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外伝-12 - (2008/08/05 (火) 00:16:32) のソース

ルイズとテファをアルビオンに連れて行かなければならなくなった夜が明けようとする頃、ジョルノは自室ではない部屋のベッドに横たわり本を読んでいた。 
微かに湿気を帯びたベッドの上、寝転がる前は皺一つなかったシーツは身じろぎをするたびに皺を増やしていく。 
枕元には既に読み終えた手紙が重ねられていた。 
飾り気のない組織の連絡に交じって、何枚かは可愛らしい色の紙であったり中身を取り出すためにつけたナイフの切り口から微かに香水の匂いがする。 
舞踏会や商売上の相手、あるいはイザベラなどからの手紙だった。イザベラについては、ペットショップがいるのに丁寧な事だと思わなくもなかったが。 

「亜人の件に関しては私から教皇を説得しておこう」 
「お願いします。東方との交易は増やしていきたいですからね。エルフとも活発に取引したいんです」 

本を読んでいたジョルノは、返事に苦笑したような雰囲が返ってきてハルケギニアの文字から目を離す。 
読んでいたページには、縮小した樹木のスケッチが乗っていて、葉っぱや木の芽を描いた隙間に樹木についての説明が書かれていた。 
この本は、ハルケギニアの動植物に関して書かれた書物で地球には存在しない金属のように硬い樹皮を持つものとか、 
近づくと運が悪ければ死に至らしめるような毒針を飛ばす奴について詳しく書かれていて存外にジョルノを楽しませていたのだが… 

「読書の邪魔をしてしまったようだね…すまない。ただあっという間にハルケギニアの経済界で上り詰めようとしてる君が私に頼みごとをするのはそんな理由なのかと思ってね」 
「仲間が増えていくのにピザが一枚じゃあ何れ足りなくなるってことです」 

背中にもう一度苦笑したような感じが返ってきたが、ジョルノは何も返さなかった。 
もうすぐ夜が明けるのを開け放した窓から入ってくる風や日差しから感じ、本を閉じたジョルノは夜のうちに済ませたことを頭に思い浮かべ確認する。 

ラルカスには『ボスはテファに甘すぎる』とか『アンタはボスなんだから自重してくれ』と自分の事を棚に上げて怒られたりしたが、組織の仕事の引継ぎは済ませた。 

今回、ラルカスは置いていく。研究、裏事、ジョルノの護衛と3役4役をこなすラルカスは組織として重宝しているからだ。 
地球の学問を学びながら組織の表と裏の仕事を精力的にこなす元モード公の部下達や、ゲルマニアの皇帝が幽閉した親族についていた者達、ガリアでジョゼフが王位についた前後に叩き潰された者達など… 
皆ジョルノがある程度満足する働きを見せていたが、そんな彼らでも遍在を使える者は殆どいない。 
アルビオンに行くとなれば戦争中、しかもその最前線へ行かなければならない。 
精鋭を連れて行きたいところだが、新たに組織に入ったミスタ・ギトーの教育もさせなければならない状態でラルカスをつれてはいけないとジョルノは決断していた。 
何せ最悪貴族派に追われつつ、トリスティンでは『烈風』カリンを相手にしなければならないなんて状態になりかねないのだ。 

だが連絡手段は必要なので、ラルカスには明日の朝までに…"使い魔の召喚"を命じている。 
使い魔の標準的な能力である視覚などの共有を行えば最低限ジョルノ側の状況などは伝えられるという判断だった。 

「ジョナサン、君に一つ質問なんだが」 

アルコールで体が少しは暖まったのか少し汗をかいた男が不意に尋ねた。 

「なんです?」 
「君は我々を召喚したハルケギニア人をどう思っている?」 
「嫌いですが?」 

嘘を言っても良かったが、これに関してはこの男には言ってしまっても問題いは無い。 
そう判断したジョルノはあっさり返事を返した。 

「そうなのか?」 

意外そうな声を上げた男に、今度はジョルノが苦笑した。 
向ける相手に対して暖かい感情など欠片もない、冷たい笑い方だった。 

「人を攫って奴隷にするような連中です。この学院でのポルナレフさんやサイトの扱いを見て好意的になるほどお人よしではありません」 
「……ハハッ、それはよかった。実は私は彼らにちょっとした趣向を考えてあるのでね。君に止められたらどうしようかと思っていたんだよ」 

