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結婚! ワルドの真意 - (2007/06/23 (土) 21:39:31) の最新版との変更点

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結婚! ワルドの真意 「諸君。忠勇なる臣下の諸君に告げる。  いよいよ明日、このニューカッスルの城に立てこもった我等王軍に、反乱軍『レコン・キスタ』の総攻撃が行われる。  この無能な王に、諸君等はよく従い、よく戦ってくれた。  しかしながら明日の戦いはこれはもう、戦いではなく一方的な虐殺であろう。  朕は忠勇な諸君等が傷つき斃れるのを見るに忍びない。  従って朕は諸君等に暇を与える。長年、よくぞこの王につき従ってくれた。  熱く礼を述べるぞ。明日の朝、巡洋艦『イーグル』号が、女子供を乗せてここを離れる。  諸君等もこの艦に乗り、忌まわしき大陸を離れるがよい!」 最後の夜、最後のパーティーにて、ウェールズはそう演説した。 だが彼の臣下の中に、与えられた暇を享受しようなどという者は無い。 皆一様に、親愛なる王と運命を共にする覚悟を決めている。 故に、勇敢なる兵士達をねぎらう最後の宴は非常に華々しいものだった。 トリステインからの大使であるルイズ達も目いっぱい歓迎をされ、最上級の酒、最上級の料理で歓迎を受けた。 パーティー会場の隅でワインを飲んでいた承太郎に、ウェールズが声をかける。 「ラ・ヴァリエール嬢の使い魔の青年だね。しかし人が使い魔とは珍しい」 「……俺はルイズの使い魔になったつもりはない。召喚されたのは事実だが……」 「そうか。ところで……気分でも優れないのかい?」 「いや……」 火傷はまだ痛むが、表情に出さず我慢できる範囲の痛みだ。それよりも――。 「ひとつ聞きたい。なぜ……死ぬと解っていて、戦う?」 承太郎は静かに問う。 「俺も命を懸けた戦った事はある……。  だがそれは『守るべき家族』『守るべき仲間』がいたからだ。  そのためなら……命を落とす事になろうとも、悔いは無かったろう。  死んでしまった仲間達も……同じ気持ちだったかもしれない……」 「よい仲間を持っていたようだね」 承太郎の口調から、ウェールズはその友情と悲しみの深さを感じ取った。 「だが……あんた達は違う。貴族の誇りや名誉のために、死を前提に戦おうとする。  なぜだ? 戦って、殺されて、あんた達は何を得る? 何を守れる?」 「名誉を」 「……そうか」 「……我々の敵である『レコン・キスタ』はハルケギニア統一を狙っている。  はるか東方にある『聖地』を取り戻すという理想を掲げて。  だが奴等はその目的のために流されるであろう民草の血を考えていない。  だからこそだ。我等、勝てずともせめて勇気と名誉の片鱗を見せつけてみせよう。  ハルケギニアの王家は弱敵ではないと示さねばならぬ。  奴等がそれで『統一』と『聖地の回復』をあきらめるとは思えない……が……。  それでも我等は勇気を示さねばならぬ、王家に生まれたものの義務として」 「一度だけ訊ねる。亡命する気は無いのか? 部下を率いてこの国から逃げ出し、戦力を回復させてからもう一度戦うという選択肢もあるんじゃあないのか?」 「戦力を整えるまでの間、我等が関わる地に迷惑をかける事になる。  他国に迷惑をかけてまで、他国に戦禍を広げてまで、戦いを続ける気は無い」 「……よく、解った。そこまで言われちゃあ……俺からは何も言えねえ」 「君もラ・ヴァリエール嬢のように、とても優しい心の持ち主らしい。  ありがとう。こんな我々を気遣ってくれて」 承太郎の淡々とした口調の裏に隠れた優しさに気づいたウェールズは、最後の客人が彼等であって本当によかったと微笑む。 それに釣られて、承太郎もわずかに微笑を見せた。 「ところで……君、ええと」 「承太郎だ」 「そうか。ジョータロー、君は明日の結婚式はどうするのかね?」 