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DIOが使い魔!?-34 - (2007/06/14 (木) 14:19:40) のソース

早朝、ルイズ・フランソワーズは、蜂の巣をつついたような喧騒に、目を覚ました。 

こんな朝っぱらから騒がしい… 
そう毒づいて、眠い目をこすりつつ、耳を澄ませる。 
どうやら、外の廊下を学院中の教師たちがバタバタと走っているようだ。 
皆口々に何かをわめいている。 
ルイズはネグリジェのままベッドを下りて、扉に耳を当てた。 
教師たちが『一大事!』やら、『宝物庫に賊が…!』やらといった内容を言い合いながら、 
ルイズの部屋の前を通り過ぎ、本塔へ向かっているようだ。 
ルイズの顔から、さぁっと血の気が引いた。 
振り返って、自分の部屋を見る。 
部屋の中は、DIOが宝物庫からパチってきた宝で一杯だ。 
…………とうとうバレたか? 
ルイズは死にたくなった。 
無論、今の今まで問題を先延ばしにしていたのは、ルイズ自身だ。 
次から次へと増えていく宝の山に、最初はまずいと思ってはいたが、 
次第に感覚が麻痺していき、最終的にどうでもいいやと思い出したのがまずかったか。 
激しく後悔するが、もう遅い。 
ルイズはソファーに横たわっているDIOを見た。 
いつものように優雅に本を読んでいる。 
いつもどおりなのだが、今日に限ってやけに腹が立つ。

どうしよう… 
……今度こそ、退学か? 
それだけは勘弁してほしかった。 
どの面下げてヴァリエール家に帰れというのか。 
カトレア姉さまに何をされたかわかったものじゃない。 

ボロきれのようにされる自分を想像して、ルイズの顔がますます青ざめる。 
---ええい、ままよ! 
追い詰められたルイズはヤケクソになった。 
こうなったら仕方がない。 
とことんまで逃げきってやろうじゃないか! 
ルイズは密かに決意した。 
使い魔の不始末は、ご主人様の責任なのだ。 
こうして、明らかに方向性を誤った決断を下したルイズは、教師たちが集結しつつある、本塔五階の宝物庫へ向かうことにした。 
いずれ、生徒の部屋にもガサ入れが来るに違いない。 
それまでに、まずは、敵の戦略を読むのだ。 
ルイズは音も立てずに扉を開けた。 
すると、後ろからDIOが話しかけてきた。 

「…どこに行くのかな?」 
ルイズは振り向きもせずに答えた。 

「あんたのケツを拭きに行くのよ…!」 
ルイズはDIOの反応も待たず、通路にでて、扉を閉めた。 
そして、滑るように本塔へと廊下を駆け抜けた。

-------- 
宝物庫には学院中の教師が集まり、その惨状に口をあんぐりと開けた。 
まず驚いたのは、トリステイン魔法学院の誇る宝物庫の扉が、 
粉々に吹っ飛んで、瓦礫の山になっていたことだ。 
中はもっとひどかった。 
高価な美術品や秘薬や財宝が、メチャクチャにされている。 
一体どれだけの被害になるのか、見当もつかない。 
壁には、『土くれ』のフーケの犯行声明が刻まれている。 
『破壊の杖、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』 
もうひとつ、教師たちの目を引いた物がある。 
本棚の後ろにある、隠し部屋のことだった。 
今まで、目録を作るために宝物庫に入ったことのある教師は大勢いるが、 
こんな部屋があるとは誰も聞いたことがなかった。 
しかし、その隠し部屋も、メチャクチャに破壊されている。 
教師たちは口々に好き勝手なことを喚いていた。 
「土くれのフーケ! 
貴族たちの財宝を荒らしまくっているという盗賊か! 
魔法学院にまで手を出しおって! 
随分とナメられたものじゃないか!」 
「衛兵は何をやっていた!?」 
「衛兵などあてにならん! 
所詮は平民だ! 
それより、当直の貴族は誰だったんだね!?」 
ミセス・シュヴルーズは震え上がった。

昨晩の当直は、彼女であった。 
まさか、魔法学院を襲う盗賊がいるなどとは夢にも思わずに、 
当直をサボり、ぐうぐう自室で寝ていたのだった。 
本来なら、夜通し門の詰め所に待機していなければならないのに。 
「ミセス・シュヴルーズ! 
当直はあなただったのではありませんか!?」 
教師の1人が、さっそくミセス・シュヴルーズを追求し始めた。 
あの恐ろしいオールド・オスマンが来る前に、責任の所在を明らかにしておこうというのだろう。 
ミセスシュヴルーズはしどろもどろで反論した。 

