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風と虚無の使い魔-3 - (2007/10/27 (土) 00:48:25) の最新版との変更点

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「ちょっと!勝手になにやってるのよ!」 ルイズがワムウに喚き散らす。 ワムウは顔色一つ変えずに返す。 「あちらが申し込んできた決闘だろう?受けないで断れとでも言うのか?この世界にも決闘で優劣を決める風習があるとはな。 魔法使いとやらの能力もまだわかりきっていない、あの小僧で試させて貰おう。それとも、断れとでも言うのか?」 「断ってあたりまえでしょ!あんた、平民が貴族にかなう…」 ルイズは彼の戦闘能力を思い出す。 「そ、その、殺したり食ったりしちゃだめよ?」 「……」 ワムウは無言で返す。 「さあ、ヴェストリの広場とはどこだ、案内しろ。お前がしないならその辺の人間どもでも構わないがな」 周りの生徒たちはそそくさと出て行く。昼時の食堂だというのに一気に閑散とする。マルトー涙目だ。 ため息をついてルイズはヴェストリの広場へ向かい始めた。 「さあ、こっちよ。もう一度言っておくけど、私以外の人間も殺したりしちゃだめよ? 貴族を殺したりしたら、どうなるかわからないし、知らないからねッ!」  * * * ワムウが来る前のヴェストリの広場。既に野次馬が集まっている。 涙を流すモンモンラシーと胸を張るギーシュ。 「モンモンラシー、心配するな!君の愛の結晶を壊した野蛮な亜人は僕が退治してあげよう!」 「違うわよ!あんな香水いつだって作ってあげるわよ!でもね、あの亜人はね!その辺の使い魔とは段違いなのよ!」 召還したときのクラスにいたモンモンラシーが涙声で力説する。 「所詮『ゼロ』の使い魔だろ?大体、ドラゴンやエルフクラスの亜人ならともかく、魔法も使えない使い魔に『ドット』とはいえメイジの 僕が負けると思っているのかい?それは心外だな、モンモンラシー。心配しないで君は見守っててくれたまえ」 「あ、あのね!あの亜人はね!トライアングルはあるはずのコルベール先生のファイヤー・ボールを片手でかき消したのよ!」 「ははは、あの禿の昼行灯先生だ…えええええええッ!」 ギーシュの顔が青ざめる。 「そうよ!魔法を吸い取る能力とかあるかもしれないわよ!もしかすると新種のエルフかも知れないわ!ああ、恐ろしい」 「ちょ、ちょっと待ってくれよ、もう僕は決闘の約束してしまったよ?ど、どうすればいいんだあああ!」 「諦めて謝りなさい、いくらなんでも謝れば許してくれるわよ……たぶん」 「今たぶんって言ったなッ!?たぶん!?……それに、謝ることなんかできないよ!なんたって僕は青銅のギーシュ、グラモン家の長男として! 決闘で背を向けることは許されない!今考えることは、あの使い魔にどうやって勝つかだ!モンモンラシー、知ってることを教えてくれ!」 「はあ、あんたには何言ってもわからないみたいね……ケガならできる限り私が手当てならしてあげるから、絶対に…死なないでよ?まずあいつはね……」  * * * ヴェストリの広場にワムウが堂々と入ってくる。 遅れてルイズ。 「よよよよよよよく来たな!にに、逃げずに来たことは、ほほほほ誉めてやろうじゃないか!で、でも今なら逃げたかったら逃げてもいいぞ!」 ビビりまくりのギーシュ。 対してワムウは初対面の野次馬たちの野次をものともせず、怯むどころかむしろ風格さえ感じさせる。 「御託はいい、お前が逃げないのならば決闘の開始だ。決闘のルールはどうする?ナイフエッジデスマッチでも古代騎馬戦でもチェーン首輪デスマッチでも構わん… と言いたい所だが、生憎、ご主人の命令で殺すなと言われているからな、デスマッチはできなさそうだ。最も貴様が望むなら、構わないがな」 ギーシュは殺すなという命令に従っていると聞いて少し顔色を戻す。 「…もっとも、『不慮の事故』は決闘にはよくあることだがな」 ギーシュの顔色が再び青くなる。 (こ、こうなったら奥の手しかない…!) ギーシュは決心を固める。 