ポルナレフとの相談も済ませてあった。そこでも現在亀の中でポルナレフと同居するマチルダに激怒されたが。 
亀は今回とても有用だ。もし…例えば、あの甘ったれたアンリエッタ王女がこの密命を他の誰かにも勝手に命じていたりしなかったらありがたく使わせてもらうことになるだろう。 

そこまで考え、隣で同じように転がりながら、ジョルノが買い付けさせた学院からそう遠くない場所にあるタルブ産のワインを飲む男へ声をかけた。 

「プッチ、貴方に質問がある」 
「なんだね?」 

隣でやはり中世の世界では醸造技術も劣るのだなと思いながらワインを口に含んでいたプッチ枢機卿は振り向いた。 
酔いは感じられないが、とても穏やかな声だった。 
協力関係を築く為今夜もまた相談し、ジョルノはそのままプッチ枢機卿に頼んで休ませてもらっていた。 

自室へ戻って気分転換に亀の中に潜り、レ・ミゼラブルを始めとした愛読書達に目を通したりジェフ・ベックでも聞きたいのだが、自室ではまだ怒りが冷めないマチルダが待ち受けていそうだった。 
彼女の説得はポルナレフに任せてきたので会うなら明日の朝以降の、少し冷静になった頃合にしたいとジョルノは思っていた。 

明日以降野宿の機会が訪れそうだというのに野宿しようって気にはならない。 
となると他の誰かの所へ押しかけるしかないのだが、ルイズのところに戻って気分転換なんてできるわけがない。 
モンモランシーの部屋はそれほど親しいわけでもないし、グラモン家と面倒なことになる。 
イザベラはガリアだし、カトレアの所へいって頭なでなでしてもらったり、テファにせがまれてまたイタリアの話を聞かせたりするのは…まだ早いような気がしていた。 

その結果は、夢の中にジョルノの祖父を自称するジョンブルが現れるという散々なものだったが…逆に考えると言うのは中々盲点で、ある意味参考にはなったが。 

そんなジョルノとは対照的に、どうにも懐かしい安心感をプッチは感じていた。 

「ガリア王ジョゼフに貴方がやったことについてだ」 
「彼か」 

プッチはジョゼフの事を思い出し、ジョルノに語りだす。 
ベッドから起き上がったプッチは部屋に持ち込んでいた鞄を取ってまたベッドに横になると、その中をあさり始めた。 
鞄の口が大きいせいでジョルノにも微かに見えるその鞄の中には円盤が無造作に並べられている。 

「彼は壊れていた。ハルケギニアを弄んでみたら泣けるんじゃないかとか考えていたらしいが…」 
「アルビオンはその為に?」 

説明をしながらプッチは無造作に取り出した何枚かのディスクの中身を見ては違う、と言って横に放っていく。 

「そうだ。ジョナサン、彼は吐き気を催す邪悪ではなかったが、言わばブリミルに呪われていた。 
救われるには死以外には全て忘れるしかなかったのだよ…彼の虚無は強力だったろうな」 
「なるほど。虚無というのはメイジを余り幸せにはしないようですね」 

本を手紙と同じように枕元に置いたジョルノはルイズやテファ達のことを思い出して相槌を打った。 
テファは虚無とは関係無しに迫害を受ける立場だったからまた違うが、ルイズの状況を酷くしたようなものと想像がついた。 
プッチはジョルノの意見に頷く。 

「王家とブリミルのどちらかか、あるいは両方が間抜けなのだろうさ。まぁそれはともかくとして、彼を放って置けば何れ我々の身に火の粉が降りかかるのは簡単に予想できたからな。私は彼を無力化したのだ」 

だがそうなると、ジョルノの頭に一つ先送りしていた問題が浮かんだ。
それはジョゼフと同じ青い髪をした一人の少女のことだ。
ジョゼフを警戒しタバサの母を治療しない理由もなくなってしまったのだ。

ジョルノは視線をあらぬ方角へとやり少し考えてから、心を決めた。

「プッチ、オルレアン公爵夫人を治療します」
「シャルロット姫を味方にするのかね?なんなら、私がジョゼフにしたようにしても構わないが」

プッチはその行動が齎す成果について間髪入れずに尋ねた。
スタンド能力を用いれば、その結果を求めることは容易く、プッチとしてもDIOの息子の為に自分の能力を役立てるのは吝かではなかった。

