【人に恋した天使 アルメマリアと天使に恋した吟遊詩人 アイル】
優しく美しいその天使は、その昔、神の使いとして人々の戦争を鎮める為に地に降りた。
醜い欲の争いを神の言葉で終わらせた彼女は役目を終え、天に帰るはずだった。
彼女は天に帰る前、吟遊詩人の青年アイルと出会う。
優しく歌う彼に心惹かれ、アルメマリアは地上に留まってしまった。
アイルはアルメマリアを受け入れ、彼もまたアルメマリアに心を惹かれた。
ほんの数日で恋に落ちた二人は愛し合う夫婦となり、やがてアルメマリアが子供を妊娠した。
しかし天使と人の恋は禁忌。
アルメマリアの身体は子供を育む為に衰弱していき、神の裁きである痛みに苛まれ続けた。
「私が悪いのです。あなたは何も悪くないの」
痛みに襲われるたびに、アルメマリアは譫言の様にそう呟いた。
それは我が子に向けた言葉であり、夫であるアイルに向けた言葉でもあった。
アイルは愛する妻の為に必死に看病を続けたが、それも虚しく、彼女は子供を産み落として死んでしまった。
神の裁き、禁忌の罪に、アルメマリアは死に絶えた。
アイルはそれはひどく悲しみ、神を呪った。
「彼女ではなく、彼女を地上に引き留めた自分を殺すべきではなかったのか」
アイルは生まれたばかりの娘を抱き、嘆き悲しんだ。
しかし、父親として娘を守らなければならない。
その使命の為、アイルは必死に娘を守った。
半天使という呪われた存在である娘を、神々はこの世から消し去ろうとしていたのだ。
ユグドラシル、
ソレグレイユ、
久平、世界中を逃げ回った。
娘も歩くようになったある日、そんな逃走劇も終わる。
孤島トゥフカにて、遂に神々の追っ手がアイルとその娘を捕らえた。
絶対絶命のアイルは、それでも娘を逃がそうとした。
そんな時、神々からある提案が成された。
「人間よ、お前が娘の罪も引き受けるならば、娘は見逃そう」
願っても無いチャンスだった。
自分が犠牲になれば、娘は助かる。
娘の為に死ねるなら本望ではないか。
だが、自分が死んだ後は?娘は天使ではなく半天使だ、食糧が無ければ死んでしまう。
悩むアイルの目の前で、幼い娘が小さな翼を捥がれようとしていた。
痛みに泣き叫ぶ娘の顔を見た時、アイルは咄嗟にその提案を呑んでしまった。
アイルは神々に天界へと連れ去られてしまった。
「真名を知られてはならない、誰にも」
そう娘に叫んだのを最後に、それからの彼のことは神々しか知らない。
一つ言えることは、アイルはもはや人間ではいられなくなるほどの裁きを受けたということ。
そして、神々はアイルとの約束を反故にし、娘に『役目』という罪を与えた。
その『役目』を終えるまで、娘は死ぬことはない。
だが、何の『役目』かも知らない娘は、ただただ、孤島トゥフカの植物園で何かを待ち続ける。
その娘は今「
パーサレヒューリ」と名乗っていた。
「…というのが、私の両親の話」
「君は天使じゃないんだね」
「死ねない半天使、半人間なの」
「その『役目』は、まだわからないのかい」
「えぇ、わからない…けれど、貴方がその鍵だということはわかる」
「僕にはわからないよ」
──パーサレヒューリと、ある青年の会話
最終更新:2015年03月19日 22:48