「た、確かにそうですが……み、ミスタ・ギトーこそ、 
以前の当直をサボっていたではないですか…!」 
シュヴルーズの言葉に、ギトーと呼ばれた教師が、顔を真っ赤にした。 

「な、何だと…!あの時は、わ、私は、大切な用事があったからで…!」 
教師達は次々と責任の擦り付けあいを始めた。 
おまえが悪い! 
あなたの方こそ…! 
罵詈雑言が飛び交う五階の階段の影から、その様子に呆れた視線を投げかける人物がいた。 
ルイズ・フランソワーズだった。 
ピンクの髪がふわりと揺れる。 
呆れる一方で、ルイズはほくそ笑んだ。

どうやら、話題になっているのは『土くれ』のフーケという盗賊のようだった。 
ルイズもウワサだけは聞いたことがあった。 
そのフーケが、宝物庫を破った犯人ということになっているらしい。 
つまり、フーケが忍び込んでくれたお陰で、全てはフーケの罪になるということだ。 
宝物庫を破ったのはフーケ。 
宝を奪ったのもフーケだ。 
ルイズは、会ったこともない盗賊に、取り敢えずの感謝を捧げた。 
しかし…………ルイズの表情に影が差す。 
このままフーケが逃走してくれれば、それはそれでいい。 
オールド・オスマンの立場が悪くなるだけだ。 
そんなことはルイズは知ったこっちゃない。 
だが、問題はそのオールド・オスマンの…学院側の動きだ。 
ルイズは考える。 
他の財宝はさておき、フーケがはっきりと犯行声明を出した『破壊の杖』だけは、 
貴族としての誇りをかけて全力で取り戻そうとするに違いない。 
王室には内密にメイジを派遣して、フーケを捕獲しようとするだろう。 
フーケさえ捕らえれば、とりあえずは貴族としての体裁は保たれる。 
この惨状は…どうとでもだまくらかせる。 
教師の一人二人位は、そのためのスケープゴートにされるだろうが…。 

あの老獪なオールド・オスマンなら、眉一つ動かさずにやってのけるだろう。 
そして、もし、フーケが学園側に捕獲されてしまった場合、紛失した宝のありかを聞き出すために、オスマンはフーケを拷問するだろう。 
---ルイズは親指の爪をギリリと噛んだ。 
いくら百戦錬磨のフーケとはいえ、『あの』オールド・オスマンの拷問に耐えられるとは、とてもじゃあないが思えない。 
直ぐにゲロするだろう。 
そうなるとまずい。 
宝を盗んだのがフーケではないとバレてしまう。直に疑いの目は内部に向けられ、自分に捜査の手が伸びてくる可能性がでてくる。 
別に、疑われたとしても、ルイズにはシラをきり通すだけの自信があった。 
が、この場合それではダメだ。 
少しでも疑われるのは避けねばならない。 
相手はあのオールド・オスマンだ。 
あくまでも100%全てフーケの仕業ということにしなければ…。 
そのためには、何とか学院側の先回りをして、『破壊の杖』を奪還して、フーケを始末し、口を封じる必要がある。 
『破壊の杖』さえ戻れば、学院側は最低限満足してくれる。 
『破壊の杖』の奪還はすなわち、フーケ撃退の証でもあるからだ。

しかし、始末しようにも、 
フーケが今どこにいるのか、ルイズにはわからない。 
どうするべきか…? 
思案を続けていると、誰かが慌てた足取りで近づいてくる音がした。 
2人分の足音だ。 
さっと身を隠すルイズ。 
オールド・オスマンと、コルベールだ。 
2人はバタバタと慌てた足取りで宝物庫に入る。 
教師は全員、宝物庫に入ったようだ。 
ルイズはそう思うと、階段の影から、破壊された宝物庫の扉の影へと身を移した。 
瓦礫が上手いことルイズの体を隠した。 
ルイズは身を隠しながら、中の様子を伺った。 
見ると、オールド・オスマンは『破壊の杖』があった一角には目もくれず、 
一直線に本棚の奥の隠し部屋へと向かっていた。 
怪訝な表情を浮かべるルイズだったが、隠し部屋の中は暗く、よくわからない。 
ルイズは暫く様子を見ることにした。

