とは違うのよ。
私、寝るまでまだ暫く時間かかるけど、まだいる?」
「良いぜ、まだ見たいものは沢山あるし。って誰がどら息子だ、だれが!」

「ねえアルト・・・」
表情が隠れていて分からない女王が近づいて来て、アルトはつい後ずさりしてしまう。
しかし、1、2歩後ろはすぐ壁ですぐに追い詰められてしまった。
女王から放たれる甘い香りが鼻を刺激し、その距離の近さにアルトは緊張した。
「な・・・」
「コレ、今つけてるのはゾラからの香油よ。
雪が積もる高山の花なんですって。雪って見たことある?」
「ヘ?いや、ない、けど・・・」
「そう、残念・・・。じゃ、行ってくるわね。待ち切れなかったら適当に帰っていいわ」
くるりと背を向けると部屋をそそくさと立ち去る。
「何なんだよ・・・」
何かを期待しまった自分が少し悔しい。
気を紛らすように再び、異国の品々へ目を移した。

かき乱された心も現金なもので、アルトはすぐに夢中になったって時間を忘れていたが、
再び女王が部屋に帰ってきた。

「何か面白いものはあったかしら?」
いつものようにシンプルだが上品な夜着を着ている。
この国の習慣に逆らって顔や首、腕が露出したその肌は
薄明りにも白さなめらかさが伺え、アルトはどきりとした。

と思った瞬間、女王がつまづき、前によろける。
ふわりと舞うシェリルをアルトはとっさに抱きとめた。

一呼吸置いて、シェリルが足をついたのを確認しアルトは身を離した。
「大丈夫かよ。顔色悪いんじゃないか?」
「あ・・・指一本触るなって言ったでしょ!」
疲れているなどと、弱みを見せたくないシェリルはとっさに答えた。

「おまえなぁ、助けてもらって礼も言えないのか!」
「『良くやった。褒めてつかわす』」
「うっわ、なんだそりゃ。自分で無礼講とか言っておいて。
『お褒めに預かり至極恐縮にございます、陛下』」
「絨毯の毛が長いのかしら?悪かったわね。さて、アルト、そろそろいいかしら?」



シェリルが寝台に横たわり、このくらいの距離がちょうどいいと、
定位置となりつつある、シェリルのすぐ隣にアルトが臥した。

その距離の近さで、先ほど触れ合ったことを二人はふと意識した。
(女みたいな顔してるくせに、結構たくましかった)
(凄く柔らかくて、・・・いいにおいがした)

変に意識しないよう、慌ててアルトが話を始める。
「あ~、これは、山脈の向こうの北の涼しい国の話だが」
そんなドキドキもどこへやら、話が始まると、
シェリルは疲れとアルトの優しい声ですぐに意識を手放した。

「すると、羊が・・・っておい、もう寝たのか?」
(ったく、ちゃんと、話した事にしてくれるんだよな・・・?)
安らかに眠るシェリルが何とも恨めしい。
(やっぱ、疲れてたんじゃねーか。・・・意地っ張りなヤツ。
別に俺にくらいは気を張らなくったって・・・)
いくら見つめても、女王が目覚めるわけもない。
(これだけ無防備なんだから、信用はされてるんだろうな・・・)
アルトは、女王につい伸ばそうとした手をとどめた。

女王所有の渡来品を見たはずなのになにか満たされない気持ちを抱えて
アルトは部屋を後にした。
最終更新:2009年12月30日 19:35