ゼロの奇妙な使い魔 まとめ内検索 / 「ゼロいぬっ!-84」で検索した結果

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  • ゼロいぬっ!-84
    「皮肉だね。“光の杖”で始まった因縁が“光の杖”で終わるなんて」 フーケが言う。ゴーレムの肩から見下ろした彼等の姿はまるで虫の群れだ。 あの怪物は空の上にいる。もはや恐れるものなど何もない。 ましてやワルドも一緒に来ているのだ。チェックメイトという言葉さえ生温い。 相手の王だけを残して取り囲む、そんな状況こそが相応しい。 「ああ。君との因縁もここで終わりだ。 僕たちは負けはしない。ここで“彼”の帰りを待つのだからね」 だがギーシュの眼には未だ力が宿っていた。 諦めはしない。何度となく死地を乗り越えてきたからこそ思う。 死に抗い続けてこそ僅かな生の可能性を見出せるのだと。 口に咥えた造花の杖を横薙ぎに払いながらギーシュはゴーレムと向かい合う。 直後。吹き抜けた風がローブをめくり、彼の裸体を露にした。 格好良く決めた姿勢のままギーシュが硬直する。...
  • ゼロいぬっ!-8
    深夜、寝苦しさに目を覚ます。 虚ろな頭で首を起こす。 視線の先には自分の脚に乗る黒い塊。 『それ』は生暖かい息を吐き掛けて自分を見下ろす。 あまりの気色の悪さに全身に鳥肌が立つ。 そして暗闇に慣れた眼がその生物を認識した。 薄暗い室内でありながら、ハッキリと浮かぶ蒼いシルエット。 月光の下、狂気に満ちた金の双眸が爛々と輝く。 ベッドから飛び出そうとしても足が動かない。 上に掛けた毛布の端から自分の爪先が微かに見えた。 夜の黒と対照的に白く映るそれは骨だけになった自分の足。 ひたり、ひたりと獣が体の上を歩む。 胴や胸、歩く度に焼き付くような痛みが走る。 通り過ぎた箇所の肉が溶け、骨格が無残な姿を晒す。 そして獣は終着点へと辿り着いた。 自分の顔の目前、振り上げられた足が額へと近づいてくる。 「や、止...
  • ゼロいぬっ!-86
    戦場に響き渡るワルドの詠唱にその場にいる全員が凍った。 “ライトニング・クラウド”高い殺傷力を持つ風のトライアングル・スペル。 様子見も無しで全力で殺しに来たのかとモット伯は警戒した。 備える間もなく放たれた雷が彼等の間を駆け抜ける。 そして稲光は地面に転がる鉄柱へと吸い込まれた。 一瞬の沈黙の後。耳慣れない音が静かに流れた。 機械音を奏でレンズを晒して変形する“光の杖” 異世界の兵器、その胎動を耳にしたワルドの表情が崩れる。 「やはり……やはりそうか! 僕の予想通りだ! は、はははははっ! これで奴を殺せる、殺せるぞ!」 呆然とする彼等の前でワルドは堪えきれずに笑いを零した。 それを見てモット伯は確信した、あれは勝利を確信しての高笑いだと。 彼の眼には自分も兵達の姿も映ってなどいない。 別に腹を立てる理由などない。敵が見逃してくれるというなら好都合。...
  • ゼロいぬっ!-82
    「さて、準備はいいな」 風竜に跨りワルドは周囲を見渡した。 彼を取り巻くように集う竜騎士隊。 ワルドの姿を捉える彼等の眼には感情らしき物は感じられない。 内にあるのはワルドへの畏怖のみ。それが彼等を突き動かす。 満足したかのようにワルドは笑みを浮かべて腰に差した杖を抜いた。 「我々の目標はただ一つ。他には目もくれるな、それが何であろうともだ」 杖の先端が地上の一点を指し示す。 ここからでは豆粒のようにしか見えない標的。 それはアンリエッタ姫のいるトリステイン本陣ではなかった。 だが、それに何の反応も見せず彼等は指示された地点へと飛び立った。 遅れるように続くワルドの背を眺めながらフーケは呟いた。 「怪物にならなきゃ倒せない……そうまでして勝つ意味はあるのかい?」 トリステイン本陣より離れた丘の上。 そこに陣取ったバオーは群がる敵兵...
  • ゼロいぬっ!-88
    突き刺さった杖が風に融けていく。 杖だけではない、炎に巻かれたワルド子爵の身体も消滅していく。 偏在の最期を見届けてモット伯は傷口に手を当てた。 “頼むから外れていろ”と祈る気持ちで彼は自分の体を診る。 臓器や急所さえ避けていれば水系統のメイジの治療で助かる見込みはある。 もしかしたら助かるかもしれないという可能性に彼は賭けた。 財産を失ったり脅迫されたりと不運続きだった分、そろそろ運が向いてきてもいいだろう。 いや、風向きは間違いなく私の方から吹いてきている。 そうでなければ捨て身とはいえワルド子爵を倒せるはずがない。 当然だ。こんなところで私が死ぬなど考えられない。 まだ倒れん。この先には待ち望んだ世界が広がっている。 ようやくこれから始まろうとする物語を見届けずに終わってたまるものか。 ついと指先が傷口とその周囲へと伝う。 しばらく手を当てて押し...
  • ゼロいぬっ!-85
    刃と杖。衝突する凶器の間に激しく飛び散る火花。 絶える事無き剣戟の音が戦場の空に木霊する。 喰らいつかれた前脚から止め処なく血が溢れ出る。 刃を振る度に牙は深く食い込み、肉を切り裂いていく。 しかし体内を巡る分泌液は半ばまで千切れかけた脚を修復していく。 直す度に傷付き、傷付く度に直る。永劫ともいえる苦痛の連鎖。 常人ならば耐え切れずに精神を崩壊させるだろう。 だが、それにも関わらずバオーはワルドと拮抗していた。 ワルドが苛立たしげに顔を歪ませる。 苦痛を感じない訳ではないだろう。 そこまでして何故ルイズの為に戦うのか、それがガンダールヴのルーンの力なのか、 あるいは苦痛を物ともしない化け物じみた精神を有しているのか? どちらにせよワルドには焦りだけが募っていた。 相手は片腕、それも刻一刻と血液を失い死に逝く身。 なのに自身の猛攻を凌ぎ、さらには反撃すらも...