「決闘のルールはッ!グラモン家に伝わるルール!『ナイトウィッシュ(騎士の願望)』で執り行うッ!」 そのルールを聞いて青色の髪の小柄な少女が反応する。 「『ナイトウィッシュ』!?」 「知っているのタバサ?」 『ナイトウィッシュ』とは 現在から遡るころ約2世紀前にトリステイン王国周辺で最も繁栄した決闘法である。そのころのトリステインでは魔法騎士の 全盛期でありながらその魔法騎士たちの経済状況が『タルブの悲劇』により困窮している時期であった。そのため彼ら騎士の中には 剣と杖両方持っていない者が少なくなく、片方の武器しか持たないものが普通の決闘法ではどうしても不利になってしまう。そのため 剣か杖どちらかを選び、その選んだ方の武器だけを持ちそれを先に落としたほうが負けだという非常に単純明快な決闘法である。この 決闘法の流行した中期には騎士の名誉であり象徴でもある剣と杖どちらか片方を落とすということで、落下した場合騎士が生きるか死ぬか ちょうど半々の割合である高さ4.8メイルの円盤状のプレートの上で行い、負けたほうは即座にそのプレートから落ちると定められて いた。この決闘法で円盤から落ちたものは死なないまでも非常につらい苦しみを味わうことから4.8メイルの4と8の数をとって 非常に苦しいことである『四苦八苦』の語源になっている。 現在ではこの風習は廃れているが、タルブ周辺で行われている剣も杖も持たない平民の間で素手で相手を突きとすか倒すことを目指す 『アフガンコウクウスモウ』のルーツではないかという研究が進んでいる。 (出典 ガリア書房刊「中世 18人の名騎士達」より) 「よ、要するに、相手の持ってる杖か剣を叩き落すなりなんなりすればいい、ってことね」 タバサと呼ばれた少女は無言でうなずく。 タバサが説明している間にワムウへの説明も済んだようだ。 「僕は魔法使いだ!よって、僕は杖を選ばせて貰おう。君は剣で構わないかね?」 「ああ、よかろう」 (ま、まずは第一関門突破だ!モンモンラシーの言う話では彼の身体能力は異常!それならば隙の大きくなる剣を持たせれば 動きも少しは落ちるだろう。多少リーチが長くなるが、魔法使いの側のほうがもともとリーチは非常に長い! 接近されるまで僕のワルキューレで時間を稼いで、接近をされたならば『奥の手』で奴を怯ませる! あの巨体を倒せ、と言われたら無理だけれども怯ませることさえできればッ!接近している状態ならば剣を落とすくらいは可能ッ!) 「開始の合図は?」 ワムウが問い掛ける。 「あと数分で鐘が鳴る。鳴り始めたら決闘開始だ!剣を受け取れ!」  * * * (ふむ、『ナイトウィッシュ』か、片手が塞がってしまっていて神砂嵐が放てん……それに、いくらここの太陽光線が 弱いからといって、真昼間にはさすがに調子が悪い。神砂嵐は夜専用、と見てかまわんだろうな。だが、波紋戦士どころか 挙動を見る上戦闘のセンスも、経験ももっていないようだ。そんな小僧が多少魔法使ってきたところで、ハンデを背負っているとは言え 負けるとなれば今まで向かってきた誇り高き波紋戦士たちに申し訳がたたんな……これだけの人前だ、食うという能力を晒すことは この先、非常に不利なものがあるかもしれんな。まだ魔法についてはわからんことも多い、とりあえずあの程度の相手ならば 主人の約束を守ってもいいだろう…事故の責任や面倒まではみれんがな……) 「開始の合図は?」 緊張している様子のギーシュにワムウが問い掛ける。 「あと数分で鐘が鳴る。鳴り始めたら決闘開始だ!剣を受け取れ!」 虚勢を張っているのがワムウにはわかる。投げてよこされた剣を見るためにつかむ。 (どれどれ、ナマクラというところか、!?なんだ、左手の甲が光っている…体が軽いぞッ!これは、まるで太陽を浴びていないかのようだッ! 片手が塞がっているために神砂嵐は放てんが…これが『契約』とやらの影響か?条件はまだはっきりとはしていないが…ついでにこの能力も試させてもらおう) 数時間にも感じるようなピンと張り詰めた空気が続く。 そして、学校の鐘が低い音を響かせた。 「ワルキューレッ!」 