だが、「必要ありません。彼女は義理堅いようですし…」
タバサのことを考えてそう判断するジョルノを、プッチは少し不満げに見つめた。
わざわざ手間をかけ小娘の行動を期待するのは結果を優先するプッチには温いと感じる。
普段ならそう感じていることなどグッと堪え、隠してしまうところをプッチは今はあえて面表に出す。
ジョルノはそれに対し、頑なな反応を示した。

「余りこういう言い方はしたくないんだが、プッチ…『DIO』ならたかが部下を一人手に入れるのにわざわざ君の手を借りたのか?」

不満を露わにしていたプッチは、その物言いに父を意識する幼さが含まれているように感じ、心地良く思った。
確かに『DIO』ならプッチも自分の能力を使おうか?などとは言わなかっただろうと苦笑する。
プッチに、ジョルノはだが…と言った。

「ですが、せっかくの申し出を無碍に扱えません。暫く誰も手を出さないように出来ますか?」

永らく意志疎通が出来ていなかった母子二人積もる話もあろうとジョルノが尋ねるとプッチは快く応じた。
つまり、ディスクを探しながら笑顔で軽く頷いてみせた。

「ではイザベラから話を通す形で朝日が登る前に渡しましょう」
「?何故急ぐんだ?」
「…土くれのフーケの追跡などからするとツェルプストーが首を突っ込もうとする可能性があるからです。護衛対象は少ないに限ります」
ツェルプストーとヴァリエールは本人達も家も仲が悪い上に両家共にそれぞれの
国で影響力を持つ。追いかけてくると決まったわけではないが、数日後に攻め落とされる城に連れていくメンバーに入れるのを回避したがるのは無理ないことだった。

「イザベラ姫との連絡はどうする気なんだい?」
「彼女のサイン等がされ、内容が白紙の手紙を何通か持っていますからそれを使います」

そう言ってジョルノが取り出した素っ気ない公的な物やイザベラを知る者達が見たら目を疑うような、楚々とした可愛らしいのやら、を見てプッチは二人がかなり強力な関係だと気付いたが、そんなことには触れずに渡す相手について尋ねる。

「だが、シャルロット姫は君が送ったと気付くんじゃあないか?」
「そこまで気付けば、僕のイザベラと仲良くしてくれって考えも汲んでもらえるでしょう」
従姉妹同士、争わせる気のないらしいジョルノの返事に少し気分の良いプッチはからかうように言う。

「なるほど、DIOといい君といい案外女も嗜むんだね」
「…そういう積もりに見えますか?」
「どうかな。私はそれ自体はどちらでも構わない」

本気とも冗談ともつかないプッチにジョルノはこの件でそれ以上尋ねるのは止めた。

「で、話を戻しますが、今のアルビオンとガリアは無関係だと考えていいんですね?」 
「いや、全くの無関係とはいえないな」 

ディスクを探す手を止めてプッチは言う。 

「私が彼に手をつけた時、彼の使い魔"ミョズニトニルン "はアルビオンで活動中だった」 

ミョズニトニルン、「神の頭脳」と呼ばれている伝説に残る虚無の使い魔の名前が挙がってもジョルノは特に驚いた様子は見せなかった。 
ジョゼフがルイズと同じなら使い魔位は持っていてもおかしくはないからだ。 
注意を払わなければならない相手はパッショーネには幾らでもいる。それにミョズニトニルンが加わっただけの話だ。 
動じないジョルノを観察するような目でプッチ枢機卿は状況を語っていく。 
ミョズニトニルンを障害とは考えていないのか、至極どうでもよさそうな気の無い口調だった。 
「しかも主人の変貌には全く納得がいっていないらしくてね。確実な情報じゃあなくてすまないが、未だにレコンキスタででも頑張っているんじゃあないか?」 
「…能力についてはわかりますか?」 
「なんでも魔道具を際限なく使用できてスキルニルとかを渡してあると言う話だ」 

恐らくガリア王ジョゼフの記憶を覗いて知ったであろうことを、プッチ枢機卿はまるで本人に教えてもらったような口ぶりで言った。 
ジョルノは思ったよりも警戒が難しい能力に眉を寄せる。 

スキルニルについては、ジョルノにとっては案外馴染み深いものでそれなりに知っていた。 
以前イザベラに聞かされた説明によれば過去の魔法使いが作ったアルヴィー(小魔法人形)で、人間の血を与えるとその人間そっくりになる。 
そして人間そっくりになったスキルニルは、外見のみならず記憶やしぐさ、身につけた技術まで再現出来る。 
イザベラは悪戯やボイコットに使ったらしいが、古代の王達はこれを用いて戦争ごっこに興じたらしい。 

