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あの後ルイズは、駆けつけた他の教員によって、罰として魔法を使わずに教室を掃除するように言いつけられた。 と言っても、『ゼロ』であるルイズにとってはあまり意味はなかったが。 シュヴルーズは医務室に運び込まれて、その日は二度と教壇に立つことはなかった。 (また……やっちゃったんだ…私) ルイズは煤だらけになった教壇を拭きながら思った。 いつものパターンだった。 クラスメイトがルイズを『ゼロ』とバカにするのはいつものことだった。 ルイズだって、そんな中傷にいちいち反応すべきではないと分かっている。 だが、一度スイッチが入ってしまうと、歯止めが利かなくなってしまうのだ。 昔からそうだった。 内側から沸々と湧き上がる暗い感情を抑えられない。 ルイズは自分の未熟に自己嫌悪した。 これもいつものことだった。 つまり、いつもとなにも変わっちゃいないのだ。ルイズは教壇を拭きながら、自分の使い魔を垣間見た。 机にめり込んでいる小石を1つ1つ器用に抉りだしていた。 ルイズはこの時だけは、人型の使い魔を召喚したことを感謝した。 拭き掃除があらかた終わったルイズは、雑巾を絞りながら、DIOに聞いた。 「これでわかったでしょ。私がどうして『ゼロ』って呼ばれてるか…」 DIOは最後の石粒を抉り出しながら答えた。 「あぁ、十分分かったとも。仮初めとはいえ、君が私の『マスター』にとしての資格ありということが…」 「はぁ?なに分けわかんないこと言ってんのよ…?アレ見てそんなこと思う要素があったわけ?」 もちろんだとも、とDIOは答えた。 「…『マスター』。君はもっと、自分を解放する術を磨くべきだ」 ルイズの頬に、さっと朱がさした。 見られていたのだ。 ニヤつきながらシュヴルーズを蹴り回していたルイズを。 「あ、アレは…!その、その場の空気というか、勢いというか…と、とにかく私の本心じゃないんだからッ!」 しどろもどろで否定するルイズに、DIOはニヤリと笑い、教室を出ていった。 「掃除は終わったな、『マスター』。先に食堂に行っているよ」 DIOの言葉が教室に響いた。 『だが、『マスター』。君には資格はあっても、権利なんかないのだよ…』 雑巾とバケツを両手に持ったまま、DIOを見送ったルイズは、1人ぼやいた。 「あいつ、やっぱり私のこと馬鹿にしてるでしょ…」 食堂にたどり着いたルイズは、DIOの横にドカッと座った。 テーブルはDIOが座っているところから前後左右二つずつスッポリ開いていた。 遠くのクラスメイトは"平民の分際で…"と囁きあっていたが、自分からDIOにそこをどけと言いつける勇気はないようだ。 ぼーっとDIOの食事模様を眺めるルイズは、DIOが食べているのは早退したマルコリヌの分だとばっかり思っていたが、どうやら違うということに徐々に気づいた。 何というか、自分たちの食事の内容と比べて、幾分質が高い気がする。 ていうか明らかに質が高い。 うまそうだ。 それに気づいたルイズは"ご主人様を差し置いて"と怒鳴りつけたが、DIOはそれをあっさり無視した。 やることなすこといちいち完璧なDIOにムカついて、ルイズはワインを飲んだ。 ---そして、顔をしかめた。 いつものと違って、少し酸味が強すぎる気がすると思ったのだ。 本当にわずかな違いだったので、気のせいだとも思った。 しかしこれは…… 「…………………」 判断がつきかねて、ウンウン唸っているルイズを、DIOはじっと見つめていた。 そうこうしていると、ルイズの背後から1人のメイド服を着た少女が近づいてきた。 そのメイドは、DIOの横に歩み寄ると、恭しくお辞儀をした。 