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風と虚無の使い魔-24 - (2007/12/26 (水) 20:51:21) のソース

「僕は、結婚式をあげたあと、僕達はグリフォンに乗って帰る。君たちは『イーグル』に乗って帰ってくれ、といったと思うんだが…」 
ワルドは絶句する。 
「あら、ルイズの結婚なんて格好のネタ逃せないわよ、攻めてくるのは正午なんでしょう? 
いざとなったらタバサのシルフィードで無理やり逃げるわよ」 
タバサは頷く。 
「わざわざ危険を押して来たってのに空手で帰るわけにはいきませんからね、ここの勇敢なアルビオン兵士さんたちは六文銭さえあればよいみたいですからね、武器を売る相手ならここほど羽振りのいい相手が見つかる場所は滅多にありませんからね。 
最悪、貴族派数人買収しても儲けがでそうですからな…ええ、それは20エキューです…」 
ダービーは王党派の兵士たちに武器を売りさばいている。 
「なあに、これでも歴戦の船員らさ、火砲飛び交う戦場を強行突破なんてなんどもやってきてらあ、なあ、野郎ども!」 
船長の言葉に船員が片手をあげ肯定する。 
「非戦闘員の乗ったあの船は人が多すぎるんでな、狭くてかなわん。 
無事着港できたのに数人消えていたなどシャレにならなそうだからな」 
ワムウはけろりと言う。 
「みんながそういうなら残るしかないじゃないか、男として」 
ギーシュが呟く。 

「やれやれ、僕たちの臣下も馬鹿者だと思っていたけれど、どうやらこんなときにこんなところにいらっしゃった客人たちも利口じゃないね」 
ウェールズ皇太子がシャチと共に入ってくる。 
「では、ついてきたまえ。結婚式を執り行う」 
皇太子は背を向け、歩こうとするが、振り向く。 
「そうそう、君たちも出席するのかね?君たちの船は接収したと言ったはずだが… 
そうそう、今は警備がたまたまいなかったんだな…これは独り言だ。 
どちらにせよ、逃げるならそろそろ脱出しておいたほうが吉だと思う」 
船長はその言葉を受け、畏まる。 

「えー…お前ら…少し重要な話がある。今皇太子様がおっしゃった通り、こんなとこ逃げた方がいい。 
だが、俺は残らせてもらう。どこで育て方を間違ったのか、この馬鹿息子はな、親の願いも聞きゃしねえ。まあ、育て方を間違ったのは俺の責任だしな、息子の晴れ姿を見るために残らせてもらう。 
あの船なら俺一人いなくても動かせるだろう。ほら、とっとと行きやがれ」 
しかし、船員は動かない。 
「ぷっ…あはははははは!」 
船員は笑い出す。 
「何がおかしい!笑ってる暇は無いぞ!これは船長命令だ、とっとと逃げやがれ!」 
「おい、ウッド。俺らの船の甲板下に隠してある武器と火薬、片っ端から持ってきやがれ」 
「はい、わかりました!機関長どの!」 
「何言ってんだバカどもッ!こんなことに付き合うんじゃねえ!」 
「何言ってんです船長、この船はあんたの独断専行で動いてきたんだ。あなたなしじゃエンジン1つ動かせないんですよ」 
「いつも道り堂々と立って、俺らをコキ使ってください、このままだと俺ら、仕事の邪魔ですから」 
「この馬鹿どもめ!俺の息子といい、こいつらといい…だから水兵なんてのは嫌なんだ…クソッ…」 
船長は涙ぐんでいた。 

皇太子は咳をする。 
「ミス・ルイズ、ミスタ・ワルド、彼らの参加は構わないね?」 
ルイズは頷く。 
「わかった。ではついてきたまえ」 


案内された教会は静かで、窓から差し込んだ日光で空気が透き通った水晶のように見える。 
教会の席には多くの船員と数人の貴族と一人の大男が座っており、正面の台上には媒酌を務めるウェールズと護衛のシャチが戦時下で出来る限りの正装をして立っている。 