  • ゼロいぬっ!-80
    “何の為に戦うの?”誰かがそう訊ねた。 人が憎いから? ―――違う。人を憎みきれる筈などない。 判ってしまった、自分は人に寄り添わねば生きていけない。 たとえ一匹で生き抜く力があろうとも誰かに傍にいて欲しい。 人に嫌われようとも傷付けられようとも、それは変わらない。 生き残る為? ―――そう。ずっと在ったのにその価値に気付かなかった。 命は掛け替えの無いものだと、世界には命が満ちていると、 初めて出会ったあの日に彼女が教えてくれた。 彼女を守りたいから? ―――そう。だけど守りたいのはルイズだけじゃない。 彼女が守りたいと思うもの、自分が守りたいと思うものの全てを。 後悔はしない? ―――きっとすると思う。何もしなくても後悔する。 ルイズを連れてどこか遠くへ逃げても後悔する。 だけど決めたんだ。彼女の温もりに包まれた時から、ずっと。 ...
  • ゼロいぬっ!-89
    使命ではない、これは私怨だ。 胴を薙ぐ一閃を目にした瞬間、それに気付いた。 何故ここまでバオーに拘るのか、僕は初めて理解した。 虚無の力を手に入れるのに邪魔だからというのは建前に過ぎない。 奴の存在が許せない。 ルイズを、国を、誇りを、仲間を、 あらゆる物をかなぐり捨てて僕は望みを叶える為に強くなった。 なのに奴はどうだ。何も持たず研究材料として死ぬだけの生だったのに、 この世界でルイズや多くの友、仲間を得て強くなったなどと、 そんな強さを、他の誰が認めようと僕が認められると思っているのか! 貴様とは覚悟が違う! 僕は全てを捨てられる! それができない貴様如きに僕が敗れるはずがない! 研ぎ澄まされた剣閃は光の線となってワルドの胴を両断した。 二つに分かたれた屍が風竜を離れて空へと落ちていく。 しかし、そのワルドの死体が風に融けて消える。 「...
  • ゼロいぬっ!-83
    深い海に沈んでいく感覚。 どこまでも広がる青い空を見上げるように眺めている。 「お、おい! 嬢ちゃん!」 「黙ってて!」 デルフの慌しい叫びを聞きながら私は杖を手に取った。 自ら命を捨てた訳じゃない。助かると信じて飛び出したんだ。 今までは何故魔法が使えなかったのか分からなかった。 だけど自分の属性が“虚無”だと知った今なら理解できる。 魔法が使えるという確信があればこそ魔法は成功する。 目も眩む急落下の最中、レビテーションを詠唱する。 どの属性でもコモンマジックなら扱える。 そう信じての捨て身の逃避。 限りなく0に近い成功率であったそれは、 彼女の予想を裏切り、あるいは大方の予想通り失敗した。 「へ?」 「うおぉぉぉぉぉお!?」 血の気が引いていくような速度で流れる景色。 今まで出来なかった事がそう簡単に成功するはずもない。...
  • ゼロいぬっ!-81
    大きな窓から取り込まれた陽光が、端が見えないぐらい長い廊下を照らし出す。 優雅な佇まいと荘厳さを併せ持った空間を一人の女性が闊歩する。 吊り上がった目は常よりも鋭さを増し、響く靴音は召使達を威嚇するようにも聞こえる。 通りがかった使用人達も端に退いて、震え上がりながら恭しく頭を下げるのみ。 この屋敷において実質的に二番目の地位にいる女性、エレオノールを見送りながら係わり合いを避ける。 触らぬ神に祟りなしと彼等は骨身に染みて理解しているのだ。 「どういうつもりよ! あの子にちびルイズの手紙を見せるなんて!」 そして彼女は目的の使用人を見つけると襟首を掴んで壁に叩きつけた。 その使用人は主に彼女の妹カトレアの世話を任されている男だった。 先日、屋敷に届いたルイズの手紙にはこれから戦場に向かうと書かれていたのだ。 アルビオンとトリステインの命運を賭ける一戦に、生き...
  • ゼロいぬっ!-87
    空を切りながらモット伯に迫る不可視の刃。 風の系統の最大の利点は視覚では捉えられない事。 相手が気付かぬ間に首を落とすなど珍しい話ではない。 そしてワルドの放ったエア・カッターも寸分の狂いもなく彼の首を切断するはずだった。 しかしモット伯はまるで見えているかのようにそれを横へと飛んで避ける。 ほんの一瞬だがワルドに動揺が走った。 確かに相手の魔法を感じ取るのは不可能ではない。 だが、それは鍛錬を積んだメイジに限られる。 ただのまぐれだと判断し今度はエア・ハンマーを撃ち放つ。 胴体を貫く一撃、それもモット伯は寸前で躱して見せた。 モット伯は立て続けにワルドの攻撃を凌いでいた。 いくらなんでも偶然で片付けられる事ではない。 隠してある口元を読まれるはずも無い。 ましてや聞き取るなど人間の聴覚では不可能だ。 困惑するワルドの背後で音も立てず細長い水柱が立ち上る。 そ...
  • ゼロいぬっ!-2
     自分の使い魔をルイズが追いかけていった暫く後、彼女は使い魔を連れて戻って来た。  いや、正確には『抱きかかえて』戻って来たのだ。  疲れきったのか、犬の足が力無くぷらぷらと揺れている。  ぐったりとした表情で、横を向いた口元からだらしなく舌が出ていた。 「ルイズ、おまえ。使い魔が倒れるまで追いかけ回したのか?」  マリコルヌのその言葉に収まりつつあった笑い声が再び広がる。  ルイズは黙ったまま僅かに唸り声のような声をあげるのみ。  言い返す言葉も無いというよりも、そもそも気力が無い。  コントラクト・サーヴァントの最中にも顔を舐められ、使い魔同様彼女も心身ともに疲れきっていた。 「ふむ、どうやらコントラクト・サーヴァントは無事終了したようですな」  抱きかかえた使い魔の前足をひょいと掴み、コルベールが刻まれたルーンを確認する。  これで最大の不安要素であ...