「……結婚……式……?」 結婚という単語が現在結びつく人間がルイズとワルドしかいない事はすぐ思い当たった。 だがなぜ今この場でそんな単語が出てくるのか、承太郎には解らなかった。 「ラ・ヴァリエール嬢から聞いていないのかい?  ワルド子爵に頼まれたのだよ。私に婚姻の媒酌をして欲しいと。  決戦の前にワルド子爵とラ・ヴァリエール嬢の式を挙げる。  最初はそんな事をしていたら『イーグル』号に間に合わなくなると断ったが、ワルド子爵のグリフォンなら滑空してトリステインに帰る事ができるらしい。  それで引き受けたのだが、ジョータローまでグリフォンに乗る訳にもいくまい?  そこで、どうなのかと思ってね。『イーグル』号で帰るのか?」 「……一応、そのつもりだ」 「そうか。主の結婚式に出られないのは残念だが――」 「いや、違うな」 「どうかしたのかい?」 承太郎はしばし黙考し、何かを思いついた。 「ウェールズ皇太子……。ひとつ、忠告しておきたい事がある」 「忠告?」 火傷に効くポーションをもらってきたルイズは、承太郎の姿を探していた。 廊下の途中の窓を開けて、月を眺めている人影を発見する。承太郎だ。 「あの……ジョータロー。薬、持ってきたんだけど」 「…………」 相変わらずの無言。ルイズは構わず近寄って、学ランをまくり薬を塗りつける。 「……ねえ、ジョータロー。どうしてあの人達、死を選ぶんだろう……?」 「お前さん達貴族の大好きな名誉のためだろう」 「それは……でも……愛する人より、大切なものなの?  残される人の事はどうでもいいの? 結局自分の事しか考えてないんじゃ……」 「…………」 承太郎の腕に塗られる薬の中に、透明のしずくが混じる。 それは、ルイズの頬を伝い落ちたしずくだった。 「ねえ、ジョータロー。あの、私、ワルドと……」 「結婚するんだろう? 皇太子から聞いた……」 「そう……。ねえ、あんたは私が決める事だって言ってたけど……。  でも、やっぱりまだ、早いと思う。まだ未熟で、魔法も使えないのに」 「重要なのは……そこじゃあないはずだ……ルイズ」 「え?」 気がつくと、承太郎が真摯な眼差しをルイズに向けていた。 ややグリーンの瞳が冷たい宝石のように光って見える。 「アンリエッタ姫とゲルマニアの皇帝の結婚は仕方ない……国のためだ……。  だがルイズ、てめーは違う。迷う必要なんざねーはずだ」 「それは……ワルドと結婚しろ、って事?」 「てめーが奴をどう思っているか……。  そして、奴がてめーをどう思っているか……。  それさえはっきり解れば……おのずと答えは出るはずだぜ」 「解らない、解らないわジョータロー」 「…………俺は明日『イーグル』号に乗って帰る……。  先にトリステインで待ってるぜ……」 「えっ?」 承太郎は学ランの袖を戻すと、その場から立ち去ってしまった。 残されたルイズは、理由の解らない涙をこぼし、ワルドの事を思った。 そして、承太郎の事も思わずにはいられなかった。 翌朝、ウェールズ皇太子は礼拝堂にて新郎新婦の入場を待っていた。 周りに他の人間はいない。皆、戦の準備で忙しいのだ。 ウェールズも式をすぐに終わらせ、戦の準備に駆けつけるつもりだ。 事が予定通りに進んだら――の話だが。 礼装姿のウェールズの前に、礼拝堂のドアを開けてワルドとルイズが現れる。 二人とも結婚を終えたらすぐアルビオンから脱出せねばならぬ身ゆえ、着飾る事はできなかったが、ルイズの頭には花の冠が乗せられていた。 「では、式を始める」 しっかりと『聞こえるように』大き目の声で宣言するウェールズ。 彼の前にワルドとルイズが並ぶ。ルイズはうつむいたまま、顔を上げようとしない。 「新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。  汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、  そして妻とする事を誓いますか」 「誓います」 ワルドは重々しくうなずいて、杖を握った左手を胸の前に置いた。 