その手には籠が下がっており、中には一本のワインボトルが入っていた。いかにも高級そうなボトルだった。 「失礼いたします、DIO様。ワインをお持ちしました。アルビオンの四十年物でございます。 料理長のマルトーが、お出しするようにと」 お口に合えばよろしいのですが…、と言うメイドに、DIOは黙ってグラスをメイドの方にやった。 トクトクと軽やかな音をさせながら、ワインが注がれた。 DIOは一通り香りを楽しんだ後、クイとグラスを傾けた。 少しの沈黙の後、DIOは一言うむ、と頷いた。メイドは深々とお辞儀した。 「なかなか良いのを置いているじゃあないか。気に入ったよ」 「光栄でございます。料理長も喜びましょう」 「彼によろしく伝えておいてくれよ」 「かしこまりました」 再びお辞儀をするメイド。 ルイズはそのやりとりに、あんぐりと口を開いた。 頭がフラフラした。 開いた口がふさがらない。 こいつの高慢ちきぶりには慣れたつもりだったが、これはもう予想外だ。 なにをやってるんだこの使い魔は---ルイズはとりあえず、DIOの横に相変わらず控えているメイドに怒鳴った。 「ち、ちょっと平民!何勝手に人の使い魔を餌付けしてるのよ!」 その怒鳴り声で、初めてルイズに気づいたというように、メイドはルイズに体を向けた。 DIOがメイドに何やら伝えると、そのメイドはスカートの端を摘んで礼儀正しくお辞儀をした。 「これは、ミス・ヴァリエール、失礼を。 …私、DIO様の身の回りのお世話をさせていただいております、シエスタと申します。どうぞ、お見知りおきを」 ルイズはうぐっと言葉に詰まった。 憎々しいくらいに完璧な礼だった。 隙のないシエスタを責めるのは不利と判断したのか、ルイズはその矛先をDIOに向けた。 「DIO!なによ、このメイドは!召喚されて早々女の子に唾付けてたってわけ!?」 DIOはグラスを置き、やれやれと言った風にルイズに答えた。 「あぁ…彼女かい?宝物庫に入る時に知り合ってね。 色々運び出すのを手伝ってもらったんだ。その時からのよしみさ」 石像を部屋に運んだのも、彼女だよ---と言うDIOに、シエスタは"恐縮です"とお辞儀した。 ウソッ!?とルイズはシエスタを見た。 線の細い、華奢な体をしている。 姿勢正しくピンと背筋を伸ばしている。 胸は……デカい。 しかし、とてもあの重そうな石像を運べるほどの腕力があるとは、思えなかった。 ていうかアイツはうちの食堂で奉公しているはずじゃなかったか? ルイズは目の前の状況について行けそうにもないと思った。 頭がどうにかなりそうだった。 えぇい、無視無視!!私は何にも見ていない!---ルイズは現実逃避を決め込み、昼食に集中することにした。 ちょうどその頃、ルイズ達の席から少し離れたところで、数人の貴族が1人のキザそうな貴族を冷やかしていた。 取り巻きなのだろうか、彼らは口々にそのキザな 少年に話しかけていた。 「なあ、ギーシュ!お前、今誰と付き合っているんだ?」 「誰が恋人なんだ?ギーシュ?」 キザな少年はギーシュというらしい。 彼はすっと唇の前に指を立てた。 「つきあう?僕にそのような特定の女性はいないんだ。 薔薇は、多くの人を楽しませるためにあるんだからね」 自分を薔薇に例えているあたりが救いようがなかった。 ---ふと、ギーシュのポケットから、ガラスでできた小瓶が転がり落ちた。 中に紫色の液体が揺れるその小瓶は、コロコロと、DIOのほうに転がっていった。 だが、小瓶がDIOの足にぶつかる直前に、シエスタがそれをすっと取り上げた。 無感情な視線をギーシュに向け、シエスタは彼に近づいた。 「小瓶が落ちました。ミスタ・グラモン」 お辞儀をして、小瓶をギーシュの机の上に置いた。 