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130 名前: アンリエッタの晩餐会 [sage] 投稿日: 2007/09/05(水) 01:21:07 ID:xIyUkfrg
「王宮の晩餐会? 呼ばれた?」
こちらに背を向けてクローゼットで服を選んでいるルイズの背後で、才人は首をかしげた。
「姫さまって、あまりそういう贅沢しないんじゃなかったか?」
「全くそういうことしないわけじゃないでしょ。それに、今回はちょっと事情があるみたいよ。
わたしの知り合いも呼べって言ってるし、とりあえずモンモランシーとか声かけるわ。
水精霊騎士団にはあんたから伝えといて。そうそうメイド。あんた来る?」
「え、わたし!? あの、わたしなんかが行っていいんですか?」
「言っとくけど同席はさすがに無理だかんね。給仕とか手伝いなさいよ。本当はそれも駄目だけど、今回は内輪の集まりらしいから」
「あ、はい、嬉しいです! そういうパーティーだと召使にも、貴族の方々の食べ残しとかでいっぱい料理がもらえるんです」
現代日本人の感覚からすると、なかなか切ない発言だが、シエスタは本気で喜んでいる。
きっとそれがこっちの普通なんだろーなーと思いつつ、才人はおそるおそる訊いてみた。
「あの……俺は?」
ぴたりとルイズの動きが止まった。ややあって後姿が、なんだかぎしぎしと動き出す。
「置いていきたいところだけど、呼ばれてるわよ。
『あ、サイト殿も』って、いかにもついでですって感じで姫さまが仰ったわよ。でもなんでそこで頬を赤くするのかしらって思ったわ」
「あ、ああ……そうか」
「犬」
「はい」
「なにかフラチな問題を起こしたら、誓ってあんたを料理するわ。皿に盛って、地獄めがけて円盤投げするからね」
平坦な声なのが怖い。才人はカタカタ震えながら、一も二もなくうなずいた。
131 名前: アンリエッタの晩餐会 [sage] 投稿日: 2007/09/05(水) 01:21:49 ID:xIyUkfrg
「ロマリアから海沿いの地の領主が、トリステインに旅行に来たのですわ。
自らの領地で取れた産物を、わざわざ運んできてわたくしに送ってくれたのですが……ちょっと生ものが多くて。
氷雪系魔法で凍らせてあるのですが、やはり早く片づけてしまわないと。
ごく内輪で食事会にしようかと思いまして」
アンリエッタの説明を聞いた後、晩餐の時間まで王宮で待機。
マリコルヌがわかりやすく満面の笑みである。程度の差はあれ多くの人間が、南国の領主が持ってきたという食材を楽しみにしているらしかった。
さっそく、晩餐会に出るであろう食事について、水精霊騎士隊も輪になってしゃべりはじめた。
「贅沢な餌で育った豚のリブの塩漬けを、ハーブといっしょに水から煮こみ、蜂蜜と赤ワインで味付けしたもの!」
「ロマリア産の肥育鶏を丸ごと、オリーブ油を表面に塗って岩塩をすりこみ、タマネギをつめてオーブンでじっくり焼くに違いない。定番だが素晴らしい味だよ」
「ロマリアのチーズはこちらとはまた一味違うというぞ。きっと幾種類も出るだろう。ワインもやっぱりそれに合わせて、種類を変えて出されるにちがいない」
「いやいや、領地でとれたならやはり野生の獣だろう。猪、野牛、鹿、ツグミやウズラや白鳥など……」
「王宮の厨房には三十年ものの秘伝のソースがあるというぞ。
使ったら、減った分をそのたびにちょっぴりずつ補充して熟成させるんだけど、毎日火を通して、腐らないようにしているんだとか」
男だけでなく、女性陣も楽しみにしているらしく、あっちはあっちできゃいきゃい騒いでいる。
このすべての熱から、才人は精神的に一番遠ざかったところにいた。
これまでの滞在で、こっちの上流階級の料理も多少は食べたことがある。
肉や乳製品が基本で、こってりしたソースがかけられることが多い。