ウェールズは視線を余計な方向に向けないよう注意しつつ、ルイズへと視線を移す。 「新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女。  ルイズ・フランソワーズ・ル・ブランド・ラ・ヴァリエール……」 朗々と誓いのみことのりを読み上げるウェールズ。 今が、結婚式の最中だという事を改めてルイズは実感した。 相手は憧れていた頼もしいワルド。 二人の父が交わした結婚の約束。幼い頃、ぼんやりと想像していた未来が現実のものに。 ワルドの事は嫌いじゃない。むしろ好いている。好いているはずだ。 なのになぜ、自分の気持ちはこんなにも沈んでいるのだろう。 ジョータロー……彼はもう艦に乗っただろうか? 今ここで言う事を聞かない使い魔の事を、どうして思い出してしまうんだろう。 どうして承太郎の前で結婚すると言ったのか。どうして本当にそうすべきか訊ねたのか。 「新婦?」 心配そうなウェールズの声がかけられる。 ルイズは戸惑っている。この結婚が本当に正しいのか戸惑っている。 しかしワルドは、落ち着かせるように諭す。 「緊張しているのかい? しかし、何も心配する事はないんだ。  僕のルイズ。君は僕が守ってあげるよ。永遠に。それをたった今、誓った。  ……殿下、続きをお願いいたします」 しかしルイズは、拒否するように首を振る。 「新婦?」 「ルイズ?」 二人が怪訝な顔でルイズの顔を覗き込んだ。 ルイズはワルドに向き直り、悲しい表情で首を振る。 「どうしたね、ルイズ。気分でも悪いのかい?」 違うそうじゃない。でも、こんな気持ちのままじゃ結婚できない。 「日が悪いなら、改めて……」 だから、試そうと思った。試そうと決めた。 ワルド! 本当に愛してくれているなら――ワルド――どうか――。 「私、あなたとは結婚できない」 はっきりとルイズは言った。ワルドの顔が強張る。ウェールズは腰に手を当てる。 「新婦は、この結婚を望まぬのか?」 「はいッ……! お二方には、大変失礼をいたす事になりますが……」 ウェールズの表情に緊張が走る。そして静かにワルドへと視線を向けた。 「子爵。誠にお気の毒だが、花嫁が望まぬ式をこれ以上続ける訳にはいかぬ」 ワルドの両手がガバッとルイズの手を握るしめる。痛いほどに。 「……緊張しているんだ。そうだろルイズ。君が、僕との結婚を拒む訳が……ない!」 「ごめんなさいワルド。憧れだった、恋だったかもしれない。でも今は違う、違うの」 今度はルイズの肩を掴むワルド。表情は冷たく、双眸が鋭さを増した。 「世界だルイズ。僕は世界を手に入れる! そのために君が必要なんだ!」 豹変したワルドに戸惑うルイズ。しかし構わずワルドは興奮した口調で続ける。 「僕には君が必要なんだ! 君の『能力』が! 君の『力』がッ!」 恐ろしい、とルイズは思った。これが、あの優しかったワルドなのか? 違う。ルイズが憧れたワルドは『彼』ではない。 「ルイズ、君は始祖ブリミルに劣らぬ優秀なメイジに成長するだろう……。  今はまだその『才能』に気づいてないだけだ! 君の『才能』が必要なんだ!」 肩を握り潰されるほどの痛みに表情を歪めながら、ルイズははっきりと理解した。 だから今度は、心から拒絶する。試しなのではなく本心本音の奥底から。 「あなたは……私を愛していない、今解った……。  あなたが愛しているのは私にあるという在りもしない魔法の才能。  そんな理由で結婚しようだなんて……酷い……こんな侮辱……最低だわ……」 ルイズは暴れてワルドから逃れようとした。 ウェールズはルイズを引き離そうとワルドの肩に手を置いたが、逆に突き飛ばされてしまう。 その瞬間ウェールズが腰に当てていた手で素早く杖を抜きワルドへ向けた。 「なんたる無礼! なんたる侮辱! 子爵、今すぐラ・ヴァリエール嬢から手を引け!  