ギーシュが手を広げたゴーレムをワムウの前に出現させる。 「ギーシュ、あんな短い時間でゴーレムを出せるのか!?」 「小さくて青銅とはいえ、一瞬であの位置にゴーレムを出すなんてトライアングルでも難しいぞ!」 (ふふ、驚くのも無理はない!バカ正直に決闘開始の時間なんて誰が待つか!開始前に地面の中でワルキューレを錬金しておいたんだ! 地表のゴーレムを一瞬で出現させるくらいならわけはないッ!) 「ギーシュってかっけーなー でもゴーレムがいちげきで吹っ飛んで いったいどうなるんだろう ギーシュはおれのダチ」 ワムウが剣を持っていない左手でワルキューレを吹き飛ばした。腹の位置には無残にも穴があいていた。 「なにいいいいいィイイイッ!」 一撃で粉砕されたギーシュが驚きの声をあげる。 「ふむ、中身が詰まっていれば少々手ごたえがあるかと思ったが、外だけのブリキ人形か。人形ならアジアで出会った『オートマータ』の方が まだ手ごたえがあったぞッ!」 ワムウの近くに青銅の粉が舞う。 (なんだあの化け物はァアアアアッ!一体目で数十秒稼ぐつもりがァアアアッ!ワルキューレの余裕はなさそうだ…… しょうがない、作戦変更だ、多少心もとないが2体目は『アレ』でいくッ!) 「もう一回だ!ワルキューレッ!」 「バカの一つ覚えか?もう一度破壊してやるぞッ!」 ワムウが左手を振ろうとする、しかしその瞬間! ワルキューレの肩が輝く! 「モンモンラシーの話からお前が脱出よりまずコルベール先生を倒そうとしたことはわかっている!あれだけの戦闘センスなら囲まれた 状態よりまずは広い場所に出てから戦おうとするのは当然の考え!なぜそれをしなかったか!それは外に出てからでは倒す自信がなかったからだ! 『太陽の光』に弱い!この仮説は正しかったようだなッ!」 肩が反射した光をもろに浴び波長の弱い光といえワムウは怯んだ。 「MMWWWWWWWW!!!」 「剣ごと右肩もらったァーーッ!」 動きは鈍重とはいえここまで接近した状態でのパンチをかわせるわけがない。そんな常識にギーシュはとらわれていた。 しかし、『戦闘の天才』ワムウは伊達ではなかった。 2体目のゴーレムの破片がワムウの周りに降りかかった。 ゴーレムが振りかぶった瞬間、その拳が影になったのだ。 「どうした?もう終わりか?」 2体目を顔色も変えずに破壊したワムウがゆっくりと歩いてくる。 「もうやめてッ!」 観戦していたモンモンラシーが涙声でギーシュに向かって叫ぶ。 「ギーシュ、少なくとも今のあなたじゃかなわないわ!おとなしく降参しなさい!死んだらどうにもならないのよ! 決闘である以上、負けを認めればケガをさせることは認められないわ!」 ギーシュが振り向いて静かに話す。 「モンモンラシー、心配してくれることはうれしいけれど、それはできないね。 自分から申し込んだ決闘で命の危険を冒す前から降参するなんて、グラモン家として、いや男としてできないねッ! ましてや好きな女の子の前ではッ!」 叫ぶが早いか、走るのが早いか。 ギーシュはワムウに向かって突っ込んでいく。 ギーシュに向かって歩くのやめたワムウの眼前に立つ。 「正真正銘…最後のワルキューレ達だ!もう小細工はしない!」 ゴーレムが4体出現する。 「4方向からだッ!これはかわせないだろう!」 一瞬であった。ゴーレムが粉みじんになるのは。 後ろのゴーレム2体を回し蹴りで、その回転をそのまま利用して左フックで前方のゴーレム2体も破壊。 ギーシュの精神力を込めた人形は、青銅のかけらへと変わりワムウの周りに散った。 「これで最後だといったな、命令を受けている以上殺すのも気が進まんし今のお前にはそこの女がいったように殺す価値もない。 今杖を置けば降伏を認めてやる。もっとも、これだけの戦力差を見せられて臆さなかったお前には少々興味があるが、 しょせんまだ坊主だ。大人しく負けを認めろ。これ以上続けるようならば、容赦はせんぞ」 ギーシュが顔色を変える。 「ほ、ほんとうに許してくれるのか?」 一瞬で虎の子のワルキューレをやられたからか、決闘前のおびえた表情に戻っている。 「ああ、とりあえず今はな」 しかし、ギーシュ顔色を戻した。 