  • ゼロいぬっ!-6
    眼前に迫る鉄槌じみた一撃。 それを後ろに跳び退いて避ける。 だが、それも不十分。 打ち下ろされた一撃に薄氷のように砕け散る地面。 乱れ飛んだ土塊が散弾となり彼の体に容赦なく降り注ぐ。 その威力は投石となんら変わらない。 痛みに耐えかね口から悲鳴が洩れる。 だが、それを耳にしても誰も救いの手など伸ばしはしない。 自分の周りを取り囲むように立つ人間たち。 その姿が、自分を観察していた白衣の男たちに重なる。 まるで悪夢だった。 自分の辛かった記憶も体験も全て向こう側に置いてきたと思った。 ここは自分が思い描いていた楽園だと思っていた。 それが積み木で出来た城のようにガラガラと崩れ落ちていく。 まるで過去が自分を殺しに追いかけて来たかのようだった。 腕に降り積もった土砂を跳ね除けながら、またも振り上げられる拳。 休む間など...
  • ゼロいぬっ!-1
    ある日の事だ。 平賀才人が命じられた部屋の掃除をしていた時、偶然にもそれを見つけ出した。 革で出来たベルト…それは紛れもなく『首輪』だった。 顔中を流れる嫌な汗。 以前、キュルケの部屋を訪れた際、ルイズが言っていた言葉を思い出す。 『……今度、こんな真似したら首輪を付けるわよ』 あれは本気だったのか。 だが自分には怒られるような事をした記憶はない。 それとも知らない間に、ルイズの癇に障るような事をしでかしてしまったのか。  首を握り締めたまま、才人は理不尽な暴力に打ち震える。 「……あれ?」 ふと気付く。 自分用に買ったにしてはあまりにも小さすぎる。 それこそ本当に犬用の物とサイズが変わらない。 その上、その首輪はボロボロで少し力を入れただけでも千切れそうだ。 「あーあ、とうとう見つけちまったか」 壁に立て掛...
  • ゼロいぬっ!-7
    「ふう……」 学院長であるオールド・オスマンは深い溜息をついた。 凝った肩をトントンと自分で叩きほぐす。 心の休まる時が無いというべきか。 彼は憂鬱に悩まされていた。 連日のように起きる爆発騒ぎに、 先日、王宮から押し付けられた厄介事といい、 そして極めつけは生徒と使い魔の決闘だ。 ここ数日、彼の心労が絶えた試しはない。 潤いも無く乾ききった心境。 身も心も共に老いさらばえていくようだ。 そんな訳でミス・ロングビルの尻へと手を伸ばす。 そう、必要なのは潤い。 これは仕事を円滑に進める為の潤滑油なのだ。 つまりは仕事の一環。 それを誰が咎める事ができよう。 悪いのは凝った肩を揉んでもくれないミス・ロングビルと、 フリフリ動いて人を誘惑するいけないお尻なのだ。 「学院長!」 突然ノックもなしに入ってきたコル...
  • ゼロいぬっ!-3
     異世界より召喚されて二日目。  彼は深刻な問題に直面する。  あらゆる生物が決して避けられぬであろう試練。  今後、この世界で生活にするに当たって解決せねばならない重大事。 ……食事である。  空になった皿を眺める。  もちろん見つめていても増える訳がない。  魔法の世界であろうと現実は厳しい。  味には不満が無かった。  むしろ、新たに出来た仲間達とお日様の下で食べた食事は格段の味だった。  いや、逆にその事が問題をさらに悪化させたといってもいいだろう。  あまりの美味しさに、はぐはぐとペースを考えずに食べた結果、彼の腹が満たされる事はなかった。  そもそも、朝の訓練もしている彼の腹が通常量で満たされる筈も無い。  それに加え、何故だが今日はお腹が空いて堪らないのだ。  ならば! 横になって体力の消費を最小限にしつつ空腹防御!  し...
  • ゼロいぬっ!-5
    「アンタはここで待ってなさい」 使い魔にそう命じ、自室へと入り込む。 そして魔法の失敗で埃まみれになった服を脱ぎ捨て、替えの服に袖を通す。 本当に昼休み前の授業で良かった。 みすぼらしい格好で授業を受けるなんて貴族としての名折れもいいトコよ。 部屋を汚さないように外で待たせているけどアイツも洗わないといけないわね。 それにしてもメイドの子に洗ってもらってる時は気持ち良さそうにしてるのに、 私が洗おうとすると逃げるのはどういう了見なのか。 後でそこの所を追求する必要があるわね…。 あれこれ考えている内に着替えも終わり扉を開ける。 だが、そこに使い魔の姿はなく代わりに見知らぬ男が二人がいた。 人の顔を見るなりへらへらと薄ら笑いを浮かべ、見てるだけで嫌悪感が沸いた。 この手の手合いは今さら珍しくもない。 ヴァリエールの三女でありながら魔法...
  • ゼロいぬっ!-9
    魔法学院でまことしやかに語られる噂。 曰く、ミス・ヴァリエールが召喚した使い魔は恐ろしき悪魔である。 曰く、その使い魔は触れたる万物を消滅させ『虚無』に帰す能力を持つ。 曰く、使い魔の逆鱗に触れた瞬間、悪魔はその本性を現す。 決闘を目撃した者、そうでもない者の話も交じり噂は広がっていく。 大体の内容は彼の恐怖を伝えるもの。 取り巻きの連中が悪評を与える為、故意に流した物もあったが、 それを差し引いてもあの決闘は衝撃的過ぎた。 加えて、決闘の相手が帰郷の途中で殺されたとなれば騒ぎも大きくなる。 だが当の本人は気に留める様子も無く、軽快な足取りで廊下を歩く。 奇異や恐怖の視線に晒されても実害が無ければ問題ない。 だが注目されるのはどうも疲れる。 人気の無い所へとしばらく身を隠そうと外へと飛び出す。 少し離れた場所にある一本の...