さもなくば我が魔法の刃が君を切り裂くぞ!」 ワルドはようやくルイズから手を離し、再び訊ねる。 「こうまで僕が言ってもダメかい? ルイズ。僕のルイズ」 「誰があなたと結婚なんか……!」 「そうか……この旅で君の気持ちを掴むために努力はしたが……仕方ない。  こうなっては……『目的のひとつ』は……あきらめるとしよう……」 「目的?」 さっぱり意味が解らないというようにルイズは呟いた。 「そう。この旅における僕の目的は『みっつ』あった。  そのうちのふたつが達成できただけでも、よしとしよう。  まずひとつは君だルイズ。君を手に入れる事……だがもう果たせないようだ。  ふたつ目の目的はアンリエッタの手紙だ。これは手に入れるのはたやすい……」 「ワルド、あなた……」 「そしてみっつ目……」 『手紙』という単語で今こそ確信を得たウェールズは魔法を詠唱する。 だがそれよりも早く! 二つ名の閃光のようにワルドは杖を引き抜き呪文を詠唱。 ワルドは風のように身をひるがえらせ――突如礼拝堂の壁を破壊されるのを見て、その瓦礫が自分に向かって飛んできている事を見抜き軌道変更、ウェールズへの攻撃をあきらめ攻撃の回避を選んだ。 そう、これは『攻撃』だ。 誰の? *┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ 崩れた瓦礫の向こう、逆行の中に立つ195サントの長身。 マントのようになびく黒い学ラン。 そしてそのかたわらに立つ屈強なる長髪の戦士。 「あっ、ああ……どうして、だって、『イーグル』号に乗っているはず……」 ルイズが驚愕に目を見開く。 「助かった、礼を言う! 君の『忠告』のおかげだ!」 ウェールズが安堵の笑みを浮かべる。 「何ィッ!? 貴様ッ……『ガンダールヴ』! なぜここに!」 ワルドが鬼のような形相で彼を睨む。 「言ったはずだ。『てめーはこの空条承太郎が直々にぶちのめす』と」 空条承太郎! そしてスタープラチナ! バ―――――z______ン 「第三ラウンドだ。この決闘、受けてもらおうか……ワルド!」
結婚! ワルドの真意 「諸君。忠勇なる臣下の諸君に告げる。  いよいよ明日、このニューカッスルの城に立てこもった我等王軍に、反乱軍『レコン・キスタ』の総攻撃が行われる。  この無能な王に、諸君等はよく従い、よく戦ってくれた。  しかしながら明日の戦いはこれはもう、戦いではなく一方的な虐殺であろう。  朕は忠勇な諸君等が傷つき斃れるのを見るに忍びない。  従って朕は諸君等に暇を与える。長年、よくぞこの王につき従ってくれた。  熱く礼を述べるぞ。明日の朝、巡洋艦『イーグル』号が、女子供を乗せてここを離れる。  諸君等もこの艦に乗り、忌まわしき大陸を離れるがよい!」 最後の夜、最後のパーティーにて、ウェールズはそう演説した。 だが彼の臣下の中に、与えられた暇を享受しようなどという者は無い。 皆一様に、親愛なる王と運命を共にする覚悟を決めている。 故に、勇敢なる兵士達をねぎらう最後の宴は非常に華々しいものだった。 トリステインからの大使であるルイズ達も目いっぱい歓迎をされ、最上級の酒、最上級の料理で歓迎を受けた。 パーティー会場の隅でワインを飲んでいた承太郎に、ウェールズが声をかける。 「ラ・ヴァリエール嬢の使い魔の青年だね。しかし人が使い魔とは珍しい」 「……俺はルイズの使い魔になったつもりはない。召喚されたのは事実だが……」 「そうか。ところで……気分でも優れないのかい?」 「いや……」 火傷はまだ痛むが、表情に出さず我慢できる範囲の痛みだ。それよりも――。 「ひとつ聞きたい。なぜ……死ぬと解っていて、戦う?」 承太郎は静かに問う。 「俺も命を懸けた戦った事はある……。  だがそれは『守るべき家族』『守るべき仲間』がいたからだ。  そのためなら……命を落とす事になろうとも、悔いは無かったろう。  