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発明! コルベールエンジンとタバ茶三号 

長い円筒状の金属の筒に金属のパイプが延び、 
パイプはふいごのようなものに繋がり、円筒の頂上にはクランクがついていて、 
そしてクランクは円筒の脇に立てられた車輪に繋がっている。 
という文を写していてよく解らない形状の物体を見て生徒達は首を傾げた。 
何だこれ? と。 
それはコルベールが持ってきたカラクリであった。 
「これは私が発明した装置で、油と火の力を使い動力を得る装置です」 
意味不明な説明を聞きまたもや首を傾げる生徒達。 
油と火で動力って何よ? どういう理屈で何の役に立つものですか? 
つかこれ本当に魔法の授業? おもちゃ遊びするなら授業料返せ。 
そんな冷たい視線を浴びてもコルベールはそしらぬ顔をしていた。 
というか自分の発明品に酔い、生徒達の眼差しに気づかなかった。 
自信満々に装置の説明を続ける。 
「まずこの『ふいご』で油を気化させる。 
 するとこの円筒の中に、気化した油が放り込まれるのですぞ」 
慎重な顔でコルベールは円筒の横に空いた小さな穴に杖の先端を差し込む。 
呪文を唱えると断続的な発火音が聞こえ、続いて気化した油に引火し爆発音に。 
「ほら! 見てごらんなさい! この金属の円筒の中では、 
 気化した油が爆発する力で上下にピストンが動いておる!」 
すると円筒の上にくっついたクランクが動き出し、車輪を回転させ、 
箱についた扉を開く。するとギアを解してぴょこっ、ぴょこっと、 
中から蛇の人形が顔を出した。 
「動力はクランクに伝わり車輪を回す! するとヘビ君が顔を出してご挨拶!」 
終始意味不明理解不能の説明を聞き終え、キュルケが呆れた声で質問する。 
「で、それがどうしたっていうんですか?」 
紙タバコ製作のスポンサーにさえ理解されず、コルベールはようやく落胆した。

「えー、今は愉快なヘビ君が顔を出すだけですが、 
 例えばこの装置を荷車に載せて車輪を回させる。 
 すると馬がいなくても荷車は動くのですぞ! 
 例えば海に浮かんだ船の脇に大きな水車をつけて、この装置を使って回す! 
 すると帆が要りませんぞ!」 
「そんなの魔法で動かせばいいじゃないですか」 
「諸君! よく見なさい! もっともっと改良すれば、 
 何とこの装置は魔法が無くても動かす事が可能になるのですぞ! 
 ほれ、今はこのように点火を『火』の魔法に頼っておるが、 
 例えば火打石を利用して断続的に点火できる方法が見つかれば……」 
コルベールは興奮した調子でまくしたてたが、生徒達は全員呆れていた。 
このおっさん、いよいよボケたか? てな感じである。 
だが一人だけ、講釈を終えたコルベールに拍手を送る者の姿があった。 
承太郎だ。 
「驚いたぜ……まさか本当に『エンジン』を作っちまうとはな」 
それを聞いてコルベールは目頭を押さえ、涙をこらえた。 
ああ、やっと解ってくれる人がいた。まあ承太郎なら解って当然だが。 
「ダーリン。その『エンジン』ってすごい物なの?」 
キュルケが訊ねると、承太郎はうなずいた。 
「エンジンを発展させれば……馬より速く走る馬車や、 
 風石なんぞに頼らず鳥よりも速く空を飛ぶ船だって作れる。 
 それこそメイジの魔法なんぞ子供騙しに思えるほどの物をな……」 
「ふーん? とてもそんなすごい物には見えないけど……」 
承太郎のフォローを聞いても、キュルケはいまいち理解できなかった。 
あの蛇の人形が挨拶するだけのおもちゃが、そんなすごい物になるのか? 
他の生徒達も同じような反応だ。 
承太郎が異世界から来た事を知るルイズでさえ。

「ううっ、ジョータロー君。いつか君が言ったように、 
 この装置を使ってもっとすごい事をできるようにしてみせるよ。 
 君が話してくれた『クルマ』や『バイク』のようにね」 
くるま? ばいく? 
結局誰一人コルベールの偉業を理解できぬまま授業は終了した。 

昼食の時間になると、承太郎だけじゃなくギーシュも食堂に現れなかった。 
どうしたんだろう? ルイズはちょっぴり疑問に思う。 
承太郎は多分厨房でメイドからご飯をもらっているんだろうけれど……ギーシュは? 

