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第三章 誇りを賭けた戦い-2 - (2007/06/07 (木) 02:09:52) のソース

(ボスとの戦いで死に掛けた後遺症か…、それともルイズとの契約のせいか…) 
「リゾットさん…なんてことを…」 
振り返ると、シエスタがぶるぶる震えながらリゾットを見つめていた。怯え切った表情をしている。 
「大丈夫だ。お前たちに関わりはない。あの様子じゃあ、誰が近くにいたか、覚えていないだろうしな……」 
「あ、あなた、殺されちゃう…」 
「ん?」 
「貴族を本気で怒らせたら……」 
言うなり、シエスタは厨房へ走り去ってしまった。そういえばギーシュの友人たちも消えている。広場に行ったのだろう。 
「………ケーキの配膳はしないのか…」 
仕方なくリゾットも厨房へ戻っていった。問題を起こしたことを謝罪するために。 

いつもの黒い革コートに身を包み、決闘の場所であるヴェストリ広場の場所を聞いて足早へ向かう。 
途中で、ルイズと出会った。 
「ちょっと! ギーシュと決闘するって本当!?」 
「…やはりここは噂が広まるのは早いな…」 
「感心してる場合じゃないわ。ギーシュに謝りなさい。私からも許してもらえるように言ってあげるわ」 
ルイズは強い口調でリゾットを見つめてくる。当然だ。ルイズはリゾットが暗殺者だということなど知らないのだから。 
「それはできない」 

「何でよ!? ギーシュはドットクラスでも、メイジなのよ! ……聞いて? 
 平民はメイジに絶対に勝てないの。貴方、怪我するわ。悪ければ殺されるかも…」 
「…心配しているのか?」 
途端にルイズはムッとする。 
「自分の使い魔がみすみす怪我するのを黙ってみすごすわけないじゃない!」 
「じゃあ……、見なければいい。俺が引き起こしたことだ…。自分で何とかする」 
リゾットは歩き出した。ルイズが追ってくる。といっても歩幅が違うので段々と離れていくのだが。 
「もう! どうなっても知らないから!」 

ヴェストリ広場に着くと、既にギーシュは待っていた。 
噂を聞きつけて集まった人垣を掻き分け、リゾットは広場の中心へと進む。 
リゾットの姿を見ると、ギーシュは先ほどの暴力を思い出し、反射的に魔法を唱えた。 
持っていた造花の花びらが散り、ギーシュの傍らに甲冑を着た女性像が四体、出現する。 
「おお、ギーシュはやる気だ」 
「ゴーレム四体かぁ。相当怒ってるらしいね」 
「まあ、顔にあんな青あざ作られちゃあな」 
野次馬たちはこれからの戦い、いや、一方的な懲罰に興奮の色合いを高める。 
その声と護衛四体に安心したのか、ギーシュは精一杯の余裕の笑みを浮かべた。 
「待っていたよ、使い魔君。この青銅のギーシュから逃げなかったことは褒めてあげよう」 
「それがお前の使い魔か?」 

「いいや、これはワルキューレ。僕が作り出したゴーレムさ。僕はメイジだ。魔法を使わせてもらうが、異存はないね?」 
「……好きにしろ」 
「勝負方法は単純。どちらかが非を認めて降参するまで。立会人はここにいる皆だ。分かったかな?」 
「了解だ……」 
「まあ、降参するのは君の方だけどね? 早めに降参すれば痛い目を見ないで済むよ」 
一対四という人数差にもひるんだ様子もなく、リゾットは静かにたたずむ。 
そこに、やっとリゾットに追いついたルイズが姿をあらわした。 
「ギーシュ! そこまでよ!」 
「ああ、ミス・ヴァリエール。君の使い魔をお借りしてるよ」 
「馬鹿なことは止めて! 大体、決闘は禁止されてるはずよ!」 
「それは貴族同士の決闘だろう? 貴族と平民、貴族と使い魔の決闘は禁止されていないはずだ。 
 それに……この平民は貴族の僕に手を上げたのだ…。許されないことだよ。このままでは僕の気がすまない」 
「リゾット! もう勝ち目がないのは分かるでしょ? ギーシュに謝って!」 
リゾットはもうルイズに構わず、ギーシュに促す。 
「…………来ないのか?」 
その瞳に、先ほどのような怒りはない。 
だが、その視線は怯えを含んだギーシュの心に食堂の暴力を思い起こさせるのに十分だった。

一方、リゾットは落ち着いていた。スタンドの使えない今、青銅で出来た人形四体を相手にするのは荷が重い。 
だがリゾットの心には何もない。勝敗の行方にすら興味が持てず、これといった準備もしなかった。 
自分が引き起こした結果を受ける義務がある。だからここへ来た。 