死んでしまった仲間達も……同じ気持ちだったかもしれない……」 「よい仲間を持っていたようだね」 承太郎の口調から、ウェールズはその友情と悲しみの深さを感じ取った。 「だが……あんた達は違う。貴族の誇りや名誉のために、死を前提に戦おうとする。  なぜだ? 戦って、殺されて、あんた達は何を得る? 何を守れる?」 「名誉を」 「……そうか」 「……我々の敵である『レコン・キスタ』はハルケギニア統一を狙っている。  はるか東方にある『聖地』を取り戻すという理想を掲げて。  だが奴等はその目的のために流されるであろう民草の血を考えていない。  だからこそだ。我等、勝てずともせめて勇気と名誉の片鱗を見せつけてみせよう。  ハルケギニアの王家は弱敵ではないと示さねばならぬ。  奴等がそれで『統一』と『聖地の回復』をあきらめるとは思えない……が……。  それでも我等は勇気を示さねばならぬ、王家に生まれたものの義務として」 「一度だけ訊ねる。亡命する気は無いのか? 部下を率いてこの国から逃げ出し、戦力を回復させてからもう一度戦うという選択肢もあるんじゃあないのか?」 「戦力を整えるまでの間、我等が関わる地に迷惑をかける事になる。  他国に迷惑をかけてまで、他国に戦禍を広げてまで、戦いを続ける気は無い」 「……よく、解った。そこまで言われちゃあ……俺からは何も言えねえ」 「君もラ・ヴァリエール嬢のように、とても優しい心の持ち主らしい。  ありがとう。こんな我々を気遣ってくれて」 承太郎の淡々とした口調の裏に隠れた優しさに気づいたウェールズは、最後の客人が彼等であって本当によかったと微笑む。 それに釣られて、承太郎もわずかに微笑を見せた。 「ところで……君、ええと」 「承太郎だ」 「そうか。ジョータロー、君は明日の結婚式はどうするのかね?」 「……結婚……式……?」 結婚という単語が現在結びつく人間がルイズとワルドしかいない事はすぐ思い当たった。 だがなぜ今この場でそんな単語が出てくるのか、承太郎には解らなかった。 「ラ・ヴァリエール嬢から聞いていないのかい?  ワルド子爵に頼まれたのだよ。私に婚姻の媒酌をして欲しいと。  決戦の前にワルド子爵とラ・ヴァリエール嬢の式を挙げる。  最初はそんな事をしていたら『イーグル』号に間に合わなくなると断ったが、ワルド子爵のグリフォンなら滑空してトリステインに帰る事ができるらしい。  それで引き受けたのだが、ジョータローまでグリフォンに乗る訳にもいくまい?  そこで、どうなのかと思ってね。『イーグル』号で帰るのか?」 「……一応、そのつもりだ」 「そうか。主の結婚式に出られないのは残念だが――」 「いや、違うな」 「どうかしたのかい?」 承太郎はしばし黙考し、何かを思いついた。 「ウェールズ皇太子……。ひとつ、忠告しておきたい事がある」 「忠告?」 火傷に効くポーションをもらってきたルイズは、承太郎の姿を探していた。 廊下の途中の窓を開けて、月を眺めている人影を発見する。承太郎だ。 「あの……ジョータロー。薬、持ってきたんだけど」 「…………」 相変わらずの無言。ルイズは構わず近寄って、学ランをまくり薬を塗りつける。 「……ねえ、ジョータロー。どうしてあの人達、死を選ぶんだろう……?」 「お前さん達貴族の大好きな名誉のためだろう」 「それは……でも……愛する人より、大切なものなの?  残される人の事はどうでもいいの? 結局自分の事しか考えてないんじゃ……」 「…………」 承太郎の腕に塗られる薬の中に、透明のしずくが混じる。 それは、ルイズの頬を伝い落ちたしずくだった。 「ねえ、ジョータロー。あの、私、ワルドと……」 「結婚するんだろう? 皇太子から聞いた……」 「そう……。ねえ、あんたは私が決める事だって言ってたけど……。  でも、やっぱりまだ、早いと思う。まだ未熟で、魔法も使えないのに」 「重要なのは……そこじゃあないはずだ……ルイズ」 「え?」 気がつくと、承太郎が真摯な眼差しをルイズに向けていた。 