「だが断る。最後といったのはワルキューレだッ!まだ僕の精神力はつきていないぞッ!この距離が、すごくいいッ!『錬金』!」 ワムウを中心に爆発する。 ギーシュが錬金したのはゴーレムの残骸であった。 ゴーレムの残骸をバラバラにし、粉にすることによって『粉塵爆発』を起こしたのだ! 青銅はもともと融点が低く、加工しやすいために『青銅器時代』さえおこしたこともある金属。 晴れ晴れとしていたヴェストリの広場であれだけの青銅の粉が舞えば粉塵爆発は当然の結果ッ! わざわざ壊されるかのようにワムウのごく近くにワルキューレを出現させていたのはこれが狙いだったのだ! (モンモンラシーから聞いている!コルベール先生のファイヤーボールは簡単にかき消された以上、僕のワルキューレに多少小細工を 弄したところで適う訳がない!しかし、なぜかゼロのルイズの爆発魔法を食らった途端、彼は怯んだというのだ! つまり、彼は『爆発』に弱い!間違いない!怯んでいる隙に剣を…) 着眼点はよかった。この距離ならば爆発に多少巻き込まれることも覚悟していた。彼ほど格上に善戦できるドットメイジは この学院にはいないだろう。 しかし、その仮説は残念ながら間違っていた。 「むぐぁ!」 剣を奪い取ろうとしたギーシュの腹にパンチが入り、数メイル吹っ飛ぶ。 立ち上がろうした時には既にワムウは近づいており、首根っこをつかまれ、持ち上げられる。 怯んでいた様子はない。体を見ると多少ほこりでよごれているものの、火傷どころかかすり傷すら負っていない。 ギーシュは観念したかのように目をつぶり、杖を手から離した。 (さよなら、父さん、母さん、友人たち、そしてモンモンラシー。降伏を断った以上、彼は僕を許さないだろうし…許すべきではない…) 低い音とともに地面に叩きつけられる。 ギーシュの体は地面に横たわった。 「ハッ!?いき、いぎでる?」 ワムウはすでに出口方向へ歩き出していた。 「亜人…じゃなかった…ワムウ、なぜ僕を殺さなかった?情けか?命令に従ったのか?」 ワムウは振り向かずに語った。 「貴様のちっぽけな根性…そのタフさがある戦士に似ていたものでな……奴とやったときと違いケガなどは負わなかった…しかしその ちっぽけな根性に免じて1度目は見逃してやる…だが、期限までに奴に並ぶほどの戦士になることを期待してやろう……」 「し、しかし、僕はどう考えても正々堂々と戦ったとは言えないぞ!自分に都合のいいようなルールを選び、君の弱点を狙った。 現に、君はその剣を使わなかったじゃないか!こんなアンフェアな戦いで完敗したんだぞ、僕は!」 「俺の…好敵手…俺を倒した奴もそんな奴だった…正々堂々、真っ向から攻めるなど考えもしないだろうな、奴なら。 弱点を狙って当然、狙わない奴がマヌケなのさといったしたり顔でレース開始前に車輪の下に瓦礫を置いて妨害するような奴だ。 だが、奴は誇り高き戦士であった。戦いを汚さない、それはお前も同じだ。決して人間のようにセンチになったのではない… だが、まだこちらの世界を知らん。好敵手の候補が増えるのは俺としても本望だ」 振り向いていた首を戻し、再度歩き出す。 「もう一つだけ、聞かせてくれ。……『期限』はいつだい?」 ワムウは振り向かずに言った。 「指輪がないからな、お前が死ぬか、俺が死ぬまでで構わん」 ワムウは、歩き去っていった。 ――ギーシュ、完全敗北。この後気を失った。複雑骨折により全治数週間の模様。再起可能 ――ワムウ、無傷。 ---- あーん!ギーシュ様が負けた! ギーシュさまよいしょ本&ギーシュさまF.Cつくろー!って思ってたのに… くすん…美形はかませ犬だ… ・゚・(ノД`)・゚・うっうっう…ひどいよお…ふえーん!! この間「今、時代はギーシュだ!」の葉書を出してまだ2週間じゃないですか! どーして、どーして!?あれで終わり!?嘘でしょ!? 信じられないよおっあんなワムウごときに負けるなんてっ!! ジョジョと差がありすぎるわっ!!戦士になりますよね?ね?ね? ……泣いてやるぅ・゚・(ノД`)・゚・ 私はあのおそろしく鈍い彼が(たとえド女好きでもさ!ヘン!)大好きだったんですよっ!! ギーシュさまあっ!死んじゃ嫌だああああああっ!! 先生のカバッ!!え~ん・゚・(ノД`)・゚・ ----