そのお辞儀は、先ほど彼女がDIOにしたものに比べると、随分と素っ気ないものだったのだが、ギーシュは彼女の言葉を否定した。 「これは、僕のじゃない。君は何を言っているんだね?」 しかし、その小瓶の出所に気づいたギーシュの友人たちが、大声で騒ぎだした。 「おお?その香水はもしや、モンモランシーの物じゃないか?」 「そいつがギーシュのポケットから落ちてきたってことは、つまりお前は今、モンモランシーと付き合っているんだな?」 「違う。いいかい、彼女の名誉の為に言っておくが……」 ギーシュが何か言いかけたとき、後ろのテーブルに座っていた一年生の少女が、ギーシュの方に歩いてきた。 そして…… 「ウソツキッ!」 少女はギーシュが言い訳をする前に、彼の頬をひっぱたき、走り去っていった。 ギーシュは頬をさすった。 すると、遠くの席から、金髪の見事な巻き毛の少女が立ち上がった。 俯いて、表情が見えないまま、かつかつとギーシュの席までやってきた。 「モンモランシー。誤解だ。ケティとはただいっしょに、ラ・ロシェールの森へ遠乗りしただけ…」 ギーシュが言い終わらないうちに、モンモランシーはその目からポロポロと玉のような涙を流し始めた。 ギーシュはてっきり叩かれるものと思っていただけに、モンモランシーの反応が意外だった。 モンモランシーは俯いて泣きながら、一言「ひどい…」と呟いて、そのまま走り去っていった。 普段の快活で強気な彼女を知っているクラスメイトたちは、モンモランシーが周りを省みずに泣き出したことに衝撃を受けた。 彼女がよほどショックを受けているのだということが容易にわかった。 クラスメイトはギーシュに非難の目を向けた。 刺すような視線を感じながら、ギーシュは居心地が悪そうに言った。 「あのレディたちは、薔薇の存在の意味を理解していないようだ」 モンモランシーたちに責任を転嫁するギーシュに、クラスメイトは呆れた。 シエスタは一通りの出来事を無関心に見届けると、DIOの側へ戻ろうとした。 ---が 「待ちたまえ」 ギーシュが引き止めた。シエスタは再びギーシュの方へ向き直った。 「君が軽率に、香水の瓶なんかを拾い上げてくれたお陰で、二人のレディの名誉に傷がついた。どうしてくれるんだね」 どうやら全ての責任をシエスタに押しつけるつもりである。 シエスタは眉一つ動かさずに言った。 「は?おっしゃる意味が、分かりかねます。ミスタ・グラモン」 全く動揺しないシエスタに、ギーシュは段々いらつき始めた。 「ふん!平民如きに、貴族の機転を期待したのが間違いのようだな」 「…もうしわけございません、ミスタ・グラモン」 事務的なシエスタの返答が鼻についたのか、ギーシュは頬を痙攣させながら、杖を取り出した。 「そこに跪きたまえ。貴族に対する礼儀をおしえてやろうじゃないか」 「……………………」 シエスタ無言で跪いた。 (あーあ、ありゃ完璧切れてるわね) ルイズはその様子を肘をつきながらぼんやりと見やった。 ま、私には関係ないけど、と思いながら、ルイズはチラッとDIOの方を向いた。 「どうするの?あなたの専属のメイドさんが大ピンチよ?」 からかうように言うルイズに、DIOはワインのグラスをテーブルに起きながら、ニヤリと笑った。 「…そうだな。メイドの不始末は、主人の…このDIOの責任だろうよ」 白々しいと思いながらも、DIOの言葉にルイズも笑った。 奇しくもDIOと似たような笑みだった。 「さ、私がどれだけ苦労してるのか、せいぜい実感してくるといいわ」 ルイズの言葉を皮切りに、2人して同じ調子で 「クックックックッ」と笑った。 ---影がゆっくりと立ち上がった。 to be continued…… ----