「言われずとも! 行け、僕のワルキューレ!」 
怯えを怒りに変えたギーシュが命令を下すと、四体の人形が猛然とリゾットに突進する。 
先頭のワルキューレの拳を避けると、二体目が多少もたつきながら先頭のワルキューレを回り込んで蹴り込んでくるところだった。 
「四体そろって近づいてくるということは飛び道具はない……。連携の取れていない動きからして、 
判断は各自が単純な思考で動かすか、本体が人形を大まかに動かしていると見るのが妥当か」 
三、四体目も回り込み、リゾットに攻撃を加え始めると、流石に全て避けるのは難しくなり、拳を片腕で受けた。 
途端に体が浮く。否、リゾット自身が囲まれるのを防ぐために後ろに跳んだのだ。 
「言うだけあって、パワーは結構ある。……生身ではキツイな」 
うまく衝撃を逃がしたリゾットだったが、受けた腕がしびれていた。 
「なかなかすばしっこいじゃないか。だが、四体のワルキューレ相手にどこまで逃げ切れるかな?」 
「自慢するなら……俺の腕をへし折るくらいしてからにするんだな…」 
「やれやれ…強情な平民だ。それならこれでどうだ!」 
ギーシュはもう一度造花の杖を振る。花びらが舞い、さらに二体のワルキューレが出現した。 
四体でも十分な気もしたが、自分に恐怖を与えるリゾットを早く叩きのめしてしまいたかったのだ。 
(花びらの数からすると……、もう一体くらいが限度……か…?) 
計六体のワルキューレがリゾットに殺到するが、リゾットは縦横無尽に逃げ回る。とはいえ、一対六である。 
リゾットは囲まれないように移動しつつ、両腕や肩を使って受け続けるが、何発かは命中し、徐々にダメージが蓄積していく。

気づけばリゾットの腕は熱を持ち、腫れ上がっていた。 
頬や額は掠めた拳によってあちこちに擦過傷ができ、血が流れ出している。 
さらに、疲労と痛みのためか、足捌きも段々と遅くなっていた。 
その姿を見て、ギーシュは勝利を確信した。徐々にいつもの調子が戻ってくる。 
「さあ、そろそろ降参する気になったかね? 地に手を突いて! 頭を下げて! 私が間違っていました、といえば許してあげるよ」 
「…………」 
荒い息をつきながら、返事をしようとすると、ルイズが間に割って入った。見ると、瞳が潤んでいる。 
「お願い、もう止めて。それ以上やったら取り返しがつかないことになるわ! あんたはよくやったわ。誰も責めたりしないわよ」 
「そう、所詮、平民は貴族に勝てないものさ。這いつくばるのは恥ずかしいことじゃあない」 
「そうかも、な……。だ……わ……」 
「ん? 負けを認めるかい?」 
「だが……断る…と……いったんだ」 
「リゾット!」 
「どいていろ…、ルイズ」 
リゾットがルイズを押しのけ、前に出る。ギーシュは冷たい笑みを浮かべた。 
「ふん、命が要らないらしいね」 
「…俺が………恐れているのは…『誇り』を……失うことだ。 
 『誇り』を失うことに比べれば、死ぬことくらい、大したことじゃないし……とっくにその『覚悟』はしている。 
 今、ここでお前に…頭を下げるってことは…! 俺自身と仲間の『誇り』を汚すってことだ!」 
事実、リゾットに死への恐怖はない。むしろ死が魅惑的なものにすら見えていた。

「そうかね。僕も武門、グラモン家の一人だ。『命より誇り』という君の態度には素直に敬意を表するよ」 
造花の杖をもう一度振ると、ワルキューレの手に青銅の槍が出現し、リゾットを取り囲む。 
「望みどおり、殺してあげよう。即死できるよう、心臓を貫いてね!」 
「ギーシュ! そこまでしなくてもいいじゃない!」 
「女性の悲しむ姿を見たくはないが、これは僕と彼の誇りを賭けた決闘だ。彼が降参しない限り、止められない定めなのだよ」 
「リゾット、降参しなさい! 命令よ!」 
「…名前を呼ばれたのは初めてだが、それでもできないな…」 
リゾットはただ頭を振り、拒絶した。 
「では、やれ! これで僕の勝利だ!」 
「やめてーー!」 
ルイズの制止をの声を切り裂くように、リゾットを取り囲んだワルキューレたちが一斉に槍を突き出した! 
誰もがギーシュの勝利、そしてリゾットの死亡を確信した瞬間、ギーシュの耳にリゾットの静かな声が響いた。 
「やると思ったよ…。調子に乗ったお前ならな……」 
激しい金属音が響いた。 