  • ゼロいぬっ!-4
    召喚された日から数日。 彼の生活のスタイルは固まりつつあった。 早朝、まだ日も昇りきらぬ内に起床する。 あくびをかきながら寝藁の上で背筋を伸ばす。 ついでに身体を振るって張り付いた藁を落とす。 自分の支度が終わった事に満足すると、今度は彼女へと視線を移す。 ベッドの上には未だに起きる気配の無いご主人様。 彼女の体を前足で揺すり、それでも起きないようなら顔を舐めて起床を促す。 吠えるのは最後の手段だ。 一度それをやって寝ぼけたルイズの魔法によって、 寝起きの目覚まし時計よろしく破壊されそうになった経緯があるのだ。 その時のトラウマは未だに残っている。 彼女の支度が終了すると共に中庭へと出る。 そして投げた棒を取ってきたり、埋めた物を探し当てたりと一通り訓練を終える頃には、 他の生徒達も朝食を取りにぞろぞろと姿を見せるようにな...
  • ゼロいぬっ!-26
    「……それで今、三人は?」 「はい。ミス・ツェルプストー、ミスタ・グラモンの両名は捕獲され、以後は別室で軟禁する予定です」 「ミス・タバサは?」 「彼女は薬の効きが弱かったのか、比較的平常を保っていますので大丈夫かと…」 ミス・ロングビルの説明を聞きながらオスマンは溜息を零した。 どうも最近になってから溜息ばかりついている気がする。 しかも、その面子はいつも同じ。 モット伯の一件が平穏無事に済んで安心していた矢先にこれだ。 もう何か悪いものに取り憑かれてるんじゃなかろうかと思いたくもなる。 「まさか、こんな事に秘宝である『眠りの鐘』を使う事になるとは……」 正直、始祖ブリミルが知ったらさぞ嘆くであろう。 といっても相手はトライアングルを含む三人のメイジ。 戦いになればどれだけの損害が出るか知れた物ではない。 ましてや怪我をさせずに捕...
  • ゼロいぬっ!-35
    シルフィードが空の色に溶け込むように大空を舞う。 その背にはタバサのみならずキュルケも同乗していた。 「んー、やっぱり風が気持ちいいわね。ねえタバサもそう思わない?」 「……………」 いつもならタバサも頷いて同意してくれるのだが今日は違う。 彼女の視線はじぃーと私の顔を見続けている。 分かっている、素直になれと彼女は言いたいのだ。 でも、それを口にしたら私が意固地になると分かってて彼女は言わない。 ったく、気心の知れた友達というのも楽じゃないわね。 こっちの考え、全部筒抜けじゃない。 この遠乗りには私がタバサに頼んだ物だ。 学院に居辛かったので気分転換を兼ねて空の旅を満喫している。 目的地も決めずにいたのでタバサにはすぐ勘付かれたようだ。 「分かってるわよ。でも恥ずかしいものは仕方ないでしょ」 フーケのゴーレムとの戦い、それに今...
  • ゼロいぬっ!-33
    「結論を出すのは早急過ぎるのでは?」 「いや、しかし『アンドバリの指輪』が盗み出されたとなれば…」 「そもそもクロムウェルという名だけでアルビオンの司教と断定するのは短絡的かと。 それに偽名を用いた可能性も否定できまい」 「アルビオンが我が国に侵攻してくると? バカらしい! あの国とは長きに渡って友好関係を保ち続けている。 下らぬ疑惑は関係を悪化させるだけと心得よ!」 モット伯からもたらされた情報によって開かれた臨時会議は沸くに沸いた。 しかし、そのほとんどは否定的な意見が多く具体的な案を出す者はいない。 特に高等法院長のリッシュモンが中心に疑問の声は強まっていく。 一向に会議は進まず“今後の動向を窺ってからでも遅くないだろう”という結論で締め括られた。 次々と退室していく重臣の数々を見送りながらモットは席に着いたまま動かない。 「しか...
  • ゼロいぬっ!-24
    「さてと……これからどうするか?」 ずらりと部屋中に並べられた調度品を眺め、デルフが呟く。 狭い寮の室内を埋め尽くす高級品の数々。 だが、飾る場所を違えたそれは混沌となんら変わらない。 絵画がレンガのように並べ立てられ、入り口を塞ぐように鎧が並び、 置き場も無く足元に転がっているのは貴族でも入手困難な書物。 部屋の主は頭を抱え、張本人は頭に冠を乗せたまま丸めた赤絨毯を寝床にしてる。 正しく猫に小判、豚に真珠、犬に財宝である。 メイド達は御者達に多めにチップを渡し、一人一人故郷に送ってもらった。 “金もあるんだし、いっそ専属のメイドにしちまえば?”とデルフから言われたが、 『ブラシをお掛けいたします』 『爪のお手入れをさせてもらいます』 『はい、あーんしてください』等とたくさんのメイド達に囲まれる、 そんな煩わしい光景を思い浮かべて断...
  • ゼロいぬっ!-12
    今日はあいにくの天気雨。 それでも変わらず彼とご主人様の訓練は自室に変更して行われます。 「お手! お座り! お回り!」 矢継ぎ早に繰り出される指示に瞬時に反応する。 本来は訓練も無しに出来ない芸なのだが、 彼女の仕草や言葉の意味合いから次の動作を判断しているのだ。 手には『これで貴方もトップブリーダー!』と書かれた怪しげな本。 先日の買い物の折、同時に購入してきた物らしい。 そんな物に頼る程、実に熱の入った調教振りであった。 「よし。じゃあ次は…」 ページを捲り、次の指示の項目に目を移す。 それと同時に赤くなるルイズの顔。 まるでも火酒でもあおったかのような変化に『わふ?』と首を傾げる。 見れば本を持つ手も震えている。 「べ…別に、な、な、何でも無いわ…」 ついでに声も震えていた。 これが何でもなかったら医者の仕事など無い。 「い…いい...