かなりの貴重品ではあるが、戦争ごっこに使われただけあって結構な数が現存している。 
ジョルノはそれを手に入れてはラルカスに化けさせて"ミノタウロスのメイジ”の姿を見せて敵を脅かしたりジョルノにしてどうしても出られない小さな舞踏会や支援している劇場などに出してみたものだ。 
ガリアにいながらゲルマニアの劇場に現れ主演女優に花束を投げさせたりもできるのだから、案外便利なものだ。 

だがミョズニトニルンはそれだけでもあるまい。 
少なくとも、レコンキスタの首領であるクロムウェルは自称"虚無”で、死者に命を吹き込むと言う話もジョルノの耳には入っていた。 
それは虚無ではなく、(カトレアを治療するのに使ってしまった)テファの母の形見だった指輪でも同じような魔道具じゃあないかとマチルダが疑っていた。 

「そんなわけで以前の彼の方が優秀だったが、今のジョゼフ王は問題ない。まあ、君が直せと言うなら、直してしまっても構わないが…」 

鞄を探っていたプッチはようやく発見した一枚のディスクを取り出してジョルノに手渡す。 
かつて行なわれていたであろう"スキルニルを使った戦争ごっこ”を何れ再現してみようかなんて考えていたジョルノは我に返り、それを受け取った。 
仕事にばかり使っていたが、案外十人以上のポルナレフさんを並べてみたら案外シュールで笑えるかもしれないという企画は、暇になったら提案してみることに決めて今は渡された円盤を眺める。 
目を細め、表面に浮かぶ文字を読み取ろうとするジョルノにプッチ枢機卿は言う。 

「これがジョゼフの記憶のディスクだ。よかったら君にプレゼントするよ」 
「記憶ディスク?」 
「スタンド能力のディスクと、まぁ同じようなものだ。これを頭に刺せばジョゼフの記憶が手に入る。本人に刺せば元通りと言うわけだ」 
「…これは遺族に返すことにしましょう」 

スタンド能力のディスクについて話した覚えはなかったが、それについては深く考えずにジョルノは記憶ディスクを手紙の上に無造作に置いた。 
ペットショップを通して、先日届いた手紙にも念を押すように書いてあったイザベラの言葉が思い出される。 

『父上は私に関心を見せたことはなかった。だからシャルロットみたいに父を愛してなんかいないさ、復讐されて当然の男だしね。 
だけど、あれは父上じゃない。あんな男に父上面されて優しくされるのは我慢出来ないね…ジョナサン、アンタに何があったか調べな、私に危害を加える気がないなら事実を突き止めるだけでいい、それくらいはしてやらないとね』 

使い魔のペットショップごしに依頼してきたイザベラの微かに湿った声を思い出すジョルノを見てプッチは笑う。 
普段見せている人の良さそうな笑顔ではない。 
向けられる対象への穏やかな、愛情が感じられる笑顔だった。 

「存外素直なんで意外、と思うかもしれないが…渡さなければ、質問から拷問に変わっていたんじゃあないかな?」 
「ええ、貴方が素直で助かりました。無駄な手間が省けましたよ」 
「そう、そういう感じは少しDIOっぽいな」 

耳障りの良い声で不穏当な返事を返すジョルノへ笑顔を向けたままのプッチはワインを少し飲み干して言った。 
少し近づいてきたプッチの笑顔に、ジョルノは怪訝そうな顔をして返事をする。 

「そうですか?」 
プッチは思い出に浸ろうとしているのか、どこか遠くを見るような目をした。 

「…ジョゼフには『DIO』がいなかった」 

『DIO』と出会った自分を誇っているような、静だが熱の篭った声だった。 

ジットリと部屋を温くされたように感じたジョルノは、怪訝そうに尋ねた。 

「父がいれば違ったと言うのか?」 
「彼の弟は彼の能力を理解していたが、彼を満たす事はなかった。悪には悪の救世主が必要なのさ。君の父『DIO』は正にそうだった」 

そう語るプッチ枢機卿の目には陶酔の色が見える。 
ペットショップも似たような目を見せるときがあるのをジョルノは知っていた。 

「私や彼の部下になった者達に永遠の安心感を与えてくれていた。君もそうなると私は考えているんだがね」 

我に返ったプッチにジョルノは言う。 

「そうですか。なら言っておきますが、僕は父とは違う。僕の仲間や部下を踏みにじるような真似はしないでくださいね?」 
「勿論だとも。全く同じになることなど望んではいないさ。その上で私は彼にそうだったように、私なりに手助けさせてもらうよ」 