教会の扉が開かれ、黒いマントのルイズと、いつもの魔法衛士隊の制服のワルドが手をつないで入ってくる。 
こころなしかルイズは人生の晴れ舞台だというのに重々しい表情に見える。 
ワルドが歩くのを促し、ルイズは歩を進め、台の上へと昇る。 
新婦の冠を頭に乗せられ、黒いマントをワルドに外され、純白のマントを纏わせられる。 

「では、式を始める」 
皇太子が重々しい声を発する。 
「新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、そして妻とすることを誓うかね」 
「誓います」 
ワルドは頷きながら言う。 
「新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 
汝は、始祖ブリミルの名においてこの者を敬い、愛し、そして夫とすることを誓うかね」 

しかしルイズは答えない。 


この国の悲しみ。この国に残る兵士の悲しみ。おそらく死ぬとわかっていてそれでも残る船員たちの悲しみ。 
残されたものの悲しみ。この悲しみに包まれた荒城で、私はなにをやっているのだろう。 
私はどうすればいいのだろう。なぜ彼らはこれほどまでに悲しいのだろう。問う相手もいない。答える相手もいない。 
天窓の向こうに見える、あのぼんやりとかすんでいる二つの月、荒城の月にルイズは問い掛けたかった。 


「新婦?」 
ウェールズがルイズを見る。 
声に気づいたルイズはハッと顔を上げる。 
「緊張しているのかい?仕方が無い、初めてのことはなんであれ緊張するものだからね」 
皇太子はニコリと笑う。 
「これは儀礼にすぎんが、儀礼とはそれをするだけの意味がある。では繰り返そう、汝は、始祖ブリミルの名においてこの者を敬い、愛し、そして夫とすることを誓うかね」 
ルイズは一拍置いた後、深呼吸し、首を振る。 
「お二方には大変失礼をいたすことになりますが、私はこの結婚を望みません」 
ワルドの顔が赤くなる。 
ウェールズは微笑し、花婿になり損ねた男に告げる。 
「子爵、誠にお気の毒だが、花嫁が望まぬ式をこれ以上続けるわけにはいかぬ」 

しかし、ワルドは返事もせずルイズの手を取る。 
「緊張しているんだ…そうなんだ、そうだろうルイズ…きみが、僕との結婚を拒むはずが無い」 
ワルドはルイズの肩をつかむ。 
「世界だルイズ。僕達は世界を手に入れるんだ!君は僕にとって必要なんだ! 
君の能力が!君の力が!」 
ワルドの雰囲気が変わる。その剣幕にルイズが一歩引く。 
「私、世界なんていらないわ」 
「違う、ルイズ、君に言っただろう。君は始祖ブリミルにも劣らぬ優秀なメイジに成長するだろう! 
君はそれに気づいていないだけだ!その才能に!その力に!その強大な、力に! 
トリステイン、アルビオン、ガリア、ゲルマニア、ロマリア…このハルケギニア全てを火の海に変えることも、支配することも可能な力に!聖地の異端の化け物どもを独り残らず潰し、聖地を我らの手に取り戻すことのできる力が君にはあるんだ!僕には君が必要なんだ!ルイズ!わからないのか!」 
ウェールズがルイズとの間に割り込む。 
「子爵、君は振られたのだ。いさぎよく引き…」 

「ウェールズッ!おまえごとき薄っぺらな藁の城の皇太子が深遠なる目的のわたしとルイズの砦に踏み込んで来るんじゃあないッ!」 
ワルドはウェールズの手を強く跳ね除け、ルイズに向き直る。 
「ルイズ、どうしても僕と一緒に来てくれないのか?」 
ルイズはきっとワルドの目を見る。 
「そんな結婚、死んでも嫌よ!あなたが熱烈なラブコールを送っているのは私じゃなくて、ありもしない私の魔法の才能よ!そんな理由で結婚しようだなんて、こんな侮辱はないわ!」 
引き離そうとするウェールズをワルドは突き飛ばす。 
突き飛ばされたウェールズは杖を抜き、叫ぶ。 
「なんたる無礼!子爵、今すぐラ・ヴァリエール嬢から手を離したまえ!さもなくば、我が魔法の刃が君を切り裂くぞ!」 
「やってみろッ!この権力の奴隷がッ!貴様の城はもう藁の家だ! 
貴族派『レコン・キスタ』中隊隊長ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドが貴様の藁の鎧を吹き飛ばしてやるッ!」 
ワルドも杖を抜く。 