(たまに食うならいいけど、毎日食ってたら食傷するんだよなあ……こっち魚は種類少なくて、タラ、カレイ、サケやマスばかりだし。何かってーとすぐ塩漬けかバター焼きにするし。
いやいや、贅沢を言ってはいけないよな。
……あー、でも日本はほんと魚に恵まれた環境だったよな……もっと食っとけばよかった……)
132 名前: アンリエッタの晩餐会 [sage] 投稿日: 2007/09/05(水) 01:23:18 ID:xIyUkfrg
要するに、才人はそろそろ日本食が懐かしくなっていた。
そんな彼の耳に、ふと会話が飛びこんだ。アンリエッタがルイズに話しているのである。
「ええ、南海の変わった魚もありますわ。人間が横に手をひろげたよりずっと大きいのよ」
「まあ、料理される前にちょっと見てみたいですわ、姫さま……ってサイト、いきなり何よ!」
「姫さま! その魚俺にも見せて!」
「え、ええ……今頃は厨房で解凍していると思うのだけれど」
稲妻のようにすっとんでいって少ししてから、才人は駆け戻ってきてアンリエッタの肩をがっしとつかみ、目をぱちくりさせている女王に血走った目で懇願した。
「頼みます姫さま! あの魚の一部をください!」
「え? え?」
「ちょっとサイト! あんた女王陛下になんてことしてんのよ!」
ルイズに叱責され、はっと周囲の目に気づいて我にかえるも、才人の興奮はおさまらない。手を放しはしたが、土下座しそうな勢いでなおも食い下がる。
「お願い! これを逃したらきっと一生後悔するんです!」
「あ、あの……でも晩餐会で出ると思うのですが……慌てなくても」
「そこを何とか! 両手のひらに載るくらいの魚肉でいいんです!」
「は、はい……」
133 名前: アンリエッタの晩餐会 [sage] 投稿日: 2007/09/05(水) 01:23:58 ID:xIyUkfrg
夜。
女王主催、「宮廷料理人謹製、ところどころ南国風」の晩餐会はつつがなく進行した。
南国で取れた香りのよい茸のスープ。レモンやオリーブやさまざまなベリーをふんだんに使ったタルト。
マッシュルームと角切りベーコンを白ワインで蒸し焼きにし、濃厚なクリームソースであえたもの。
十日間吊るしていたという鴨はローストする。南国の上質な赤ワインに半日漬けてから。
ムール貝やハマグリは、オリーブ油と白ワインで煮溶かしたトマトのシチューの具。そこには小麦粉を練って丸めたパスタの一種と、乾燥したオレガノとバジルの粉も入れる。
ローズマリーやタイムで臭みを和らげた南国産の猪の焼き肉には、砕いたナッツと塩をふりかけて。
子羊の肉は胡椒をふって串にさし、炭火で表面をじっくりとあぶったもの。黒のとろりとしたソースにつけて。
燻製ハムは薄切りにして野菜やハーブの上にのせられてある。オレンジやオリーブも丸ごと盛られている。リンゴは中をくりぬいてバターを入れ、オーブンで焼いてあるらしい。
厚い子牛の腰肉は、勝手に切って食えとばかりにでんと大皿に盛られてナイフが添えられてある。
車輪型の大きなチーズも、テーブル上にざっくばらんに数種類(一つは凄まじい臭いを放っているため、ふたをかぶせられて好事家用にとって置かれた)。
魚もちゃんと出た。
パン粉をつけて揚げたスズキのフライに、塩味をつけたアーモンドミルクを回しかけたもの。
北の海でとれたヒラメを、オリーブ油でソテーし、南国産バジルでソースを作ってかけたもの。
そしてもちろん、「あの魚」。ステーキのように分厚い切り身が焼かれて出てきた。
才人は決して、これらの料理を食べたくないわけではない。むしろ、いざ食事が始まればしっかり人一倍はつめこんでいただろう。
しかし、今日ばかりはそわそわして、どうにも普段ほど食がすすまなかった。酒もひかえてある。
そんな落ち着かない才人を、隣のギーシュがせっついた。
「なんだね君! 食べないのかあ! じゃ、そこのカタツムリをくれ」
「嫌だ。ギーシュお前、そろそろ飲みすぎじゃないか? テンション高いぞ」
「君はいったいなにを言っているんだね? 見ろよこの幾種類ものワイン!