「ちょっと!勝手になにやってるのよ!」 ルイズがワムウに喚き散らす。 ワムウは顔色一つ変えずに返す。 「あちらが申し込んできた決闘だろう?受けないで断れとでも言うのか?この世界にも決闘で優劣を決める風習があるとはな。 魔法使いとやらの能力もまだわかりきっていない、あの小僧で試させて貰おう。それとも、断れとでも言うのか?」 「断ってあたりまえでしょ!あんた、平民が貴族にかなう…」 ルイズは彼の戦闘能力を思い出す。 「そ、その、殺したり食ったりしちゃだめよ?」 「……」 ワムウは無言で返す。 「さあ、ヴェストリの広場とはどこだ、案内しろ。お前がしないならその辺の人間どもでも構わないがな」 周りの生徒たちはそそくさと出て行く。昼時の食堂だというのに一気に閑散とする。マルトー涙目だ。 ため息をついてルイズはヴェストリの広場へ向かい始めた。 「さあ、こっちよ。もう一度言っておくけど、私以外の人間も殺したりしちゃだめよ? 貴族を殺したりしたら、どうなるかわからないし、知らないからねッ!」  * * * ワムウが来る前のヴェストリの広場。既に野次馬が集まっている。 涙を流すモンモンラシーと胸を張るギーシュ。 「モンモンラシー、心配するな!君の愛の結晶を壊した野蛮な亜人は僕が退治してあげよう!」 「違うわよ!あんな香水いつだって作ってあげるわよ!でもね、あの亜人はね!その辺の使い魔とは段違いなのよ!」 召還したときのクラスにいたモンモンラシーが涙声で力説する。 「所詮『ゼロ』の使い魔だろ?大体、ドラゴンやエルフクラスの亜人ならともかく、魔法も使えない使い魔に『ドット』とはいえメイジの 僕が負けると思っているのかい?それは心外だな、モンモンラシー。心配しないで君は見守っててくれたまえ」 「あ、あのね!あの亜人はね!トライアングルはあるはずのコルベール先生のファイヤー・ボールを片手でかき消したのよ!」 「ははは、あの禿の昼行灯先生だ…えええええええッ!」 ギーシュの顔が青ざめる。 「そうよ!魔法を吸い取る能力とかあるかもしれないわよ!もしかすると新種のエルフかも知れないわ!ああ、恐ろしい」 「ちょ、ちょっと待ってくれよ、もう僕は決闘の約束してしまったよ?ど、どうすればいいんだあああ!」 「諦めて謝りなさい、いくらなんでも謝れば許してくれるわよ……たぶん」 「今たぶんって言ったなッ!?たぶん!?……それに、謝ることなんかできないよ!なんたって僕は青銅のギーシュ、グラモン家の男として! 決闘で背を向けることは許されない!今考えることは、あの使い魔にどうやって勝つかだ!モンモンラシー、知ってることを教えてくれ!」 「はあ、あんたには何言ってもわからないみたいね……ケガならできる限り私が手当てならしてあげるから、絶対に…死なないでよ?まずあいつはね……」  * * * ヴェストリの広場にワムウが堂々と入ってくる。 遅れてルイズ。 「よよよよよよよく来たな!にに、逃げずに来たことは、ほほほほ誉めてやろうじゃないか!で、でも今なら逃げたかったら逃げてもいいぞ!」 ビビりまくりのギーシュ。 対してワムウは初対面の野次馬たちの野次をものともせず、怯むどころかむしろ風格さえ感じさせる。 「御託はいい、お前が逃げないのならば決闘の開始だ。決闘のルールはどうする?ナイフエッジデスマッチでも古代騎馬戦でもチェーン首輪デスマッチでも構わん… と言いたい所だが、生憎、ご主人の命令で殺すなと言われているからな、デスマッチはできなさそうだ。最も貴様が望むなら、構わないがな」 ギーシュは殺すなという命令に従っていると聞いて少し顔色を戻す。 「…もっとも、『不慮の事故』は決闘にはよくあることだがな」 ギーシュの顔色が再び青くなる。 (こ、こうなったら奥の手しかない…!) ギーシュは決心を固める。 「決闘のルールはッ!グラモン家に伝わるルール!『ナイトウィッシュ(騎士の願望)』で執り行うッ!」 そのルールを聞いて青色の髪の小柄な少女が反応する。 「『ナイトウィッシュ』!?」 