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---あの事件のあと、ルイズのクラスは3日間の学級閉鎖が行われた。例の使い魔は、即座に拘束された後、ルイズの部屋に軟禁された。 事の顛末を知る、タバサとキュルケが、交代で見張りについた。 コルベールとルイズはあの後速やかに医務室へ運び込まれ、治療専門のメイジに処置を受けた。 コルベールの左足の傷は出血こそ激しかったものの、命に別状はなく、このまま秘薬による治療を受け続ければ、問題は無いそうだ。 ---問題は、ルイズの方であった。 全身にビッシリと空けられた細かな穴もそうだが、左肩に受けた傷は深く、骨まで抉られていた。そしてルイズの体から失われた大量の血液。 増血剤の投与によって一時はしのいだものの、少女の命は消えゆく一方で、治療にあたったメイジは、おそらく今夜が峠だろうと判断した。 今からオールド・オスマンにこの事実を伝え、彼女の実家のヴァリエール家に早馬を飛ばしたとしても、到底間に合わない。 この少女は1人寂しくこのベッドの上で死んでゆくのだと思うと胸が痛んだが、どうしようもなかった。 少女の苦痛にあえぐ声が、医務室に響いた。 ---意外なことに、少女はその夜の峠を越えた。 この華奢な体の中にどこにそんな体力があるのだろうと、そのメイジは訝しんだが、助かったのならそれに越したことはないと思った。 翌朝、依然苦悶の表情を浮かべる少女に、彼はともかくも少女の包帯を換えようとして、腕の包帯をとった。 (…………え?) 彼は思わぬものを見た。傷が………ない。 バカな、夕方見たときは確かに、痛々しい傷が無数に刻み込まれていたはずなのに…。 包帯の下には、何事もなかったかのように、ルイズの透き通るような白い肌が覗いているだけだ。 その光景に唖然としていたが、すぐに気を取り直すと、今度は1番傷が酷かった左肩の包帯を、彼は恐る恐る外した。 (……これ、は………) 彼はゴクリと唾を飲んだ。 左肩には確かに傷はまだあった。 『まだ』。 だが、その傷口の組織が不気味に蠢き、互いに結びつき、少しづつ少しづつ 閉じていっていた。 常人からすればあり得ない治癒の速度を目の当たりにして、彼は後ずさった。 化け物を目にした心地だった。 しかし、彼女がどうであれ、自分のすることは変わらないと思い直し、彼はおっかなびっくり再び治療に専念した。 そのかいあってか、少女の傷は事件から二日目の昼には完全に塞がった。後は意識が戻るのを待つだけだ。 その旨をオールド・オスマンに報告した彼は、オスマンからの労いを受けた。 曰わく、「ヴァリエール嬢が命を取り留めたのは、自らの治療能力の高さのおかげである」。 怯えたような表情を見せ、彼は何も答えなかった。 ------------------------------------夢、夢を見ている。 夢の中の私は見事、サモン・サーヴァントを成功させ、契約も滞りなく完了させていた。 もう私は『ゼロ』じゃないわ、と夢の中の私はクラスメイトに対して胸を張った。 キュルケが、タバサが、ギーシュが、モンモランシーが、マリコルヌが……皆が私を祝福してくれていた。 『おめでとう、ルイズ。おめでとう。』 スポットライトが当たる私を中心にして輪になって、私に拍手を送ってくれていた。 自分は立派なメイジだ。自分はここにいてもいいんだ…!! そうして、みごと自己肯定に成功した夢の中の私は、周りの皆を笑顔で見渡した。 --ふと、男が目に入った。 自分の知らない、若い男が、皆がつくった輪の外で、真っ黒な壁にもたれかかって腕を組んでいる。 闇に包まれていて、顔はよく見えなかったが、よく見ると変な靴を履いていた。 まるで絵本の中の魔女が履くようなトンガリ靴だ。 その実にセンスの悪い靴にルイズは見覚えがあったが、どこで見たのか生憎と思い出せなかった。 この祝いの席で、主役である自分を無視している男が、夢の中の私は癪に障ったようだ。 --ちょっと。アンタ、そんな所で何してるのよ! そういって男を指さす私。 どことなく得意げだ、調子に乗りやがって……ルイズはそう思った。 男は、その時になってようやくルイズに気づいたように顔をこちらに向けた。 相変わらず顔はよく見えなかった。 組んでいた腕を解いた男が、パンパンッと、主人が召使いを呼ぶときのように二度手を打った。 ---次の瞬間、男の姿がかき消えた。 ハッと周りを見渡すと夢の中の私以外の全員が死んでいた。 キュルケはナイフが全身に突き刺さって死んでいた。 タバサは腹部を何かに貫かれて絶命していた。 コルベール先生の顔には、目の上にさらに二つの穴があいて死んでいた。ギーシュは体を輪切りにされ、仰向けになって息絶えていた。 モンモランシーは、巨大な何かに押し潰されたようにペチャンコになっていた。 マリコルヌは、全身血まみれで死んでいた。 何故か前歯が二本なかった。 夢の中の私は恐怖でガタガタ震えていた。 みんな死ん……いや殺されてしまった。 腰の力が抜けて、その場に座り込んだ。 手をついたらベチャッと音がしたので、見てみたら案の定血だった。 はぁっとうなじに息がかかった。 振り返ると、先ほどの男の顔がすぐ目の前にあった。 こんなに近くにいても、男の顔は分からなかった。 今度はお前の番だ--無言で男は、夢の中の私にそう宣言する。 男の頭部から無数の触手が生え、当たり前のように夢の中の私の全身を貫いた。 そうして悪夢は終わりを迎え、ルイズは意識を取り戻した。
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