この赤なんか、父上の秘蔵の酒蔵にも置いてある逸品だ。さすがにあれは飲んだら後がこわいので手を出せなかったが、ここで見つけたからには飲まないという手はない。
なんと芳醇な大地の香り、鮮烈で力強い太陽の味! 南の酒は不思議と飲めば陽気になるね!」
「お前が陰気な酒を飲むのを見たことがねえぞ。それは後から飲むからとっといて。
……俺ちょっと出てくるから」
134 名前: アンリエッタの晩餐会 [sage] 投稿日: 2007/09/05(水) 01:24:33 ID:xIyUkfrg
才人が出て行くのを視界の端に見たルイズは、どうにも気になって仕方なくなった。
あいつは何をしに行ったんだろう。順当に考えればトイレにでも立ったのだろうが、どうも出て行く間際のあの顔はそんな感じじゃなかった。
なんだか落ち着かない、けれど楽しみで仕方がないというような顔だった。
逢い引き、という言葉が浮かび上がってきたが、いやいやそんなこともあるまいと思い返す。
(だって姫さまならここにいるし……って、あれ? そういえば……)
「あーっ!!」
絶叫して、ルイズは椅子をけたてて立ち上がった。
隣のモンモランシーが蜂蜜酒を吹き、上座にいるアンリエッタがワインにむせこんだ。
向かいの席のキュルケが「ちょっと、落ち着きないわよ」とたしなめてくるが、それどころではない。
(メイド! メイドを忘れてた!)
まだむせこんでいるアンリエッタに、「すみません、ちょっと犬料理を」とかなんとか言って席を離れる。
才人の後を追って走り出す。
ほどなくして、足取りも軽くせかせかと歩く少年の後ろ姿が目に入った。
なにをそんなにウキウキしてんのよ、と毒づいて、そっと見つからないように後をつける。
やがて、彼は立ち止まった。
厨房の前である。
ルイズの覚えている限り、召使は晩餐のあいだ厨房にひかえているし、そこで下げられた料理をつまんだりしているはずだ。
つまりシエスタもここにいる。
よし死刑。
135 名前: アンリエッタの晩餐会 [sage] 投稿日: 2007/09/05(水) 01:25:04 ID:xIyUkfrg
しかし、事態はルイズの想像を超えた。
才人は、剣をすらりと抜いて中に入っていったのである。
「な、何してんのよあいつ……」
足音を立てないように、抜き足差し足で厨房の入り口に近寄る。
そろそろと首を伸ばして入り口から中をうかがおうとしたとき、ちょんちょんと背中をつつかれ、ルイズは飛び上がりそうになった。
悲鳴をこらえて振り向くと、けげんそうな顔をしたシエスタがいた。
「なにしてるんですか? ミス・ヴァリエール」
「あ、あんたね、もうちょっと人にわかりやすく近寄って……まあいいわ。
あんた、あの犬と待ち合わせしてるんじゃなかったの?」
「え? サイトさんですか? ちがいますよ。わたしたち召使は、あっちの第一厨房にいるんです。
こっちは第二厨房、今日は南国の食材が運びこまれて、食材置き場になってますね。
……サイトさんそこにいるんですね?」
「そうなんだけどね、なんだか様子が変なのよ」