警告を含んだ厳しい言葉にプッチは笑顔のままそう答える。 
自分がジョルノの助けになることには何の疑いも持っていない自信に満ちた声だった。 

「亜人の件は私に任せておいてくれていい。ロマリアは私が説得して見せよう」 
「任せます。では僕はこれで、またアルビオンから戻った時にお伺いしますね」 
「待ちたまえ」 

体を起こしたジョルノの手を掴み、プッチは一枚のディスクを握らせた。 
魔法の照明で照らされた盤面に映っているのはスタンドではなかった。 

「"ガンダールヴ"だ。兵に銃器の扱いを覚えさせるのにたらい回しにする予定だったんだが、せめてもの選別さ」 
「既に、ルイズから奪っていたと言うわけか」 
「鳥が使っていても仕方が無いだろう? それに…これはミス・ヴァリエールからの報酬でもある」 

微かに怒りを覗かせるジョルノを説得しようとプッチは言い聞かせるように言う。 
だがそれは同時に、ジョルノを騙してこの場を乗り切ろうとしているようでもあった。 
真意を探ろうとするかのように己を観察するジョルノに、同じような視線を返しながらプッチは語る。 

「彼女の依頼はロマリアに残っている虚無の情報を調べる事…その間"ガンダールヴ"を貸すという約束でね。君に自分の系統を教えられた勉強熱心なメイジは、彼女なりに調べようとしているというわけだ」 

汗もかいていない。声も上擦ったりなんてことはない…至って平静な態度をプッチは崩さなかった。 
だが、プッチ枢機卿という男がジョルノと同じように必要なら平気で嘘を吐ける人間だと言うことをジョルノは理解していた。 
『スマン、ありゃ嘘だった』なんてこの男なら簡単に言うだろう。 

だが、この件に関してはルイズが承諾しているかを確かめる位が関の山だろう。 
使い魔の能力が失われようと生命に関わるわけではないし、メイジが自分の使い魔をどうしようが勝手だ。 
虚無の件では相談しているしアルビオンにも行くとはいえ、ルイズがゲルマニアの人間で、年下のジョルノに使い魔のことにまで口を出されたがるとは考えにくかった。 

「ルイズがいいと言うなら、僕が言う事はありませんね」 

だからジョルノは特に何も言わずに体を起こす。 
目にかかる黒髪を手で払い除け、枕元に散乱する手紙や本を纏めるジョルノの姿を眺めながら、プッチは自分の枕を抱えて再び横になった。 

「出立までには足と、AK小銃も用意しておこう。銃と“ガンダールヴ”は相性がいいはずだ」 
「どこでそんな物を?」 

AK小銃位はジョルノも知っている。 
『AK-47:世界最強の殺人マシーン』、なんて調査報告書が存在する程有名な銃だ。 
AK系はコピー品も含めて大量にあるのでどれかはわからないが、高い信頼性がありパッショーネにも、あるところにはあるのだがまさかハルケギニアでも名前を聞くとは思っていなかったジョルノは純粋に驚いているようだった。 
プッチはそんな反応が面白いらしく、声を上げて笑う。 

「ロマリアにはまだ君の知らぬ部分もあるというわけさ。今度紹介しよう。その為の”ガンダールヴ”だったが、仕方あるまい」 
「グラッツェ。貴方のお陰でこの仕事は当初よりとても楽になりましたよ」 

『DIO』の息子に頭まで下げて礼を言われたプッチは照れくさそうに首を振った。 

「当然のことさ。君が私を試すように…私にとってこれは君を試す良い機会だが、倒れられても困るんだよ」 

荷物を纏め、ベッドから下りたジョルノはそれを聞いてプッチを見る。 
口元に爽やかな笑みを浮かべ自分を見るDIOの息子を、プッチは眩しそうに見上げていた。 
ジョルノはそれ以上何も言わないプッチに背を向けて、部屋を後にした。 
プッチは柔らかいベッドの上を転がり、開いたままだった窓に降り立つ鳥へと声をかける。 

「彼が『DIOの息子』なのか。それとも『ジョナサンの息子』なのか…ペットショップ。君も気にならないかね?」 

ペットショップは何も言わないどころかプッチには目もくれず仕留めて来た獲物を食べる。 
主人の友人だというが、彼にとってはプッチは今の所敵対していない相手でしかなかった。 