「知っているのタバサ?」 『ナイトウィッシュ』とは 現在から遡るころ約2世紀前にトリステイン王国周辺で最も繁栄した決闘法である。そのころのトリステインでは魔法騎士の 全盛期でありながらその魔法騎士たちの経済状況が『タルブの悲劇』により困窮している時期であった。そのため彼ら騎士の中には 剣と杖両方持っていない者が少なくなく、片方の武器しか持たないものが普通の決闘法ではどうしても不利になってしまう。そのため 剣か杖どちらかを選び、その選んだ方の武器だけを持ちそれを先に落としたほうが負けだという非常に単純明快な決闘法である。この 決闘法の流行した中期には騎士の名誉であり象徴でもある剣と杖どちらか片方を落とすということで、落下した場合騎士が生きるか死ぬか ちょうど半々の割合である高さ4.8メイルの円盤状のプレートの上で行い、負けたほうは即座にそのプレートから落ちると定められて いた。この決闘法で円盤から落ちたものは死なないまでも非常につらい苦しみを味わうことから4.8メイルの4と8の数をとって 非常に苦しいことである『四苦八苦』の語源になっている。 現在ではこの風習は廃れているが、タルブ周辺で行われている剣も杖も持たない平民の間で素手で相手を突きとすか倒すことを目指す 『アフガンコウクウスモウ』のルーツではないかという研究が進んでいる。 (出典 ガリア書房刊「中世 18人の名騎士達」より) 「よ、要するに、相手の持ってる杖か剣を叩き落すなりなんなりすればいい、ってことね」 タバサと呼ばれた少女は無言でうなずく。 タバサが説明している間にワムウへの説明も済んだようだ。 「僕は魔法使いだ!よって、僕は杖を選ばせて貰おう。君は剣で構わないかね?」 「ああ、よかろう」 (ま、まずは第一関門突破だ!モンモンラシーの言う話では彼の身体能力は異常!それならば隙の大きくなる剣を持たせれば 動きも少しは落ちるだろう。多少リーチが長くなるが、魔法使いの側のほうがもともとリーチは非常に長い! 接近されるまで僕のワルキューレで時間を稼いで、接近をされたならば『奥の手』で奴を怯ませる! あの巨体を倒せ、と言われたら無理だけれども怯ませることさえできればッ!接近している状態ならば剣を落とすくらいは可能ッ!) 「開始の合図は?」 ワムウが問い掛ける。 「あと数分で鐘が鳴る。鳴り始めたら決闘開始だ!剣を受け取れ!」  * * * (ふむ、『ナイトウィッシュ』か、片手が塞がってしまっていて神砂嵐が放てん……それに、いくらここの太陽光線が 弱いからといって、真昼間にはさすがに調子が悪い。神砂嵐は夜専用、と見てかまわんだろうな。だが、波紋戦士どころか 挙動を見る上戦闘のセンスも、経験ももっていないようだ。そんな小僧が多少魔法使ってきたところで、ハンデを背負っているとは言え 負けるとなれば今まで向かってきた誇り高き波紋戦士たちに申し訳がたたんな……これだけの人前だ、食うという能力を晒すことは この先、非常に不利なものがあるかもしれんな。まだ魔法についてはわからんことも多い、とりあえずあの程度の相手ならば 主人の約束を守ってもいいだろう…事故の責任や面倒まではみれんがな……) 「開始の合図は?」 緊張している様子のギーシュにワムウが問い掛ける。 「あと数分で鐘が鳴る。鳴り始めたら決闘開始だ!剣を受け取れ!」 虚勢を張っているのがワムウにはわかる。投げてよこされた剣を見るためにつかむ。 (どれどれ、ナマクラというところか、!?なんだ、左手の甲が光っている…体が軽いぞッ!これは、まるで太陽を浴びていないかのようだッ! 片手が塞がっているために神砂嵐は放てんが…これが『契約』とやらの影響か?条件はまだはっきりとはしていないが…ついでにこの能力も試させてもらおう) 数時間にも感じるようなピンと張り詰めた空気が続く。 そして、学校の鐘が低い音を響かせた。 「ワルキューレッ!」 ギーシュが手を広げたゴーレムをワムウの前に出現させる。 「ギーシュ、あんな短い時間でゴーレムを出せるのか!?」 「小さくて青銅とはいえ、一瞬であの位置にゴーレムを出すなんてトライアングルでも難しいぞ!」 (ふふ、驚くのも無理はない!