あの後ルイズは、駆けつけた他の教員によって、罰として魔法を使わずに教室を掃除するように言いつけられた。 と言っても、『ゼロ』であるルイズにとってはあまり意味はなかったが。 シュヴルーズは医務室に運び込まれて、その日は二度と教壇に立つことはなかった。 (また……やっちゃったんだ…私) ルイズは煤だらけになった教壇を拭きながら思った。 いつものパターンだった。 クラスメイトがルイズを『ゼロ』とバカにするのはいつものことだった。 ルイズだって、そんな中傷にいちいち反応すべきではないと分かっている。 だが、一度スイッチが入ってしまうと、歯止めが利かなくなってしまうのだ。 昔からそうだった。 内側から沸々と湧き上がる暗い感情を抑えられない。 ルイズは自分の未熟に自己嫌悪した。 これもいつものことだった。 つまり、いつもとなにも変わっちゃいないのだ。ルイズは教壇を拭きながら、自分の使い魔を垣間見た。 机にめり込んでいる小石を1つ1つ器用に抉りだしていた。 ルイズはこの時だけは、人型の使い魔を召喚したことを感謝した。 拭き掃除があらかた終わったルイズは、雑巾を絞りながら、DIOに聞いた。 「これでわかったでしょ。私がどうして『ゼロ』って呼ばれてるか…」 DIOは最後の石粒を抉り出しながら答えた。 「あぁ、十分に分かったとも。仮初めとはいえ、君が私の『マスター』にとしての資格ありということが…」 「はぁ?なに分けわかんないこと言ってんのよ…?アレ見てそんなこと思う要素があったわけ?」 もちろんだとも、とDIOは答えた。 「…ルイズ。君はもっと、自分を解放する術を磨くべきだ」 ルイズの頬に、さっと朱がさした。 見られていたのだ。 ニヤつきながらシュヴルーズを蹴り回していたルイズを。 「あ、アレは…!その、その場の空気というか、勢いというか…と、とにかく私の本心じゃないんだからッ!」 しどろもどろで否定するルイズに、DIOはニヤリと笑い、教室を出ていった。 「掃除は終わったな、『マスター』。先に食堂に行っているよ」 DIOの言葉が教室に響いた。 『だが、『マスター』。君には資格はあっても、権利なんかないのだよ…』 雑巾とバケツを両手に持ったまま、DIOを見送ったルイズは、1人ぼやいた。 「あいつ、やっぱり私のこと馬鹿にしてるでしょ…」 食堂にたどり着いたルイズは、DIOの横にドカッと座った。 テーブルはDIOが座っているところから前後左右二つずつスッポリ開いていた。 遠くのクラスメイトは"平民の分際で…"と囁きあっていたが、自分からDIOにそこをどけと言いつける勇気はないようだ。 ぼーっとDIOの食事模様を眺めるルイズは、DIOが食べているのは早退したマルコリヌの分だとばっかり思っていたが、どうやら違うということに徐々に気づいた。 何というか、自分たちの食事の内容と比べて、幾分質が高い気がする。 ていうか明らかに質が高い。 うまそうだ。 それに気づいたルイズは"ご主人様を差し置いて"と怒鳴りつけたが、DIOはそれをあっさり無視した。 やることなすこといちいち完璧なDIOにムカついて、ルイズはワインを飲んだ。 ―――そして、顔をしかめた。 いつものと違って、少し酸味が強すぎる気がすると思ったのだ。 本当にわずかな違いだったので、気のせいだとも思った。 しかしこれは…… 「…………………」 判断がつきかねて、ウンウン唸っているルイズを、DIOはじっと見つめていた。 そうこうしていると、ルイズの背後から1人のメイド服を着た少女が近づいてきた。 そのメイドは、DIOの横に歩み寄ると、恭しくお辞儀をした。 その手には籠が下がっており、中には一本のワインボトルが入っていた。いかにも高級そうなボトルだった。 「失礼いたします、DIO様。ワインをお持ちしました。アルビオンの四十年物でございます。 