「ジョナサンが私の好意をどう受け取るのか、楽しみじゃあないか。ええ? 『ガンダールヴ』で我が信徒達にタイガー戦車の操縦を覚えさせるのを延期する価値はあると思わないかい?」 

無視されても、人懐っこい笑みを浮かべて語るプッチにペットショップを一瞥を投げ、食いかけを足に挟んで飛び立った。 
プッチの態度を見て、ペットショップもジョルノと共にアルビオンへ行くことを決めていた。 
同行することを決めたペットショップが雄雄しく空を舞う下で、同じくアルビオンへ向かう事を決めたサイトが最近仲良くなった女の子との別れを惜しんでいた。 

「サイトさん…本当にアルビオンに?」 

今にも泣き出しそうなシエスタに、サイトはばつが悪そうに頭をかいた。 
デルフリンガーは、とても空気が読めなさそうな気がしたので厳重に布を巻かれていた。 

「あぁ、師匠には恩があるしよ。竜を貸してくれるって人もいてさ、運ぶだけならなんとか俺にもできるんじゃないかって思うんだ」 
「それだけで、それだけで行っちゃうんですか!? 極秘っておっしゃいましたけど、絶対危険です…! ポルナレフさんはああ見えてフーケを捕まえた人なんですよ?」 
「わかってるよ。でもあの人達といたら俺の故郷について何かわかりそうな気がするんだ。だから…世話になってばかりってわけにはいかないんだ」 

もう朝っぱらだって言うのに二人の影が重なるのをパッショーネのエロタウロスことラルカスは腕を組み睨みつけるようにしながら、精神を統一していた。 
特徴的な呼吸音と共に、高まる魔力がオーラとなって確認できるほどだった。 
ラルカスは波紋呼吸を行いながら、自分の相棒たる短剣に相談する。 

「ポルナレフによるとテファがボスを召喚したらしい」 
「らしいな」 

インテリジェンスソードである地下水は自分を持っているラルカスの主導権を一瞬だけ奪い取って相槌を打つ。 
2.5メートル以上という控え目に言っても大柄すぎる牛男が独り言を言っているようで不気味だが、幸いまさ夜明け前。周囲に人はいなかった。 
代わりに近くにいた鳥が怯えるように飛び去っていき、急降下してきたペットショップの爪に喉を貫かれて連行されていった。 
芝生の上で胡坐をかいたまま、ラルカスはそれを見ていたがギャングとして抗争に明け暮れるラルカスはもうそのくらいの事では集中力を乱さなかった。 
視界の端に、ケティとの朝駆けの準備をするギーシュの姿が見えたが黙殺する。 
また何かやらかしたのか、食堂の前でまだ正座中のジャン・ジャックも無視して、重々しい声で宣言する。 

「そこを見習って、私も異世界の美女を呼び出そうと思うんだがどうだ?」 
「…例えば?」 
「顔面にパンチを食らってもヘコたれなくて私がフェイスチェンジ使わなくてオッケーって言ってくれる愛情の深いタイプが良いな。それでいてクールなら何も言う事は無い」 
「…使い魔召喚と理想の嫁召喚を勘違いしてるんじゃねーの? 時々相棒が仕事できない奴だったら殺してるなって俺思うわ」 

呆れたような声で突っ込みを入れられたラルカスは豪快に笑った。 

「それもそうだな。さて始めようか」 

ボスの命令で久しぶりに使い魔を召喚する事になったラルカスは、アンチョコを見てもう擦れきった子供時代の記憶を掘り起こす。 
地下水にはああ言ったものの、ラルカスとしては何よりも強力な使い魔が欲しかった。 
どちらにも伝手はあるが、戦争中の地域に行くのだ。 
最悪、流れ弾に当たって死ぬとか、間違って殺されてしまうことだってないわけじゃあない。 

ラルカスは、ボスをアルビオンに向かわせるのに内心ではまだ納得がいっていなかった。 
ジョルノは部下達を成長させて自分がいなくても滞りないようにしたいらしいが…ラルカスはそれも疑問視していた。 

ラルカスにはまだ、ジョルノ・ジョバァーナが必要だ。だから死なれては困る。 
その為に、強力な使い魔を呼ばなければと杖代わりにしている武器の一つ、最近組織から支給された銃剣を振り上げる。 

「我が名はラルカス。五つの力を司るペンタゴン、我の運命に従いし使い魔を召喚せよ」 


To Be Continued... 
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