  • ゼロいぬっ!-36
    「本当はこんな危険な任務などさせたくない。 でも私には貴方以外に頼れる人間がいないのです」 頼れるというのは実力としてではない。 信頼できるかどうか、つまりは密命の類だとルイズは理解した。 『ゼロ』であるが為、あまりに人に頼られる事も無かったルイズにとって、 親友、それも姫様が頼りにしていると言われればその気になるのも当然。 たとえ命の危険があろうとも躊躇する者は貴族ではない。 誇りの後押しを受けて彼女は自信満々でその依頼を引き受けるつもりでいた。 だが彼は鼻を鳴らす。 危険な場所に自ら踏み込む事はない。 親友の頼みといっても相手は姫様、他にも頼れる人間はいるだろう。 例えば……。 「ダメです」 突如としてアニエスがキッパリと反対を表明する。 いきなり話の腰を折られた形になったアンリエッタがむくれるが、 子供のワガママと取り合う気...
  • ゼロいぬっ!-32
    その日、ガリア国境は俄かに騒然となった。 トリステイン王国の勅使が入国を求めてきたのだ。 それも事前の通達もなく、突然にだ。 トリステインへの確認を取るべきか、 それとも本国の指示を仰ぐべきか、 久しく直面しなかった事態に混乱が起きる。 容易に国内に入れては責任問題になりかねない。 しかし相手が一国の勅使である以上、足止めなど出来る筈も無い。 「モット伯爵、この度はどのような御用向きで?」 「……………」 「事と次第によっては入国を許可する事は出来ません。 それだけの権限を私は本国より与えられています」 沈黙を保つモットに入国管理官は真意を問い質す。 何をしに来たのかさえ分かれば手の打ちようはある。 虚言を弄そうとすればそれを逆手に入国を拒否するつもりだった。 しかしモットは平然と答えた。 「では問おう。ラグドリアン湖の...
  • ゼロいぬっ!-50
    空洞内に吹き荒れる嵐。 それは怒涛のように押し寄せて彼を切り裂き、打ちつけ、巻き上げる。 巨大といっても縦横無尽に広がっている訳ではない。 奥行きと高さは相応の物があるが幅は道幅程度しかない。 故に、左右への回避には限界がある。 その地の利を理解した上でワルドはここを戦場に選んだ。 迫り来るバオーをエア・カッターが迎撃する。 それはラ・ロシェールでの戦いの焼き直しだった。 いくら近付こうとも接近さえ出来ない。 バオーの脚力も跳躍力もここでは満足に生かせない。 今のままでは剣士が銃に挑む事に等しい。 深く切り刻まれた足で必死に石床を掴む。 一度でも膝を屈すればそこで終わる。 足を止めた瞬間、風の刃と槌に自分の体は引き裂かれる。 策を練ってくれるデルフも今度ばかりは助言のしようがない。 限定された状況では打てる策も限られて...
  • ゼロいぬっ!-43
    私の目から涙が溢れた。 使い魔の前で無様な姿は見せられない。 そんな事は百も承知していたはずなのに止まらない。 それで判ってしまった、私は心細かったんだ。 使い魔を召喚した日から今まで築き上げてきた物。 言葉では語り尽くせない日々に、 自分一人では触れ合う事さえなかった友人達。 それを前にして自分が成長してる気分になっていた。 でも皆と離れてしまった途端、急に恐怖が込み上げた。 今までの出来事が全部夢で自分は変わらないまま。 そんな錯覚が頭から離れなくなった。 私の自信なんて誰かが居なければ確かめる事も出来ないもの。 でも、もう大丈夫。 私の使い魔はここに居る。 どこにいようとも必ず駆けつけてくれる。 私達は二人で一つのパートナーだから。 ようやく落ち着きを取り戻しルイズは涙を拭う。 その間、微動だにせず受け入れてい...
  • ゼロいぬっ!-62
    「左舷より竜騎士二騎接近!」 「『イーグル』号の姿はまだ確認できないのか!?」 「この濃霧の中では何も分かりません。あるいは逸れた可能性も…」 「引き続き捜索を続けろ! 動ける者は消火に当たれ!」 次々と齎される状況報告を耳にしながら、船長の顔を冷や汗が伝う。 地下空洞を抜けた『マリー・ガラント』号を待ち受けていたのは、 空において比類なき戦力を持つアルビオンの竜騎士隊を率いるワルドだった。 霧に視界を奪われた上に、周辺に浮かぶ岩礁が船足を殺す。 ましてや交易船に竜騎士を相手する力などはない。 甲板は炎に包まれ、砕かれた船体の一部が無残に内部を晒している。 乗組員の中にも負傷者が続出し、板を打ち付けるだけの応急修理が精々。 そんな、いつ撃沈されてもおかしくない攻勢を受けながら船は突き進む。 『マリー・ガラント』号が沈められな...
  • ゼロいぬっ!-90
    廊下を駆ける。咎める者はいない。 通りかかる者も、呼び止める者も、誰もいない。 どこまでも、どこまで走っても誰とも出会わない。 ただ無機質な廊下と壁が果てしなく続く道。 そこを彼は息を切らせて走り続けた。 気付いていた、これは夢だと。 この世界に来てから何度目だろうか。 いや、本当はこちらが本当の世界で、 ルイズと過ごした日々が幻なのかもしれない。 悪夢から逃げるように走り続け、彼はそこに辿り着いた。 向かう側から差し込む陽の光。 あれほど巨大で存在感のあった隔壁は姿を消し、 代わりにその先へと続く道が視界一杯に広がっていた。 そこには皆いた。 投薬の繰り返しで身体が崩壊した者に、 過酷な環境実験に耐え切れずに死んだ者、 そして自分の代わりに焼き殺された最後の仲間。 そこにはドレスの実験で死んだ仲間達がいた。 日を背にした彼等の影が足元...
  • ゼロいぬっ!-39
    “最強の兵を集めれば最強の軍隊が出来るというものではない” 子供の頃、父上に教えられた言葉だ。 如何に個々が優れていようとも数が揃おうとも統制の取れない軍隊など無力。 あの頃はよく分からずに聞いていたが、今は実感できる。 無敵の生命力を持った使い魔。 トリステイン王国屈指のスクエアメイジ。 『メイジ殺し』の警備隊隊長。 これだけのメンバーが揃っているというのに安心できない。 むしろ、キュルケ達と一緒にいた時の方が頼もしかった気がする。 それもその筈か、チームワークなんて欠片もないのだから。 彼は主人の前に現れたワルド子爵に唸り声を上げるし、 ワルド子爵の方もどこか彼を煙たがっているような印象を感じる。 その中間にいるルイズは慌てふためくのみ。 そして僕は森から時折聞こえてくる悲鳴に怯えていた。 本当に心休まる時間がない。 悲...