ややグリーンの瞳が冷たい宝石のように光って見える。 「アンリエッタ姫とゲルマニアの皇帝の結婚は仕方ない……国のためだ……。  だがルイズ、てめーは違う。迷う必要なんざねーはずだ」 「それは……ワルドと結婚しろ、って事?」 「てめーが奴をどう思っているか……。  そして、奴がてめーをどう思っているか……。  それさえはっきり解れば……おのずと答えは出るはずだぜ」 「解らない、解らないわジョータロー」 「…………俺は明日『イーグル』号に乗って帰る……。  先にトリステインで待ってるぜ……」 「えっ?」 承太郎は学ランの袖を戻すと、その場から立ち去ってしまった。 残されたルイズは、理由の解らない涙をこぼし、ワルドの事を思った。 そして、承太郎の事も思わずにはいられなかった。 翌朝、ウェールズ皇太子は礼拝堂にて新郎新婦の入場を待っていた。 周りに他の人間はいない。皆、戦の準備で忙しいのだ。 ウェールズも式をすぐに終わらせ、戦の準備に駆けつけるつもりだ。 事が予定通りに進んだら――の話だが。 礼装姿のウェールズの前に、礼拝堂のドアを開けてワルドとルイズが現れる。 二人とも結婚を終えたらすぐアルビオンから脱出せねばならぬ身ゆえ、着飾る事はできなかったが、ルイズの頭には花の冠が乗せられていた。 「では、式を始める」 しっかりと『聞こえるように』大き目の声で宣言するウェールズ。 彼の前にワルドとルイズが並ぶ。ルイズはうつむいたまま、顔を上げようとしない。 「新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。  汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、  そして妻とする事を誓いますか」 「誓います」 ワルドは重々しくうなずいて、杖を握った左手を胸の前に置いた。 ウェールズは視線を余計な方向に向けないよう注意しつつ、ルイズへと視線を移す。 「新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女。  ルイズ・フランソワーズ・ル・ブランド・ラ・ヴァリエール……」 朗々と誓いのみことのりを読み上げるウェールズ。 今が、結婚式の最中だという事を改めてルイズは実感した。 相手は憧れていた頼もしいワルド。 二人の父が交わした結婚の約束。幼い頃、ぼんやりと想像していた未来が現実のものに。 ワルドの事は嫌いじゃない。むしろ好いている。好いているはずだ。 なのになぜ、自分の気持ちはこんなにも沈んでいるのだろう。 ジョータロー……彼はもう艦に乗っただろうか? 今ここで言う事を聞かない使い魔の事を、どうして思い出してしまうんだろう。 どうして承太郎の前で結婚すると言ったのか。どうして本当にそうすべきか訊ねたのか。 「新婦?」 心配そうなウェールズの声がかけられる。 ルイズは戸惑っている。この結婚が本当に正しいのか戸惑っている。 しかしワルドは、落ち着かせるように諭す。 「緊張しているのかい? しかし、何も心配する事はないんだ。  僕のルイズ。君は僕が守ってあげるよ。永遠に。それをたった今、誓った。  ……殿下、続きをお願いいたします」 しかしルイズは、拒否するように首を振る。 「新婦?」 「ルイズ?」 二人が怪訝な顔でルイズの顔を覗き込んだ。 ルイズはワルドに向き直り、悲しい表情で首を振る。 「どうしたね、ルイズ。気分でも悪いのかい?」 違うそうじゃない。でも、こんな気持ちのままじゃ結婚できない。 「日が悪いなら、改めて……」 だから、試そうと思った。試そうと決めた。 ワルド! 本当に愛してくれているなら――ワルド――どうか――。 「私、あなたとは結婚できない」 はっきりとルイズは言った。ワルドの顔が強張る。ウェールズは腰に手を当てる。 「新婦は、この結婚を望まぬのか?」 「はいッ……! お二方には、大変失礼をいたす事になりますが……」 ウェールズの表情に緊張が走る。