そこまで小声で話したとき、厨房の中からぎゃー! と悲鳴が聞こえた。
「ほ、ほんとにあいつ何してんの!?」
「あ、わたしも見ます、ミス・ヴァリエール!」
136 名前: アンリエッタの晩餐会 [sage] 投稿日: 2007/09/05(水) 01:25:36 ID:xIyUkfrg
才人は至福の瞬間を迎えようとしていた。
手にした冷たい赤いカタマリに、かぶりつく前にほくほくと見入る。
しかしそこで、重要なことに気がつき、一気に青ざめた。
「忘れてた、畜生! 醤油がねえ!」
この重要な瞬間に、それはわりと致命的だった。が、無いものは無い。
ポジティブ思考で、何か代わりになりそうなものを探す。
このボウルの中の、デミグラスだっけ? これでいーやと思いさだめ、手の中の肉塊にそのソースをちょっとかけてかぶりつき……そして、入り口に立っている二人組と目が合った。
「へ? ルイズ、それにシエスタ? お前らなにしてんの?」
「……なにしてんのか、ってね。こっちが聞きたいんだけど……あの……その、魚……」
ルイズの指し示したほうを振り向き、ああこれ? と才人は苦笑する。
「まあ、でかい魚の解体しかけってインパクト強いよな。俺が食ってるのは、姫さまにもらった部分だから。大トロって言うんだぜ、これ」
背は非常に濃い青色で、腹は銀白色。高度な遊泳生活に適応して、丸々と太った紡錘形の体型。
クロマグロ。別名ホンマグロと呼ばれる巨大な魚だった。
その魚の横にはデルフリンガーが置かれ、『サカナ! サカナ斬りやがった! 俺でッ!』と震えている。人間なら泡でも吹いている状態なのだろう。
先ほどの悲鳴は無論この剣である。
「あーいやデルフ悪い、だって包丁よりお前持ったときのほうが力出るし」
『ガンダールヴの力を、サカナ斬るために発揮してんじゃねえ! 魚臭い! 誰か洗って! 今すぐ洗って!』
剣の絶叫を聞き流し、才人はぱくっと手ににぎりしめた大トロにかぶりついた。
「んむ……おお、なんという柔らかさ……すげえ、口の中で溶けるって本当だったんだな! というか手の中ですでにふるふるいってやがる!」
感極まって叫ぶ。大トロの塊にかぶりつけるなんて……ああ幸せ、と才人は感涙した。日本でもこんなことはたぶん出来まい。
137 名前: アンリエッタの晩餐会 [sage] 投稿日: 2007/09/05(水) 01:26:12 ID:xIyUkfrg
そこで、唐突に我にかえった。目の前で、二人の少女が手を取りあって震えている。
自分の状況を整理してみた。
夜中、厨房で、生の魚から腹のあたりの身をえぐりとってかぶりついている。
「サ……サイト……アンタ何ヤッテルノ……」
「ソソソソレ、生デスヨネ?」
「……いや……あの……待って? 生魚って美味しいよ?」
才人は前に手をのばす。
すすすすす、という感じで、手をとりあったままルイズとシエスタが才人から距離をとる。その目は完全に、恐怖をたたえていた。
「あのね、サイト……生魚はさすがにないわ……」
「だって生魚ですよ、生の魚……」
「マッテヨ! 美味しいんだよ本当に! くそう、現代だと世界に認められてるのに!