  • ゼロいぬっ!-42
    「船は出航できないのか?」 「風石の積み込みがまだです」 「必要最低限でいい、後は私の魔法で補う」 船員に手短に指示を伝えて甲板の上を見渡す。 そこにはワルドに命じられるまま準備を進める船員達の姿。 賊に狙われているという虚報、それが彼等を動かしていた。 言葉だけでは信じては貰えなかっただろうが、 街中で暴れ回るフーケのゴーレムを見た後なら話は別だ。 後少しでこの船は他の連中を置き去りにしてアルビオンに向けて発つ。 その予定だったのだが…。 (フーケの奴、しくじったな) いや、ミスではなく予定外の敵が現れたせいだ。 ゴーレムの周りを羽ばたく一匹の竜。 アレに邪魔されて足止めが出来なくなったと見るべきか。 偏在の眼がこちらに近づく彼の姿を捉えていた。 もはや出し惜しみしている場合ではない…! 「相棒、あの世界樹だ!」 ...
  • ゼロいぬっ!-53
    ヴェルダンデの前足が地面を抉り取る。 地上を駆ける馬と変わらぬ速度で、アルビオンの地下を掘り進む。 どれほど進んだのか、残りはどれほどか等と考えたりはしない。 城の地下に到るまで穴を掘り続ける、その覚悟だった。 しかし、自慢の爪が突如として前方の土に弾かれた。 どうやら埋まっていた岩か何かにぶつかったらしい。 それがどれほどの大きさがあるのかは判らない以上、 迂回は致命的なロスに繋がりかねない。 故に、強行突破を決断する。 今の自分を止める事は誰にも出来ない。 シャベルのように揃えられた爪がギラリと輝く。 そして、そのまま渾身の力を込めて振り下ろした。 だが、鈍い音を立てて尚も障害は爪を弾く。 その頑丈さに唖然としつつも、ヴェルダンデは諦めない。 こうなれば気力が尽きるのか先かの根競べである。 いつもの三倍の回転を加えたり、...
  • ゼロいぬっ!-68
    「……よって本日を以ってトリステイン魔法学院は無期限休校とする」 厳かな口調でオスマンは学院の決定を明らかにした。 『アルヴィーズの食堂』に集められた生徒達がざわめく。 彼等もきな臭い噂の一つや二つは耳にしていた。 親元から実家に帰って来いという手紙が届いた者もいる。 しかし、このような決断が下されるほどに危機的状況に陥っているのか。 これからどうするかを話し合う生徒達の中で、キュルケは一人溜息をついた。 「はぁ……」 彼女にもゲルマニアの両親から手紙が来ていた。 それも早急に戻って来いという内容だ。 見合いの件については一言も触れられていない。 それが娘の反発を招きたくないが故とキュルケはすぐに理解した。 軍人の家系であるツェルプストー家にゲルマニアの動向が判らぬ筈がない。 トリステインが危険地帯だと告げるかのような手...
  • ゼロいぬっ!-91
    銃声も、怒号も、靴音も、悲鳴も、 その咆哮は戦場に響き渡る全ての音を打ち消した。 アニエスもギーシュもキュルケも空を見上げる。 そこにいるのは竜に似た、しかし明らかに違う異質な存在。 「た……祟りだ! あの怪物を殺したから祟られたんだ!」 それを目にした誰かがそう叫んだ。 突然の竜の変貌。バオーの存在を知らない彼等には理由など見当たらない。 誰が口にしたのかすら判らない発言が水辺の波紋のように広がっていく。 倒すべき敵を前にして彼等の動きが止まった。 もしかしたら自分達も祟られてしまうかもしれない。 そんな考えが脳裏を過ぎり、彼等の身体を束縛する。 「ウオォォォォォオム!!」 雄叫びを上げながら“バオー”は舞う。 呆然とする竜騎士たちを余所に艦隊へと向かう。 分泌液から与えられた筋力が突風じみた速度を生み出す。 “バオー”は触覚で『ある...
  • ゼロいぬっ!-54
    「ここまでだ! 杖を捨てろ!」 狼狽するワルドに尚もアニエスは詰め寄る。 全てを失い、ぽっかりと空いた心の空洞。 復讐を遂げるまで決して埋まるまいと思っていた空白。 いつの間にか、そこには共に過ごしてきたルイズ達の存在があった。 それが彼女をトリステインに繋ぎ止めたのだ。 彼女自身も気付かぬ内に、アニエスは過去の自分を取り戻しつつあった。 憎悪に満ちた復讐者ではなく、軍人としての彼女でもない。 村の仲間達に囲まれて、楽しげに笑う少女としての自分を。 もし仇を討った所で、彼女に残されるのは空虚な日々だけだ。 そこには何も残らない筈だった。 しかし、今は違う。きっと彼女は取り戻せる。 いつか新しい仲間達と笑い合える日が来るだろう。 勿論、ルイズと一緒にだ。 「ワルド子爵! ミス・ヴァリエールを元に戻して貰おう!」 「…それは出来ない。もう手遅れだよ」 ...
  • ゼロいぬっ!-71
    「タルブの村が燃える……それをただ黙って見ているしかないとは」 空と大地が入り混じる地平線が夕焼けの如く朱に染まる。 その下に広がるのは火竜の息吹に焼き払われる村の無残な姿。 そこには、かつての穏やかな風景の名残さえない。 濛々と立ち上る煙に、手綱を握るアストン伯の拳が震える。 「村はまた作り直せばいい。ですが二度と取り戻せない物もあるのですアストン伯」 彼の傍らに立つ騎士が心中を察し告げる。 悔しげにアストン伯は唇を噛み締める。 村を広げたのにどれだけの時間と労力を要したのか、 そこに刻まれた記憶や思い出とて掛け替えの無い物なのだ。 普段ならば無関係の人間だからこそ言える言葉と一笑に付しただろう。 しかし、その騎士の声には真実だけが持つ重みがあった。 「確かに。君達が言うのならばそうなのだろう」 蹄の音を響かせながらアストン伯は振り...