一瞬であった。 
一瞬の間にいたはずのワルドは掻き消え、護衛のシャチがかばう暇も無いまま、背後からエア・カッターを放っていた。 
ウェールズの胴体から血が吹き出す。 

シャチが叫ぶ。 
「貴様ァッ!それは遍在か!」 
ワムウが飛び込みルイズを遮蔽物の後ろに引きずり込む。 
引っ張られながらルイズがワルドに向かって叫ぶ。 
「ワルド!あんたよくもッ!どうして!」 
ワルドは頬の横をゆがめて笑う。 
「我々は国境を越えてつながった貴族の連盟だ。ハルケギニアを統一し、聖地の異端の化け物どもを残さず駆逐し、そして聖地を奪還する。その第一歩として君と、ウェールズの命と、その手紙を手に入れたかったのさ。 
君はもう大人しく諦めよう、だが手紙は頂かせてもらおうかッ!」 
ルイズは杖を構える。 
「あなたは昔はそんな人じゃなかったわ!なにがあなたを変えたの!?」 
「時間ほど影響を及ぼすものは無い。君がこの腐敗した王党派につくというのなら、 
腐りきった貴族たちと一緒に死にたいというなら!いいだろう、ボロ雑巾のようにひねり潰してやる!」 

扉から兵士が飛び込んでくる。 
「ウェールズ皇太子様ッ!貴族派が正午という時間をやぶり、総攻撃を開始しました!非戦闘員の乗った『イーグル』号は撃破され爆破し、まもなく正門が…ウェールズ様ッ!?」 
ワルドは杖を一振りすると、その男の背中が裂け、倒れる。 

シャチが憎憎しげに見つめる。 
「貴様ら…約束も守らぬ、一片の誇りさえないとは…猫ですらない、泥にまみれた狐であったか!」 
「なんとでもいえ、死ねば生ゴミ、死ねば虫ケラ以下だ。敵との約束を無条件に信じるなど鼠でもしまい。 
では、大人しく貴様は獲物になってもらおうか、なあに墓は立ててやる。鼠用のな」 
ワルドは杖をシャチに一振りする。 
そこに、誰かが飛び込んでくる。 


「親父ッ!」 
目の前で血まみれで倒れる赤鯱に息子は声をかける。 
「へッ…バカどもばかりかと思ったけどよ…俺が一番バカだったな… 
まったく、親に晴れ姿も見せないまま逝かせるなんて、親不孝者…め…」 

今にもワルドへ飛び込んでいきそうなシャチをワムウが制する。 
「行け、あいつなど俺一人で充分だ。皇太子は死に、国王は危篤。実質指揮するのはお前の役目だろう」 
船員たちがシャチに話し掛ける。 
「俺らはどうすればいいんですかい、新船長?」 
シャチは、目をぬぐう。 
「全力で正門の防衛に当たる。行くぞ、野郎ども!」 
「合点承知!」 

船員たちが出て行き、ワムウはワルドを見たまま後ろの一行に話し掛ける。 
「お前らも行ってやれ、こいつは俺が始末してやる。こいつに『ボロ雑巾のようにひねりつぶす』ということがどういうことか教えてやる」 
「嫌よ」 
ルイズが即答する。 
「だって、あんたは私のの使い魔だもん」 
ワムウは鼻を鳴らす。 
「じゃ、わたしも前線で商売に励まさせていただきましょう。その前に…」 
ダービーはある商品をワムウに渡す。 
「あなたなら片手でこれを使えるでしょう、料金は後払いで構いませんよ、では」 
キュルケやギーシュたちも一緒に出て行く。 

「では、人間ごときに、『風』の使い方と『ボロ雑巾のようにひねりつぶす』方法を教えてやるとするか。 
ルイズ、デルフリンガー、そして…スレッジハンマーよ」 


To be continued. 
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