「な、なああああんだってエエエエエエエエエええええええええ!? 馬鹿な…!」 
ワルキューレたちはお互いをお互いの槍で突き刺していた。 
なぜこんなことになったのか? 答えは単純。リゾットは攻撃を受ける瞬間、身をかがめ、攻撃をかわしたのだ。 
ワルキューレたちは円形にリゾットを囲んでいた。その攻撃が外れれば、対面の相手に攻撃を当ててしまうのは自明の理である。 
リゾットはすかさず足を払い、一体を転倒させると、その上を飛び越え、頭巾が飛ぶのも構わずギーシュ目指して全力で駆け出す。

「最後は囲んでくると思っていた。確実にしとめるためにな。だが、一人に対して六体で攻撃したことなんてなかっただろう? 
 連携がさらに雑になって……俺の動きに対応しきれず同士討ちしたってわけだ…」 
「も、戻れ、ワルキューレ!」 
しかし、ワルキューレは突き刺さった槍とお互いが邪魔になり、リゾットを追うことはできない。 
「く、くそぅ! なら…」 
もう一度杖を振り、最後のワルキューレを作成。リゾットめがけて槍を突き出させた。 
「今から…対応したところで遅い……。すでに! 『勝ち方』はできている!!」 
リゾットは攻撃をかわすことなく、ワルキューレに左手を突き出した。 
槍が左手を貫くが、それを意に介さず、渾身の力でワルキューレに体当たりをする! 
「ギャッ!?」 
ワルキューレの後方にいたギーシュは自らのゴーレムと衝突! 衝撃で造花の杖を落としてしまった。 
拾おうと手を伸ばすが、その前にリゾットの足が造花の杖を踏み砕く。 
「…杖がなければ魔法は使えない……。…そうだろう?」 
午前中に受けた授業から、既にリゾットはメイジの弱点を掴んでいた。 
だが、ギーシュにそれを答える余裕はない。自分を見下ろす血まみれのリゾットに、彼は心の底から恐怖していた。 
乾いてからからになった喉から、必死で声を絞り出す。 
「ぼ、僕の負けだ……」 
「…………」 
リゾットは左手に刺さった槍を抜いた。 
(こ、殺される!) 

頭を抱える。しかし、いつまでたっても痛みは来ない。 
恐る恐るギーシュが顔をあげると、リゾットは槍を地面に投げ出し、落ちた頭巾を拾っていた。 
「………こ、殺さないのか…?」 
「殺してほしいのか?」 
意外そうなリゾットにギーシュはブンブンと頭を振る。 
「いや、だが、僕は君を殺そうとしたんだ…。てっきり君は怒ってるんじゃないかと…」 
「殺されるかもしれないって想像くらいはできてたわけか…。だが、殺さなくてもお前のつまらん誇りは粉々だ。違うか?」 
「いや、しかし…」 
しどろもどろ言い募ろうとするギーシュはいきなり胸倉を掴まれた。 
「しのごの抜かすな……。そんなことより、お前には……やることがあるだろう」 
「……! わ、分かった。モンモランシーとケティに謝ってくるよ…」 
「それでいい……」 
リゾットはギーシュを解放すると、ふらつく足で離れていく。 
「ま、負けた……。完全…敗北だ……」 
ギーシュがうな垂れると、それまで凍りついたようになっていたギャラリーが一斉に歓声を上げた。 

ルイズが駆け寄ってきた。 
「ルイズ…か……。心配をかけたが……勝ったぞ」 
「この……馬鹿使い魔!」 
寄ってくるなり、ルイズはリゾットを怒鳴りつけた。

「何でご主人様の命令を無視するのよ! ちょっと間違ったら死んでたのよ!? 使い魔が主人に無断で死ぬなんて許されないんだからね!」 
「死ななかった」 
「結果はどうでもいいのよ! あー、もう! 先生に頼んで怪我を治してもらうわよ!」 
「分かった……。今度は従うさ…」 
「当然よ! あんたは私の使い魔なんだから!」 
目元を乱暴に拭うと、歩き出す。それに続いて歩こうとして…リゾットは膝を折った。 
「ちょ、ちょっと!」 
倒れそうになったルイズは支えようとしたが、重さによろめいてしまう。が、直後、軽くなった。 
見ると、反対側からギーシュが肩を貸している。おまけに野次馬たちもくっついてきていた。 
「何であんたがいるのよ」 
「彼に敬意を表してってところかな…。『レビテーション』をかけてもいいが、勝者はやはり立って退場するべきだ」 
「じゃあ、負けたあんたは地面に這いつくばったら?」 
「ガーン! ひどいな、君は…」 
「……どうでもいいが……行かないのか?」 
「え、あ……。そうね、早く行かないと。ちょっと、道空けて!」 
歓声に背中を押されながら、彼らは塔の中へ消えていくのだった。 

 おまけ 
蛇足だが、謝罪に行ったギーシュは二人の女性から丁重に一発ずつ平手打ちを食らった。 
頑張れ、ギーシュ。マンモーニから脱却するその日まで!

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