  • ゼロいぬっ!-22
    「あのバカ犬……!」 手を当てた窓枠がミシリと音を立てる。 階下から聞こえる喧騒に様子を窺えばこの有様だ。 あの馬車、紋章の確認できないけど装飾からして乗っているのは高級貴族。 そして、その行く手を阻んでいるのは他ならぬ私の使い魔。 状況が見えないにも拘らず目にした途端、マズイ事態だと理解できた。 「あ。ちょっと待った!」 ギーシュの声を背に受けながら駆け出す。 話を聞いている余裕などない。 今、この瞬間にでも更に状況が悪化するかもしれない。 取り返しの付かない事になる前に収めなくちゃ……! 「……相棒、相手は貴族のお偉方だ。 下手に揉め事になると嬢ちゃんの責任にまで発展するぜ」 デルフの忠告を耳にしても彼はその場を動かない。 元より彼等と争うつもりは無い。 彼はただシエスタに会いに来たのだ。 彼女が何故去るのか...
  • ゼロいぬっ!-38
    互いの顔が視認できる距離でワルドの足は止まった。 剣士には遠く、メイジには近すぎる間合い。 両者の中間に位置するワルドに男が問い掛ける。 「テメェ、初めからあの犬の事を知ってて…。 いや、本当の狙いはあいつの実力を測る事か!?」 それを聞きながらワルドは愉しげに笑う。 さすがに戦場を渡り歩く傭兵の頭を務めるだけはある。 魔法が使えぬが故にその洞察力や判断力で生き抜いてきたのだろう。 しかしその経験も全く異質の存在には対応できないという訳か。 「君は実に良くやってくれた。支払った金に見合う働きぶりだったよ。 彼女が戦ったのは少し前でね、今の実力がどれほどか予想が付かなかったんだ。 だがおかげで私は何の危険も冒さずに彼の実力を知る事が出来た」 もしフーケの情報を過信し変身前の暗殺に挑んでいれば返り討ちにあったかもしれない。 だが僅かな期...
  • ゼロいぬっ!-72
    アンリエッタ姫殿下の御前にてルイズは傅く。 深く下げた頭は彼女への敬意と謝罪の意を表していた。 ルイズは全てを明かした上でアンリエッタの言葉を待つ。 自身の背信行為が許されるなどとは思っていない。 罰を言い渡されれたのならば甘んじて受け入れよう。 謁見の間での姫様の口振りは彼の実力を知っているようだった。 きっと助力として望まれたのは私ではなく使い魔の方。 以前なら屈辱と受け取ったかもしれない。 だけど今は違う。あるのは望まぬ力を与えられた悲しみだけ。 でも圧倒的な不利を覆すには彼の力は不可欠。 そうと知っていながら私は彼を元の世界へと逃がしてしまった。 それは真にトリステインの事を案ずるならば犯してはならない過ち。 ……なのに私は一国の安全よりも彼の命を優先した。 かつてワルドが語った事を思い出す。 『どちらが正しいのかなんて誰にも決める権利はない...
  • ゼロいぬっ!-44
    『マリー・ガラント』号の甲板に出来る人だかり。 しかし、その興味のほとんどは傾いた世界樹と押し流されていく巨人に集中している。 もはや飛び乗ってきた彼の事など眼中にない。 それに元の姿に戻った今、蒼い怪物がどこに行ったかなど誰にも分かるまい。 その彼に接近してくる人影があった。 「よう。やっぱりテメェかデル公」 「また会ったな、親父……だよな?」 親父の声に振り返る彼とデルフ。 その二人の目前に立っていたのは体中を包帯で覆うミイラ男。 片腕は折れて首から布で吊り下げられている。 何があったのか?と問うデルフに、思い出したくもないと親父は返した。 まあ大体の見当は付いているのでデルフも詳しく聞こうとはしない。 「しかしこれから戦場に行くってのに、もう戦場帰りみたいな姿になってるな」 「ほっときやがれ! それに俺は戦場までは行かねえよ、しばら...
  • ゼロいぬっ!-76
    「……何でここにいるの?」 「貴族の務めだと言っただろう。 国家の存亡が懸かった一戦となれば逃げ場も無いしな」 怪訝そうな顔を浮かべるキュルケにモット伯が応えた。 想像だにしなかった援軍に思わずキュルケも感謝の言葉を忘れた。 しかも、その背後に引き連れた軍勢は彼が率いるには大仰すぎる。 恐らくはモット伯の私兵も混じっているのだろうが、それにしても数が多い。 「その兵は?」 「ああ、私が雇った傭兵だ。 アルビオンの内戦が終わって仕事にあぶれた連中をな」 「よくそんなお金があったわね。破産したんじゃないの?」 「ああ。それなら簡単だ。無ければ用意すれば良いだけの事だ」 「え?」 モット伯の返答に、キュルケは首を傾げる。 無い物をどうやって用立てるというのか。 しかし、その答えが出る前に彼女の思考は大声に遮られた。 息を切らせてモット伯の下に伝令...
  • ゼロいぬっ!-14
    「一体、この責任を! 誰が! どのようにして取るおつもりか!」 激昂した男が目の前の机を叩く。 それをオールド・オスマンは黙って聞き流していた。 責任も何も知った事ではない。 この件を何も知らされていない者達には何の関わりも無い。 数少ない関係者であったオスマンとコルベールは生徒と王女を守るので手一杯だった。 そもそもフーケに気取られた直接の原因は男の軽率な行動にあるのだから、 “責任取って勝手に自刃したらいいんじゃね?”と言いたくもなる。 あの後、ゴーレムで学院の外へと逃走したフーケを追撃したものの、 ある程度の距離が離れた所でゴーレムが崩壊した。 即座に持っていた馬車の回収が行われたが、積荷はフーケと共に消え失せていた。 完全にフーケにしてやられた訳だ。 「渡す直前まで宝物庫で管理していれば、こんな事態は防げた! これは君達の管理不行き届きが原因で...