---------- 
オールド・オスマンは、宝物庫に駆けつけると、『破壊の杖』が盗まれた現場になど目もくれず、本棚の裏の隠し部屋へ足を運んだ。 
油断のない足取りで、奥へと進む。 
不気味なほど静かだ。 
隠し部屋への通路は、コルク栓を抜いたように、円形に抉られている。 
オスマンの脳裏に、忌むべき過去が蘇る。 
威力こそ劣るものの、間違いなく、奴の仕業だった。 
部屋の中央に到達すると、オスマンは信じられない物を見た。 
百余年前、自分が持てる技術を結集した結界が、破られていたのだ。 
ルーンの輝きが失われている。 
鎖が千切れ、封印していたはずの本が、 
床に転がっている。 
オスマンの頬に冷や汗が垂れる。 
弾かれたように杖を構えるオスマン。 
一歩一歩、時間をかけて本に近づく。 
---本がひとりでにガタガタと震えだした。 

その瞬間、オスマンの杖が電光石火で振られ、杖からまばゆい光が放たれ、本に直撃した。 
強烈な光に包まれ、本の動きがピタリと止まった。 
オスマンは安堵のため息をついた。 
これで当座はしのげるだろう。 
本を拾い上げて、オスマンはそれを台座に戻した。 
だが……と、オスマンは疑問に思う。

『土くれ』のフーケの話は、オスマンも知っていた。 
ウワサによれば、フーケは『トライアングル』クラスのメイジらしい。 
しかし、これはどうみても『トライアングル』クラスのメイジの手には余る所業だった。 
『スクウェア』クラスのメイジ数人がかりの『固定化』を打ち破り、あまつさえこの封印をも破るとは。 
実力を見誤っていたか? 
そこまで強力なメイジだとは聞いたこともないが…。 
いっそ人ではなく、物の怪の類の仕業と考えた方が楽だ。 
化け物………オスマンには、1人だけ、心当たりがあった。 
確証が持てなかったが、一人の人物の顔が脳裏に浮かぶ。 
これは…………もしや…。 
---------- 
しばらくして、オールドオスマンが隠し部屋から出てくると、教師達は口々にオスマンに自らに責任がないことをがなり立てた。 
オスマンはしばらく黙っていたが、自らの保身しか考えていない教師達に苛立ち、杖で床をドンと叩いた。 

「…静まれぃ!」 
オスマンの低い一喝で、教師達はシンとなった。 
誰かがゴクリと唾を飲み込んだ。 

「貴様らの中で、まともに当直をしたことのあるヤツが、何人おる?」 
静かなオスマンの問いには、しかし、誰も答えられなかった。

「さて、これが現実じゃ。 
責任があるとするなら、我々全員じゃ。 
この中の誰もが……、もちろんワシを含めてじゃが…、 
まさかこの魔法学院が賊に襲われるなど、夢にも思っていなかった。 
何せ、ここにいるのは、ほとんどがメイジじゃからな。 
誰が好き好んで、虎穴に入るものかと思っておったが、間違いじゃった」 
オスマンは、宝物庫の扉にあいた穴を見つめた。 
「このとおり、賊は大胆にも忍び込み、『破壊の杖』以下、財宝十数点を奪っていきおった。 
つまり、我々は油断していたのじゃ。 
責任があるとするなら、改めていうが、我ら全員にあるといわねばなるまい」 
オスマンの、杖を持つ手がブルブルと怒りで震えていた。 
皆、俯いたまま一言も喋らない。 

「……目撃者はおらんのか?」 
オスマンの問いに、コルベールが答えた。 

「ざ、残念ながら、深夜の突然の出来事だったようで……」 
「ふむ……後を追おうにも、手がかりナシというわけか…」 
オスマンはヒゲを撫でた。 
それからオスマンは、気づいたように再びコルベールに尋ねた。 

「ときに、ミス・ロングビルはどうしたね?」 
「それが、その…、昨夜から姿が見えませんで」

「この非常時に、どこに行ったんじゃ」 
「さ、さぁ…」 
そんな風に噂をしていると、宝物庫に1人の人間がフラフラと入ってきた。 
服はボロボロで、ほとんど半裸だ。 
全身傷だらけで、酷い火傷も負っている。 
呼吸は荒く、右手で左腕を痛そうに押さえて、 
右足をズルズルと引きずっている。 
歩いた後には、血の後が点々と続いていた。 
出血も激しそうだ。 
誰がどうみても重傷だ。 
ミス・ロングビルだった。 

「……オ、オールド・オスマン…」 
ミス・ロングビルは、オスマンの前までやっとの思いでたどり着くと、 
そこで力尽きたのか、バタリと倒れて、意識を失った。 
宝物庫内は騒然となった。 

to be continued……
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