いやこれは刺身ですらねえけどさ!」
シエスタがはっ、という感じで目を見開いた。
「そういえば、うちのひいおじいちゃんも、時々川でとった魚を生で食べる奇癖があったって聞きました」
それを聞いて、ルイズがなにやら想像したのか顔をしかめた。
「ルイズ! 違う! 『妖怪ガンギ小僧』みたいなのが頭から魚をかじっている光景を思い浮かべんな! 切るから、普通は綺麗に切るから!」
138 名前: アンリエッタの晩餐会 [sage] 投稿日: 2007/09/05(水) 01:26:51 ID:xIyUkfrg
ルイズを連れ、ぐったり疲れて食卓に才人がもどると、となりのギーシュが酒で赤い顔をしかめた。
「……ん? 魚臭くないか?」
「気にするな……しかしなあ、こうして考えるといろいろ食べたいものが出てきたなあ。
梅干とかすげー懐かしくなってきた」
味噌汁。納豆。漬け物各種。海苔巻き。寿司。というか白米。
ほこほこと湯気の立つ、炊き立てのご飯を思い出したとき、我知らず心底からの声が出ていた。
「米食いてぇなぁ……」
間が悪いというべきか、食卓での周囲の会話の多くがいったん途切れていたときだったので、そのしみじみした声はテーブルの上をすべって響いていった。
しんと座が静まりかえる。
才人は慌てた。
「あれ? いや、すみません、聞き流してください。ちょっと故郷の食べ物で」
と、上座のアンリエッタが「あのう……」と発言する。
「お米なら、南国の方から送られた食材の中にありましたけど」
「マジデスカ!?」
才人の声がひっくり返る。アンリエッタはなるほどとうなずいた。
「そうね、お米ってハルケギニアの南のほうの一部でしか作らないですから、北のトリステインではちょっと見つけるのも困難ですわね。
サイト殿、お米が食べたいのですか?」
「YES! 断じてYES!」
139 名前: アンリエッタの晩餐会 [sage] 投稿日: 2007/09/05(水) 01:27:23 ID:xIyUkfrg
アンリエッタはにっこり微笑んだ。
「それなら、もうすぐ出てきますよ」
才人はとりあえず、始祖だか神だかに感謝した。食前の祈りよりよっぽど敬虔な感情である。南国の領主とやらにもGJと親指を立てておく。
もちろん才人とて、必ずしもジャポニカ米に似たものが出てくるとは思っていない。
だが、今は米でありさえすれば何でもいいという気分である。
念のために、隣のギーシュに聞いてみる。
「なあギーシュ、お前米って食ったことある?」
「ん? ああ、あるぞ。何度か、こうした晩餐会で食べた」
「どんな感じ?」
「どうって……ムール貝、鶏肉、タマネギなどの具を入れてパラパラって感じで炒めてあったり、鍋に入れてたっぷりのスープでふやけるまで煮込んであったりな」
なるほど、と才人はうなずいた。欲を言えば一番食べたいのは何をおいても白米だが、どうやらただ炊いただけというのは無いらしい。
まあ、それでもいい。チャーハンみたいなのだろうが雑炊みたいなのだろうが、とにかく米が食えるのだ。
だが、晩餐会のメニューの皿は進んでいくが、じりじりとその時を待つ才人をあざ笑うように、米料理はなかなか出てこない。
いい加減にしびれが切れたころ、アンリエッタが才人をちらりと見て、給仕している召使に声をかけた。
「そろそろデザートを持ってきてくださいまし」
才人に微笑む。
「待ちくたびれている人もいるようですから」
女王陛下の好意をたまわるという、ギーシュあたりだったら感激で座ったまま失神しそうなシチュエーションだったが、才人は猛烈に嫌な予感がした。
……デザート?
140 名前: アンリエッタの晩餐会 [sage] 投稿日: 2007/09/05(水) 01:28:28 ID:xIyUkfrg
「お米のプディングでございます」
「ぷ……ぷでぃんぐ……?」
才人は目の前に置かれたものを一目見て、言葉を失った。
およそ、少なくない日本人にとって悪夢の結晶といえるだろう料理が目の前にあった。
横ではギーシュがばくばくとそれをスプーンで口に運んでいる。
「そうそう、プディングにするという料理法もあったな。うん、いい卵と生クリームを使っている。砂糖もたっぷりだ」
あまりのことに茫然自失しながらも、恐る恐る才人は震える手でスプーンを持ち、口に運んだ。
アンリエッタが嬉しそうに手をあわせて、訊いてきた。
「サイト殿、いかがでしょうか?」
「……………………スゴク…………甘イデス……」
「なんだサイト、きみ泣いてるのかね? 陛下の温情にほだされたかね、それとも故郷を思い出したのかね?」
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