  • ゼロいぬっ!-78
    「……妙だな」 「は? 如何なされましたか?」 副官の問いにも答えず、老士官は眼下の戦況に思いを巡らせる。 大砲を迂回し側面から奇襲しようとした鉄砲隊は敵の妨害を受け、これと交戦中。 敵の規模から見るに、用心の為に配した部隊ではないだろう。 そもそも数で劣っているトリステイン軍が戦力を割く筈がない。 なら、こちらの動きが分かっているとしか考えられない。 しかしアルビオン軍が誇る竜騎士を相手にして、 竜やグリフォンを偵察に回す余裕が彼等にあるとは思えない。 それに艦船にしてもトリステイン艦隊は壊滅状態だ。 他の所から船を引っ張ってくる時間も無い。 だが、起こり得ない事も起きるのが戦争の常だと彼は知っていた。 「念の為、竜騎士隊を周辺の空域の捜索に当たらせろ」 「はっ!」 老士官の指示を受け、副官が靴を鳴らして敬礼を取る。 それを眺めながら...
  • ゼロいぬっ!-41
    「………………」 アニエスの目蓋が開く。 寝床から見上げた天井は宿舎の物より遥かに高い。 当然だ、ここは貴族専用の宿。平民のごった煮である宿舎とは違う。 窓を開けるとそこには朝靄の立つラ・ロシェールの町並み。 まだ陽は昇りきっておらず人の気配もない。 出航は夜なのだからまだ寝ていてもいいのだが、 体に染み付いた早起きの習慣がそれを許してくれない。 せっかくの高級ベッドを名残惜しそうに見つめながら彼女は支度を整えた。 不意に窓の外へと顔を向けた彼女が宿から外に出て行く影を目撃した。 それはソリを引いた犬。考えるまでもなくミス・ヴァリエールの使い魔だ。 まあ犬だから散歩ぐらいはするだろうとそのまま彼女は見送ろうとした。 しかし、その視界の端には彼の後に続くワルド子爵の姿があった。 (……マズイ!) アニエスとて無神経な人物ではない。 ...
  • ゼロいぬっ!-94
    「覚えておけ……我々は負けたわけではない」 ごぶりと血を吐き出しながらアルビオン共和国の兵士は言った。 その胸に突き立てた杖を引き抜いて竜騎士隊隊長は男の言葉に耳を傾ける。 既にクロムウェルの姿はなく、彼を足止めしようとした兵の屍だけが足元に転がっている。 密閉された船内を吹き抜ける風が彼の髪を揺らす。 見上げれば風竜に切り裂かれた爪痕から青空が覗いている。 恐らくクロムウェルはここから逃げ出したのだろう。 船体が上げる悲鳴は次第に大きくなっていく。 踵を返す隊長に、男は尚も叫び続ける。 「虚無の力を持つクロムウェル様がおられる限り、我々に死は訪れん! 幾度倒れようとも死の淵より蘇り必ずや貴様等を打ち倒す! この戦いは貴様等が倒れるまで終わらんのだよ!」 哄笑を上げていた男の声が途絶える。 醜悪な笑みを顔に貼り付けたまま彼は命を終えていた。 そ...
  • ゼロいぬっ!-34
    ベッドの上に寝転がり枕下に本を広げる。 いつ果てるとも知らない白紙の祈祷書との睨めっこ。 必要最低限の時間を除いて全ての時間を詔の作成に当てている。 しかし、それでも一向に節どころか句さえも思い浮かばない。 そして、ついには睡眠時間を削っての作業に入っていた。 眼は虚ろ、髪を振り乱し、かつての麗しい彼女の姿は失われていた。 そんな状態でマトモな詔が浮かぶ筈はないのだが、 今の彼女にはそんな単純な判断も出来なくなっていた。 まずは四大系統に対する感謝の言葉を韻を踏みながら詩的に表現。 要は各系統のイメージを形にすればいいのよね。 えっと…火は熱い、水は冷たい、風は涼しい、土は固い。 思いついた通りにノートに書き記してからビリビリと破り取る。 書いている時は気付かずとも再度目を通すとダメなのがすぐ分かる。 いわゆる客観的な視点というヤツだろう...
  • ゼロいぬっ!-48
    ニューカッスル城のホールでは既にパーティの準備を終え、 主賓である皇太子を今か今かと待ち侘びていた。 貴族達は皆一様に着飾り、その顔から笑顔が尽きる事はない。 出された料理もこの日の為に取っておかれたのだろう、最高級の食材とワインが振舞われていた。 明日の死を覚悟し、彼等は今を精一杯楽しもうとしているのだ。 彼の目にはそれが“生きる事の放棄”に見えたのかもしれない。 彼等だって生きたい、生きたいはず。 だけど、それが叶わないからこうして覚悟を決めたのだ。 それは決して諦めじゃないと思う。 でも彼等を見ていると辛くなるのはどうしてなんだろうか…? 「あ…え…う、ウェールズ皇太子殿下のおなぁぁりぃぃーー!!」 ホールの入り口に立っていた人が上擦りながら声を上げる。 遅れて来た皇太子の登場にホール中が歓声に湧き上がった。 だが彼を目にした...
  • ゼロいぬっ!-23
    モット伯の屋敷の前、聳え立つ正門を見上げる。 その門番なのだろうか、武装した衛兵二人が彼に気付いた。 一人はその場に残り門を守り、もう一人がこちらに近づいてくる。 「…さて準備は良いか? 相棒」 デルフの言葉に黙って頷く。 元より自分の覚悟は出来ている。 彼が雄叫びを上げる。 それは戦いの始まりを告げる鐘の音だった。 「何の騒ぎだ!?」 耳障りな獣の鳴き声にモット伯が怒りを露にする。 風呂で身体を洗ってワイン片手に、機嫌良くシエスタを待っていたのだ。 しかし、さっきから聞こえてくる鳴き声によってモット伯の気分は害された。 「とっとと黙らせろ!」 「そ、それが……」 激昂するモット伯に怯えながら、 しどろもどろになりつつも衛兵が弁明する。 だが、どう説明すればいいのか。 正門前の状況は衛兵の理解を超えていた。 ...
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