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仮面のルイズ-5 - (2010/04/26 (月) 00:46:17) の編集履歴(バックアップ)


宝物庫から聞こえてきた音は、地面を伝わって鈍く響いている。
例えるなら、大きな岩にゴーレムが体当たりするような音だろうか。
裏口周りを警戒していた衛兵達も、音のする方へと走って行った。

「今のうちに出発しようかな…」
そう呟くルイズだったが、宝物庫とは別の場所から、ごく小さな振動を感じた。
タタタン、タタタンと、馬が走るようなテンポが感じられるのに、蹄の音はしない。

それを不思議に思ったルイズは馬車の影に隠れると、地面に耳を当てた。

宝物庫の方から聞こえてきた音は、おそらく巨大なゴーレムだろう。
ズシン、ズシンと音を立てて宝物庫から離れていく。

もう一方から聞こえてくる音は、間違いなく馬の蹄の音だ。
一頭の馬が魔法学院から逃げるようにして走っている。

…怪しい。

衛兵達は宝物庫周辺に集まっていだろう。
姫様を守る衛士隊は姫様の護衛が第一任務だから、姫様から離れられない。
生徒達もそうだ、姫様を守る者と、宝物庫での騒ぎに駆けつける者に分かれているはず。
学院内には誰も残っていないだろう。
警備の手薄になった場所から逃げていく者…そんなのは、この騒ぎの元凶に違いない。

ルイズは馬車と馬を繋げているベルトを外し、鞍もつけられていない馬に飛び乗った。
鬣(たてがみ)をグッと掴むと、馬が不快感を感じルイズを落とそうと暴れ出す。
「URYYYYYYY…」
とても人間の声とは思えない、叫び声にも似た音を、馬の耳元でささやく。
すると馬は暴れるのを止めた。
「KUAAAAAAAA…ァァァ…良い子ね、さあ、私を運んでちょうだい」
ルイズの言葉に呼応するかのように、ルイズの乗る馬は走り出した。

馬を走らせて二時間、林を抜けて農耕地に出る。
雑草に包まれた農耕地が、今が農閑期であることを示している。
ふと後ろを向くと、トリスティン魔法学園の塔も森の影に隠れ、見ることは出来なくなっていた。

ルイズは相手に気づかれぬよう、距離を置いて走っていた。
地面を見て蹄の痕跡を探し、後を追う。
先ほどから周囲を警戒しつつ走っているが、見事に誰にも見つかっていない。
相手が何者なのか分からないが、見事な手腕だと思った。

農耕地の先には、先ほど通過した林よりも深い、森が広がっている。
足跡は森の奥へと通じているが、ここから先は罠が仕掛けられているかもしれない。
細心の注意を払って馬を走らせていると、地面に残された馬の足跡が変化しているのに気づいた。
蹄の間隔は短く、それでいて今までより垂直気味に体重がかかっている。
馬を歩かせている証拠だ。

ルイズは馬をその場に留め、樹木の生い茂る森の中へと駆けていく。
森の中をしばらく走ると、ローブを被った女性が歩いているのを見つけた。
その女性は森の中にあるあばら屋に入っていったので、ルイズは音もなくあばら家に近寄り、聴覚に神経を集中した。

「ふふ…やっと手に入れたよ、高く売れるかねえ、このアイテムは」
森の奥にぽつんと建っているあばら屋に、一人の女性がいた。
昔は炭焼き小屋として使われていたのだろう、壊れた窯や、湿気った薪が散乱している。埃の被った机の上に、宝物庫から奪った箱を置く、そして鍵穴に向けて、練金のルーンを詠唱した。
杖を振ると同時に、固定化の魔法がかけられた鍵穴が、土塊へと練金される。
ボロボロと崩れた鍵穴に指を引っかけて、箱を開けると、中から一冊の本が出てきた。
「…? なんだいこれ」
本のタイトルは見たこともない文字で書かれていた。
気を取り直して本を開くと、どのページを見てもハルケギニアで使われている文字とは違う文字が使われている。
最後の奥付らしき部分だけ、かろうじて読むことが出来た。

『波紋ハ人間ノ賛歌ニシテ、勇気ノ賛歌。
 伝承者ハ慢心セズ修行ニ努メルベシ。
 此書、細君リサリサニ捧グルモノナリ。』

「なんだいこれ、読めないじゃないか!」
本に書かれている文字はまったく読めない、その上ディティクト・マジックを使っても反応しない。
何か重要なマジックアイテムかと思ったが、どうやらただの本のようだ。
「これじゃあ苦労して盗んだ意味が無いじゃない…あーあ」
古文書だとしたら、闇市に売るのも苦労する。
このような珍しい文献類は、希少価値は高いかもしれないが、その反面出所が割れやすいのだ。
「こんな事なら当初の予定通り、破壊の杖でも盗んでくれば良かったわ」
ため息混じりに呟き、壊れかけた椅子の背もたれに体を預ける。
すると突然、ドカン!と大きな音を立てて、あばら屋の扉が吹き飛んだ。

「なっ!?」
バラバラに吹き飛んだ扉に驚きながらも、すぐさま杖を手に取り、侵入者を睨み付けた。

侵入者は悠々とあばら屋の中に踏み込んで、こう言った。
「あら、あなたが土くれのフーケだったの?」

侵入者は、ゼロと呼ばれる少女だった。
[[To Be Continued →>仮面のルイズ-2]]
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