ギーシュは厨房の片隅で、余り物で作ったサンドイッチを食べて「ううむ」とうなった。 
「これは……ンマ~い! ずるいぞジョータロー、いつもこんなおいしい物を独り占めか」 
「やかましい。てめー等は食堂に出てる豪勢な料理があるじゃねーか」 
「あっちよりこっちの方がおいしいのだ。むううっ、そこのメイド、おかわりだ」 
空の皿を出されたシエスタは、快く返事をして新たにサンドイッチを作ってきた。 
「いや、うまい、ホント、とっても美味、グルメに目覚めそうだね」 
「で、こんな所で飯を食ってる理由は何だ?」 
承太郎もサンドイッチをおかわりする。 
「ああ、それなんだがね。あの『エンジン』とやらに君も関わってるそうじゃあないか」 
「まあ……な」 
「それで、本当なのかなと思ってね。メイジの力を使わず、 
 馬車よりも速く馬を用いない馬車だとか、空を鳥よりも速く飛ぶ船だとか。 
 君の話ではすでにそういう物があるかのような物言いだったが……」 
「信じなくていーぜ」 
どうでもよさげに承太郎は答えたが、おかわりを持ってきたシエスタが瞳を輝かせた。 
「ジョータローさん、ギーシュ様、いったい何の話ですか? 
 メイジの力を使わずに、その、空を飛ぶ船とか、よく解らないんですけど」

やれやれだぜ、と承太郎は帽子のつばを下ろす。 
「……一応、俺の故郷にはそういう道具があるんでな」 
「ホントかね? 信じがたいが、いったいジョータローの出身はどこなんだ? 
 名前や服装から相当離れた場所から召喚されたようには思うが。まさか東方?」 
「私、もっとジョータローさんの故郷の話が聞きたいです!」 
二人にせがまれ、承太郎は面倒くさがったが、 
久々にじっくり日本の事を思い返すのも悪くないと思って語り出した。 
『異世界』『地球』『日本』といった単語は使わず曖昧に『故郷』の話として。 
半信半疑ながらも結構驚きつつ話を聞くギーシュ。 
全面的に信じてすっごく驚いて話を聞くシエスタ。 
興味津々といったように瞳を輝かせつつコップを交換するタバサ。 
話し疲れてコップの中身を一気飲みして盛大に吹き出す承太郎。 
「ゲホッ!? ガハッ! グフッ! ……し、シエスタ。水を……!」 
「えっ!? は、はい! 今入れ直してきます!」 
シエスタは大慌てでテーブルから離れていった。 
咳き込む承太郎と、顔にかけられた緑色の水をハンカチで拭うギーシュ。 
「失敗」 
テーブルの下から声がして、二人の視線が集中する。 
そこには承太郎の水を飲みながら残念がるタバサの姿があった。 
タバサが承太郎の水を飲んでいるという事は、 
承太郎が飲んだ水はいったいどこから現れたのだろうか? 
ギーシュは承太郎がテーブルに置いたコップを取って鼻を近づけてみる。 
「この匂いは……はしばみ草だ」 
「タバサ! どういうつもりだ!?」 
承太郎に怒鳴られ、タバサは無表情のままテーブルの下から出てきた。 
「……タバサ特製はしばみ茶三号」 
略して『タバ茶三号』だ。そこ、変な想像しない。 
「はしばみ草の絞り汁に甘い果汁を加えて飲みやすくアレンジ」 
「……つまり……俺にはしばみ草を食わせたかった、って事か?」 

うなずくタバサ。呆れるギーシュ。水を待ち焦がれる承太郎。 
と、そこにシエスタが戻ってきた。 
「お、お待たせしましたジョータローさん。……あれ? ミス・タバサ、いつの間に」 
シエスタの疑問を無視して、タバサは厨房から立ち去ってしまった。 
それに構わず承太郎はシエスタから水を奪い取り、一気に飲み干す。 
「……ぐっ……はぁ、はぁ」 
「あ、ジョータローさん。大丈夫ですか? キャッ!」 
ジョータローが椅子から転げ落ち、床に這いつくばるという屈辱的な姿をさらす。 
「頭痛がする。は……吐き気もだ……くっ……ぐぅ……。 
 な……何て事だ……この俺が……気分が悪いだと? 
 この俺がタバサに茶を飲まされて……立つ事が……立つ事ができないだと!?」 
「大袈裟だなジョータローは。そんなにはしば――」 
「スタープラチナ!」 
ギーシュが持っていたはしばみ茶のコップが猛烈な勢いでスタープラチナに掴まれ、 
さらにもう一方の手がギーシュのあごを掴んで無理矢理押し開きはしばみ茶を流し込む。 
「ガボガボッ! ゲホゥ! み、水ッ!」 
「え、ま、またですか!? 少々お待ちを!」 
シエスタはスタンドが見えないのでコップが宙に浮いているように見えたが、 
とりあえずギーシュの危機と察し大慌てで再び水を汲みに向かった。 
戻ってきたシエスタは、ギーシュに水を渡しつつ、承太郎が倒れた理由を訊ねてきたが、 
承太郎は頑として答えず、ギーシュにも厳重な口止めがなされ、コップも洗われたため、 
結局シエスタは承太郎が倒れた理由を知る事はなかった。 

それが後にひとつの小さな奇跡を起こす。 
でもそれはまだ先の話。 

ちなみにギーシュは無事授業に復帰したが、承太郎はルイズの部屋で一日中寝込んだ。 
すると夢の中で誰かが「貧弱! 貧弱ゥ!」と言ってきたので、 
そいつの口にはしばみ草のサラダをたらふくぶち込んで再起不能にしてやった。 
夢から覚めてもそいつが誰かは思い出せなかったので、忘れる事にする承太郎だった。

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