バカ正直に決闘開始の時間なんて誰が待つか!開始前に地面の中でワルキューレを錬金しておいたんだ! 地表のゴーレムを一瞬で出現させるくらいならわけはないッ!) 「ギーシュってかっけーなー でもゴーレムがいちげきで吹っ飛んで いったいどうなるんだろう ギーシュはおれのダチ」 ワムウが剣を持っていない左手でワルキューレを吹き飛ばした。腹の位置には無残にも穴があいていた。 「なにいいいいいィイイイッ!」 一撃で粉砕されたギーシュが驚きの声をあげる。 「ふむ、中身が詰まっていれば少々手ごたえがあるかと思ったが、外だけのブリキ人形か。人形ならアジアで出会った『オートマータ』の方が まだ手ごたえがあったぞッ!」 ワムウの近くに青銅の粉が舞う。 (なんだあの化け物はァアアアアッ!一体目で数十秒稼ぐつもりがァアアアッ!ワルキューレの余裕はなさそうだ…… しょうがない、作戦変更だ、多少心もとないが2体目は『アレ』でいくッ!) 「もう一回だ!ワルキューレッ!」 「バカの一つ覚えか?もう一度破壊してやるぞッ!」 ワムウが左手を振ろうとする、しかしその瞬間! ワルキューレの肩が輝く! 「モンモンラシーの話からお前が脱出よりまずコルベール先生を倒そうとしたことはわかっている!あれだけの戦闘センスなら囲まれた 状態よりまずは広い場所に出てから戦おうとするのは当然の考え!なぜそれをしなかったか!それは外に出てからでは倒す自信がなかったからだ! 『太陽の光』に弱い!この仮説は正しかったようだなッ!」 肩が反射した光をもろに浴び波長の弱い光といえワムウは怯んだ。 「MMWWWWWWWW!!!」 「剣ごと右肩もらったァーーッ!」 動きは鈍重とはいえここまで接近した状態でのパンチをかわせるわけがない。そんな常識にギーシュはとらわれていた。 しかし、『戦闘の天才』ワムウは伊達ではなかった。 2体目のゴーレムの破片がワムウの周りに降りかかった。 ゴーレムが振りかぶった瞬間、その拳が影になったのだ。 「どうした?もう終わりか?」 2体目を顔色も変えずに破壊したワムウがゆっくりと歩いてくる。 「もうやめてッ!」 観戦していたモンモンラシーが涙声でギーシュに向かって叫ぶ。 「ギーシュ、少なくとも今のあなたじゃかなわないわ!おとなしく降参しなさい!死んだらどうにもならないのよ! 決闘である以上、負けを認めればケガをさせることは認められないわ!」 ギーシュが振り向いて静かに話す。 「モンモンラシー、心配してくれることはうれしいけれど、それはできないね。 自分から申し込んだ決闘で命の危険を冒す前から降参するなんて、グラモン家として、いや男としてできないねッ! ましてや好きな女の子の前ではッ!」 叫ぶが早いか、走るのが早いか。 ギーシュはワムウに向かって突っ込んでいく。 ギーシュに向かって歩くのやめたワムウの眼前に立つ。 「正真正銘…最後のワルキューレ達だ!もう小細工はしない!」 ゴーレムが4体出現する。 「4方向からだッ!これはかわせないだろう!」 一瞬であった。ゴーレムが粉みじんになるのは。 後ろのゴーレム2体を回し蹴りで、その回転をそのまま利用して左フックで前方のゴーレム2体も破壊。 ギーシュの精神力を込めた人形は、青銅のかけらへと変わりワムウの周りに散った。 「これで最後だといったな、命令を受けている以上殺すのも気が進まんし今のお前にはそこの女がいったように殺す価値もない。 今杖を置けば降伏を認めてやる。もっとも、これだけの戦力差を見せられて臆さなかったお前には少々興味があるが、 しょせんまだ坊主だ。大人しく負けを認めろ。これ以上続けるようならば、容赦はせんぞ」 ギーシュが顔色を変える。 「ほ、ほんとうに許してくれるのか?」 一瞬で虎の子のワルキューレをやられたからか、決闘前のおびえた表情に戻っている。 「ああ、とりあえず今はな」 しかし、ギーシュ顔色を戻した。 「だが断る。最後といったのはワルキューレだッ!まだ僕の精神力はつきていないぞッ!この距離が、すごくいいッ!『錬金』!」 ワムウを中心に爆発する。 ギーシュが錬金したのはゴーレムの残骸であった。 