料理長のマルトーが、お出しするようにと」 お口に合えばよろしいのですが……、と言うメイドに、DIOは黙ってグラスをメイドの方にやった。 トクトクと軽やかな音をさせながら、ワインが注がれた。 DIOは一通り香りを楽しんだ後、クイとグラスを傾けた。 少しの沈黙の後、DIOは一言うむ、と頷いた。メイドは深々とお辞儀した。 「なかなか良いのを置いているじゃあないか。気に入った」 「光栄でございます。料理長も喜びましょう」 「彼によろしく伝えておいてくれよ」 「かしこまりました」 再びお辞儀をするメイド。 ルイズはそのやりとりに、あんぐりと口を開いた。 頭がフラフラした。 開いた口がふさがらない。 こいつの高慢ちきぶりには慣れたつもりだったが、これはもう予想外だ。 なにをやってるんだこの使い魔は……。 ルイズはとりあえず、DIOの横に相変わらず控えているメイドに怒鳴った。 「ち、ちょっと平民!何勝手に人の使い魔を餌付けしてるのよ!」 その怒鳴り声で、初めてルイズに気づいたというように、メイドはルイズに体を向けた。 DIOがメイドに何やら伝えると、そのメイドはスカートの端を摘んで礼儀正しくお辞儀をした。 「これは、ミス・ヴァリエール、失礼を。 ……わたくし、DIO様の身の回りのお世話をさせていただいております、シエスタと申します。どうぞ、お見知りおきを」 ルイズはうぐっと言葉に詰まった。 憎々しいくらいに完璧な礼だった。 隙のないシエスタを責めるのは不利と判断したのか、ルイズはその矛先をDIOに向けた。 「DIO!なによ、このメイドは!召喚されて早々女の子に唾付けてたってわけ!?」 DIOはグラスを置き、やれやれと言った風にルイズに答えた。 「あぁ…彼女か?宝物庫に入る時に知り合ってね。 色々運び出すのを手伝ってもらったんだ。その時からのよしみさ」 石像を部屋に運んだのも、彼女だよ、と言うDIOに、シエスタは"恐縮です"とお辞儀した。 ウソッ!?とルイズはシエスタを見た。 線の細い、華奢な体をしている。 姿勢正しくピンと背筋を伸ばしている。 胸は……デカい。 しかし、とてもあの重そうな石像を運べるほどの腕力があるとは、思えなかった。 ていうかアイツはうちの食堂で奉公しているはずじゃなかったか? ルイズは目の前の状況について行けそうにもないと思った。 頭がどうにかなりそうだった。 (えぇい、無視無視!!私は何にも見ていない!) ルイズは現実逃避を決め込み、昼食に集中することにした。 ちょうどその頃、ルイズ達の席から少し離れたところで、数人の貴族が1人のキザそうな貴族を冷やかしていた。 取り巻きなのだろうか、彼らは口々にそのキザな 少年に話しかけていた。 「なあ、ギーシュ!お前、今誰と付き合っているんだ?」 「誰が恋人なんだ?ギーシュ?」 キザな少年はギーシュというらしい。 彼はすっと唇の前に指を立てた。 「つきあう?僕にそのような特定の女性はいないんだ。 薔薇は、多くの人を楽しませるためにあるんだからね」 自分を薔薇に例えているあたりが救いようがなかった。 ふと、ギーシュのポケットから、ガラスでできた小瓶が転がり落ちた。 中に紫色の液体が揺れるその小瓶は、コロコロと、DIOのほうに転がっていった。 だが、小瓶がDIOの足にぶつかる直前に、シエスタがそれをすっと取り上げた。 無感情な視線をギーシュに向け、シエスタは彼に近づいた。 「小瓶が落ちました。ミスタ・グラモン」 お辞儀をして、小瓶をギーシュの机の上に置いた。 そのお辞儀は、先ほど彼女がDIOにしたものに比べると、随分と素っ気ないものだったのだが、ギーシュは彼女の言葉を否定した。 「これは、僕のじゃない。君は何を言っているんだね?」 しかし、その小瓶の出所に気づいたギーシュの友人たちが、大声で騒ぎだした。 