そして静かにワルドへと視線を向けた。 「子爵。誠にお気の毒だが、花嫁が望まぬ式をこれ以上続ける訳にはいかぬ」 ワルドの両手がガバッとルイズの手を握るしめる。痛いほどに。 「……緊張しているんだ。そうだろルイズ。君が、僕との結婚を拒む訳が……ない!」 「ごめんなさいワルド。憧れだった、恋だったかもしれない。でも今は違う、違うの」 今度はルイズの肩を掴むワルド。表情は冷たく、双眸が鋭さを増した。 「世界だルイズ。僕は世界を手に入れる! そのために君が必要なんだ!」 豹変したワルドに戸惑うルイズ。しかし構わずワルドは興奮した口調で続ける。 「僕には君が必要なんだ! 君の『能力』が! 君の『力』がッ!」 恐ろしい、とルイズは思った。これが、あの優しかったワルドなのか? 違う。ルイズが憧れたワルドは『彼』ではない。 「ルイズ、君は始祖ブリミルに劣らぬ優秀なメイジに成長するだろう……。  今はまだその『才能』に気づいてないだけだ! 君の『才能』が必要なんだ!」 肩を握り潰されるほどの痛みに表情を歪めながら、ルイズははっきりと理解した。 だから今度は、心から拒絶する。試しなのではなく本心本音の奥底から。 「あなたは……私を愛していない、今解った……。  あなたが愛しているのは私にあるという在りもしない魔法の才能。  そんな理由で結婚しようだなんて……酷い……こんな侮辱……最低だわ……」 ルイズは暴れてワルドから逃れようとした。 ウェールズはルイズを引き離そうとワルドの肩に手を置いたが、逆に突き飛ばされてしまう。 その瞬間ウェールズが腰に当てていた手で素早く杖を抜きワルドへ向けた。 「なんたる無礼! なんたる侮辱! 子爵、今すぐラ・ヴァリエール嬢から手を引け!  さもなくば我が魔法の刃が君を切り裂くぞ!」 ワルドはようやくルイズから手を離し、再び訊ねる。 「こうまで僕が言ってもダメかい? ルイズ。僕のルイズ」 「誰があなたと結婚なんか……!」 「そうか……この旅で君の気持ちを掴むために努力はしたが……仕方ない。  こうなっては……『目的のひとつ』は……あきらめるとしよう……」 「目的?」 さっぱり意味が解らないというようにルイズは呟いた。 「そう。この旅における僕の目的は『みっつ』あった。  そのうちのふたつが達成できただけでも、よしとしよう。  まずひとつは君だルイズ。君を手に入れる事……だがもう果たせないようだ。  ふたつ目の目的はアンリエッタの手紙だ。これは手に入れるのはたやすい……」 「ワルド、あなた……」 「そしてみっつ目……」 『手紙』という単語で今こそ確信を得たウェールズは魔法を詠唱する。 だがそれよりも早く! 二つ名の閃光のようにワルドは杖を引き抜き呪文を詠唱。 ワルドは風のように身をひるがえらせ――突如礼拝堂の壁を破壊されるのを見て、その瓦礫が自分に向かって飛んできている事を見抜き軌道変更、ウェールズへの攻撃をあきらめ攻撃の回避を選んだ。 そう、これは『攻撃』だ。 誰の? ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ 崩れた瓦礫の向こう、逆行の中に立つ195サントの長身。 マントのようになびく黒い学ラン。 そしてそのかたわらに立つ屈強なる長髪の戦士。 「あっ、ああ……どうして、だって、『イーグル』号に乗っているはず……」 ルイズが驚愕に目を見開く。 「助かった、礼を言う! 君の『忠告』のおかげだ!」 ウェールズが安堵の笑みを浮かべる。 「何ィッ!? 貴様ッ……『ガンダールヴ』! なぜここに!」 ワルドが鬼のような形相で彼を睨む。 「言ったはずだ。『てめーはこの空条承太郎が直々にぶちのめす』と」 空条承太郎! そしてスタープラチナ! バ―――――z______ン 「第三ラウンドだ。この決闘、受けてもらおうか……ワルド!」

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