ゴーレムの残骸をバラバラにし、粉にすることによって『粉塵爆発』を起こしたのだ! 青銅はもともと融点が低く、加工しやすいために『青銅器時代』さえおこしたこともある金属。 晴れ晴れとしていたヴェストリの広場であれだけの青銅の粉が舞えば粉塵爆発は当然の結果ッ! わざわざ壊されるかのようにワムウのごく近くにワルキューレを出現させていたのはこれが狙いだったのだ! (モンモンラシーから聞いている!コルベール先生のファイヤーボールは簡単にかき消された以上、僕のワルキューレに多少小細工を 弄したところで適う訳がない!しかし、なぜかゼロのルイズの爆発魔法を食らった途端、彼は怯んだというのだ! つまり、彼は『爆発』に弱い!間違いない!怯んでいる隙に剣を…) 着眼点はよかった。この距離ならば爆発に多少巻き込まれることも覚悟していた。彼ほど格上に善戦できるドットメイジは この学院にはいないだろう。 しかし、その仮説は残念ながら間違っていた。 「むぐぁ!」 剣を奪い取ろうとしたギーシュの腹にパンチが入り、数メイル吹っ飛ぶ。 立ち上がろうした時には既にワムウは近づいており、首根っこをつかまれ、持ち上げられる。 怯んでいた様子はない。体を見ると多少ほこりでよごれているものの、火傷どころかかすり傷すら負っていない。 ギーシュは観念したかのように目をつぶり、杖を手から離した。 (さよなら、父さん、母さん、友人たち、そしてモンモンラシー。降伏を断った以上、彼は僕を許さないだろうし…許すべきではない…) 低い音とともに地面に叩きつけられる。 ギーシュの体は地面に横たわった。 「ハッ!?いき、いぎでる?」 ワムウはすでに出口方向へ歩き出していた。 「亜人…じゃなかった…ワムウ、なぜ僕を殺さなかった?情けか?命令に従ったのか?」 ワムウは振り向かずに語った。 「貴様のちっぽけな根性…そのタフさがある戦士に似ていたものでな……奴とやったときと違いケガなどは負わなかった…しかしその ちっぽけな根性に免じて1度目は見逃してやる…だが、期限までに奴に並ぶほどの戦士になることを期待してやろう……」 「し、しかし、僕はどう考えても正々堂々と戦ったとは言えないぞ!自分に都合のいいようなルールを選び、君の弱点を狙った。 現に、君はその剣を使わなかったじゃないか!こんなアンフェアな戦いで完敗したんだぞ、僕は!」 「俺の…好敵手…俺を倒した奴もそんな奴だった…正々堂々、真っ向から攻めるなど考えもしないだろうな、奴なら。 弱点を狙って当然、狙わない奴がマヌケなのさといったしたり顔でレース開始前に車輪の下に瓦礫を置いて妨害するような奴だ。 だが、奴は誇り高き戦士であった。戦いを汚さない、それはお前も同じだ。決して人間のようにセンチになったのではない… だが、まだこちらの世界を知らん。好敵手の候補が増えるのは俺としても本望だ」 振り向いていた首を戻し、再度歩き出す。 「もう一つだけ、聞かせてくれ。……『期限』はいつだい?」 ワムウは振り向かずに言った。 「指輪がないからな、お前が死ぬか、俺が死ぬまでで構わん」 ワムウは、歩き去っていった。 ――ギーシュ、完全敗北。この後気を失った。複雑骨折により全治数週間の模様。再起可能 ――ワムウ、無傷。 ---- あーん!ギーシュ様が負けた! ギーシュさまよいしょ本&ギーシュさまF.Cつくろー!って思ってたのに… くすん…美形はかませ犬だ… ・゚・(ノД`)・゚・うっうっう…ひどいよお…ふえーん!! この間「今、時代はギーシュだ!」の葉書を出してまだ2週間じゃないですか! どーして、どーして!?あれで終わり!?嘘でしょ!? 信じられないよおっあんなワムウごときに負けるなんてっ!! ジョジョと差がありすぎるわっ!!戦士になりますよね?ね?ね? ……泣いてやるぅ・゚・(ノД`)・゚・ 私はあのおそろしく鈍い彼が(たとえド女好きでもさ!ヘン!)大好きだったんですよっ!! ギーシュさまあっ!死んじゃ嫌だああああああっ!! 先生のカバッ!!え~ん・゚・(ノД`)・゚・ ----

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