「おお?その香水はもしや、モンモランシーの物じゃないか?」 「そいつがギーシュのポケットから落ちてきたってことは、つまりお前は今、モンモランシーと付き合っているんだな?」 「違う。いいかい、彼女の名誉の為に言っておくが……」 ギーシュが何か言いかけたとき、後ろのテーブルに座っていた一年生の少女が、ギーシュの方に歩いてきた。 そして…… 「ウソツキッ!」 少女はギーシュが言い訳をする前に、彼の頬をひっぱたき、走り去っていった。 ギーシュは頬をさすった。 すると、遠くの席から、金髪の見事な巻き毛の少女が立ち上がった。 俯いて、表情が見えないまま、かつかつとギーシュの席までやってきた。 「モンモランシー。誤解だ。ケティとはただいっしょに、ラ・ロシェールの森へ遠乗りしただけ…」 ギーシュが言い終わらないうちに、モンモランシーはその目からポロポロと玉のような涙を流し始めた。 ギーシュはてっきり叩かれるものと思っていただけに、モンモランシーの反応が意外だった。 モンモランシーは俯いて泣きながら、一言「ひどい……」と呟いて、そのまま走り去っていった。 普段の快活で強気な彼女を知っているクラスメイトたちは、モンモランシーが周りを省みずに泣き出したことに衝撃を受けた。 彼女がよほどショックを受けているのだということが容易にわかった。 クラスメイトはギーシュに非難の目を向けた。 刺すような視線を感じながら、ギーシュは居心地が悪そうに言った。 「あのレディたちは、薔薇の存在の意味を理解していないようだ」 モンモランシーたちに責任を転嫁するギーシュに、クラスメイトは呆れた。 シエスタは一通りの出来事を無関心に見届けると、DIOの側へ戻ろうとした。 が、 「待ちたまえ」 ギーシュが引き止めた。シエスタは再びギーシュの方へ向き直った。 「君が軽率に、香水の瓶なんかを拾い上げてくれたお陰で、二人のレディの名誉に傷がついた。どうしてくれるんだね」 どうやら全ての責任をシエスタに押しつけるつもりである。 シエスタは眉一つ動かさずに言った。 「は?おっしゃる意味が、分かりかねます。ミスタ・グラモン」 全く動揺しないシエスタに、ギーシュは段々いらつき始めた。 「ふん!平民如きに、貴族の機転を期待したのが間違いのようだな」 「……もうしわけございません、ミスタ・グラモン」 事務的なシエスタの返答が鼻についたのか、ギーシュは頬を痙攣させながら、杖を取り出した。 「そこに跪きたまえ。貴族に対する礼儀をおしえてやろうじゃないか」 「……………………」 シエスタ無言で跪いた。 (あーあ、ありゃ完璧切れてるわね) ルイズはその様子を肘をつきながらぼんやりと見やった。 ま、私には関係ないけど、と思いながら、ルイズはチラッとDIOの方を向いた。 「どうするの?あなたの専属のメイドさんが大ピンチよ?」 からかうように言うルイズに、DIOはワインのグラスをテーブルに起きながら、ニヤリと笑った。 「…そうだな。メイドの不始末は、主人の…このDIOの責任だろうよ」 白々しいと思いながらも、DIOの言葉にルイズも笑った。 奇しくもDIOと似たような笑みだった。 「さ、私がどれだけ苦労してるのか、せいぜい実感してくるといいわ」 ルイズの言葉を皮切りに、2人して同じ調子で 「「クックックックッ」」と笑った。 影がゆっくりと立ち上がった。 to be continued…… ---- [[21へ>http://www22.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/149.html]] ----

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