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使い魔は手に入れたい-23 - (2007/08/08 (水) 23:11:42) のソース

勉強会を終え、ルイズの部屋へと戻る途中に考える。 
さて、どうやればルイズにタルブの村へいける許可をもらうことができるだろうか? 
素直に行ってもいいというはずは無いだろう。 
しかし、何故かはわからないが最近のルイズは私にとって好ましい方向へ変化してきている。 
だとしたら案外簡単に行く許可をくれるのではないだろうか? 
いや、こういう楽観視をしてはいけない。何事もあらゆる可能性を考えるべきだ。 
とはいえ、まず初めは素直に聞いてみてルイズがどういった反応をするか見てみるか。 
楽にいくかいかないかはそれを見れば大体わかることだ。 
そう考えているうちに部屋の前にたどり着いた。部屋のドアを開け中に入るとルイズがベッドに寝転んでいた。 
こちらに目をくれず、古ぼけた本をじっと見入っている。 
反応からして私に気づいていないのだろう。最近いつもこうだ。何をそんなに熱心になることがあるのだろうか? 
しかし、気づくまで声をかける必要は無いだろう。そう判断し椅子に座る。 
そしてポケットから本を取り出し今日の復習を開始した。 

「ヨシカゲ。あんたって、最近気がつかないうちに部屋に入ってるわよね」 
部屋に戻って3時間、私に気づいたルイズの第一声がそれだった。 
「お前がその本に集中しているからだろう」 
「そうかしら?」 
間違いない。 
それに気がつかないや自覚が無い奴をバカというんだ。 
「たしかに最近これに意識を傾けすぎてたかもしれないわね」 
自覚があるなら聞き返してくるな。

「でも、どうしても気になるのよ。これが」 
「ふーん」 
私には何も書かれていない古ぼけた本にしか見えないけどな。 
しかしそれほどまでに気になるのは何故なのだろうか?ルイズにはどのように本が映っているんだ? 
「ルイズ、好奇心で聞くんだが、お前にはどんな風にその本が見えているんだ?私には正直何も書かれていない真っ白な本にしか見えないんだが」 
「わたしにも真っ白な本にしか見えないわ」 
「は?」 
じゃあそんな本の何が気になるって言うんだ? 
そもそもそんな何も書かれていない本みながらぶつぶつ呟いたりじっと見入ったりしていたっていうのか? 
バカじゃねえの? 
「……言っとくけど、ちゃんと理由があってこれ見てんのよ?へんなこと考えないでよ」 
「理由?」 
何も書かれていない本をみてぶつぶつ呟いたり見入ったりする理由ってなんだ? 
しかしなんでへんなこと考えてるってばれたんだ? 
「これは『始祖の祈祷書』っていって、王室に伝わる、伝説の書物なの」 
「なんでまたそんな貴重な品物をお前が持っているんだ?」 
そう、そんな伝説の書物を、普通学院の一生徒であるルイズが持っているはずが無いじゃないか。 
「あのね。トリステイン王室の伝統で、王族の結婚式の際には貴族より選ばれし巫女を用意しないといけないのよ。 
選ばれた巫女は、この『始祖の祈祷書』を手に、式の詔を詠みあげる習わしになってるの」 
もしかすると、 
「まさか、その巫女にお前が選ばれたのか?」 
「そのまさかよ。姫さまがわたしを巫女に指名したのよ。巫女は式の前から、この『始祖の祈祷書』を肌身離さず持ち歩いて、詠みあげる詔を考えなくちゃいけないのよ」 
なるほどね。 
「だから最近それを持ち歩いてぶつぶつ言ってたわけか」 
そりゃあ一生懸命にもなるもんだ。王女が指名したんだからな。 
しかもトリステインの貴族の代表ともいえなくも無い。並大抵のプレッシャーじゃないだろうな。

「まあ、気になる理由にも納得がいったよ。普通はそういったのって、その『始祖の祈祷書』とやらに書いてあるようなもんだしな」 
「そのことなんだけど、気になる理由が詔を考えることだけじゃないのよ」 
「……どういうことだ?」 
「たまに、ほんとにたまになんだけど、一瞬だけ文字みたいなものが見えるの」 
「文字?」 
「そう。ほんとに一瞬だけなんだけど。でも何度か見たのよ。初めは見間違いかと思ったんだけど、何回も見るとさすがに無視できなくて。どうしても気になっちゃうのよ」 
何も書かれていない本に映る文字か。 
一回だけならそりゃ見間違いだと思うよな。でも何回もそれを見ればもほやそれは見間違いじゃないだろう。 
「その本に何かの魔法がかかってるんじゃないのか?条件を満たせば見れるみたいな感じの」 
「わたしもそう思ってるんだけど、どんな条件なのか全く検討もつかないのよね。しかも詔も考えないといけないから、それだけを考えているわけにもいかないし」 
ルイズは寝転がっていた体を起こしベッドへ腰掛ける。 
「もう頭の中がパンパンだわ」 
そういいながらポケットから何かを取り出す。それは『水のルビー』だった。 
ルイズは取り出した『水のルビー』を指に嵌めその指に掌を被せ握り締める。そして目を瞑る。 
その格好は神に祈りを捧げるかのようだ。もしくは懺悔かもしれない。 
しかし、疑問がある。 
「どうして『水のルビー』を持ってるんだ?」 
そうルイズに問いかける。 
アルビオンへの旅で『水のルビー」を売り払う余裕なんて無かったから持っていても不思議ではない。 
しかしそうならそうでルイズなら指輪を王女に返すと思っていたんだが。 
ルイズは目を開けこちらを見る。 
「これは姫さまからもらったの。せめてものお礼だからって」 
「お礼ねえ」 

あれで指輪一つとは安いものだ。 
しかも私にいたっては報酬一つないしな。金でもくれればいいのに。 
ルイズはまた目を瞑りさっきと同じようにしている。 
「で、そのお礼を握り締めて何がしたいの?」 
「……こうしていると姫さまのことが頭に思い浮かべやすいのよ。姫さまのことが頭に思い浮かぶたびに、精一杯素敵な詔を考えないとって思えるのよ。 
こうでもしないと余計な考えに頭を侵略されそうになるわ」 
「大変だな」 
なんだかルイズはルイズで大変なんだな。 
もしこの場でタルブの村のこと切り出したらどんな反応を返すだろうか? 
いや、むしろこの状況は使えるかもしれないな。 
よし、言おう。 
「ルイズ。一緒に出かけないか?」 
「……は?」 
ルイズはこちらを見ながら間抜けみたいに口をあんぐりとあけていた。

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